第二十七話 赤髪
「………………。」
カタカタカタと金属が鳴る音が校庭を木霊する。
百三十名程の人の中で、トワは台へと視線を向ける。
学園長はマイクを持った。
「え〜、ごほん。皆さん、ここに足を運びいただきありがとう御座います。それに合わせ、避難所の方々も今回ご協力いただき、ありがとう御座います。」
学園長がその台の上で、挨拶をする。その声には若干の緊張もあった。
「さて、前置きはさておき、本題へ入りましょう。
皆さん、絶対に生きて帰って来てください!!!」
絶対をかなり強調する学園長。すると、学園長は後ろから台へと上がってきた愛にマイクを渡す。
「始めまして、学園の皆さん。とはいえ、学園長さんに全て言われてしまったのでもう既に言うことはありませんが、皆さん、絶対に死なないでください!」
いつもの優しい、母性を感じる声で学園長と同じ事を言う愛。
―今回は、今回は役に立てる………。
それを見ていたトワはそう思った。時は少しさかのぼる。
「…………。」
学園長と菅野がいなくなった学園長室で、一人佇んでいたトワ。そしてその部屋から無言で出る。特にすることもないので、校庭に出てただ一人夕日が沈むまで近くの石段に座っていた。
すると、校庭の門が開く音がした。それが気になり、ふとそちらを見ると、学園長と菅野がいた。
「学園長、菅野さん………。」
トワのその声には、これまでの覇気がなかった。
「………トワ、何をそんなに落ち込んでいる。外に出なければ傷つくこともないんだぞ?」
菅野はトワの前に立ち、しゃがむ。
「違うんです。役に、立ちたいんですよ。」
トワは菅野の顔を見ずに下を向く。
「………そうだ、なぁ、トワ。明日、発電所に行くんだが、お前も来るか?」
ふと思い出した菅野はトワに語りかける。
「しかも、お前がかなり必要になるやつだ。」
菅野のその言葉でトワは反応する。
「本当ですか………?」
その目には少しの輝きが灯っていた。それを悔しそうな顔をする学園長。
「しかし、それでは戦場に連れて行くことに………。」
学園長は菅野に耳打ちをする。
「だが、こいつを慰めるのはこれぐらいしかないだろ。」
菅野も学園長にしか聞こえない声量で言う。
「それにだ、こいつの強さは必ず必要になってくる。」
いつしか学園長から聞いたデカブツの話を思い出す菅野。
「……………。」
学園長は何も言えなくなる。
「だが、俺とて心配してねぇ訳でもねぇ。戦闘になったら俺が近くについておく。安心しろ。」
菅野はそう言って学園長の肩に手を乗せて下駄箱へと続く石段を登る。すると、トワが菅野の方を見て言う。
「俺、頑張ります!」
「………頑張れよ。」
菅野は少し驚いた様子を見せたあと、トワに振り返り微笑を浮かべた。学園長は安心はしたものの、不安は残っていた。
そして、別の場所では………。
「やっとだ。やっと、所長達を………。」
圭司はそれを遠くから眺めている。
「そんなに不安かい?」
保健室でパソコンをイジっているナオ。あいも変わらず目元にはクマがある。
「当たり前ですよ。あれから数日も経ってるんですから。」
悔しそうに手を強く握りながら己の無力を嘆く圭司。
「ていうか、ナオさんは何をしてるんですか?」
保健室の窓から学園長達を見ていて圭司はちらっと横目でナオを見る。
「何って、マイクラ。」
特に感情も乗せず淡々としているナオ。
「は?」
言っている意味が分からず情けない声を出しながら口を開ける。
「だから、マイクラ。」
ナオは少し鬱陶しそうにした。
「いやいやいやいや、それは分かってるんですよ。
だから、何故マイクラをしているのかって言ってるんですよ………。」
圭司は訳が分からない様子で言う。
「………いや、したかったから。」
すると、ポコンとブロックを置く音が聞こえてくる。
「おいアンタ何して………いや凄いな!」
圭司は我慢できず画面を覗き込むと、かなりハイレベルなお城の建築をしていた。
「へへ、だろ。」
ナオのその声にはまったく感情が乗っておらず顔だけ少し笑みを浮かべていた。
「クソっ、凄えから何も言えん………!」
圭司は悔しそうな顔をする。
「……どう?少しは元気出た?」
ナオはつい先程までのふざけた様子から一転、少し真剣な様子を見せた。
「…………!」
この時、圭司はナオがこれまでしてた事の意味を理解した。
「えぇ、すごく。」
圭司は悔しそうな顔を少しは緩めてナオに笑顔を向ける。
「君は、そっちのほうがいいよ。」
ナオは小声でそう言う。
「まぁ、私がマイクラしたかったのもあるけど。」
ナオはそう言いながら顔を画面へ戻す。
「おい!」
圭司はまたしてもツッコむ。そんな空気で話しているうちに、辛気臭さなどはなくなり、笑い声が保健室に響いていた。
◆
かた、かた、かた。大勢の人の足がアスファルトで舗装された道路を踏みつける。
「なぁ、トワ。どうしたんだ?お前。」
校庭にいた時から黙っていたトワに傘都が声をかける。
「………緊張してるだけだ。」
ひどく冷静に表情筋一つ動かさないトワ。
「………そうか、なら良かった。」
傘都もそれに踏み込まない。トワの隣にいるヒカルも何やら気まずそうな顔をしている。
「つうか、なんでお前が来てるんだ?サキ。」
傘都はその気まずさから逃げるように自分の隣にいるサキに訊いた。
「私が居たらまずいですか?」
サキはジト目で傘都を見る。
「いや、そういうわけじゃねぇけど………。お前はてっきり来ないかと思っててよ。」
傘都は歩きながら少し意外そうな顔をした。
「私だって戦える人間ですから、せめて戦力にならないといけないでしょう?」
サキは言う。
「真面目なんだな。」
頭の後ろに両手を回して横目でサキを見る傘都。
「そういや、傘都はナイフ使うんだっけ?」
ヒカルは思い出したのか傘都の方に振り向く。
「おうよ。」
傘都はそれに自信満々に答えた。
「じゃあ、この場には三人のナイフ使いがいるわけか。」
ヒカルは自分を除き、トワ、傘都の順に見る。
そこにトワが割り込んできた。
「お前にナイフ取られたの忘れてないからな。」
先程とは打って変わってヒカルを目を細めて見るトワ。
「………い、いや〜。」
ヒカルはトワから目を背けて冷や汗をかく。それでもトワは目を細めながらジーっと見る。すると、いきなり前にいる人たちが動きを留めた。
そこに菅野がトワに近づいて、耳打ちした。
「くれぐれも無茶はしてくれるなよ。」
「するつもりもありません。」
トワも菅野に聞こえる声量で返事をする。それだけ言うと菅野は元いた場所に戻った。
「ついさっきの人、祖月輪組に行ったときの………。」
傘都はトワの顔を見ながら訊く。
「あぁ、その人だ。」
トワは頷く。
「はぇ〜、関わりあったんだな。」
傘都は馬鹿っぽそうな様子を醸し出した。
「最近だ。」
トワはナイフ取り出しながら言う。それに続き、ヒカルと傘都もナイフを、サキは包丁を持った。
すると、前にいる人たちが一斉に走り出したので、戦いの火蓋が切られた事を確認したトワ達も走り出す。
―やっぱり、数が多い。
トワは左右を横目に戦場を駆ける。時々助太刀をして悪魔を殺している。そんな事をしていると、いつの間にか後前左右、雑魚悪魔しか視界に入らなくなった。
―囲まれた。
するとトワは、右から襲いかかってきた雑魚悪魔をナイフで心臓を斬り払う。雑魚悪魔達は近寄る。そこから脱出の糸口を掴むために一瞬で屈む。全方位の足払い。当然雑魚悪魔はよろける。
―いける。
よろけて倒れるのを確認したら左足を軸として右手にあるナイフで斬りつけながら回転する。ナイフで斬った場所が丁度心臓あたりだったようで、雑魚悪魔達は塵となって消えた。
―少し慣れてきたな。
トワは体を少し動かして思い通りに動く事を確認する。
―そんな事より、あの赤髪を。
トワはそう考えた瞬間、再び戦場を駆けた。
トワの周りでは二十代くらいの男性たちが雑魚悪魔の足止めをしている様子が見える。
「クソっ、トワの奴早すぎだろ……!」
トワの後ろでなんとか走って追いつこうとしている菅野。トワはそれに気づいていない。そんなに走っていれば当然トワを知る者も反応するわけで。
「トワ早すぎねぇか?!」
口をあんぐり開けて驚く傘都。それでもしっかり雑魚悪魔は殺している。驚きはあれど油断はしていない。
「あれって人なのか?」
ヒカルはトワがあまりにも人間離れしすぎて純粋に疑う。
「しっかり集中してください。」
そう言いながらヒカルの後ろでヒカルを襲おうとしていた雑魚悪魔を簡単に斬り伏せる。
「つうか包丁かよ。怖すぎだろ。」
傘都は顔を少し青ざめている。
「今そんな事言ってる場合です、か?」
サキは包丁を左手に持ち替えて、左から来た雑魚悪魔の心臓を一突きした。
「殺す事に躊躇を持てよ………。」
あまりにあっさり殺すサキに傘都は困惑する。
「まぁ、人ではないので。」
あっけらかんとそう言うサキ。
―((こいつやっぱりサイコだろ。))
珍しくヒカルと傘都の意見が合う。
「今失礼なこと考えなかった?」
サキは妙な感が発動し二人にジト目を向ける。
「「いえ、何も!」」
またしても息が合う。そんなふうにしている一方、
トワの方は―
ザッ、ザッ、ザッとアスファルトで靴が擦れる音がする。トワの目の前には赤髪の青年らしき者が二メートルはある太刀を持ち、立っていた。
「やっと見つけた。」
トワはナイフを握りながら言う。
「貴様は………、あの時の。」
赤髪の青年はオレンジ色の目をトワに向ける。
「随分と、目の良い………。」
トワはあの見られた時の恐怖が少し蘇る。それに続けて、強がるトワ。
「隠れてるもんかと思ってたぜ。」
ナイフを逆手持ちにして、左足を前に、右足を後ろにして少し身を屈み、構えを取るトワ。
「笑止………!」
赤髪は中段の構えをしながら右足を後ろにして刀身に自身を写す。
幾らかの静寂。木の葉が一枚、地に落ちた。それを合図に、トワは右足に力を込める。蹴り出した瞬間、アスファルトが砕け、鋭く小さいクレーターが出来る。同時に赤髪も踏み込み、アスファルトが砕け、広く深いクレーターを穿つ蹴りと共に太刀を振るう。
そうして、赤髪とトワの、戦いの火蓋が切られた。
これから少し投稿頻度上がるかもしれません。




