表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エターナル  作者: かさは
植物少女編
44/46

第三十八話 太郎

「ちぇ〜〜、つまんないの。」

少女はとある一室で、そう零す。他にも誰かおり、少女を含めた四人は各々椅子に座っている。



「とはいえ、仕方がないだろう?魔神様がそう仰るのだからな。逆らうなんて言語道断だ。」

二十歳くらいの青年は、手から土を出し、それを固めてコップにする。



「逆らうなんて真似するわけないじゃん。」

少し鬱陶しそうに目を細める。



「……茶は?」

青年は隣にいる男に声をかけた。



「僕が持ってると思った?」

面倒くさそうに青年に顔を向ける男。



「………思わなかったが、念のためだ。」

一瞬考え、本音を口にする。



「そこは嘘でも思ったって言えよ!」

男は身を乗り出した。



「…………うるさい。」

青年は、そっと顔を正面に向き直した。



「お前が言うな!」

ムキー!とオノマトペが出そうな顔を浮かべる。

ズズッと、何かを啜る音が男の隣から聞こえてきた。



それが気になり振り向くと、そこには湯飲みを持った中年の男がいた。



「………仲成(なかなり)、その茶を何処から持ってきた?」

男は困惑した表情をしながら訊く。仲成は直垂ひたたれ)の袖を少しだけ上に上げ、静かに懐から茶葉を取り出す。



「…………ここだ。」



「いや何処から取り出してんだよ!つうか湯はどうすんだよ!」

男は驚く。



(こう)からな。あと、別にこれは湯ではない。水だ。」

仲成は少女に視線を一瞬向けて、再び男に顔を戻す。



少女、もとい千日紅(せんにち こう)は笑顔で手を振る。



「おい、沃土(よくど)。」

男は呼ぶ。



「なんだ?」



「仲成から貰えよ。」

仲成の湯飲みをツンツンと指さす。



「……やっぱ飲むの面倒くさいからいいや。」

青年は背もたれに全てを預ける。



「おい!」

男がそう言うと、全員気配に気づいたのか、黙って席に座った。



その瞬間、音も立てずに現れる。



「全員来てるな、仲成なかなり)こう)沃土よくど)宗高むねたか)。」

そこに現れたのはフードの男だった。四人を一瞥して話し出す。



「お前らには、各々別の場所の大将としていてもらう。」



「……大将ですか?」

その言葉の意味が分からず、男、宗高は首をかしげる。



「……そうだ、紅には方前市ほうまえし)を、沃土は泉野市いずみのし)を、宗高には道井市みちいし)を。そして、仲成には、坂宮市さかみやし)に各自、移動しろ。」

フードの男は、紅を見た。



「……特にお前は待機だ。」

その言葉に少し目を見開くが、すぐにいつもの顔に戻る。



「……は〜〜い。」

右手を上げて言う。

それを聞いたフードの男は黙ってその場から消えた。

その部屋に取り残された四人は各自動く。



「なら、俺は行かせてもらおう。」

沃土はそう言って立ち上がり、その場を去る。



「紅、沃土と離れてんのかよ。どんまい。」

宗高は右手の親指を立てて、姿を消す。



「別にいてもいなくても、私的にはどっちでもいいんだけどね〜〜。」

紅は仲成の膝の上に座る。



「しかしながら、戦術の幅は狭まるだろ。」

仲成は紅を見下ろす。



「……別に〜〜〜?そんな事ないも〜〜ん。」

頬をぷく〜っと膨らませる。しかし、仲成の言っている事を分かっていないわけではなかった。



紅の様子に、やれやれといった様子を見せる。

それから少し経ち、仲成の膝からひょいっと降り、腕を後ろに組んで背中を見せる。



「……じゃあね、仲成おじさん。」

そう言って、紅も姿を消した。一人になった空間で、仲成は一人座っている。



「いるのでしょう?魔神様。」

仲成は目線を何もない壁に移す。



「……………。」

魔神はただ黙っている。



「少しは嫌悪感を隠さないと、いずれバレますよ?」

重い腰をゆっくり上げ、体を魔神に向けた。



「……無理だな。」

きっぱりと、堂々とそう言った。



「……私は理解してるからいいにしても、他の者に気づかれでもしたら、どうするつもりなのですか?」

仲成は、フードで隠れて見えない目を見る。



「………やはり、お前は何も思わないんだな。」

少しだけ顔を上げて、魔神の黒目が、仲成の目と合う。



「……魔神様の、"悪魔嫌い"を、ですか?」



「それ以外に何がある。」

包み隠さず言う。



「……それ込みの、忠義ですので。」

仲成も歩き出し、去る。魔神はそれを軽く目で追った。



「………………。」

魔神も何も言わず、身を翻し、立ち去るのだった。





ダッダッダッと外から聞こえてくる。



「……………?」

ベッドで天井を見ているトワは、頭にハテナを浮かべた。

それは段々と近づき、ガラガラと保健室の扉が開かれる。



―なんなんだ?

トワはそう思うが、特にそれ以上考えることもせず、目を閉じようとする。

しかしその瞬間、シャ!とカーテンが開いた。



不思議に思い、そちらを見る。



「はぁ、はぁ、はぁ、トワ君、大丈夫?!?!」

そこにいたのは太郎だった。



「…………太郎?」

トワの顔には純粋な疑問が浮かんでいた。



「……起きたなら呼んでよ!」



「お、おう。悪い。」

太郎の気迫にトワも気圧され、謝ることしかできなかった。

少しの間肩で息をしていた太郎だが、徐々に呼吸が追いついてきた。



「……それで、本当に大丈夫なの、トワ君?」

心配そうにトワに目を向ける。



「……大丈夫と言えば嘘になるが、まぁ、ほぼ治ってるな。」

トワは太郎を安心させるため、穏やかな声を出した。



「そ、そっか。それなら良かったよ。本当に心配したんだからね?」

確認するように何度か同じ事を呟く。



「帰ってきたと思って会いに行こうとしたら、血まみれの君がいるんだから……………。」

太郎は、床に小さく血をポタポタ垂らしたトワを思い出したのか、声には恐怖が混じっていた。



「………………。」

そんな気まずい空気がしばらく保健室に張り詰める。

すると、ぐ〜〜〜っとトワの腹から音がなる。



「…………ぷはっ!」

少しの間、唇を震わせて我慢していたが、耐えきれなくなったのか、吹き出した。



「ははははははは!!」

太郎は笑い泣きをする。



「な、なんだよ。」

その光景に、困惑しながら引くトワ。



「いや、何でもないよ。」

目元の涙を拭う。



「お腹減ってるなら、ご飯持ってくるよ。ちょうど昼時だしね。」

トワにとびっきりの笑顔を見せた。



「……なら、頼んだ。」



「……勿論!」

そう言って太郎は足早に保健室を去った。

すると、すぐに扉が開く。



「どうしたんだい?あの子。」

治はトワに向かってそう訊く。



「飯を取りに行ってくれたんですよ。俺の分の。」



「………汚さないでくれよ?」

治は自分の椅子に腰掛ける。



「善処します。」

少し自信がないのか、そう言ってごまかす。



「………そう、ならいいんだけど。」

近くの本棚から漫画を取り出し、ページを開く。



「何で漫画なんてあるんですか?」

トワはツッコむ。



「なんでって、読みたいからだけど?」

さも当然かのように語る。



「そういうことじゃないんですよ。」



「じゃあどういうことさ。」

治はふんぞり返っている。



「いや、それは…………。」

なかなか良い言葉が見つからず、詰まる。

そんな中、再び扉の開く音がした。



「トワ君、来たよ………。って、治先生?」

トレーを両手に持ち、周りには傘都、ヒカル、ユキ、サキがいるのが見える。



「太郎か。」

トワは太郎の方に顔を振り向かせる。傘都達を見たトワは一瞬驚くが、それもすぐにもとに戻った。



「君達、それを落とさないでくれよ?」

治はトワに言ったことを太郎にも言った。



「大丈夫です。」



「……そう、ならいいんだけど。」

トワは二回聞いたその言葉を軽く聞き流した。

太郎達五人はベッドへと近寄ってくる。



そして、太郎は再びトワの前に立ち、トレーを手渡す。

トワの目に、ホカホカの湯気の立っている親子丼が視界一面を覆われた。



その光景に、ゴクリと喉が鳴る。



「い、いただきます………。」

静かに手を合わせて箸を持つ。

そして、肉をひと欠片持つと、周りの卵もくっついてくる。



まずは肉を先に口の中に入れ、米を頬張る。

熱々の米が頬の内側を焼く。それでも咀嚼をやめない。



何十回も噛んで、目を閉じながら飲み込む。



「…………クソ美味ぇ。」

その声は喜びに満ちていた。



―俺のすっからかんだった胃袋にダイレクトに届く。最高だ。

トワの右手隣に傘都が、反対側はユキが座る。ヒカルとサキは立っていた。



「………?」

トワは頬に米粒がついたことに気づかず、傘都とユキを見る。

ユキは米粒に気がついたのか、微笑む。



「ねぇ、トワ君。こっちに向いて?」

トワはその言葉に疑問符を浮かべるが、ひとまずその指示に従って顔をユキに向けた。



ユキのやることに気がついたのか、傘都は見ないように目を背ける。その傘都の違和感を感じ取ったサキも目を何処かへやる。



次の瞬間、そっとトワの頬についていた米粒を指で取って、食べた。



「……………………。」

トワは呆気にとられる。何が何だか分かっていない様子だ。

ヒカルは思考停止、太郎は顔を手で覆っている。治は漫画に集中していて気づいていないようだ。



「……………/////。」

ユキは頬を赤らめて、その無言の空間に耐えきれなくなったのか、風の如き早さで保健室を去った。



「……………はっ!」

そこでようやく思考が完結し、ヒカルはトワに近づき、肩を揺さぶる。



「お、おい、トワ。トワ!」



「…………!!な、なんだよ。」

途中で意識が帰ってきたのか、そう返事をした。



「いっ、一体何があったんだ?」

トワは周りを見渡し、ヒカルに訊く。



「駄目だこいつ。完全に記憶がとんでやがる。」



「な、何がだよ?」

トワは頭に疑問符を浮かべている。



「………傘都、こいつ治せるか?」

少しの希望をかけて傘都に訊く。



「無理。」

が、しかしそれは無慈悲にも断られた。

そうして、トワは食事をとるのだった。


評価の方、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ