第三章 闇に灯る炎 1
暗闇を照らす炎は道標
否ならば道惑わす幻影の苗床と……
第三章 闇に灯る炎
【研究所・応接室】
今日は大事な客が来るらしい。無駄に広い応接室には、ストラーをはじめ古龍3人と私が勢揃いしている。やはり、ヒトトナルカとやらはいない。
ストラー曰く
「あまりにも危険な存在である為、研究所地下に幽閉した。」
とのことだが、そんなにも危険ならば処分してしまえばいいだろう。と、以前言ったらバゼルに「命を軽く扱ってはいけないよ」と優しく怒られたので、決して口にしないようにしている。人として言ってはいけない部類の言葉にあたるようだ。
この時、私はふと、ちゃんと人と接して真っ当に生きる道を選んでいたらそんなことは言わなかったのだろうか、と思った。そういう生き方を選んだ方が人としては良い人間になっていたかもしれない。
そこまで考えて、結局村に火を放たれたあの事件が起こってしまえば同じになるのではないかという結論に至った。……いや、そう思いたいだけなのかもしれない。そうでなければここで皆と一緒にいることはなかっただろうからな。
「ところでストラー君、今日は一体誰が来るんだね?」
客が来るという時間はとっくに過ぎている。痺れを切らしたミズナがストラーに問いかけるが、ストラーはニヤニヤと笑ったまま答えようとはしない。まったく、こいつは他人を不快にさせることに関してはプロフェッショナルだな。
「まあ、ゆっくり待ちなよ。」
もう十分ゆっくり待った。と、言ってやりたいところだが、言ったところで客が来るわけでもないだろう。皆のイライラを感じながらではあるが、もうしばらくだけは待ってやろう。
だが、限界という言葉もある。さすがにあれから30分以上も無言の圧力が渦巻くこの部屋にいるのは耐えられない。……なんで誰も何も言わないんだ?
「ストラー、ミューのイライラが限界ですよ。」
そこで意外にもアルシアが言葉を発した……が、なぜ私のみ限界が来たかのような言い方をするのか。
「ああ、そうか。今日来るのは東天のラトラだ。」
「……で?」
「なんだ?誰が来るか知りたかったんだろう?」
ああ、間違ってはいないが少し間違ってる。私たちは確かに誰が来るのか知りたかったが、今やその問題はどこぞに置き去りにしてしまっているのだ。何よりも『いつ来るのか』という問題が一番重要なのである。
沈黙の空間というものは打ち破り難いものである。さっき皆が一斉にため息を吐いてから15分経った。壁掛け時計を見ているので間違いない。さすがに限界も超えて皆それぞれ思い思いの行動を始めた。
私は時計を眺めて何分経ったかを計測する仕事に就いた。
「ところで、今日来るらしい『東天のラトラ』とは、東天に拠点を構える武器商人・ラトラ一族のことか?」
「どうした急に?時計を眺めるのは飽きたのか?」
どうしてこいつはこうも人の神経を逆なでするのか。
「余計なことは言うな。答えればいい。」
無言で頷かれたわけだ。そろそろ本気で怒ってもいい気がしてきた……
「で、武器商人とやらが私達に何の用だ?」
「力の不安定なお前たちには必要だろう。いざという時のために備えをしておこうというわけだ。……もしかしてだが、今世界が戦争真っ最中だということを忘れてないか?」
ああ、忘れていた。この国は強力なバリアに護られていて他国が手を出せないだけなのだ。
「つまり、僕らが外に出て抑止力となる計画を早める可能性があるということだね?」
バゼルがそう言うとストラーは一瞬嫌そうな顔をした。私しか気づかなかったようだが……
「まあ、そういうことだな。今も刻一刻と世界の情勢は悪化している。形だけでも戦争を終わらせる必要があるんだ。そのための……」
「そのための私達、というわけなのだね。」
ミズナは嬉しそうにストラーの言葉に続ける。きっとこういう使命感に燃える姿に惹かれたのだろうな。
さて、客人の方だが、まだ来る気配はない。