第六話 デカブツその二
遅れてすいません。それでは本編へどうぞ。
ブンブンと刃物が空を切る音がトワの耳に入ってくる。それを何とかして避けるのがトワの限界だった。
―クソッ!何とかして隙をついて間合いに入り込もうとしてもあの巨体にデカいナタじゃ入りたくても入れない!
「おいっ!少しは手加減してもいいんじゃないか!」
避けながらそう不満を言う。
「ナニヲイウ、コレハコロシアイダ。テカゲンナドアルモノカ。」
「そりゃ正論どうも!お返しだ!」
そう言ってナタを避け、間合いに入りナイフで攻撃した。しかし、あまりにも筋肉が硬すぎて刃がまともに入らなかった。
「なっ!っぶねぇ!当たるところだった。」
―あんなんまともに食らえば一発でお陀仏だな。なんとか当たらないようにして攻撃できればいいんだがな。待て、確かにデカブツは筋肉量が多いが前腕あたりは少し細いように見える。確か聞いた事があるが前腕の筋肉は鍛えにくいらしいな。それに刃が通りにくいだけで攻撃自体は入る。ならまず何とかして間合いにまた入り、前腕を切り落としてそこから腱を切れば身動きが取れなくなる。そこからフィニッシュだ。よし、この三段で行こう。とは言ったもののまず間合いに入り込めないんだよな。まあそこは気合いで何とかするしかないかな。
「ドウシタ、テガトマッテイルゾ。イクサノサナカトマルトハイノチシラズカ?。」
「確かにそうかもな、だがそうじゃない。考え事をしていたんだ。」
「ソレガイノチシラズトイッテイルノダ。」
「そんな事はいい、今は戦いに集中しようぜ。」
「オマエガイウカ。」
「確かに。まあ、行かせて貰うよ!」
そう言ったのと同時にトワは一気に間合いを詰めた。デカブツは驚いた表情をしたがトワの攻撃を受け止めて少し後ろに下がった。
「ソンナニハヤクイドウデキルトハスコシバカリオマエヲミクビッテイタ。ダガ、コレカラハモウユダンシナイ。カカッテコイ!。」
「俺としてはそのまま油断しといてほしいんだが、な!」
「ホウ、ウゴキハワルクナイ。モシカシテイママデナイフヲアツカッタコトガアルノカ?」
「それに答える義理はねぇ!」
お互いに軽口を言い合いながらも金属が擦れる音が周りに木霊していた。
「タチスジガイイナ、ヤハリナイフヲアツカッタコトガアルヨウダナ。」
「それにはノーコメントって言ってるだろ!」
―マジで間合いに入れねぇ!このままじゃジリ貧だ。何とかして入らねぇと、それに体力も尽きかけてきた。このままいけば間違いなく俺が先に体力が尽きて殺される。
「ホウ、ドウヤライキガアガッテイルラシイナ。ソレモソウカ、フダンウゴカナイヤツガコレダケウゴケタンダタイリョクノショウモウモハゲシイダロウ。コノママデハオマエガサキニタイリョクガツキルナ。」
トワは肩で息をしながらそれに応えた。
「忠告ご苦労さん。だが生憎このまま諦めるわけにはいかないのでな、精々足掻かせてもらおう。」
「スバラシイココロイキダ、ホメテツカワス。」
「お前に褒められても嬉しくない、な!」
なんとか隙をついて攻撃しようとしても大きなナタで軽々と防がれる。そこでトワはあることに気づいた。
―いや、待て、これは。一か八かで賭けるしかない。
そこでトワは大きく後ろに下がって攻撃の構えをとった。
「ソンナオオブリノコウゲキ、ツウヨウスルワケガナイダロウ。ダガ、オマエノタイリョクモジキニツキル。ソレマデアソンデヤロウ。」
トワは何も言わず構えをとっている。互いに緊張している最中、一枚の葉が落ちたタイミングでトワは攻撃を仕掛けた。だが、軽々とその攻撃は防がれてしまった。しかし、次の瞬間トワはナイフの刃をナタの端クロスさせるかのようにして引っ掛けそのまま足でナタを踏みナイフを内側に金属が擦れる音を立てながら滑らせ自分の体をデカブツとナタの間に滑り込ませた。
「やっぱりお前、攻撃防ぐ時左右に気が回ってないだろ。」
「ナッ!」
短く驚きながらナタをトワに向けて振り下ろすが時すでに遅く、振り下ろすタイミングで右手に持ってるナイフを遠心力で左手に持ちデカブツの腕を切り落として動揺した隙にナイフを右手に持ち替えて回り込み両足の腱を切って動けないようにした。
「これで!終わりだ!」
そのままナイフをデカブツの心臓を刺した。刺したあとトワは静かに下がった。
「コレデオワリカ。」
そういったあと少し間をおいて再びしゃべった。
「コノタビノタタカイ、ジツニアッパレデアッタ。ホコレ、オマエハツヨイ。シカシ、マサカコノオレガマケルトハナ。イキテイレバナニガオコルカワカラナイナ。ヒトツイッテオコウ、オレハカキュウアクマノ中でもイチバンツヨイ。オマエノウデマエハチュウキュウアクマにヒッテキスルツヨサダ。」
ポロポロと体を崩しながらそうデカブツは喋った。
「そうかよ、ならよかった。これでお前が一番弱いとか言ったら俺の心が折れちまう。」
「チナミニイッテオクガマワリニイルアクマタチハカキュウニモハイラナイザコアクマダ。」
「何でそんなに教えてくれるんだよ、そんな義理はないってのに。」
「ナンデダロウナ、オレニモワカラン。タダソウシナクチャイケナイヨウナキガシタンダ。ソレト、オマエトタタカッテミテキズイタガ、マワリニイルヤツラトハナニカガチガウヨウナキガスルナ。」
「そりゃ、どういうことだよ。」
「ソンナコトヲハナシテイルジカンモウナイ、オレハモウジキカンゼンニキエルカラナ。ソレトイッテオコウ、コレカラサキハキットジゴクノヨウナコトガマッテイルトオモウ。ソレデモオマエハコノミチヲススムノカ?」
「構わないさ、それで大切な人が救えるなら。」
「ソウカ、ナライイ。マチガッテモコウカイハスルナヨ、ソノミチヲ。」
そう言いながらデカブツの体は塵となって消えていった。
「分かってるさ、そんな事。」
そう言い捨てて後ろを向き、トワは歩き出した。そこで急いでいたヒカルがトワのもとに来た。
「おい!トワ!大丈夫か?!」
「大丈夫だよ、ヒカル。怪我は切り傷くらいしかない。」
「そうか、安心した。それにやっぱり消えたな、あのザコ悪魔。どうやらデカブツが召喚してたみたいだしな。ていうか、周囲にいる悪魔も消えてないか?」
「確かに、ってことはあのデカブツが全て召喚していたのか。それなら助かる。つまりここらへんにはもう悪魔は居ないってことだよな。」
ヒカルは周りを見ながらそう言った。
「そりゃ助かるな。まあだけど、ひとまず校舎に戻らねぇか?ここいらにまだ悪魔がいるかもしれないからな。それにお前の切り傷だって治さなくちゃならない。」
「そうだな、戻ろう。」
そこで緊張の糸は切れ、ホッと一息ついた顔でトワは頷いた。トワたちは怪我人を運びつつ校舎へ戻っていった。
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「?嗚呼、デカブツがやられたのか、まあ想定内だな。それにしても笠上トワ、ねぇ。随分と癪に障るやつだ。主人公気取りで大勢を救えると思っているお気楽な脳味噌を持っている。まあ、そんな事はいい。デカブツがやられようがやられまいが俺からしたら計画が邪魔されなければ関係ない。そんなことより早く次の準備をしなくてはな。それにこの視線が鬱陶しいしな、早く去るか。」
そう呟きながら黒いフードを被った奴は校舎の屋上の端に腰掛けていた腰を上げてそのまま後ろを振り向いて歩き出し、ワープゲートみたいなものを出して何処かへ消えていった。
「?なんか今見られてた?」
「何言ってんだよトワ?そんなことより早く怪我人を運ぶぞ。」
「ああ、悪い。今すぐオレも運ぶ。……………………やっぱり気のせいだったのかな。」
「まあ、そんなことを気にしてても仕方ないか。」