少女
避難所の事件からはや三日。かつては避難所にいた人々も体育館での生活に慣れてきた。そして、学園の一角の教室、1―Aには活気があった。
「だから、キノコに決まってんだろ?味のわかってねぇガキだな。」
トワは傘都に向けて煽るような顔をした。
「は?タケノコに決まってんだろ?お前は常識すらないのか?」
傘都も傘都でキレ気味である。
「別にどっちもおいしいでしょ。ていうかトワは甘い物苦手だったよね?」
宥めるようにユキは言う。
「確かにそうだ。だが、キノコは例外だ。」
堂々と宣言した。それにユキと近くにいるヒカルは困惑している。
「ぶっちゃけさ、キノコタケノコ論争とか、どうでもよくね?」
ヒカルはグミを一つ口のなかに入れる。ヒカルの隣にいるサキがジーと見てたのでグミの袋を見せたら、コクコクと頷いた。仕方がなく袋をサキの方に寄越すと、口角を上げて二つ取る。それにヒカルは驚いた様子を見せた。
「いいや堂々とでもよくない!これはな、日本人として、決着を決めないもいけない大問題だ!まずキノコの素晴らしさを挙げるぞ。ひとーつ!チョコがタケノコに比べてタップリ!」
トワは聞かれてもないのに、勝手に語り始める。
「チョコたっぷりだって?こっちにはサクサクのクッキーが味わえるんだぞ?そんなんで勝てると思ったのか?」
勝ちを確信したかのように煽りだす傘都。
「そもそも、キノコタケノコ論争に決着なんてつかないでしょうに。」
モキュモキュと硬いグミを噛むサキ。
「それでも!男には、やらなきゃいけないときがあるんだ!」
トワがサキに向かって言う。
「そうだそうだ!」
敵だった傘都もそれを便乗する。トワは一瞬戸惑ったが、非難を続けた。
「すごく下らないですね。」
呆れて素直に言葉が出る。
「「なんだと!」」
その声を聞き、とある人物が扉からひょこっと顔を出した。
「な、何をしてるの?」
とある人物とは、太郎だった。それを見た瞬間、ヒカルとトワ、傘都の顔が少し驚いたような感じがした。
「「「太郎!」」」
そう言われて、少し心に来たのか、顔を歪めた。
「そ、そんな大声で………。」
「太郎の何処が悪いんだよ?いい名前じゃないか?」
トワは言う
「そ、そう言われたら何も言えないけどあさぁ……。」
肩を落とす太郎。
「まぁ、それはいいとして、久しぶりに会った気がするな。太郎。」
太郎はそう言ってきたトワに、気を取り直して、表情を変える。
「そうだね。とは言っても、たかだか数日だよ?」
「色々濃かったんだよ。最近は。」
頭の中で発電所の事や、避難所の事を思い出す。
「悪魔が出てから、すべて濃かった様な気がするんだけど………?」
「まぁ、それはそうだが、気にするな。」
「えぇ?」
太郎は困惑した声が、教室に残った。
◆
ふぁさり、電気の消えた教室から、そんな音がする。
隣で寝ている傘都やユキを起こさぬように静かに布団をどかす。そうして立ち上がり、教室を出る。明かり一つない廊下、町にも明かりがないせいか、星がいつもよりきれいに見える。
カツカツカツと音を立てて歩く。廊下を歩き、トワは屋上の扉を開けた。
「………涼しいな。」
春の夜風にあたるトワ。風が頬を撫で、去っていく。
―ちょっくら避難所にでも行ってくるかな。
トワはそう思案し、すぐに行動に移す。
―あの避難所、絶対に何かある。じゃなきゃあんなに悪魔が発生するわけがない。
歩きながら真面目な顔をする。再び教室に戻り、ナイフを持ち、服をいつもの制服に着替える。
―夜風にあたるのも、特別感があるよな。
下駄箱へと足を進めるトワ。保健室や職員室には明かりがあるが、それ以外はついていない。そうして下駄箱に辿り着き、上履きを脱いで靴を履く。
星が瞬く夜へと一歩踏み出し、裏口へと向かう。二メートルある裏口の門をひとっ跳びで乗り越えた。トワの足は避難所に向けて走り出していた。ビュンビュンと体で風を切り、ジャンプをして屋根に乗って走る。そうやって屋根伝いで移動していたら、すぐに避難所が見えてきた。
―遠目からでも分かるが、活気がないな。まぁ、人がいなくなったんだし、当然か。
トワはさらにスピードを上げる。そうして避難所に到着した。周りを軽く見るが、特に何も見つからない。
―明かり一つ無いな。明かりは、スマホでいいか。
トワはポケットからスマホを出し、ライトをつける。
いとも容易く壊された扉を潜り、避難所の中を歩いていく。トコトコトコと、トワの足音だけが周りに木霊する。
―こりゃひどいな。物が散らかりすぎてる。まぁ、非常事態だし、仕方がないけど。だけど、あまりにも歩きにくい。
トワは順に扉を空け、部屋へとはいる。
―しっかし、何もないな。じゃあ、本当にあの避難所の時の悪魔の軍勢は何だったんだ?
そう考えながら、最後に"所長室"と手書きで書かれた紙が上に貼ってある扉に手をかけ、開ける。しかし、何もなかった。トワは諦めて帰ろうとしたその時、もう一つ扉があることに気が付いた。
―あれは?
どうせ何もないと分かっていながら、興味本位で近づく。そうして、恐る恐るドアノブを握り、捻る。中は埃が少し舞っていた。そっとスマホのライトを部屋に当てる。
周りを見て、何もないと思いつつ、それでもライトで照らす。すると、ソファで何かがある事に気が付いた。夜だから恐怖もあり、心拍数が上がる。手の震えを抑えながらそちらにライトを向けた。そこには、眠っている少女の姿があった。
―この子は、誰だ?
そこでトワは迷う。どう考えても怪しい少女を学園に連れて行くか、それともここに置いていくか。
―どうする?………いや、連れて行こう。何か知ってるかもしれない。
そう決断し、少女のうえに被せてあった毛布を退ける。
―まんま女の子だな。人、なのか?
疑いながらも少女を軽く見た。
―ごめんよ。セクハラにならないよな?
手を少女とソファの隙間に入り込ませ、そのまま持ち上げ、お姫様抱っこ状態になる。するとトワはこれまで来た道を引き返し、歩く。少女は死んだように眠っている。
―本当にこの子は何者なんだ?何故避難所で眠っていた?何故傷一つない?………駄目だな。疑問がありすぎて解決できない。
トワは少女を見ながら顔を暗くした。しかし、出入り口の扉へ向かう足は止めない。そんなふうに考えていると、いつの間にか扉まで来ていて、数分ぶりの夜空を見上げた。
トワは学園の方向を見て、お姫様抱っこのまま、できるだけ縦揺れを起こさぬように段々と加速する。再び三メートルを超える大ジャンプをして、屋根に着地した。そうして再び走り出す。星空には、新月が浮かんでいた。
◆
カツカツカツカツ、廊下には間隔の短い足音が響く。保健室でマイクラをしているナオは、特に気にもとめてなかったが、段々と足音が近づいてくる。それに一度メニューを開いて目線を扉へ向けた。その瞬間、ガラガラと扉が音を立てて開き、そこからトワとお姫様抱っこされている少女が入ってきた。
「すいません、ナオ先生。この人?を診てくれませんか?」
トワはナオに向かって言う。それに驚きながらもいつも通りの様子で答える。
「………分かったよ、だから、ひとまずその子をベッドに置きな。」
ナオは椅子から立ち上がり、軽くベッドのほうへ誘導する。トワもそれについていき、少女をベッドで寝かせる。それを確認したナオはベッドの周りをカーテンで覆った。ナオは再び椅子まで歩き、座る。
「それで?もう学生は寝てる時間じゃないのかい?」
座ったまま足を組み、気怠げに訊く。
「………い、いや〜〜。それは、まぁ置いときましょうよ。」
言葉に詰まり、冷や汗を出して何とか話を逸らそうとする。ナオは面倒くさかったのかそれ以上訊きはしなかった。
「それで?この子は誰?」
寝ている少女の方を軽く向き、トワの目を見る。
「それが、分かりません……。」
少し申し訳なさそうにした。
「分からないって、どういうこと?」
純粋に疑問を抱く。
「俺がとある事情で避難所に行った時、所長室という場所にいたんです。でも、なぜそこにいるのか、何故寝てるのか、すべてが分からないままなんですよ。」
若干事実と異なることを言いながら、説明する。
―事情なんてないでしょ。
心ではそう思っていたが、口には出さなかった。
「待って、君今避難所って言ったかい?」
トワの言葉が頭に反芻し、焦っていつものポーカーフェイスが崩れる。
「えぇ、言いました。」
トワは言う。
「………とんでもないものを持ってきたね、君。」
頭を抱え、項垂れる。
「分かってますよ。でも、ほっとくことができなくて………。」
「流石に人?だから捨ててきなさいなんて言えないけど、それでも絶対やばい秘密あるでしょ。あの子。」
ため息をついて、椅子の背もたれに寄りかかる。
「す、すいません………。」
トワは申し訳なさそうな顔をした。
「まぁいいよ。もう遅いだろうし。だから君は寝てきな。」
トワに向けていた椅子の正面をパソコンに戻し、メニュー画面からプレイ画面へ切り替える。
「い、いいんですか?」
恐る恐る訊く。
「別にいいよ。してしまったことは変えられないからね。次気をつけな。」
そう言いながらもトワの方へは向かず、画面に釘付けになっていた。
「ありがとうございます。」
少し安堵しながら緊張を解く。そのまま歩いて保健室を出て扉を閉める。そうして、トワは教室へと向かった。
後日起きたトワは、学園長含め、先生達からの説教を食らった。
これから、一度投稿したら一週間以内で次話が投稿できると思います。これまでもそうでしたけど。でも、夜の9時投稿は変わりません。




