第三十九話 企み
「………………。」
トワは黙って歩いていた。すぐ後ろには何人かの足音も聞こえてくる。
「…………………。」
それでも尚黙って歩く。しかし、今度は少しだけスピードを速める。
比例して足音も速くなる。
「なぁ、お前らいつまでついてくるんだ?」
ふとトワは足を止め、後ろを振り返る。
「いつまでって……寝るまで?」
ついてきた一人である太郎は頭を傾げてそう答える。
「なんでお前が分からないんだよ………?」
トワは半ば呆れ気味に言葉を放った。
「そうだよ、なんで太郎君が分からないの?」
ユキはいつの間にかトワの横に立っており、そうそうと頭を上下に動かしている。
「ユキが言うなよ…………。ユキだって俺についてきてたじゃないか。」
どの口が、とトワが目を細めるとユキはキョトンとした顔を浮かべた。
「そりゃあ、だって心配だったし………。」
指をもじもじさせて目線を右下に向ける。
「ウッ…………。」
それを見たトワはダメージを受けたような声を出した。
トワは何も言えなくなったのか申し訳なさそうにする。
「わ、悪かった……。」
顔をしょぼんとさせたトワ。
「……それで、どこに行くつもりなの?」
太郎は気になってたことを口に出した。
「特にない。」
きっぱりと言い切った。
「何をしたいんだい?」
純粋な疑問が太郎の口からこぼれる。
「何も、だ。ただぶらついてるだけ。暇だからな。」
なまじ病院服のような姿をしているトワはくるりと身を翻した。
「………なら、僕の仕事でも手伝う?」
太郎は少し考えた末、そう提案した。
「太郎君、それは…………。」
ユキがトワの体は治ってない、と言う前に太郎が被せた。
「大丈夫、軽い手伝いだよ。小さなものを運ぶだけ。」
ユキへと顔だけ振り向き、安心させるように丁寧に言葉を放つ。
「それなら…………。」
渋々といった感じで、ユキは了承する。
「お、マジ?暇つぶしができてありがたいわ。」
トワの口が少し上がり、驚きも混ざった顔をした。
「……わ、私も手伝う。」
一瞬戸惑ったが、ユキはそう言った。
「……なんでユキが。」
トワは不思議そうにユキに少し顔を向けた。
「か、監視だよ。トワ君が無茶しないかの。」
心配そうにトワを見る。
「……そうか、なら頼んだ。」
ユキに、諦めたような優しい表情を浮かべた。
「………うん!」
嬉しくなったのか顔が明るくなり、無意識に声色が上がっていた。
それを聞いた太郎は先導に立って、歩き出す。二人も自然についていく。
「そんで、お前は何をするんだ?」
暫く歩き、そんな事を口にするトワ。
「避難者たちに物資を届けたり、壊れている箇所があったらそこの修理くらいかな。」
太郎は、う〜んと前置き、右手の人差し指を顎の下に置く。
「そんで、その荷物って?」
トワは訊く。
「日用品の類だよ。歯ブラシだったり、トイレットペーパーだったり。」
太郎達三人は着実に倉庫へと近づいている。
そんな事を話していたら、いつの間にか倉庫の扉の前へと着いていた。
「……デケェな。」
目の前には体育館の三分の一程度の大きさの倉庫が目にはいる。
「僕も初めて見た時そう思ったよ。」
そう言ってポケットから取り出した鍵を錠前へと挿す。
ガチャリと音を立ててロックが外れた。
「でも、このサイズじゃないと、持ってきた物資も入り切らなかったけどね。」
ギギと扉が音を立てる。少し埃っぽいが、中には山積みになった水や食料、日用品がある。
「……ねぇ、前こんなに持ってきてたっけ?」
少し違和感を感じ取ったのか、ユキはトワに訊く。
「……分かんねぇ。」
考えた末、そう結論づけた。
「そりゃそうだよ。トワ君達が取りに行った後でも、スーパーに取りに行ったんだから。」
太郎は、あったあった、とお目当ての歯ブラシとタオル、それと毛布の入った袋を見つけて手に取った。
「にしてもだろ。この数は多くないか?」
トワは太郎から差し出されたタオルの袋を受け取る。
「備えあれば憂いなし、だよ。」
太郎はユキには毛布の入った袋を渡した。
「…それもそうだな。」
ふっ、と笑うとトワ達三人は、倉庫から出る。
「ねぇ、トワ君。重く、ないよね?」
心配そうにトワを覗くユキ。
「流石に重くないに決まってるだろ。俺が持ってるのタオルだぞ?」
呆れ気味にユキを見た。
「いやぁ、心配でさ。」
あはは、と苦笑いを浮かべるユキ。
「大丈夫だ。心配してくれてありがとな、ユキ。」
柔らかい笑みをユキに向ける。
「……………うん!」
少し頬を赤らめ、元気に返事をした。
―めっちゃイチャイチャしてるじゃん………。
その空気に若干の気まずさを感じている太郎。だが、嫌悪感はなかった。なんなら、微笑ましさすらあった。
そうして、三人は第二体育館へと、足を運んだ。
◆
「……………。」
一人の男らしき人物が壁に寄りかかって立っている。
すると、テクッテクッテクッと軽快な足音が部屋中に響き渡る。
「それで、何のご用でしょうか。紅様。」
寄りかかっていた背中を壁から離し、顔を紅へと向けた。
「あれ?もう来てたの?早いねぇ〜!」
無邪気な笑顔を浮かべて男へと近寄る。
「……ご用は?」
いつものことなのか、それを無視した。
「え〜〜、少しは反応してくれてもいいじゃん!ケチ!」
ム〜、と頬を膨らませて不機嫌をアピールしている。
「俺がこういう性格なのは知ってるでしょう?」
一度、ため息をつく。
「……それもそうだね!じゃあ、本題にはいるよ。」
どこか弾んでいた声を仕舞い、トーンが平行線に近づく。
「私はね、お願いをしに来たんだよ。」
ジッと男の目を見つめる。
「命令、ではなく?」
確認するかのように訊く。
「うん。」
それに対して首を縦に振った。
「……それで。」
続きを要求する。
「簡単に言えば、君には、あの学び舎を襲撃してほしいんだ。」
「……紅様は、魔神様から何か言われてたんじゃないですか?」
そのお願いには賛成しつつも、疑問を口にした。
「あれは、私が直接行く場合だよ。仕掛けるな、とは言われてない。」
男に意地悪な顔を見せる。
「屁理屈ですね。」
呆れたように紅に顔を向けた。
「いいのいいの。細かいことは、気にしな〜い!」
はっちゃけるように体を一回転する。
「……しかし、あそこは面倒ですよ。戦える奴も、それなりにいます。」
男は紅と目を合わせた。
しかし、紅は焦ることなく言う。
「大丈夫大丈夫。そんな無計画じゃないよ。ちゃんと囮はいるから。」
「……信じますよ。」
男はそう言って背中を向けた。
「バッチグー、だよ!」
男の背中に親指を立てる。
すると、男は足を止め、振り返る。
「なんですか、それ?」
「うん?あぁ、これ?これはねぇ、最近知ったんだけど、最近の子はこういうのするらしいよ!」
紅はさらに親指を強調する。
「………そんな年齢でもないでしょうに。」
ボソっとそう言った。
「あ〜〜!女の子に対して年齢を弄るのはご法度なんだよ!失礼な!」
プイっと頬を膨らませて顔を右に動かした。
それを見た男は正面を向き直り、歩き出す。
その背中を見ながら言葉をかけた。
「……期待してるよ。」
どこか慈愛に満ちた声だった。
「当然です。」
足を止めることなく男は歩いた。
すいません、ちょっと忙しくて中々書けませんでした。




