第三十五話 想定外
「そういえば、菅野さん達はどれくらい集まったんですか?」
トワは菅野に訊いた。五人は自動ドアをくぐって外に出る。
「俺か?俺は千二百発だ。倉庫があってな。そこで大量に確保した。」
菅野は背中に背負っているバッグに意識を向ける。
「俺達は二百発だ。なんでか分からないが、一つの机にそんだけあってな。」
ヒカルはトワのほうを向いて言う。
トワと傘都は自分達より確保数が多いことに気後れを感じる。
「そういうお前らは何発なんだ?」
純粋にヒカルは問いかけた。
「俺達は………六十発だ。」
トワは申し訳なさを声色に乗せる。
「六十か。なら、計千四百六十発だな。こんだけあれば十分だ。」
菅野は瞬時に計算をして、一度安堵した。
「あとは帰るだけ、か。」
傘都は先程の事を思い出し、顔が暗くなる。
それを見たトワは傘都に声をかけた。
「……仕方ねぇよ。俺たちに何かできたわけでもねぇ。あそこで手を合わせること位しかできなかったんだ。」
「………分かってる。そんなこと。でも、どうしても考えちまう。俺たちがもっと早く行けてたらあの人は死ななかったんじゃないかって………。」
顔を俯かせ、悔しさをにじませながら手を強く握る。
「……………。」
トワはそれに対して、黙ることしかできなかった。
「………それは、たらればだ。」
そこに一石を投じてきたのは菅野だった。
傘都はその言葉に俯かせてた顔を上げ、反論しそうになったが、それは菅野の言葉で遮られた。
「お前はまだまだガキだ。だから気負うのも無理はない。だが、そんな事を話していても何にもなりはしない。お前にできることはやったんだ。それでいいだろ。」
少しだけ怒りを抱いてた傘都の頭は、菅野の言葉でゆっくりと冷静になってくる。
だが、それでも納得はできずにいた。
「でも、それでも俺は、考えなくちゃいけなかったんだ!救える可能性を!助けられたかもしれない命を!」
傘都は真っ直ぐに菅野を見る。その目には、青さしか無かった。
「………そうか。まぁ、強制はしない。お前は、お前の信じる道を進めばいい。」
それだけ言って再び体を前に向き直す。
「いずれ分かるさ………。」
菅野はそう誰にも聞こえない声量で言葉を零した。
「傘都…………。」
トワには今の傘都が眩しくてたまらなかった。
そうして、車へと歩いていく。
トワはふと周りが気になり、見渡す。
すると、少し遠くで人影が見える。
薄っすらと、その人影は小さく、少女のように細い体をしていた。
トワ以外は気づいていない。
少女がゆっくりと顔を上げ、トワと目が合う。
少女らしき人物の目には、ひたすら無邪気さが映っていた。
その時、トワは何か背中にとてつもない悪寒を感じる。
「全員!避けろ!」
その声に全員驚くが、その指示に従って、トワ含めた五人が一斉にすぐさま各々の方向に動く。するとその瞬間、足元のコンクリートの地面を、鋭く尖った植物が突き破った。
菅野は一瞬焦るも、懐から短刀を取り出し、鞘から抜いて警戒態勢に入る。
傘都はパニックになるが、ナイフを抜いて構えた。
ヒカルとサキはトワが向いていた方向に顔を動かし、各々武器を抜く。
五人は散らばりながらも、連係が取れるように距離は近い。
ドクドクと自分自身の鼓動がよく聞こえた。
少女は、トタトタと軽いリズムを刻みながらこちら側に近づいてくる。
すると、ある一定の距離を歩いたのか、その音が止まった。
「あれ〜?何で避けれたの?」
十代前半にも見える少女は、五人をさっと見て不思議がる。
その問いに、誰も答えない。この場には緊張だけが蔓延っていた。
「野生の勘?ってやつ?」
う〜ん、と首を傾げる少女。
―な、何なんだコイツは……。動こうにも、アイツの事が分からないから動くことも出来ない……!
トワは表面では警戒する顔をしているが、内心焦りに焦っていた。
静かにポケットに仕舞っていた銃を取り出し、セーフティーを解除する。
「まぁ、何でもいいけどさ。どうせ君達は死ぬんだから。」
そう冷たく言い放ち、少女の背中には植物が現れる。
再びトワの背中には悪寒が走り、銃を構えた。
「……………。」
少女は目を細めてとてつもない速度で植物をトワに向かわせた。
ナイフで身を守ったが、あまりの速さに体が勢いよく後ろに飛ぶ。その瞬間、バコン!と抉れるような音が四人の耳に入ってきた。
「か、は!」
トワは背中を強く打ち付けられたことで息ができなくなり、四つん這いになる。
「……ふ〜〜ん、死なないんだ。意外。」
冷徹にトワを見る。
「でも、その様子じゃ暫くは動けないでしょ。」
少女はトワへ向かって歩き出す。
―不味い!
少女の様子に菅野は敵だと認識し、銃口を向けて発砲した。
しかし、銃弾はいきなり現れた植物によって完全に防がれる。菅野はその状況に驚きを隠せない。
「無駄だよ。私には届かない。」
少女は菅野に目だけを向かわせる。
「……何でアイツを狙う?」
菅野の額からは冷や汗が流れる。
「何で、か。あの子は、私に銃口を向けてきた。」
少女は菅野に対して言ってるが、興味は今もトワを向いたままだった。
「……なら何で発砲した俺を攻撃しない?」
トワを回復させるために、質問をして足止めをする。
「……言う必要ある?」
「あるな。納得ができん。」
段々と鼓動が速くなっていくのを感じた。
「………あの子からは"能力"の気配がしたから。」
やっと菅野に体を向ける。
「…の、能力?何言ってんだ、お前。」
突拍子のない少女の発言に信じられない様子を見せた。
傘都は恐怖で体が動かない。ヒカルとサキは恐怖もあるが、緊張が大半を占めていた。
―動け、動け、動け!
傘都は心の中でそう念じ、少女に向かって震えた足取り一歩踏み出す。
「君、動かないほうがいいよ?あの子の前に死ぬことになるから。」
その言葉で傘都は動けなくなる。
―動いたら、死ぬ?…でも、それじゃあトワはどうなる?あいつは今動けない。俺が動かなかったら、アイツは死ぬ。俺が動いたら、俺が死ぬ。
この状況をどうにかするために必死に思考を巡らせる。しかし、どれだけ考えても解決策は出ない。
だが、時間は刻一刻と迫っている。
考えた末に傘都はナイフを強く握り、少女へ駆け出す。
傘都の行動にトワを除いた全員が驚くが、菅野にヒカル、サキも走り出した。
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」
傘都は叫びながら刃を少女に向けて振りかぶる。
しかし、それは容易に防がれた。
「馬鹿だね。銃弾が防げるんだから柄の短い得物が当たるわけないでしょ?」
少女はもう一つ植物を出して傘都に襲いかからせる。
菅野は少女に向けて発砲した。
幸い傘都は貫かれずに済み、地面を蹴って後ろに下がる。すると再び植物を生やし、菅野に迫る。
しかし、間一髪で避けることに成功した。
「邪魔しないでもらえるかな。」
少々苛つきの乗った声でそう言う。
「…それを素直に受け入れる馬鹿が何処にいる。」
菅野は冷や汗を流しながらも強がる振りを見せた。
ヒカルはサキに目配せをして、サキはトワの方へと駆け寄る。
「トワ、立てますか?」
トワ以外に聞こえない声量で訊くが、目は少女の方へと向いていた。
「………だい、じょうぶだ。やっと息ができる。」
トワはそう言って視界がブレながら、ゆらゆらと立ち上がる。
そして、何度か深呼吸をしたあと、ナイフを取り出した。
「ですが、どうするのですか?相手は格上です。今の私たちが勝てるほど弱くはないですよ……。」
サキが声に焦りを乗せる。
「アイツから逃げるしかないだろうな……。」
自分でも非現実的な事を言ってるのは理解しているが、それしか案は浮かばない。
菅野に傘都、ヒカルはトワのいる方に下がって少女と距離を取った。
トワとサキは菅野がいる方に走る。
「大丈夫か、トワ。」
トワは菅野の横に立ち、菅野は訊いた。
「えぇ、何とか。ギリギリ防げたので。」
そう言って左手に銃、右手にナイフを持って少女に対する警戒を最大限上げる。
「…………面倒。」
少女が呟いたその瞬間、植物が地面を突き破り、姿を現した。
「な、五本!」
傘都は目を見開いて驚く。
少女はゆっくりと手を挙げる。
それに対して、トワ達は何時でも動けるように武器を構えた。その瞬間、少女は手を下げて、植物が全員に襲いかかる。
しかし、眼前まで迫ると植物は塵となって消えていった。全員が混乱していると、トワの背中に衝撃が走る。
その違和感に、トワはゆっくりと下を向く。
すると、そこには血塗れになった鋭い植物が自身を貫通していた。しかも、心臓を一突きしていた。
―え?
トワはぎこちなく後ろを振り返る。
そこには、地面に生えた植物が見えた。口からは、血が滴り落ちる。
傘都は一瞬思考が停止するが、驚きがとたんに溢れ出した。
「トワ!!!!!」
傘都は叫び、トワに近寄ろうとする。
しかし、トワと少女の間にあるコンクリートを壊して植物が少女へと向かった。
「本当に馬鹿だね。こんな簡単な罠にも引っかかってくれる。」
少女はトワをじっくり見る。そこで、少女の中でとある事が確信に変わった。
「………やっぱり"能力持ち"だった。これは先に始末しておかないと。」
淡々とそう述べる。少女はトワを貫いた鋭い植物を抜いく。トワは地面にドサリと倒れ込んみ、血がトワを起点に円状に広がっていく。
「……お前ぇ!!!!!」
傘都は驚きが一転変わって強烈な怒りに思考を支配された。傘都が少女へ走り出そうとした瞬間、誰かに襟を掴まれる。
「死にたいんですか!!!」
それを止めたのはサキだった。だが、それでも傘都の怒りは収まらない。
「離せサキ!!」
とてつもない力で足掻くが、サキもそれに負けじと力を込める。
「ここで傘都が行っても無駄死するだけです!!冷静になってください!!」
サキは珍しく感情を大きく乗せて叫んだ。
ヒカルは友達を傷つけられた怒りと、恐怖が混じり合い、冷静を保とうとする。
―トワの出血量がマズイことになっている!このままだと失血死まっしぐらだ!
―止血しないとトワが死ぬ。どうする、菅野誠也!考えろ、考えろ!
それに対して菅野はトワをどうやったら助けられるか、必死に思案している。それは、顔にも出ていた。
そうやって膠着状態を保っているが、その間にも、トワの死への時間が近づいている。
すると、ピピピピと少女から音が鳴った。
少女はポケットに仕舞っていたスマホを取り出し、それに応えた。
「どうしたんですか、魔神様?……はい……はい……分かりました。」
そして、通話が切れ、少女はスマホをポケットに入れる。
―この子を殺せない事は不安だけど、まぁその状態なら死んだも同然でしょ。
そう心の中で考え、少女は植物を盾にして消えていった。
それを確認した菅野達はすぐさまトワへ駆け寄る。
菅野を除いて傘都達が何か言っているが、トワには何も聞こえない。
―こいつ…らは…何を…言ってる…んだ……?
ハイライトのない深淵に飲み込まれた目を静かに閉じていく。
―や…ばい。意識…が…保…て…な………………。
そうして、トワの意識は闇へと沈んだ。
◆
「間一髪だったな。あのままいけば死んでいた。
あそこで死なれては困るんだ"笠上トワ"。」
とあるマンションの屋上で、警察署から十キロ離れている地点でトワ達を見ながらそう零す。
そのフードをかぶった男の手には、スマホが握られていた。
「まぁ、これでそう簡単に死ぬことはないだろう。"能力"がある限り、な。」
「いや、まだアイツには"主人公"としての力が小さい。最悪、死ぬかもしれないな。」
その男は一度ため息をついた。
「あの女には、他の場所の警戒でもさせておこう。」
男は、面倒くさがるような声色を乗せて言った。
その男は、踵を返し、何処かへ去っていった。
ちょっと今回は長めになりました。




