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第三章 闇に灯る炎 3


 東天のラトラの目的は二つ。一つは私達に武器を届けることだ。これは達成された。


「もう一つの目的は、ストラーの真意を探ることだ。」


 レイは静かに、だがしっかりとした声で言った。


 彼は、私達よりもストラーとの付き合いが長い。それ故に抑止力として存在する古龍に疑問を抱いているそうだ。


「あいつは他人の物を奪って自分の物にする癖がある。自分のことしか考えていないんだ。だからこそ、お前から手に入れた力を平和のために使おうとしていると聞いた時には鳥肌が立った。何か企んでいるな、と……」


「だが、奴は自分を龍種創生計画の被験者にはしていないぞ?考え方を変えた、ということはないのか?」


 私も……バゼルも、アルシアも、ミズナも、全員が戦争を終わらせられると信じてストラーに付いて来たのだ。今更それが何かを含んでいると言われても俄かには信じ難い。……だが、そう伝えてもレイは揺るがない。


「お前は知らないだろうから教えてやる。ミズナは……彼女は五年前に死んでいるはずなんだ。……いや、はず、じゃない。俺とストラーの目の前で死んだ。だが、今あいつの隣にいるのはまぎれもない彼女だ!それにあいつの年齢を知っているか?まだ、25だぞ!それなのに、あいつは娘を何歳だと言った?15歳だ!その上父親に匹敵する知識と才能を持ち合わせている。すべてがおかしいんだ!!」


 私が言葉をはさむ余裕はなかった。しかし、はさむ必要はなかったな。私達が誰一人として抱かなかった疑問をレイは持っているのだ。そして私達は、ここでの常識としてそれらを受け入れるのではなくて、おかしいと思わなければいけなかったと痛感した。


「それに……これはお前が知っておかなければならないことだ。お前の村に火を放ったのは……」


「……ストラーだろう?」


 それは知っている。あの時、あのタイミングで現れて、村の方など見向きもせずに私に話しかけてきたのは私の力を手に入れるため。それは知っているのだ。それ以外に北天に来る理由などないからな。だが、村のことなど私にとってはどうでもいいことだったから、ストラーのことも責める気にならなかった。


「……これは、瓦礫の下から出てきた手記だ。」


 レイが差し出したボロボロの手記、見覚えがある。私の……母親の物だ!


「読むんだ。それでお前の取るべき行動が決まる。」


 手記を受け取って表紙をめくる。大きく「村の習わしを破らない!」と書いてある。


 次々にページをめくっていく。そこには私が生まれて来たことを、他の誰よりも喜ぶ母の文字が躍っていた。見間違えるはずがない。よく母が手紙等を清書する手伝いをしていたから覚えている。そして同時に、私の知らない村の古い風習についても書いてあった。


 


 邪龍と同じ力を持つ者が生まれた時には、例年よりも早く成人の儀を執り行うこと


 その儀が終わるまで他者との関わりを避けさせること




「これは……」


 さらに読み進めるのは辛かった。私は知らなかった。いや、もう少しで知ることができたのにそれが叶わなかった。


「皆が素っ気なかったのは……私のことを避けていたのは……」


 誰もが風習に従っただけだった。くだらない風習に!


「次が最後のページだ。私は外にいる。」


 そう言ってレイは外に出て行った。


 私は最後のページを開けた。



『これを明日アトスに見せよう。きっと喜んでくれる。』


 母の字に続いて様々な人の文字が見える。



『今までよく頑張ったね。お前は自慢の娘だよ!!』


 これは……父親の字だ。字を教えてくれたんだ。よく覚えている。



『もう辛い思いをしなくてすむよ。くだらない習わしに付き合わせてすまなかったね。』


 これは祖母の字だ。とても怖かった印象しかないが、しっかりした人だった。



『これからはいっぱい話したり遊んだりしようね!!』


 学校で隣の席になった子の字だ。丸っこくて特徴的なんだ。覚えてる。



 ……覚えてるんだ、こんなにも……


 まだ……こんなにもたくさんの人を……私は……



『これからはきっと村の皆があなたの力になる。恐がらなくていいの。皆あなたが大好きだから!』



「そんな事……今更言われても……」


 遅すぎるんだ……


 あの時流れなかった涙が、何倍にも、何十倍にもなって私の頬を流れていった。


 もう、誰にも会うことはできない。これを読んで、真実を知って、おそるおそる皆に話しかけることもできない。戸惑いながら遊ぶこともできない。母親に甘えることも、父親に何かを教わることも!


 滲んだ世界に一人きりで座り込んで、どうしていいか分からなくて途方に暮れた。それでも涙は止まらなかった。どんどん、どんどんと世界が滲んでゆく。


「ミューッ!!」


 バゼルの声がした。私は、自分でも気付かないうちに彼の胸に飛び込んで、そのまま声をあげて泣いていた。それ以外に何もできなかった。


 私は何のためにここにいるのだろうか?


 もう、ストラーの言う抑止力など信じられなくなっていた。


 おそらく奴が村を焼いたタイミングは、私に皆の言葉を見せないためだろう。


 それは許せない……


 しかし、そうでなければ、ここに来て皆に出会うこともなかった。


 それは考えられない……


 さあ、私がどうするべきか。


 ……なに、もう答えは出ているさ。

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