第二十六話 交渉
カツカツと靴が床を踏むたびに音が鳴る。
「なぁ、避難所ってなんだ?」
菅野は廊下を進みながら学園長に訊く。
「そう、ですね。一般的には学校の体育館などが避難所としてあるようですが。」
学園長は今の状況に違和感を感じながら進む。
「そうだよな。そう、なんだよな。」
何か言いたげな様子を見せる菅野。
「俺よ、ガワだけかと思ってたんだ。核シェルターみたいな見た目。」
菅野は言う。
「…………。」
学園長は黙って聞いている。
「だがよ、中まで核シェルターとはどういう事だよ?」
菅野は歩きながら辺りを見回す。
「本当は、避難所ではないのでは?」
学園長も周りにある、鉄、鉄、鉄の壁や天井を見ながら歩く。
「そうかもしれねぇ。」
菅野は冗談っぽく笑う。そうしているといつの間にか突き当たりまで二人は来ていた。
「確か、ここを右だっけか?」
そう言いながら右に曲がる菅野と学園長。すると、またもや右手側に手書きで書かれた"所長室"というのが見えた。
「多分、これですよね。」
学園長はその紙を見上げながら訊く。
「あぁ、間違いねぇ。」
菅野もその紙を見ながら言う。そう言い終わり、菅野は扉を三回ノックした。
「どうぞ。」
扉の奥から女性らしき声が聞こえてくる。それを聞いて菅野がドアノブに手をかけ、開けた。
「失礼する。」
菅野が、
「失礼します。」
学園長が部屋にはいる。
「始めまして、西港旋律学園の御二方。」
スピーカーからでしか聞こえなかった声が目の前からする。それは女性から発せられた声だった。女性は椅子に座っていた。
「こちらこそ、俺は菅野誠也という。」
「こちらこそ始めまして、私は血南雲剛と申します。」
「こちらこそ。私は、櫻愛といいます。以後、お見知りおきを。」
愛と名乗る女性は二人を見ながら言った。
「では、挨拶はここまでにして、本題に入りましょう。」
すると、愛は穏やかそうな声を引っ込めて厳格な雰囲気を醸し出す。
「確か、交渉をしにきたのでしたっけ?」
愛は学園長の目を見て訊いた。
「えぇ、そうです。」
学園長は立ちながら答える。
「………分かりました。ここでは何ですし、あちらの部屋に行きましょう。」
その女性は椅子から立ち上がって、学園長から見て右手側にあるドアノブに手をかけた。そして開ける。
「あなた方も、こちらに。」
愛は二人の方を向いて言う。菅野と学園長はそれに頷いて進む。菅野はその部屋に入りソファに座った。
「愛さん、扉は私が閉めますから、先にお座りください。」
学園長は、扉を開けたままにしていた愛にそう促す。
「いいのですか?」
愛は目を少しだけ見開く。
「えぇ。」
学園長は肯定する。
「……では、お言葉に甘えて。」
愛はドアノブを手放して、菅野と反対側のソファに座る。学園長は、愛が手放し、扉を閉めて菅野と同じ側に座った。
「それで、交渉とは?」
愛は世間話もせずに本題にはいる。
「何か、世間話なり、何なりないのかよ………。」
菅野はそれにツッコむ。
「別に、必要という訳ではないでしょう?」
愛はさも当然かのように話す。
「まぁ、確かにそうだけどよ………。」
そう言い淀む菅野。しかし、すぐに思考を切り替える。
「そんで、だ。俺達は助けを貰いに来たんだ。」
菅野は愛の目をまっすぐ見据えながら言う。
「助け、とは?」
疑うような声色と目をする愛。
「ここいらの近くに発電所がある。そこがピンチらしくてな、そこを一緒に助けてほしいんだ。」
菅野はできるだけ噛み砕いて説明した。
「………状況が分かりません。詳しく。」
少し考えるような素振りを見せて、菅野に問う。
「ついさっき言った発電所の周りに、有象無象共と、大将首がいるせいで発電所は燃料の補給ができなくなってる。」
そこまで話して、菅野は一息つく。しかし、すぐに続ける。
「だが、問題はその有象無象共の数だ。最低100はいく。だから、俺たちの戦力じゃ足りない訳だ。」
菅野がそう説明する傍ら、学園長は黙っている。
「そこで、ここの避難所にはそれなりに戦える奴がいるってことを知った。だから、その戦力を分けてほしいっつう訳だ。」
菅野は前のめりの姿勢のまま、腕を太腿に置き、両手を握る。
「それとだ、申し訳ないが、決めるなら速くしてくれ。…正直、時間がねぇ。」
菅野は焦りを顕にしながらも何とか落ち着こうと努力している。
「………成る程、状況は分かりました。」
愛がそう言う。
「しかし、私たちがそれに加勢する理由がない。」
愛は、至極冷静にそう見極める。
「確かに、電力がなくなれば当然困ります。ですが、それはそちらの事情であり、こちらには関係のないことです。」
愛は目を少し細めて冷たく言い放つ。
「………確かにそうだ、だが、主要のと違って予備はどうなる?」
菅野は苦し紛れに言いながらどうにかして活路を見いだそうとする。
「確かに、主要電力と違い、予備電力は外部からしか取り入れるほかありませんが、しかし、主要電力が足りなくなるなどまずあり得ません。」
愛はそんな僅かな希望に縋っている菅野と学園長を地に落とす。
「この避難所の主要電力は1時間で家十個分、しかも家一つにつき二十四時間使い続けても無くならないくらいには発電ができます。つまり、尚更アナタ方に協力する意味がないです。」
愛は、完膚なきまでに正論で菅野達を叩き潰す。
「………………。」
菅野は両手を、
「………………。」
学園長は右手を強く握った。
「このままでは、生徒達が…………。」
学園長は小さく、悔しがるように呟いた。すると、その言葉に愛がすぐさま学園長の方に目を向けた。
「今の言葉、どういう………?」
「え?」
学園長は困惑した。
「………すいません、つかぬことをお聞きしますが、そちらに生徒は何名程?」
愛は何かを確認するように少し焦りを出しながら学園長に訊く。
「だ、大体600名程………。」
学園長は質問の意図が分からず言葉がうまく出ない。
「………………。」
愛は何も言わずに下を向いて黙る。
「姉さんなら、そんな事………………。」
ひどく小さい声でつぶやきながら右手を強く握りしめる愛。学園長や菅野はそれを聞き取れなかった。
「?」
学園長は頭にハテナを浮かべている。
「すいません、先程の言葉を取り消ししてもよろしいでしょうか?」
愛は気が変わったのかどうか分からないが菅野に訊く。
「は?………い、良いのか?」
菅野も混乱している。
「えぇ、構いません。」
愛は堂々と言う。
「……助かった。ありがとう。」
菅野が
「ありがとう御座います。」
学園長が頭を下げる。
「それとだが、時間に関しては、明日の十一時でいいか?集合は学園で。」
ふと思い出したようで、菅野が愛に訊く。
「分かりました、それで。では、これで話は終わりです。あちらのお出口から。」
入ってきた方を指さして、少し急かすように言う愛。それに何も言わず、学園長と菅野の二人はその部屋を出た。そこには、一人愛だけが残った。
一人になれば気が抜けたのか、ソファの背もたれに寄りかかる。
「危なかった、あのままだと抑えきれなかった。」
愛は右手を目のうえに被せ、後悔するような声色をする。すると、愛のいる会議室の扉から、ギィと音がした。
「何の用、回?」
手の上からでも分かるほどの冷たい目をしながらその、回と呼ばれる人に意識を向ける。
「ごめんね、話し合いが終わったから、コーヒー持ってきたんだけど、いらなかった?」
優しい声と顔をした人の名は忠造回(ちゅうぞう
かい)。回は左手に二人分の珈琲の入っているコップがあるお盆を持ちながら入ってきた。
「………いる。」
少し考えた末に右手をどける愛。すると、愛の目の前にコップが二つ置かれた。
「どうしたんだい?そんなに疲れて。」
回は愛の横に座る。
「………少し、間違えちゃって。」
愛は珈琲に自分の顔を映しながら言う。
「………姉さんの事かい?」
回は愛を見ずに訊く。回は一口飲む。
「……そう。」
愛も一口飲み、苦みが味覚を刺激する。愛は一息ついて続けて言う。
「迂闊だった………。」
そう言う愛の顔には苦痛が浮かんでいた。
「………。」
回は何も言わなかった。
◆
「いやぁ、一時期はどうなることかと思ったが、上手くいって良かったな。」
避難所から出て、オレンジ色が二人を出迎える。
「本当にそうですね。」
学園長も安堵したのか、声からは緊張が抜けていた。
「しかし、何故許可してくれたのでしょうか?それまで否定的でしたのに………。」
学園長は愛の行動の不一致を疑問に思う。
「そりゃ、分からんな。まぁ、ひとまずは戦力が増えたことに喜ぼうぜ。」
菅野は両手を腕に回しながら歩く。
「………それも、そうですね。」
菅野の言葉に学園長の顔に笑みが戻る。そうして、二人は学園へと、戻るのだった。
あ、あけましておめでとうございます(震え)。いや、本当は元旦に出す予定だったんですけど、いかんせんマイクラが面白すぎて………。




