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転禍為福  作者: 瘋癲
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初めての魔法

救助されてから半年が経過した。


最近は息が白くなってきた。季節はすっかり寒くなり雪が積もっている。この世界にも四季があるみたいだな。日中は太陽が登って夜には月が出てくる。地球やんけ…

白くてフサフサのこの毛皮は、なんの毛皮か分からないけどステューが作ってくれた上着を羽織って薪割りに専念する。それでも足元は寒過ぎて既に感覚が無い。藁みたいな草を編み込んだブーツ見たいな感じだが無いよりはマッシである。


この世界に来て半年…この世界の質素な食事のおかげで贅肉が落ちて腹筋がうっすら見えるくらい痩せてしまった。そのせいで寒くて寒くて仕方ない…脂肪って暖かかった事を初めて知った。まぁ痩せるのは当然か。毎日朝から晩まで仕事手伝って全然美味しくない味の薄い粥やスープばっかりなんだから…


こんなにも寒いと温泉が恋しい季節だが、こちらの世界ではお風呂どころかシャワーもないので2.3日に一回の湯浴みだけだが。最近は暇さえあれば火魔法の習得せんとイメトレを続けている。今の所全く使えるようにはなってない。身体からは火花一つ起きない。

それにこの湯浴みがまためんどくさいんだよな。すぐにお湯は冷えるし、湯浴みをサボってると頭皮が痒くなってきて鬱陶しい。シャワーや湯船は贅沢だったのか…文明の力が恋しいと思う今日この頃…


色々と文明の発達が遅すぎる不満はあれど半年間みっちり特訓したおかげでこの世界の言語もだいぶ喋れるようになったし、ルーブとステューとの関係も良好だ。この二人には一生頭が上がらないだろう。ステューには特に色々と魔法やら日常やらの事を教えてもらっている。


自分も何か働かなければとのプレッシャーが強くて、ここ最近はルーブとステューの雑用をしている。川まで水を汲みに行ったり拭き掃除をしたりジャングルの浅い場所で木の実を取ったりなど、両手で行う力仕事と繊細な仕事以外は任されるようになった。


片手でも薪を割ったり出来るくらい体調も回復し体力も付いて、右手も痛むことは少なくなってきたし片腕の生活にもなれてきた。いつまでも病人ということでお荷物になるわけにはいかないので、月1くらいで近くにある集落まで食材やら必要なものを買い出しに行ったり、ルーブが仕留めて来た魔物なんかを売る為にステューと2人で出かけたりで一緒にいる事が多くなってきた。


今日も朝練でステューに魔法を教えてもらっている。


ステュー曰く、「魔法とは女神様の力を借りて具現化する力」らしくその女神様に力を借りる為に詠唱という長い文言を言い合えると力が行使できるらしい…


「詠唱を言わなくても魔法は使えるけど威力が落ちるの。」

そういってステューは無詠唱で放った火の玉が真上に放った。

そこそこの威力で爆発した。

詠唱してたらもっと威力上がるのか…無詠唱の状態でも十分に人間なら1人は殺せそうな威力していて魔法の可能性にワクワクしていた。


「魔法属性は火、水、土、風、無の5つがあって、私は火と無の属性の魔法が得意なの」


「へー他の属性は使えないの?」


「火と無の属性に比べると魔力消費量も威力も発動時間も余計にかかるから実際には使えるけど使い物にはならないの。」


「なるほど相性というものがあるのかな?とりあえず早く魔法使ってみたい!!」


その想いと裏腹にステューがもう一度分かりやすく詳しく説明してくれたが全く理解できないので、未だにこれっぽっちも使えない。

同じように詠唱してみてもダメだった。


ステューと同じ体勢で同じ詠唱で真似しても自分だけ魔法が発動しない…なぜ?


考えられるのはやはり女神様への信仰の度合い!?まさか全属性適性なしだったり!?


「これまで魔法使ったことなかったの?」

色々と使えない理由を考えていたらステューが聞いてきた。


「自分の国では魔法は無かったよ。その代わり科学が発達してたよ。」


「科学?それは何なの??魔法が使えないなんて物凄く不便な生活なの…」


「科学とはこの世界の法則を理解して再現可能にする学問かな!?魔法も法則が分かれば科学の1分野になるかもね」


ステューは訳分からんという顔をしていた。

「と、に、か、く、初めは女神様に祈るの。そうしたら神様が力をお与え下さるはずなの。」


「もしかして女神様を信じてなかったら使えない!?」


「信じてない人に会ったこと無いから分からないの。」

申し訳なさそうにステューは答えた。


魔法と宗教は癒着してんじゃねーよ。せっかく魔法使えると思って死ぬ気でこの世界の言語習得したのに…

自分だけ使えないとかハードモードにも程があんだろ。


マジかぁ女神様なんかこれっぽっちも信じてねーぞ。

今から信仰できそうにも無いし、なんならその女神様が自分をこの世界に連れてきた張本人なら服ひん剥いてピーしてピーしてピーしてやるわ。


それから更に数日。


色々なポーズで力を込めたり、ステューと一緒に集落の教会で女神様にお祈りしたてみたり、詠唱を暗記したり連呼したりしてみたが、そもそも魔法どのような感覚のものなのか分からないのが問題だと思い、ステューに治癒魔術を右手にかけてもらい、その間魔力を感じる為の修行をした。


それでも上手くいかないので、自分の体内にある暖かい光のイメージを小さくより小さく、そしてより熱く、イメージとしては虫眼鏡で太陽光を集めて黒い紙を発火させた小学校の時の理科の実験を思い出してみた。

ライターの火に変換して優しく発火するイメージで左手の人差し指に込めると、小さい火を起こせるようになった。


火を起こせた瞬間子供のように飛び跳ねて1番にステューに見せに行った。


「ステュー!魔法!火の魔法使えるようになったよぉ!!」


「おめでとう!成長しているようで安心したの!葵の思いが女神様に届いたの!」


「いや、ステュー師匠のおかげです!」


「師匠と呼ばれるほどの事は何もしてないの…」

ステューはやれやれといった感じで言った。


その後も嬉しくて楽しくてその後他にもいろいろ試してみた。一回コツを掴むとなぜ魔法を使えなかったのかすら忘れてしまうほど魔法の鍛錬に熱中した。

まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように。


別に詠唱しなくても火柱を大きくするのは容易いが、無詠唱のステューほどはまだまだ遠く及ばない。そもそも自分は詠唱しても魔法の威力が上がったりするわけでは無かった。

まぁ女神様を心の底から疑ってるからなぁ…まぁでも魔法は使えてるわけで…女神様の事は今のところよく分からないってのが結論だな。


形を丸くしたり飛ばしたりするのはテクニックが必要みたいで今のところ上手く出来ない。必要なのはテクニックで詠唱すれば威力は上がるが大して変わらないし細かい操作は関係なさそう。


火の魔法をつけたり消したりして遊んでたら、いきなりめまいがして急に脱力感が襲ってきて地面にそのまま倒れてしまった。


薪割りをしながら見てたステューがやれやれといった感じで肩を貸してくれた。


「魔力切れなの。調子に乗って使いまくるからなの笑」


「魔力も残量があるんだね…初耳なんですけど…」


「当たり前過ぎて伝えるのを忘れてたの。」

ステューさんや頼みますよ笑こちらの常識は全て抜け落ちているんですから…


全身の脱呂感が凄くて立ってられないくらいこれが魔力切れなのか。アンパ◯マンの顔が濡れると力が出なくなるって言ってたけどこんな感じの脱力感を感じてたのかな?笑


でもどうやら自分にもこの世界の人と同じように魔法は使えるみたいで安心した。


「ちなみに魔力切れになると、魔力総量が減ったり死んだりしないよね?」


「それは聞いたことないの。特に無いと思うの」

ホッとため息をもらす。


「どうやったら魔力の総量を上げれる?」


「魔力の総量は子供の頃にしか向上しないって聞いた事あるの…」


「えええ…ちなみにステューは魔力総量多い方だよね!?治癒魔術使えるくらいだし…」


「普通の人よりは多いと思うの…でも治癒魔術はそこまで珍しいものじゃないの…」

へーと感心しつつ魔力総量がどうにもならないと聞いて落胆した。

これからこのクソザコ魔力量でどうにかやっていけって事なんですかぁ女神様。


この事から仮説を立てた。


ステュー曰く、魔法は女神様の力がなんだかんだ言ってたが恐らく”魔法とはイメージの具現化”だと思う。


イメージを具現化するのに必要なエネルギーがどう賄われているのかは疑問だけど、体内に魔力タンクみたいなのがあって、寝たり魔力の含まれた食材を食べる事でまた満たされるのかな?


魔法がイメージ次第なら魔法総量もイメージ次第でどうにでもならないかな…まぁ今の所魔法総量をどうすれば増やされるのか全くイメージ出来てないけど。


筋肉が鍛えれば鍛えるほど大きくなるのは傷付いた筋肉を修復して行くからだ。だとすれば魔法も同じく使えば使うだけ魔力量とか出力量が増えるのでは?


脳みそだっておじいちゃんになっても成長するってなんか聞いた事あるし…


そう考えて次の日から寝る前に残った魔力を使い尽くしてから寝るようにした。


家の中で火魔法なんかは流石に使えないので、日常で応用の効く魔法は何か無いかなぁと考えて、他の属性か、右手を具現化する系の魔法で悩んでいた。


右手の具現化はそもそも今の魔力量では形成する事すら出来ない事に悩んでいたら、ルーブにオススメされた。


「葵は体力が無いから強化魔法で補ったらどうだ?今の葵の魔力量でも十分扱えると思うぞ。」


「強化魔法!?なにそれ?」


「強化魔法ってのは体内の魔力を体の表面に纒う事だ。強化するイメージで!いつもの倍以上の力が出せたり素早く動いたり怪我もしにくくなるんだよ。魔法の基礎中の基礎だな。」


「それは是非とも習得したい!ありがとう参考にするよ!」


回復魔法はずっとステューにかけてもらってたから、てっきりルーブは魔法を使えないだと思ってたけど、どうやら勘違いらしい。


さすがは頼れる父親ルーブ様々だな!


右手を具現化する魔法は消費魔力が桁違いに必要で、日中に強化魔法などの練習に魔力は使うのから夜の寝る頃には右手を形成できるほどの魔力は残って無いのが、無理してでも魔力切れになるまで消費して毎日魔力切れを起こして魔力総量を高める作戦。


身体を強化する魔法は日常的に練習しながら少しずつ使って慣らして行く事に決めた。これは一朝一夕で習得できるような技術じゃない。


しかし自分の魔力総量があまりに低いらしく日中に強化魔法を練習してると夜にはほとんど残らない。

一応毎日魔力切れになるまで魔力を消費しているのでちょっとずつ魔力総量がアップしていることを願うだけだ。


今日は午後から近くにある集落に買い出しに行く。

今はステューと2人で近くの集落まで買い出しに向かっている最中。草原の中に一本道が通っていてとても気持ちいいところを、歩いて2時間くらいの距離にある小さい集落で1ヶ月に1回買い出しと、ルーブが取った魔物の素材を売りに行くためだ。

2人でお喋りしながら集落まで歩く時間はまさに天国のよう。


相変わらず透き通るようは白いきめ細かい肌にシルバーに近い金髪、ぱっちり二重の整った顔立ちなのにどこか幼さを残したずっと眺めていたい美人さん。日本にいた頃はこんな美人な人と話したことないから二人だとまだ少し緊張する。


異性として見ているというよりは、妹に近しい感覚を覚える。まぁ自分はひとりっ子なのだが実際に妹がいたらこんな感じかもしれない。まぁ個人的に女性の好みはやっぱりアジア人顔の女の子なのさ。

ステューは命の恩人で魔法の師匠で家族のように思っているから実質は妹だな!この美人さんの笑顔は兄貴が守る。


「そういえばステューは誰に魔法を習ったの?」


「パパに教えてもらったの」

ステューのパパはもちろんルーブだ。元々初めて見た時からそうかもなと思ってたが喋れるようになって聞いたから間違いない。


「へー、やっぱりルーブも魔法使えるんだ!ステューより?」


「私なんかがパパの足元にも及ばないの…」

相変わらず謙遜しているステューも可愛い。しかしステュー以上の魔法の使い手となるとルーブの実力が想像できないな。普段見るルーブの姿は大体畑仕事か薪割りなどしか見てない。


そんなこんなステューとお喋りしていたらあっという間に集落に着いた。


この街にはこれまで数回買い出しだ来ているが、やはり歓迎されていない様子。

ジロジロと見られヒソヒソ何か言われているようだ。

ステューもルーブも汚い言葉遣いをするタイプじゃないので、悪口系の単語はまだ何も知らないから彼らがどれだけ悪口をヒソヒソ言っていたとしても理解できないのでそこまで気にはならないけど。まぁでも歓迎されてないことは分かる。


まぁ仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。この世界で黒髪黒目のアジア人は自分だけ。彼らからしたらさぞ珍しいくて不気味で醜い顔をしているのだろうな。

ステューと一緒だから邪険には扱われないのかな?どちらにせよ集落に来ると毎回ステューに迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。1人だったらどうなっていた事やら…

ステューといつもの商店に買い出しに来た。買うものは自作自給できない調味料やら食べ物やら加工品など。


「いらっしゃい!ステュー!葵はだいぶ体調は回復したみたいだね」


「おばさんこんにちわなの!」


「こんにちわ!ステューとルーブのお陰ですよ!」

陽気に話しかけてきたのはこの店の女将。女の人なのにかなりガタイが良く差別や偏見はなく豪快に笑うのが印象的だ。


「だいぶ違和感なく喋れるようになったじゃない!」


「それもステューとルーブのお陰ですよ!」

この女将の店にはステューとよく来ていて自分にも変わらず接してくれる数少ない珍しい人だ。


必要な物を購入し帰り際に女将が

「あと数ヶ月で暖かくなってきたら魔物も活発になるし、アスタ王国が戦争を仕掛けてくるなんて噂があるから気をつけなよ!」


「ありがとうおばさん!また来月くらいに来るね!」


「ありがとうございます!また来ます!」

自分とステューは帰り際に挨拶だけして集落を後にした。


暖かくなると魔物などが活性化する為、それを討伐する冒険者という職業や、冒険者に討伐された魔物を購入する商人なども活発になるという。

女将の忠告よりも冒険者というワードに自分はワクワクしていた。最初魔法を使えた時よりかなり上達したし、更に鍛えてジャングルのゴブリンどもを根絶やしにしてやる。


必ず右手の仇は取るぜ!




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