第二十五話 活路
バタンと勢いよく学園長室の扉が開く。
「いきなりすいません!でも、解決策が見つかりました!」
そこに現れたのはトワだった。いきなり来られては学園長も菅野も当然困惑する。その中で菅野が一度息を吐き、訊く。
「そりゃあ、どういう事だ?」
「そのままの意味です。」
菅野はその言葉に考える素振りを見せる。
「詳しく。」
菅野は続けて訊く。学園長もようやく飲み込めたのか、真剣に聞いている。
「ここら辺に避難所があるじゃないですか?どうやらそこに戦える人がいるらしいです。」
トワは菅野の目を見て話す。
「何人?」
菅野もトワの目を見る。
「最高100人ほど。」
トワは自信満々にそう言う。学園長はその数に驚いているのか、目を見開いている。
「………十分。」
菅野はそう結論づけたのか、立ち上がってすぐさま行く準備に取り掛かる。しかし、それを学園長が止める。
「待ってください!それが嘘という可能性も!」
「元々避難所にいた傘都が言っていたことです。」
トワはそう言って証明しようとする。だが、それでは足りなかった。
「……生徒を信じたいのは山々だが、それとこれとは話が違うのです。」
悔しさを出しながら言う学園長。
「損益で考えなくては駄目なのですよ………。」
学園長の言葉で何も言えなくなるトワ。学園長の言葉はあまりにも正しすぎたから。しかし、それを菅野が否定した。
「別に問題ないと思うぞ?」
菅野はそう余裕のある様子で言う。
「な!?どうして?!」
学園長は驚く。トワの目に希望が宿る。
「簡単に言えば、何もしないよりはマシ。それにコイツが根拠のないものを提示するはずがねぇ。こんだけだ。」
当たり前かのように語る菅野。
「ですが……………。」
学園長はそれでも納得しない。
「まぁ、気持ちは分からんくもないがな。」
菅野は一度肯定する。それに続けて言う。
「細かく言えば、1つ目は百聞は一見にしかず。2つ目は、今の状況で嘘っぱちを言っても何もならないことを知ってるトワがそんな事をするわけがねぇ。まぁ、そういうことさ。」
菅野は少し面倒くさそうにしながら説明する。
「それはそうですがね………。」
学園長は何か反論をしようとした。
「いえ、なにもありません。気にしないでください。」
しかし、納得してみせた。
「なら良かった。」
軽口を叩きながらも準備は着実に進める菅野。
「じゃあ、俺も………。」
トワが一歩踏み出した、その瞬間だった。
「いや、お前は来るな。」
「ど、どうして!?」
当然トワは驚く。
「お前、疲れてんだろ?」
菅野はスーツを着ながら言った。
「………!」
トワは図星を突かれて何も言えなくなる。
「とりあえず、お前は休め。話はそれからだ。」
菅野はスーツを着終え、学園長室を出ようとする。
しかし、何か言いたいことがあったのか、トワと学園長のいる方に振り向いた。
「学園長は一緒に来てくれ。代表としてな。」
そう言って菅野は学園長室から出た。
「トワくん。これまでありがとう。だから、彼の言う通り君は休んでいてくれ。」
学園長はそう言いながらその場を去り、菅野についていった。学園長室には、トワが一人残る。
「………………。」
トワは一人、ぽつんと立っていた。
◆
「避難所まで、あと一キロ圏内か。」
菅野はスマホの地図アプリを見ながら進んでいく。その後ろには学園長がいた。
「ここら辺に、悪魔は居ませんよね?」
学園長は、不安そうにしながら菅野に尋ねる。
「まぁ、多分いないんじゃないか?」
菅野は適当に返す。そして、道を左に曲がる。
「た、多分………。」
学園長はこの上ない不安を抱く。
「前来た時にはいなかったしな。問題ないさ。
あっ、こっちか。」
菅野はつい数時間前のことを思い出して言う。
「確証が欲しいのですが………。」
学園長は菅野の呑気さにツッコむ。それに菅野は反応する。
「大丈夫、大丈夫。人生何とかなるもんだからな。」
「それは理由になってないのですが………?」
そんな軽口を叩きながらも菅野は周囲の警戒を怠らない。そうして歩いてると、避難所らしき建物が見え始める。すると二人は足を止めた。
「あれか?」
菅野は学園長に訊く。
「えぇ、あれで間違いなさそうです。」
学園長はその建物の上部分を見ながら言う。
「じゃ、あとは一直線に行くだけか。」
「そんなうまくいきますかね?」
学園長は避難所の上にいる人との話し合いを想像して弱音を吐く。
「知らん。いくかもしれないし、いかないかもしれない。だが、なるようになるさ。」
そう言いながらまた歩き始める。
「そんな呑気に………。」
学園長は菅野にあきれた。
「呑気くらいが人生ちょうどいいだろ?」
菅野は学園長を見て左口角を上げながら言う。
「否定はしませんがねぇ。」
学園長も歩き始める。
そんな事をしていると、だんだん近づいていき、避難所は目の前まで迫っていた。
「ここが、避難所ですね。結構、重厚な感じで………。」
学園長は避難所を見あげる。
「なんつうか、避難所というより、核シェルターのような………?」
菅野は避難所を見て、何とも言えない表情をしながら想像と違うことに違和感を抱く。
「まぁ、ひとまず入ってみますか?」
学園長は菅野の方を向いた。
「そうだな。」
菅野もそれに賛成する。菅野のその言葉で学園長は扉に向かい、開けようとする。
「あ、開かない………。」
しかし、その扉はあまりにも重すぎた。
「そんなバカな………。」
そう言いながら菅野も扉に手をかける。
「ま、マジで開かねぇ……。」
だが、開かなかった。なんならびくともしなかった。
「こんだけ重めぇと、暗証式じゃねぇのか?」
菅野は押してた体を引いて、扉を見上げる。
「多分、ここら辺に……。」
そう言いながら扉付近に何があるか探してみる。
「ね、無ぇ。」
しかし、見つからなかった。
「ど、どうしましょうか?」
学園長も何かしら探してはいるが、見つかっていない。そんなふうに二人は悩んでいると、扉の上に取り付けられてあったスピーカーから、ジジッっと音が鳴る。
「何のご用で?」
そのスピーカーから聞こえたのは三十路くらいの女性の、母性溢れる声色だった。
「こちらの声は聞こえているのか?」
菅野はスピーカーを見ながら疑問を口にする。
「えぇ、聞こえてますよ。」
「そうか、なら話は早い。アンタらと話し合いがしたい。」
菅野はそれだけ言う。
「…………。」
菅野の言葉に少し黙る女性らしき人物。
「分かりました、では、扉の施錠を外しておいたので開けて下さい。」
女性らしき人物はそれに続けて言った。
「あと、私の部屋はその扉を開けて真っ直ぐ突き当たりについてから右折したらすぐのときにありますので。」
それだけ言い残してスピーカーからは声が聞こえなくなる。
「だそうだ、おい学園長。さっさと開け………。」
そこまで言って気づいた。
「えっ?これ開けんの………?」
菅野は目を点にした。
「………正気か?」
この鋼鉄で出来た扉を前に頭の中が驚きと絶望で染まる菅野。
「…正気じゃないのかもしれませんね。」
学園長も驚きつつ絶望していたが、何とか気を保つ。
「だが、十中八九来させねぇ為の口実だろうな。」
菅野はやれやれとした様子を見せる。
「ですが、どうしてそこまでして…………?」
学園長は菅野に訊く。
「色々理由はあると思うが、俺たちの素性を相手は知らねぇ。だから、信用できねぇんだろうな。」
菅野は扉に触れた。
「だからこそ所謂、試練を設けてんだろうな。」
菅野は扉を押そうとしている。
「なら、仕方ありませんか。」
学園長も菅野の横で扉に両手をつく。
「不満垂れねぇのか?」
菅野は学園長を見ずに訊く。
「言えないでしょうに。」
学園長は扉を強く押す。
「そりゃそうか。」
菅野も力を込める。
「クソ、重めぇ!」
愚痴をこぼしながら腕に血管が浮くほど力を込める菅野。学園長もそれに合わせて非力ながらも加勢する。
すると、ギギという音を立てて扉が少し動いた。
「これで少しかよ!!」
菅野はそう言いながら更に力を込める。学園長も老体を無視して精一杯の力を出す。扉は先ほどよりも早く開く。しかし、スズメの涙ほどしか動いていない。
精一杯力を込めたが、その程度。二人の力は次第に弱まっていく。言葉も自然となくなる。数分経過したあたりで、ゼェゼェと息切れを起こした。
「こ、れ、開けんの、無理、だろ。」
菅野は力なくその場に倒れる。学園長も同様だ。
「か、帰るしか、ありま、せんか、ね……?」
学園長は菅野のほうに向いて訊く。二人が悩んでいると、スピーカーからジジッと再び鳴った。
「な、何をしているのですか?」
そこから聞こえたのは困惑したような先ほどの女性らしき声だった。
「な、何って、扉を、動かそうと……。」
息切れを起こしながら言う菅野。
「………扉の右手側に四角いハッチがあるでしょう?」
女性らしき人物にそう言われて二人は右手側を見る。
「「………………。」」
分かりやすく四角の溝が掘ってある場所を見つける二人。
「それを開けてボタンを押せば中に入れます。」
呆れたような声を出しながら説明するその人物。
「「………………。」」
すると、真顔になる二人。
「分かりましたか?」
その人物は言う。
「「はい、分かりました………。」」
二人は静かに返事をする。それだけ言うと、再びスピーカーからは何も聞こえなくなった。
「………進むか。」
菅野は立ち上がり、下を向いてフラフラしながらハッチまで近づく。
「………えぇ、そうですね。」
学園長も立ち上がってそう言うと、扉がギギギと音を立てて開く。
二人は互いの顔を見ずに中へと進んだ。
できるだけ早く出そうとしたら、少し遅くなってしまいました。すいません。




