第二十九話 異常事態
「助けていただき、本当にありがとう御座います!」
発電所の所長である曽良宗祇は頭を下げる。
「いえ、当たり前のことをしたまでです。それに、助けたのは私ではなく、彼らですから。」
学園長はトワや菅野、その他の学園の生徒達のことを頭に浮かべる。
「それでもです、お礼をさせてください。それに、追加の燃料まで持ってきてくれて………。もう何と申し上げたらいいか………。」
曽良はそれでも感謝を止めない。
「………愛さんからも何かお願いします。」
学園長は近くにいた愛に頼む。
「そうですよ曽良さん。そこまでしていただかなくても………。」
愛も困惑している。
「しかし!」
それでも曽良は引き下がらない。学園長と愛は互いに困り果てている。そんな光景がこの後、何十分も繰り広げられた。
◆
「おい、トワ………!!」
発電所に作った簡易避難所に傘都が焦った様子で現れる。
「大丈夫だ。傷ならすぐに焼かれたし。」
トワはナオに傷口を手当てされる。
「そういう問題じゃあ………。」
傘都は納得のできない様子。
「あまり自分を軽視しないほうがいいよ。」
これまでナオは黙っていたがトワの発言が見逃せなかったのか横やりを入れる。
「……………。」
トワは黙る。
「それは君を信頼してる人達を最も傷つける言葉だ。」
ナオは怪我の手当てをしながら淡々と語る。その言葉にハッとなってトワは傘都の顔を見る。そこには悲痛な顔が浮かんでいた。
「………悪い。」
トワは少し暗い表情で謝る。
「分かればいい………。」
傘都はトワの顔から目をそらす。そんな空気の中、ナオは気まずさを感じる。
「………そういえば、何でナオ先生はここに?」
トワはその空気を意図的に壊すようにナオに訊く。
「あ、あぁ、簡単だよ。私は保健室の先生だからね。呼ばれただけだけさ。」
ナオはトワの手当てを終える。
「それに、負傷者が多いからね。重傷には至らないけど、軽傷者がね。」
ナオは周りを軽く見て言う。そこには、引っかき傷などを負った人達が手当てを受けていた。
「それにしても君は凄いね。確か、赤髪のヤバいやつが居たんでしょ?」
何かを思い出したかのように、今度、ナオはトワを見る。
「まぁ、はい………。」
トワは傷口を覆う絆創膏をゆっくり触る。
「それを軽傷だけで済ましたらしいじゃないか。」
ナオはいつもの無表情顔ではなく、顔には少しの笑みが灯っていた。
「ありがとう御座います………。」
だが、トワは赤髪の事を思い出す。何処か納得できない何かを抱きながら、瞬時に顔に笑みを貼り付ける。
「では、ここいらで。お邪魔しました。」
トワは逃げるようにして言い残す。
「次からはお邪魔しないでくれると助かる。」
ナオはできる限りのお別れをした。トワが出口に向かうと、傘都もそれに同行する。
そして、簡易避難所を出た。すると、外にはヒカルとサキが待っていた。
「大丈夫なのか?トワ。」
ヒカルが声をかける。
「……大丈夫そうですね。」
サキがトワの容体を見る。
「いや少しは心配しろよ………。」
トワはサキの様子に少し悲しむ。
「…だってピンピンしてるじゃないですか?」
サキは当然のように言う。
「確かにそうだがな……。」
トワは更に悲しむ。
「そこまでにしとけ。」
サキの隣にいたヒカルが声をかける。
「ヒカル……!!」
トワは希望を抱く。
「んなこたいいから学園に戻ろうぜ。」
ヒカルはそう言ってくるりと身を翻す。
「ヒカル……??」
トワは頭がハテナで埋まる。
「私よりも扱いが酷いですね………。」
イジったサキですから少し引いている。
「何でイジったサキがまともになってんだよ。」
トワはツッコむ。
「味方に回ったぞ。」
それを見ていた傘都も驚いた。
「オメェら何してんだ?」
そんなふうに話してたトワ達に、1台の一度見たことのある車がやって来る。
「仁さん………?」
それに素早く反応したのはトワだった。
「おうよ、仁だ。」
仁はニヤリと笑って言う。
「久しぶりですね。仁さん。」
今度は傘都が反応する。
「てめぇもか、ガキ。」
言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をする。
「こんにちは。仁さん。」
ヒカルは丁寧に挨拶をする。トワ達三人は既に会ったことがあるが、サキには一度もないので何が何やら分からない様子だ。
「こ、こんにちは?」
しかし、サキは当然の礼儀は弁えており、挨拶をしっかりする。
「オメェは、誰だ?」
サキの顔を睨むように定めながら訊く。
「わ、私は茨サキと言います。よろしくお願いします。」
仁の貫禄にビビるサキ。だが、表立って顔には出さない。
「そんな畏まらなくていい。彼奴等みたいに気楽にいけ。それと、俺は祖月輪仁だ。よろしく頼む。」
仁はちらっとトワたちを見る。
「で、だ。お前ら何してたんだ?」
仁は訊く。
「学園に帰ろうとしてたんですよ。」
そう言ったのはヒカルだった。
「学園か?ここからだと三キロはあるぞ?」
仁は心配そうな顔をトワ達に見せた。
「だから、歩いて帰ろうかと。」
ヒカルは仕方がないといった顔をする。それはトワ達も同じだった。
「本気でか?まだ悪魔がいるかもしれないのにか?」
仁は念のためもう一度訊いた。
「まぁ、しょうがないですよね。」
ヒカルは諦めた顔で言う。
「………なら、俺の車に乗れ。」
仁がそう言うと、トワ達は驚いた。
「え?本当ですか?」
トワは目を少し見開く。他の人もトワと同様の顔をしている。
「じゃなきゃ言わねぇだろ。」
仁は少し面倒くさそうにする。
「「「「あ、ありがとう御座います!」」」」
トワ、傘都、ヒカル、サキの全員がお礼を言う。
「分かったらさっさと乗れ。」
仁がそういった瞬間、とてつもない地鳴れが起こった。
「な、なんだこれは!」
仁が焦りながらもすぐに震源地を特定して、その近くにいる組員に通話をかける。
「おい!何がどうなってる!」
仁は珍しく声を荒げる。
「わ、分かりません!………な!何故!?」
組員は何かを見たのか、驚きが隠せなかった。
「だからどうした!何があった!」
先程よりも大きな声を出して確認する仁。それで地鳴りは鳴りやまない。
「あ、悪魔です!雑魚悪魔が現れて!待て"植物"がいきなり地面から!クソッ!うわぁぁぁぁ!!!」
そこで、ぷつりと電話は切れた。
「クソッ!何が起こっていやがる!」
ツーツーとなるスマホを座席に置いて、仁は車から降りて震源地の方向を見る。
「いっ、いったい何が!」
地鳴りが鳴り止み、トワは立ち上がって仁に訊く。
「分からん………!だが、避難所の方向からしたのは確かだ!」
仁がそう言うと、すぐ近くの発電所では、パニックに陥った人が発電所から出てきて、簡易避難所の中からも人が出てきた。
発電所から出てきた人混みのなかに、学園長が紛れていた。学園長は仁をみた瞬間、こちらに近づく。
「仁さん!状況は!」
学園長はトワと同じ事を訊く。
「俺も知らん!このガキには言ったが、避難所の方から地鳴りがした!」
仁は余裕なく、そう言うと、少しの間考えて一つの行動を決めた。
「剛!ここから避難所まですぐに行けるやつはいるか!?」
仁がそう言うと学園長は一瞬悩み、トワの方を悔しげに見る。その視線にトワは頷く。
「トワくんがいけます!」
学園長はその行動に悔いを残す。
「………おいガキ、行けるか?」
冷静に仁は言うが、それでも言葉に焦りが残っていた。
「………はい。」
覚悟を決めたようにしっかりと力強く頷く。
「頼んだぞ………。」
仁がそう言うと、トワはすぐに避難所へ走り出す。
それを見た仁は学園長に戦力を避難所に向かわせるように指示をする。傘都やヒカル、サキも仁の言うことに従った。
◆
「何で雑魚達を召喚しろって"魔神様は言ったのかな〜?」
雑魚悪魔達を召喚している少女はそう疑問を抱く。その近くには、組員らしき服装をした男が、地面に大きい血溜まりを作って倒れていた。
「この人も災難だよね〜。ここに居なければ死ななかったかもしれないのに。」
そうは言っているが、その声には感情は乗ってない。
「後は確か………、扉を壊せばいいんだっけ?」
そう言うと、少女は避難所の重々しい扉に視線を向ける。すると、地面から"植物"が這い出て、ある程度地面から出る。そして、扉へと一直線に向かった。
すると、バコン!という甲高い音を立てて扉には植物が貫通した。
「硬いけど、いけるね。」
少女は呑気そうな声を出す。しかし、次の瞬間、少女は何かを指示した。指示されて扉に穴を空けた植物は、内部で分裂し、扉をさらに壊す。ギギギギ、と金属が歪む音を出しながら拉げていく。そして、植物は扉を完全に破壊する。
「おお〜!中が丸見えだー!」
少女はあどけなさを全面に出す。
「でも、ここの人達殺せないんだよね〜。"魔神様"は何を考えてるんだろう?ここで撤退させるなんて………。」
少女はまるで、やりたいことができないことにやるせなさを感じる子供の様な表情をする。
「まぁ、仕方ないか〜………。お預けってことで………!」
少女はそう言って、再び地面から植物を生やし、何処かへ運んだ。
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