第三十二話 愛した家族と
「第二陣、撤退だ!」
戦闘員の男は全員に聞こえる声でそう叫ぶ。
その声が聞こえたと同時に、ほとんどの人は前線から下がる。しかし、それでも前線に立つ人がちらほらいる。
「トワ。」
傘都はトワをちらっと見て合図を出す。
「任せろ。」
トワは左にいる敵を斬り伏せた。
「相変わらず連携が取れてますね………。」
サキはその光景に感嘆しながらも、雑魚を処理する手は止めない。
「なんなら動詞すら出てなかったぞ。」
ヒカルはサキの後ろにいる敵を突いた。そんな事を言いつつも、ヒカルもサキとの連携が取れていた。
「何で動かなかった?」
ヒカルはサキに訊く。
「必要がないでしょう?」
ヒカルと背中合わせになる。
「そりゃどうも………。」
嬉しい様な、面倒くさい様な顔をする。
「お前らも大概だろ。」
トワは二人の様子にツッコミを入れる。ふと、トワが周りを見ると、自分たち以外に10人程度しか残っていなかった。
―もうそろそろか。
ナイフを持つ手が少し緩まる。警戒も薄れてきた。
すると、その場に残っていた中年の筋肉のついている男性が、声を上げた。
「第三陣、撤退!!」
その声のあと、トワ達は少しずつ後ろに下がる。
敵の数が多いからか、倒しても倒してもキリがない。
「トワ、どうする!」
傘都は雑魚悪魔を斬る。
「無理矢理逃げる!」
そう言って雑魚悪魔から距離を取り、ナイフを下ろす。
「了解!」
傘都はトワに近づき、敵を一体斬ったあと、ナイフをを仕舞った。それに合わせ、サキとヒカルも武器を下ろす。トワは、他の戦闘員が周りにいないことを確認して、すぐさま足を準備した。
そして、走り出す。それも、傘都達を置いていかない程度で本気を出した。
「なんだ?手加減してくれてんのか?」
傘都はトワに訊いた。
「そりゃあな、流石に置いてく訳にはいかないだろ?」
傘都の方をちらっと見る。
「ありがてえ。」
笑みを浮かべる。
「流石にまだ、あの雑魚達もついてきてますね。」
サキは後ろを見る。すると、そこには大量の雑魚悪魔が追いかけてきていた。しかし、速度はそこまで速くない。
「あそこの角で巻けるんじゃないか?」
ヒカルはトワ達に提案する。
「「「賛成。」」」
全員の声が合う。その様子に三人も少し驚いていた。
そして、曲がり角に差し掛かる。全員は右に曲がり、二つ目の曲がり角を左に曲がった。その道をクネクネ走ったトワ達。暫くして、確認する為にサキは後ろを見た。
「どうやら、来てないようですね。」
安心した様子を見せる。
「そりゃ良かった。これで付いてこられたらさすがに困る。」
傘都は言う。
「お、学園が見えたぞ。あと少しだ。」
トワのその声に、トワを除く三人は目に希望を宿す。
「よっしゃ!早く飯食いてぇよ!」
傘都はお腹が空いているのか、唐揚げやハンバーグ等を想像する。
「分かる。」
ヒカルは真顔になる。
「分かります。」
サキは傘都とは裏腹に、野菜たっぷりのポトフなどを想像している。
「まだ気を抜くなよ。学園の外だ。」
トワもそんなふうに言ってはいるが、内心飯のことしか考えていない。
「分かってるって、トワ。少しぐらいはいいだろ?」
傘都は少し悪態をつくような言い草をした。
「駄目とは言ってない。現に俺だって腹が減ってる。」
トワの腹の音がなる。
「お前もじゃねぇか。」
呆れたような顔をした。
「人の事言えませんね……。」
サキはトワにジト目を向ける。
「棚に上げたな。」
ヒカルもトワを見た。
「悪かったな!棚に上げて!」
トワは、感情を投げつけるような声を出す。そうして、学園へと向かっていくのだった。
◆
校門のすぐ近くで、誰かを待っている人影が三人。
一人は女性で、二人は男性。いや、男性の一人は男の子と言うべきか。三人がしばらく待っていると、カツカツと何人かの人が走ってくる音がした。
「やっと着いたぞ!」
その声の主はトワだった。
「体育の1500よりキツかった……。」
そんなふうに傘都は言ってるが、はたから見ると余裕そうだ。
「き、キツイ……。」
手を太腿につけて肩で息をするヒカル。
「体力ないんですね。」
サキはその様子のヒカルに対して思ったたことを口にした。
「逆に、サキが、ありすぎる、だけ、だろ………。」
ヒカルがそう言うと、校門前に居た三人のうちの女性が声をかけた。
「と、トワ………?」
その声に聞き覚えがあるのか、トワは女性のいる方に振り向く。
「か、母さん………?」
まさかの状況に、トワは開いた口が塞がらない。
「それに、父さんに、兄ちゃん……。」
周りを少し見て、裕二や刹那が居る事を確認する。トワの顔は自然と緩んでいく。トワの母親である理沙は我慢できなくなったのか、トワに走って、抱きついた。
「良かった、良かった………!!」
理沙は堪えていた涙をめいいっぱい溢れさせ、強く抱きしめる。理沙の様子にトワは心を締め付けられる。
トワも優しく抱き返す。
「俺も、会えて嬉しいよ………!」
遂に、トワの涙腺は崩壊し、涙が流れてくる。これまで我慢してたものが一気に溢れ出した。暫く理沙は泣いていたが、どれくらい経ったか分からないが、収まった。
その時ふと、理沙はトワの顔を見た。すると、あることに気がついた。
「その絆創膏、どうしたの?」
「これは、避難所に行く前に発電所を助けたんだけど、その時にできたものなんだ。」
抱き返していた手を緩めて理沙から離れる。
「……………そう、避難所の時のものではないのね?」
不安そうな顔をしながらトワを見上げる。
「そうだけど……?」
トワは首をかしげる。
「………でも、できる限り怪我はしないでね?」
理沙は顔を俯かせて言う。
「分かった。」
トワがそう言うと、理沙は俯かせていた顔を上げて、無理矢理笑みを作る。
「すまないトワ、俺も戦いにいけば良かった……。」
裕二がその場に乱入してきた。
「……………き、気にしなくて大丈夫だよ。」
トワは一瞬とある事を思ったが、すぐに優しい嘘をついた。因みに、裕二は赤髪のことを知らない。
「そういえば、兄ちゃんは大丈夫なの?」
話題をそらすように訊く。
「あぁ、大丈夫だ。特には。」
刹那は普通な様子で答える。
「そう、良かった。」
トワは安堵したのか、表情が和らいだ。
「あと、そこで黙ってるお前らも、もう会話に入って大丈夫だ。」
後ろを振り向き、傘都達に向かって言う。
「お、感動の再会はもう平気なのか?」
傘都はいたずらのような表情をする。
「……もーまんたい。」
トワはニヤリと笑みを浮かべる。
「元気そうで何よりです。」
サキは発電所の時のトワを思い出し、口元が緩んだ。
「本当にな……。」
ヒカルも発電所でのトワと今のトワを比べた。
「…………トワ、いい友達を持ったね。」
理沙はトワに慈しむような目を向ける。
「でしょ?」
トワは理沙に振り向き、精一杯の笑顔を向けた。そうして、トワ達は学園の校舎へと、向かっていった。
「そういえば、母さん達は何処に行くの?もう第一体育館は使えないよ?」
「大丈夫よ、トワ。私達は第二体育館に行くことになったから。」
「それって、人数大丈夫なの?避難所に意外と居たと思うけど。」
「ギリギリらしいわ。でも、入れることには変わりないから。」
「なら、良かった。」
「なぁ、サキ。今日の昼メシは何かな?」
「知りませんよ、そんな事。………でも、確か、肉だったような?」
「お、マジ?俺、魚あまり好きじゃないからありがてぇ。」
「魚だっておいしいでしょうに。」
「馬鹿言え、あれは健康食品みたいなもんだ。」
「好き嫌い激しいのですね、傘都。」
「…ち、ちげぇし。」
「………そんな顔で言われても説得力ないですよ。」
「まぁ、傘都はガキ舌だからな。魚の旨さは分からねぇよ。」
「………ヒカルはカッコつけてるだけだろ。」
「捻り潰すぞ。」
「さーせん。」
「何で喧嘩売ったんですか?」
―漫才かよ。
トワは心でツッコんだ。
◆
トコ、トコ、トコ。十代前半にも見える少女が、警察署の中を歩いている。それも、若干スキップするように。少女が歩いていると、前から、銃を構えた五十代くらいの男性が現れる。その男性は額に汗を流していたが、少女をみるやいなや、銃を降ろした。
「君、どうしたんだい?外から来たのかい?」
優しく男性は声をかける。
「うん、そうなんだ。私、外から来たんだよ。」
少女はあどけない声を出しながらも、男性に顔は見せない。
「そうなのか、さぞ怖かっただろう?おじちゃんがいるから、もう大丈夫だ。」
安心させるように顔には笑みを浮かべた。
「…………。」
少女は黙っている。
「ねぇ、おじさん。ここには、おじさんしかいないの?」
顔を伏せたまま男性に訊く。
「いや、ここにはおじさん含めて四人いるから大丈夫だよ。安心しな。」
男性は少女の頭を軽く撫でる。
「それより、よくここまで来れたね。外は危険なはずなのに。」
男性は、不思議そうな素振りを見せた。
「だから、隠れたりしながら来たんだ。」
少女は声を震わせる。
「そうか、よく頑張ったね。」
「それよりも、何で顔を上げないのかい?」
男性は疑問に思ったことを口にする。
「なんでだと思う?」
少女はさらに声を震わせる。
「さぁ?分からないけど。教えてくれないかい?」
一瞬、少し面倒くさそうな顔をしたが、すぐに切り替えた。
「う〜ん、それはね〜〜、魔神様から言われた事を実行できそうで、嬉しいから!」
少女は遂に顔を上げる。
「え?」
男性は素っ頓狂な声を出した、その瞬間、辺りに血が飛び散る。
「あ〜あ、本当に馬鹿。こんなふうにすれば、すぐに油断する。」
呆れるような声でそう言う少女。
「さ〜てと、残りの三人も、始末しなきゃ。魔神様に褒められるかな!」
歩く度にスキップしながら警察署の奥へとさらに向かう。警察署の中から叫び声はしなかったが、部屋の窓の一つが、赤に染まったのが見えた。
これにて、ヤクザ編が終わりになります。大丈夫ですよ、ちゃんと物語は続くんで!次を楽しみに待っててください!あと、ジャンルを変えました。




