第二十話 男
「う……ん?…………ここ、は?」
見知らぬ場所で男が起き、明るい朝日が顔を照らす。男が目に入ったのは知らない天井。それはまるで病院の学校の保健室の様な場所特有の天井であった。
体を起こして周りを見る。すると、一つのパソコンに背もたれのついている椅子、5つの棚の中には薬品や絆創膏、包帯が中にあるのが確認できる。
そこで、学校の保健室にいると気づいた。起きたからには自分の存在を周りに示さなければならない。
「すいません!誰かいませんか!」
男は大きな声で人を呼ぶ。それで来るかは話は別だが。そう言った後、どうやら足音が一つ聞こえてくる。
少しずつ足音は大きくなる。そうして扉がガラガラと音を立てて開かれた。
「あぁ、起きたんだ。大丈夫かい?」
扉を開けて現れたのは目元に少しのクマがあり、
上半身の半分くらいまである黒長髪に、ダウナーじみた白衣を着ている二十代に見える女性だった。
「あぁ、はい、大丈夫です。体も特には…………。」
男がそう言うと、その女性は近寄り、軽く体を触って異常がないか調べた。男は顔を少し赤くした。
「うん、うん、特には異常ないね。今すぐにでも動けるよ。じゃ、好きにしな。」
女性が言うと、すぐにパソコンの近くまで行き、椅子に腰掛け、背もたれに背中を預ける。男は少し困惑したような顔をする。
「うん?行かないのかい?」
その女性が再び声をかけた。
「いや、どこに行けばいいのか分からず…………。」
男は返した。
「そういえば、昨日の夜、悪魔に襲われていたらしいじゃないか、何があったんだ?こんな危険な状況で。」
女性はふと思い出して男に訊いた。すると、男は何かを思い出したのか今度は女性に訊いた。
「すいません今は細かいことを言っている時間は無くて、それより、学園長室って何処ですかね?」
何か切羽詰まったような顔で言う男。それに少し気になりつつも、女性はその質問に答えた。
「あぁ、学園長室なら………。」
そう答えようとした矢先、1人の黒髪の少年が保健室に入ってきた。
「すいませんナオ先生、男の人は起きまし……た……………………。」
それはトワであった。トワは視界に男を見つけると、言葉を途中で止めた。
「うん、起きてるよ、その人。」
ナオ先生と呼ばれる女性は事実を口にした。
ナオが言い終わった後、トワはその男のもとへと歩いた。
「すいません、一つ、聞きたいことがあって。」
トワはそう訊いたが、何やら男は焦っていて、トワに対して言った。
「ごめん、今は君と話してる時間は無いんだ。今すぐ学園長室に行かないと。」
男は立ち上がって服を整えた。そこでくつろいでいたナオが口を開いた。
「別にその子に言ってもいいんだけどね。」
その言葉を疑問に思ったのか男はナオに訊いた。
「ど、どういうことですか?まさか、この子が学園長なんですか?」
「いや、そう言う訳じゃないけど。その子はこの学園の生徒に限ったら一番戦える子だから。」
まさかの言葉に一瞬言葉がでなかった男。だが、数秒して動揺が落ち着いたのか、男は言う。
「ご、ごめんなさい。それは、どういう…………?」
男の言葉に、冷静にナオは事実を述べた。
「?その言葉通りの意味さ。」
聞き間違いかと思ったが、ナオの顔があまりにも冷静だったので、男は信じることにした。
「いや、普通に学園長に言えばいいでしょうに…………。」
トワはツッコんだ。
「それと、君を保健室まで連れて来てくれたのはあの子なんだよ。」
まさかの言葉に男は再び動揺する。
「そ、そうなんですか…………?」
「そうだよ。昨日の夕方、避難者を診ていたらいきなりあの子が現れてね。気絶した君をおんぶしながら私のもとに訪ねてきたんだ。本当に驚いたよ。」
ナオは昨日の事を思い出しながら言う。
「昨日そんなに驚いてましたっけ…………?」
トワはナオとは違い、そんな記憶がないように感じた。
「じゃあ、あの時、助けたくれたのは…………。」
男はまさかの出来事に言葉が少し震える。
「まぁ、俺ですね。」
トワは頬を人差し指で軽く掻きながら言う。
「そ、そうなのか。すまない、失礼をした。許してくれ。」
男はトワに向かって深々と頭を下げた。下げられた側のトワは逆に申し訳なくなってきたのか謙遜をした。
「いえ、大丈夫ですよ。あの状況だと、他の人も同じ行動をしてたと思います。」
トワは当たり前かのように言う。
「君は、高校生なのに、よくできてるね。すごいや。」
男はそれに感心した様子を見せた。
「そういえば、名前を言ってなかったね。
私は三宮圭司よろしくね。」
優しい笑顔を圭司は見せて、手を差し出した。
それに、よろしくお願いします、と言って、トワも手を出して握手した。
「確か、学園長に会いに行くんですよね?俺も一緒に途中まで行きましょうか?」
トワは提案した。圭司は学園長室までの道のりが分からないようで、トワのその提案に乗った。圭司は近くにあった己のカバンを背負った。
「本当かい?よろしく頼むよ。」
圭司がそう言うと、トワが先導して保健室を出る。
「いってらー。」
ナオは少しだけトワと圭司を見てすぐに視線をパソコンに戻しながら言った。そうして二人は、右側にある階段を登って学園長室の前まで連れて行く。
「そういえば、言いそびれたけど、どうして君みたいな子供が戦っているんだい?」
ついさっきから気になってたことをついに訊いた圭司。
「それは………まぁ、俺以外にも戦っている奴はいるんですけど、避難者の人達は怖がっていて、先生達はその避難者達を落ち着かせたりするので精一杯だったので。まぁ、そんな所ですよ。」
トワはできるだけ避難者達が責められないように庇った。
「そうか、情けない大人だな。」
その言葉は責めるような気配はなく、ただただ呆れていた。
「そんなに言わないであげてください。大人でも、怖いものは怖いんですから。」
トワはそれでも庇った。
「確かにそうなのかもしれないが、だが、子供に危ない戦闘をさせてるとは、大人の面汚しだな。子供にさせないのが大人だろうに。」
つい先程よりも、言葉が強くなる圭司。それほど避難者の大人たちが情けないのだろう。
「では、俺はここで。」
トワは小さくお辞儀をして去る。
「案内してくれてありがとう。」
圭司が少しだけ離れたトワの後ろ姿を見ながら礼を言う。少し経った後、学園長室の扉を3回ノックする。
すると部屋の中から高齢男性声で、どうぞ、と言うのが聞こえた。
そうして、扉を開け、相手に背中を見せた状態で扉を閉めて部屋の中に入る。失礼のないように高そうなソファの近くまで行って立つ。
「どうぞ、お座りください。」
学園長がそう言うと、二つあるソファのうちの一つの真ん中に座る。
「すいませんね、今は出せるお茶もないのですが。」
学園長が椅子から立ち上がり、圭司の反対側のソファに腰を下ろした。
「いえ、急に押しかけてきたのはこちらですから。」
圭司も敬語を使って相手する。
「あなたの噂は聞いてますよ。うちの学園に外から来た男性がいる、と。しかも、うちの生徒が助けたようで。」
学園長は足を少し広げて両ももに腕を置く。言葉の端々に警戒の色が混じっていた。
「その節は、大変お世話になりました。」
圭司も学園長同様、足を少し広げて両ももに腕を置いた状態で頭下げる。
「それで、何か用があって、こちらに来たのでしょう?」
「この方前市での、貴校の噂は聞いております。
それに伴い、お願いを申し上げます。
西港発電所の危機、どうか、ご助力いただけませんでしょうか!」
特に後書きもありません。




