第三章 闇に灯る炎 2
さて、客人が来たのはいつだったか?そんな事は些細な事に成り果てていた。何故ならば、二人の客人が持ってきた武器は様々で、遅れたことを責めるよりは自分に合った物を探す方が有意義だったからだ。なかなかに物騒な話かもしれないが、当時の私達は戦争を止める抑止力となる為ならばと必死だった。力があって正しく使える、皆そういう認識だと思っていたから誰かが道を違えるなんて思いもしなかった。
……まぁ、それについてはいずれ話すことになるだろう。もう、そう遠くない時間になっているから……
さて、これらの中で私の目を惹いたのは鋏の様な一対の剣だった。
「ほう、お前はそれを選ぶのか?」
おそるおそるその剣を手にした私に一人の男が話しかけてくる。客人の一人『レイ・ラトラ・コガラシ』だ。
「それは『シザーブレイド』と言ってな、二本の剣としても使えるし、二本を組み合わせて鋏にすることもできる奇妙な武器だ。……どうしてこれを?」
どうして、と聞かれても理由はない。強いて言うなら、妙に気になったというだけだ。
「……そうか、ならば持っていけ。その剣がお前を選んだ。きっとお前の力になる。」
妙に重みのある声だ。そうでなければ噴き出すようなセリフだが、不思議と私の中に落ち着いた。後で聞いた話だが、彼は「武器と持ち主はお互いに惹かれあう」という信念を持っているそうだ。
「そうだ、お前にはこれも渡しておこう。」
そう言って差し出されて物は、全身が白銀に光る銃。
「……くれると言うならば貰っておこう。」
一見普通の銃だが何かが違う。何かがあるとは思ったが、今は教えてもらえなかった。
私に銃を渡すとレイは口を噤んでもう一人の客人の隣に戻った。もう一人の客人の名は『ユエル・アコウバル・コガラシ』、レイの妻だそうだ。
彼らの一族には苗字と名前の間に、男性なら『ラトラ』、女性なら『アコウバル』と付ける習わしがあるそうだ。どういう意味があるのかは聞きそびれてしまったが……。
コガラシ一族が得意とするのは主に機械商品の開発と銃火器の製作だ。その他の武器の開発と流通は彼らの率いる商人集団の開発班が行っているそうだ。東天を拠点とするその人数はもはや小国家レベルとまで言われ、近い内に一国でも立ち上げそうな勢いだ。
長い時間武器を見ていた私達だったが、武器を手にしたのは私とアルシアだけであった。彼女の選んだ物は杖……というには長く、彼女の身長を抜いているものだった。その先端には大きな薔薇の飾りが付いているが、何かの拍子にもげたりしないだろうか?まぁ、アルシアが気に入っているなら問題はないか。
「バゼルはいらないのか?」
何も手にしていないバゼルを見て問いかけてみた。
「僕はいいんだよ。これでも格闘には自信があるからね。」
彼は、優しい性格とは裏腹にとても高い格闘能力を持っている。筋骨隆々というわけではなく細身なので、本当に強いのか疑って襲いかかったことがあるが、結果は惨敗。こちらの力を利用して倒される感じだった。武器がなければ一番強いのはバゼルかもしれないな。
だが、そうなるとミズナが何も選ばなかったことが気にかかる。もともと何かに長けているわけでもないし(強いて言うなら研究熱心なところか)、再生能力があるとはいえ龍化すればの話だ。まぁ、そこら辺はストラーあたりに何か考えでもあるのだろう。もしかしたら、龍化時のみの参戦なのかもしれないな。そうであれば心配はいらないし、少しはストラーを見直そうという気が沸いてくるというものだ。
「さて、気に入った武器は貰ったな?じゃあ、解散だ。」
ストラーは早口でまくしたてると、ミズナと一緒に部屋を出て行った。先程、奴の通信機が鳴っているのを聞いた。おそらく何か大事な用件で呼び出されたのだろう。ちなみに通信機は全員持っている。小型でかさばらず、行動に際して邪魔にならない。良いデザインだ。
「ちょっといいか?」
他の皆が出て行ってしまったので私も部屋を出ようとしたが、まだ残っていたレイに呼び止められた。