贈り物を求めて
今日はルーブとステューに内緒で集落に来ている。
日頃の感謝の気持ちを込めて2人にプレゼント買うための資金を調達しに、こないだ狩ったグレーウルフから剥ぎ取った爪を売るためにきたのさ。
街までは歩くと結構時間がかかるから上半身軽めに下半身重点的に強化魔法かけてジョギング感覚で走って行くことにした。
一歩を大きくする意識で軽やかにどうすれば無駄なく地面を蹴って推進力を得られるかだけを意識して。
魔法を使い出してからどれくらい経ったっけ?覚えてないけど数ヶ月間常に魔法をどのように効率よくコスパよく合理的に使うにはっと考えていると日常にも効率厨的な意識が汚染してくる。
まぁ悪いことじゃないんだけど。
そんな事を考えながら数分も走ってくるとしんどくなってきた。よく考えたら肺を強化してなかった。肺から酸素を吸収して血液に届けるんだっけ?やっぱり血管まで意識して強化しないとダメかな。血管にピンポイントに酸素を生成するとか?は出来るわけないか…
「ゼェェ…ゼェ」
大の字で寝そべりながら休憩も兼ねて肺という臓器の形をイメージする。
「確か肺って小さい胞子みたいなのが沢山あってそれから酸素をを吸収するんだっけか?」
イメージするにはより具体的な方が効果が上がる。深呼吸しろ。思い出せ。
肺という臓器はまず口、鼻から空気を吸う。
口、鼻から吸った空気は気管を通って気管支へ。勘違いしがちだが、肺は心臓を囲んで二つあるがそれぞれの臓器が一本の管で繋がっているわけではなく、木の枝のように複数に分かれてより肺の奥まで空気が届くような構造をしていた筈だ。
肺の中の肺胞という小さい突起物?みたいなのが何億って数が生えててその突起物から酸素を取り込み血液へと送られる。
つまりはより頑丈でより酸素を取り込めるように強化すればいい訳だ。
なぜ肺胞という突起物が数億本も生えているかというと、特化物が生えるとその突起物分の表面積が増えるからだろうと予想できる。
なので肺、心臓はより弾力性に意識して強化して肺胞に更に肺胞を生やすようなイメージで強化してみた。肺胞から肺胞が生えれば更に肺の中の表面積が増えてより酸素を効率的に取り込めるだろう。
早速深く呼吸しながら飛び跳ねるように意識して6.7割の力で走る。下半身と肺を重点的に強化して。
これがいい感じで街まではバテる事なく走り続けられて到着した。
魔力消費の燃費も悪くないし、これってもしかして筋トレも成果と出てるのでは?なんて思いながら呼吸を整えるついでに集落の入り口に目をやった。
文字が書いてある。初めて見つけた。
まだ文字は危ういんだよな。えーっとなになに?
「リー…シア」
「リーシアって書いてある位置的にこの集落名前なのかな?」
まぁ別に名前知ったところでって感じではあるけど…今まではステューとお喋りしてるから気づかなかった。
早速いつも通り素材を売りに行く。いつもはステューと2人だけなので1人は久しぶり。初めて来た時は異物を見る目で見られるのは心地悪かったけどもう慣れた。
なんせ、初めて来た時は人間としてすら見られてなかったっぽいが、リーシアの住人も慣れたようだ。
だと言っても仲良くしてくれるのはリーシアの住民の1%しかいないけど。いや、実質仲良くしてくれているのは2人だけなので、このリーシアの集落の住人が200人以上なら1%切ってるけど笑
その1%のうちの1人は素材買取屋のおじちゃん。細身で低身長のおじちゃんで、仲良くしてくれるって感じでは無いけど、客を選り好みしない点では自分の事も人間として接してくれるリーシアの集落では珍しいタイプの人だ。ルーブを細身の小さいおじちゃんにした感じで愛想は良く無いけど。
「こんにちわー!おじちゃん買取お願い!」
「あいよ」
いつもこの会話だけだ。でもこの必要最低限の会話で必要な仕事をする職人って感じがまさにルーブみたい。っていつも思う笑
「合わせて銀貨1枚に銅貨8枚だ。」
「ありがとう!おじちゃん!また来るよ!」
思ったより高値で売れて足取り軽く店を出た。
大体銅貨2枚でりんごのような果実1個買える感じの物価だな。季節なんかで容易に金額が跳ね上がるからそこまで参考にはならないけど。
早速軍資金は手に入れたので目的の品を探しに行く。
ルーブには実用品を、ステューにはアクセサリーを第一候補に考えている。
早速リーシア集落の露店を覗いてみる。店主にはめちゃくちゃ嫌な顔されたが、売らないわけでは無さそうだ。
意外と庶民向けの露店なのに高そうな指輪やネックレスが売ってある。他には木製のブレスレットや革製、魔物の牙なんかが多い。
「すみません。この金属のネックレスはいくらですか?」
「………」
あれ?店主まさかの無視?
「すみません…」
「大銀貨2枚…」
「え?大銀貨2枚!?」
オイオイ大銀貨2枚と言えば、今持ってるのが銀貨1枚だから後銀貨19枚必要やぞ。大銀貨1枚=銀貨10枚やからなぁ…流石にぼったくられてるのでは?多少高かったら交渉も視野に入れてたけどこりゃ無理そうやな。
「こっちの木製のブレスレットは?」
「大銀貨1枚…」
あー値段相場知らないけどあのちょび髭の露店の店主の顔つきじゃあぼったくってそう…そう思って露店を後にした。
最後にやってきたのは毎度お馴染みの女将の雑貨屋。
「こんにちわ!」
「おや、葵じゃないか!いらっしゃい!今日はステューと一緒じゃないんだね」
「実は今日はルーブとステューには内緒でちょっとね」
そんな感じで女将と無駄話しつつ店内を物色してるとあるものを見つけた。
「これは何??」
「あぁこれは計量用のスプーンさね」
小さめの小匙計量スプーン。これは使える!
最初に思い描いていたアクセサリーの類とはかなり離れるけど問題ない!いいこと思いついちゃった!!
早速3本購入して軽い足取りで帰路に着いた。
帰りももちろん身体強化して爆速で帰ってきてすぐジャングルで、とある素材を取りに行く。
そのとある素材とはグレーウルフの毛だ!グレーウルフは何回も狩って来たから知ってる。アイツの毛はかなり硬め。いい素材になるぞ!
ジャングルの中をかなり探し回って、ようやく見つけたグレーウルフに閃光弾&トリモチ圧縮弾をお見舞いして1匹捕獲したら、針のように尖らせて具現化した右手でトドメを刺した。
まずは手順通りにグレーウルフを解体する。
とりあえず頸動脈を切って木から吊るして血抜きをする。
ここで吊るしてもいいけど血の匂いで、他の魔物が寄ってくるから川ですることにした。
今の自分の身体強化と魔力総量なら難なくこなせる!成長をひしひしと感じるぜ!!
肩からタオルをかけるような感覚でグレーウルフを川辺に運んで頸動脈を切ったところを川の中に突っ込んで血を抜く。
そしてある程度血を抜き終わったら四肢から割いていき、徐々に手やナイフを使って剥いでいく。
ある程度毛皮を剥ぎ終わったら腹を割いて内臓を全て出す。
この取り出した内臓は使えないのでそのまま川に流す。魚の餌くらいにはなるだろ!
その次に火を起こして剥ぎ取った毛皮を煮沸消毒する。
この時に使う鍋は家にあった素焼きの陶器を拝借して来た。
ステューが晩御飯で使うかもしれないから早めに帰らないとなぁなんて思いながら剥ぎ取った皮を煮込んでいく。
さっきのグレーウルフも部位ごとに解体して、全部は持って帰れないし、お昼ご飯も食べてなかったからもも肉を一緒に焼いて食べることにした。
グレーウルフのもも肉はちょっとクセがあるからあんまり好きじゃないなぁと思いつつ煮沸した毛皮を天日干しして乾かしていく。
全然乾かないし時間かかりそうなので温風を出す魔法を構築してみた。
原理は超簡単!空気を圧縮してちょろちょろ放出するだけ!
気体は外部から圧力を加えられると気体の分子は狭い空間に押し込められる。そうすると分子の運動エネルギーが増加して、その結果熱を生む。温度が上がるって簡単な理屈さ!
これで魔法版ドライヤーの完成や!ドライヤー程度の風量ならほとんど魔力も消費せずに済む!
イノベーションや!これでステューの髪の毛でも乾かしてあげたいな!
魔法版ドライヤーのおかげで爆速で乾いた毛皮から毛を刈って均等に揃えて、再度長さを揃えて束を作る。
その束を紐で縛り、二つ折りにして女将の店で買った計量スプーンの掬う部分に均等に8個の穴を2列で開けて、その穴に二つ折りした束をはめる。
そうすると完成!!
歯ブラシの爆誕!!
ルーブ用、ステュー用、自分用で3つ作ってみた!
早速自分用で磨いてみたがなかなかのクオリティ!!
グレーウルフの毛を使ったのは正解だった!柔らかすぎず、硬すぎず、最初は少し硬すぎるかな?って思ったけど煮沸したらいい感じのしなやかさになって助かった!!
「ヤベェ夢中になって作ってたらだいぶ暗くなって来た。そろそろ切り上げて帰りますか…土鍋勝手に持ち出したからステュー怒ってるかもしれんなぁ…」
ジャングルの中はすでに真っ暗なので足元に注意しつつ急足で帰路に着いた。川の下流で作業していたので、帰る時は川を上流にそってのぼるだけ!道に迷う心配もないというわけだ。
まぁでも足元は暗くて危ないのでさすがに身体強化魔法で飛ばして帰る事はやめておいた。
綺麗なオレンジ色から段々と薄く青みがかった空から徐々に暗くなっていき、星が輝いて見える。
「綺麗だなぁ」
そう呟きながら完成ほやほやの歯ブラシをどのタイミングで渡そうか考える。
「やっぱりご飯食べ終わった後かな?いや、食前の祈りの前に渡した方がいいかな?んー照れくさいなぁ…なんて言って渡そうかな…」
ブツブツ独り言を言いながら家の近くまで帰ってきて気がついた。
なぜか家の周りが異様に明るい。それにガチャガチャやかましい。いつもと様子が違う事に何か嫌な予感がして草陰に隠れながら家の近くまで来てびっくりした。
まさに西洋に出てくるような銀色の甲冑を纏った兵士の様な人たちが松明や武器を片手に大勢でルーブの家を囲んでいる。
明らかに敵意満々って感じで場の雰囲気がピリピリしている。明らかに異常だ。ピリピリしているというのは、凶悪な魔物を取り囲んでいる時の様な緊張感を覚える。まさにいつ襲われても対処できる様に臨戦体制と言うべきだろうか。
「なぜ?」
こないだの冒険者2人に絡まれて、1人をたまたまとはいえトリモチ圧縮弾で窒息死した件で俺を捕まえに来たんか??
心臓が脈打つのが早くなる。
「どうしよう…どうすれば…いやでも悪い事はしてないしって言ってもこの世界じゃ自分の理屈は通らない理不尽な可能性も捨てきれないし…」
とりあえずもう少しだけ近づいて聞き耳を立ててみよう。
ルーブの家の正面側に回ってみたらルーブが入り口のドアの前で甲冑の兵士のボスらしき人と話しているのが見える。
ここからじゃ何を話しているのか聞こえないが。
自分はどうするべきだ?
落ち着け!まずは様子見だろう。おそらくここで自分が出て行っても好転しない、どころか悪化するように思えた。
残りの魔力残量は2割を切ってる。ただでさえルーブの足元にも及ばない実力なのに今の自分に何ができるんだ?
甲冑兵士は少なく見積もって30人くらい。ルーブの家を囲んでいるので家の方がどうなってるのかここからでは見えない。
様子を伺って2.3分。事態が動いたようだ。
言い争ってる声が聞こえたなと思ったと同時だった。
50メートルは離れてたのにも関わらず衝撃波が自分が隠れてる茂みまで飛んできた。
「ルーブが戦ってるんだ」瞬間的にそう悟った。
眼前に広がってる火花が綺麗に思えるくらい何も見えない剣戟。ルーブがこんなに強いなんてビックリしたと同時に恐怖した。このレベルの強者が自分もしくはルーブやステューに害を与えにきたのだと。
加勢した方がいいのか?でもあのレベルじゃかえって足手纏い。じゃあ周りのモブ達はどうだ?俺1人で行けるのか?そういえばステューはどうしたんだ??
「ああああ怖い。また大切なものを奪われそう」動かないと後悔する。そう悟って暗闇の中、音を殺して近づいた。
匍匐前進でゆっくり近づいていたのだが、甲高い悲鳴が聞こえたと同時にルーブの戦闘中であろう剣戟の音が止んだ。
見えない。甲冑兵士が邪魔で何が起こったのか見えない。急な静寂。
動悸が激しくなって息が荒くなる。
「まさか…な…」
認めたくなくてこの感情を否定する材料が欲しくてさらに近づいた。
「ああああ嘘だ…なんで…ルーブ…」
甲冑兵士の隙間から見えたのは首を切断されて、まるでサッカーのように蹴り転がされてるルーブの頭部と、放心状態のステューだった…
「こいつハゲだから生首が持ちにくいんだよなぁ」
っとヘラヘラ談笑している甲冑兵士ども。
「くそがぁぁぁぁぁ」
我慢出来ずに甲冑兵士へ飛び込んだ。