第二十八話 炎
バガン!と金属が勢いよくぶつかり、火花が散る。
赤髪とトワは一度下がり、もう一度ナイフと太刀をぶつける。
―隙がねえ!
トワは鍔迫り合いをしながら考える。鍔迫り合いしてから少し経ち、決着がつかないと思ったのか左足で地面を蹴り、離れる。すると、それを見越した赤髪が地を蹴って瞬時に近づく。赤髪は太刀をトワの首に振るった。
―!!!
しかし、首は斬れなかった。トワが瞬時に頭を後ろにして、髪をかすりながらも間一髪で避けれたのだ。
―……………。
トワは首にそっと左手を添えて、首があることを確認する。その行為には、とてつもない焦りが含まれていた。
「先程までの威勢はどうした?」
赤髪はニヤリに笑みを浮かべて煽るように言う。
「これからだ………!」
その問いに強がりながらも、トワはニヤリと笑みを浮かべる。トワはそう言って今度はトワから攻撃を仕掛けた。しかし、当然それは防がれる。
「もうちょい手加減しても、いいんじゃないか!」
今度は下がるのではなく、ナイフで何本もの閃光を走らせる。
「殺し合いだと言うのに、手加減する馬鹿が何処にいる?」
赤髪もそれに対応する。
「御尤も!」
そう言って体重を乗せた重い突きを赤髪にお見舞いする。何度も何度も互いに攻撃しては防いで、避けてを繰り返す。
―このままでは埒が明かん。
赤髪は冷静にそう分析し、トワから距離をとる。
そして刀身に左手を添える。
―何をするんだ?
トワは疑問に思った。赤髪はその左手を刀身に触れない程度で滑らせる。すると、滑らせた所から赤い炎が刀身を包んだ。
「は?」
そのありえない光景にトワは目を見開いて驚く。
「どうした?腰が抜けたか?」
赤髪はそんな様子のトワを見て煽る。
「馬鹿言え、なわけ。」
しかし、内心焦っていた。見たこともない、ましてやよく分からないものを見たのだ。そう思うのは当然だろう。色々考えてるトワだが、当然敵は待ってくれない。
赤髪は炎を纏った太刀で攻撃を仕掛ける。
トワもそれを防ぐが、太刀に近いせいで顔中が熱くなる。
「チィ!」
トワは熱さを無視して何度もナイフを振るう。
赤髪はそれを受けるのではなく、避けた。赤髪はトワの攻撃後のスキを見て連撃を叩き込む。
受けきれると思っていたトワだが、何発か攻撃を食らった。危険と判断したのかトワは後ろに下がる。
―な、何で?
トワは考える。そこで、一つの答えが頭に浮かんだ。
―攻撃が、速くなってる?
斬られた痛みと熱伝導による焼かれる痛みを頬に走らせる。
―いける。
赤髪はトワの表情から読み取り、攻めの体勢を崩さない。またしても、赤髪による連撃がトワにダメージを与える。そして最後の一撃、再びトワの首に太刀が一直線に閃光となって襲った。
―斬ったか?いや、ない。
赤髪は斬った感触が無いことに気がついて瞬時に周りを見る。すると、赤髪から見て右手辺りに、四十代の男がトワを持っていた。
「おい、だから無茶すんなっつたんだ。」
その男、菅野はトワを地面に下ろして少しうざったく言う。
「すいません。菅野さん………。」
トワはゆっくり立ち上がる。
「いや、随分と足止めしてくれて助かった。後は、俺がやる。」
菅野はそう言ってトワの前に出た。
「………ここは俺にやらせてくれませんか?」
トワは菅野に恐る恐る訊く。
「………………。」
菅野はトワを見る。
「次、無茶したら強制的に変わるからな。」
菅野はトワのすぐ横を通り、止まった。
「本当にすいません。」
トワは謝る。
「俺じゃ、勝てねぇんだろ?」
菅野はトワを横目で見ながら訊く。
「………はい。」
トワは申し訳なさそうにした。それを聞いて菅野は周りの雑魚悪魔を殺しに向かう。
「なんだ?話し合いはそれでいいのか?」
赤髪は太刀に"不思議な力"を込める。
「律儀に待ってくれるんだな。」
トワは赤髪の目を見る。
「俺は、"武士"だからな。」
赤髪はニヤリと笑う。
「そりゃあ、崇高なものを………。」
トワも再びナイフを構える。そして再び地を蹴る。
これまでとは違い、トワも身体能力のすべてを使って赤髪の攻撃を相殺する。そして一度距離を取り、赤髪の周りを走る。
―有効打がない、か。
赤髪はこちらを見るばかりで、攻撃しようとしない。
しかし、確実に攻撃の機会を伺っている。そこでトワは赤髪の燃えている太刀が視界にはいる。
―いや、あれは………。今は証拠が少ない、集めるのが賢明か。
トワは走る足を止めて、右足で地を蹴り、鋭い一撃を赤髪にお見舞いする。しかし、それはいとも容易く受け止められる。逆にトワが切り傷をつけられた。
そしてもう一度距離を取る。トワは切られた瞬間すぐに距離を取ったせいか、傷口が焼かれずに済み、地面の石に、血が滴る。
一瞬の思いつきに見せかけて、トワは血の付いた石を投げた。当然その石は片手で止められ、その石を燃やし、投げ返される。
「ぶなっ!」
またしても間一髪で避けるトワ。トワは投げ返された石を見る。
―やっぱりだ!
そう考えるとトワは何の迷いもなくナイフ構えて地を蹴り、直線に移動した。
「お前には、学習の"が"の字も無いのか?」
赤髪は当然燃えている太刀を構える。トワはそれに何も言わない。トワと赤髪が目と鼻の距離になり、赤髪が太刀を振り下ろす。
トワはそれを受け止めるのではなく、"炎の薄い層がある刀身の面"をナイフで弾いた。すると、太刀の纏っていた炎が消え失せた。
「なっ!?」
赤髪の顔が疑問と驚きで埋まる。その隙を見逃さず、ナイフを振り下ろし、赤髪の身体からは血が出る。
「がはっ!」
トワは間髪入れず赤髪の身体を思いっきり蹴る。
赤髪は何度も地面にバウンドし、途中で受け身を取って膝をつく。
「お前、俺のこと燃やせねぇだろ。」
トワは赤髪に近づきながら言う。
「ずっと不思議に思ってたんだ、燃えた太刀で攻撃されてんのに、何故か太刀の持っている熱で焼かれてた。」
だんだん近づく。
「な、何故消せた!俺の炎が!」
吐血しながら叫ぶ赤髪。その顔には、これまでの余裕の表情はなくなっていた。
「簡単だ、俺にもお前と似た力がある。それを応用しただけだ。」
トワはこれまでの異常な身体能力を思い浮かべながら不敵に笑う。
「まぁ、一か八かの賭けだがな。」
トワは言う。
「そしてだ、極めつけはあの石だ。お前、無機物しか燃やせないだろ。」
トワは赤髪の目を見る。
「あの石には、俺の血が付着してた。そしてお前が燃やしたあとに見てみたんだよ。」
トワの様子に赤髪は少し恐怖を覚えた。
「したらだ、案の定俺の血は燃えていなかった。
ヒント提供ご苦労さん。」
トワがそう言い終わると、赤髪はゆっくりと立ち上がり、太刀を構える。
「………そうだな。認めよう。俺にお前は燃やせん。」
赤髪は血に濡れた口で言う。
「………………。」
トワは黙ってナイフを準備する。
「だがな、ここで死ぬわけにはいかないのでな………!」
赤髪の目には死に対する絶望などはなく、あるのは確かな意思だけだった。
「それは、俺だって同じだ。」
トワがそう言い終わると、ナイフと太刀が勢いよくぶつかった。しかし、満身創痍の赤髪と余裕のあるトワでは、既に勝敗は決まっていた。トワは赤髪の太刀を弾く。
「これで、終いだ。」
トワは弾いたナイフでそのまま赤髪の心臓を穿った。
◆
「これで、終わりか。」
赤髪はパラパラと自身の身体が崩れるのを理解しながら愚痴を零し、寝そべる。
「意外と、呆気ないものだな。」
赤髪はトワを見ながら言う。
「そんなもんだろ。」
トワはナイフをしまう。
「そういえば、貴様の力は結局なんなんだ?」
もう既に身体の半分が崩れている。
「………分からん。」
トワは悩む素振りを見せる。
「分からん?なんだそれは。」
赤髪はツッコむ。
「分からんもんは分からんしな。」
トワは立ったまま上を向く。周りの雑魚悪魔も次第に力をなくし、動きが鈍る。
「………これで最後になる。お前とやりあえて、案外楽しかったぞ。」
そう言い残して、赤髪は消えた。それと同時に雑魚悪魔達も消えていった。
「………………。」
周りは勝利の喜びに浸っている。しかし、トワの胸には、虚しさだけが残っていた。
これからは9時投稿にしたいと思います。




