第三十一話 誘導
「相っ変わらず、数が多い!」
非常用出口付近にいた悪魔を狩りながら、そう愚痴をこぼすトワ。
「あ、ありがとう、君!」
雑魚によって転んだのか、尻もちをついて言っている男性。
「大丈夫、です!それより、お怪我はありませんか!」
トワは周りのそれを斬る。
「だ、大丈夫だ。」
男性はそう言うと、立ち上がって鉄パイプを雑に構えた。
「……なら良かったです。」
雑魚悪魔はトワに心臓を一突きされて、塵となって消えていく。
―増援はまだか……?
トワは発電所の方を見ながら思考する。迫る影が近くに寄ってきてるが、それをいとも容易く倒した。
―だが、それを今考えていても仕方がない。ひとまずは、こいつらをどうにかすることが最優先だ。
大量の雑魚悪魔を尻目に、トワはナイフを構える。
そして、次から次に来る雑魚を相手に段々とと疲弊してくトワ。
―なんで疲れるのが早い……?そうか、赤髪相手に相当体力をもってかれたのか……!
トワは少し呼吸の回数が多くなる。それでも、まだ動けるためか、動きに支障はきたしていない。
―だが、このままだとジリ貧だ……。
内心焦りながらも手は止めない。それから十分して、トワの体力もなくなりつつあり、肩で息をし始めている。
―あれからどれだけ雑魚を殺した……?二十から数えてないぞ……!
体力だけでなく、判断力も鈍くなってくる。
五人の男性達は、トワよりも動きが遅くなっている。
そんなふうにトワが考えていると、気づかぬうちにそれが一体近づく。トワはそれに気づいていない。
「…………!君、後ろ!」
男性の一人はトワの後ろにいる雑魚悪魔を見てかなり焦った顔をした。
―しまった!!
迫りくるそれの手は、目と鼻の距離だった。それが、段々と縮んでくる。手と顔まであと三センチ、ニセンチと短くなる。そして、一センチをきる。そして眼前まで迫った時、一筋の閃光がトワの目を横切った。
「ぶねぇ!間に合った!」
その声の主は傘都だった。トワは眼前に迫った閃光を遅れて追う。すると、地面にはナイフが転がっていた。
「た、助かった………。」
肩で息をしながら、トワは傘都に向けて言う。
―目の前横切ったのナイフだったのかよ……!死んだかと思ったわ!でもありがとう!
内心そう驚きながら同時に感謝もする。
トワが動かないからか、傘都は頭にハテナを浮かべた。
すると、再びトワの後ろに忍び寄る影。
しかしトワはそれを軽くいなし、ナイフを逆手持ちにして思いっきり刺す。雑魚悪魔は倒れた。
「加勢いけるか!」
息切れをしながら傘都に訊く。
「あたぼうよ!」
傘都はすぐにナイフを拾い、トワの背に立つ。
「……頼りにしてるぞ、相棒?」
洋画の如き様で、傘都に言う。
「ふっ、お前こそ。」
傘都も負けじと演技する。周りでは他の戦闘員が雑魚と戦っていた。
「何してるんですか?」
そこに割り込んできたのはサキだった。
「おいおい、良いところだったのによ。」
傘都は文句を垂れる。サキはそれに呆れたのか、ため息をついた。
「そんな事をしてるなら、さっさと片付けてくださいよ。」
サキは言う。
「それに、トワもですよ。」
ちらっとトワを見る。
「「……………。」」
二人は黙った。ヒカルはそれを横目に雑魚の処理をしている。だが、援軍が来たおかげか、対処は先程よりも楽になっていた。
「他の場所にいた避難者達をここに連れてくる!この場を死守しろ!」
戦闘員の一人の青年が、大声でその場にいる人達に聞こえる声で言う。その場にいた戦闘員の人達も黙ってはいるが、無言でそれを全うする。
「傘都、右。」
トワは先程とは打って変わって、動きながら敵の場所を伝える。それでも、満足には動けていない。
「了、解!」
右に注意を向け、ナイフで水平に斬りつけた。それからというもの、トワと傘都は阿吽の呼吸で敵を薙ぎ倒す。トワの死角を傘都が、傘都の死角をトワが、互いに補い合う。すると、別の所から、青年が再び大声を上げる。
「連れてくる!道をつくってくれ!」
その声に無意識にトワは振り向く。そこには、多くの避難者達がいた。トワはそれを特に気にも止めなかった。
「思ったより数いるな………?」
反対に傘都はと言うと、その光景を見て、少し不安に感じていた。
「まぁ、俺達なら問題ないだろ。」
あまり感情乗せず、悪魔狩りを淡々と行うトワ。
「それもそうだ、な!」
トワの死角にいた敵を斬る傘都。斬られるまでトワは焦りすらしなかった。そして、二人の後ろを避難者達は急ぎ早に通る。トワはふと気になり、後ろを振り返る。
―…………!
すると、一瞬ではあるが、トワの母親、笠上理沙と目があう。あまりの出来事に、目を見開き、固まる。
―母さん………?
理沙の周りには、父親の笠上裕二、兄の笠上刹那が見えた。二人は気がついてないようだ。
―父さんと兄ちゃんも………。
驚きの連続で、トワの身体は微動だにしない。
「おい、馬鹿!死にたいのか!!」
傘都の声で現実に戻る。傘都はトワの胸ぐらを掴む。
「わ、悪い……。」
声に覇気をなくし、傘都から目を背ける。すると、傘都は胸ぐらから手を離した。
「分かったらさっさと手伝え。お前が動かなくて俺がすべて倒したんだからな。」
少し恨みを込めて雑魚悪魔に対し、雑にナイフを振るう。
「まぁ、気持ちは分からんでもないがな。」
傘都は小さくそう付け加えた。
「………知ってたのか?」
気持ちが沈み、自然と声が小さくなる。
「当たり前だ、お前があんなになるんだ。そりゃあ、分かるに決まってる。」
その声は、先程の恨みとは裏腹に、気にかけるような声色だった。
「………早く終わらせる。」
トワは敵に対して、右手でナイフを向ける。それには、明確な覚悟があった。
「あいよ、相棒。」
傘都はトワの右隣で、左手に持ったナイフを向けた。
次の瞬間、トワはそこにはいなかった。地を蹴り、人とは思えない速度で次々に敵を薙ぎ倒す。トワの目は真剣な眼差しをしていた。
「ちょいとは俺のことを考えろ!」
傘都は叫ぶ。しかし、傘都も倒した数では負けてるが、それでも十五は超えていた。トワは構わず戦場を駆ける。
そして、次の避難者達も、先程の避難者達と同じ道を通って学園へ避難する。そして、太陽が少し沈んだ頃、悪魔の数は変わらない。だが、難所には人の気配がしなくなった。
「潮時だ!離れるぞ!」
そう言ったのは仁だった。仁は車の窓から戦闘員に向けて言い放つ。その言葉を皮切りに、戦闘員の人達は段々と後退していく。
「お前はどうする?先に行くか?」
傘都はトワに訊いた。
「いや?最後まで残る。」
迷いなく言う。
「そうか、なら、俺もそうするとしよう。」
軽く体をほぐして、何度目か分からないが、ナイフを構えた。
「私も残ります。」
サキは二人の間に割り込んできた。
「いいのかよ?」
傘都はサキをちらっと見る。
「構いません。」
サキは言う。
「俺を忘れんな。」
誰かが再び声を挟む。
「ヒカル、お前もか。」
トワは少し驚いたような顔をした。傘都もトワと同様だった。
「心強い。頼むぞ。」
トワは三人に向けて微笑を浮かべる。
「トワ、本当に行かなくていいのか?」
傘都はトワに近づき、トワにしか聞こえない声量で訊く。
「………行かなくていいなんて言えば嘘になるが、今は、戦闘員を少しでも残しておくのが賢明だ。」
トワは寂しさを声に乗せる。
「………分かった。だが、無理するなよ。」
そう言って、離れていく。
「するつもりもない………。」
トワはそう小さく吐き捨てた。




