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転禍為福  作者: 瘋癲
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繰り返しの毎日

「ピピピピピ」3度目のスムーズ機能の目覚ましがなっている。そろそろ起きないと学校に遅刻するだろう。


でもどうしても起きたくない、そんなことを反芻していると下から母親の声が聞こえてくる。


「葵!!いつまで寝てるの!早く起きなさい!」


朝から母親の甲高い声を聞くとイライラする。分かってるっつーのマジムカつく。

その声でようやく起きて衣替えした冬服のブレザーに袖を通す。


寝癖も直さず顔も洗わず食卓に用意されているバランスの良い和の朝食の秋刀魚にご飯、味噌汁を一口ずつ食べて学校に向かう。


「ちゃんと食べないと頭働かないよ!はいこれお弁当!行ってらっしゃい!」


「冷凍食品ばっかりの弁当なんか美味しくねーんだよ」

そう吐き捨てて心配する母をよそに寝起きで不機嫌な自分は弁当箱を奪い取るように取ってから家を飛び出した。


「気をつけるのよ」

そう母親が言い終わる前に扉を閉めた。


うちは父親がいない。

うちの家庭は自分が幼少の時に父親は病気で亡くなったらしい。

本当に小さい頃だったから顔すら覚えていないし、自分自身が男だからかそこまで父親というものに執着がなかったように思う。


それから母さんと二人で暮らしている。と言っても父親は技術者だったらしくそこそこ稼いでいたのか築年数は経っているが一軒家だし生活に困っているということは無かった。


生活に困っていることはないと言ったが決して裕福な家庭ではないし、どちらかというとかなり貧乏の部類だろう。何かある度に「うちの家庭はお金がない。」と言い聞かせられてきた。


その度に全ての通帳を広げて見せて具体的な金額を教えて欲しかったが、聞いても母さんはどうせ答えないことは知っていたので聞いた事はない。


家が貧乏なところもコンプレックスに感じていた。小学校の頃から周りの友達は携帯を持っていたのをとても羨ましくて、何回もねだったが結局買ってもらえたのは中学を卒業してからだった。

まぁパソコンはだいぶ早い時期に買ってもらえただけ恵まれているかも知れないけど。


木々がオレンジ色に紅葉し出して肌寒くなってきた。そんなオレンジ色に染まる街路樹を眺めながら通学路を使い古した祖父のお下がりの自転車で高専に向かう。


家から自転車で20〜30分くらい距離にある高校専門学校だ。普通の高校とは違って学費も安く就活にも強くて資格も色々取れるらしいと言われて死ぬほど勉強して受験に勝ち抜いた。


昔から自分自身の醜い一重の顔面に二重顎のぽっちゃり体型がコンプレックスで自信を持てず嘘をついて自分を誇張して自己肯定感を高めようとしていたのが同級生にはバレていたらしい。


実はプロのゲーマーとか親が金持ちとかしょうもない嘘をついてその嘘を隠そうとまた嘘をつく。そして中学は友達がいなかった。


家が貧乏だった事も相まって、お陰でみんなが携帯で遊んでいる間に勉強していたのが功を奏したのか5年間の一貫教育の高校専門学校に進学できたのだ。


正直、高専に興味は無かったが母さんや中学当時の担任に強く勧められたからって言うのが進学をした主な理由だ。

「高専に行けば就職は安泰だよ。」

「将来に困らないわよ。」

そんな甘い言葉で対して自分で考えず流されてしまったのが失敗だった。


そうして進学して現実を思い知らされた。

県内から賢い人たちが集まるので自分の成績は常にビリ。常に留年スレスレで自分は顔も良くなければ体型もぽっちゃりで醜い、スポーツも才能はないし突出した才能は何一つなかった。

おまけに人間関係は大の苦手。それでも中学まではテストの点数を勉強の出来ない騒いで群れる事しかできないヤンキーどもと比べて、見下して勉強ができる自分として自己肯定感を保っていた。


「自分はアイツらとは違う人間なんだ。」

だが、勉強ができる自分というアイデンティティも高専に進学した今や完全に失っている。


SNSでフォローもされていないヤンキーのアカウントがおすすめで流れてくる。彼らはとてもキラキラした高校生活を送っている。見下していた頭の悪いアイツらが自分より楽しそうで恵まれてる事を認めたくなかった。


「はぁぁぁ」

大きなため息をつきながら学校に向かうのも今や習慣になりつつある。


高専に入ってからは素直に生まれ変わろうと思ってたのに、プライドが邪魔をして素直に慣れない自分は友達と呼べる人が一人もいないのだ。


イジメこそ受けていないが、もはや空気として扱われている。いや、空気として扱われるような態度を自分がとってきた答えか。


友達がいないということを気にしているという自分を認めたくなかったし、「あいつ友達いないんだ」って後ろ指刺されるのも図星を突かれたようで許容できなかた自分は、無意識に話しかけるなオーラを醸し出していたのかもしれない。


しかしこのキャラを崩して、「仲間に入れて!友達になろう!」と言うことは自分のプライドが許さない。

傷付くより孤独の方がマッシ。携帯を買ってもらえずみんなの輪に入れなかった小中からずっとそうだった。


学校に着いてしばらくして朝礼が始まる。

「西村 葵!」

「はぃ」

担任の点呼に自分は気だるそうに答える。


そして今日も孤高の一匹狼を気取って寝たふりをするのが日常だ。


高専を辞めたいなんて親に言ったらきっと「将来はろくな仕事に就けないぞ」やら「高専すら卒業できなければ社会ではやっていけない」なんていうのだろう。


「こんな生き地獄が続くのなら死んだほうがマッシなのでは?」っと何回考えただろうか。


だが、自分には自殺する勇気も自分を変える努力もできない。いつか大きなキッカケさえあれば変われる。自分の人生を変えてくれる人や出来事さえあれば…


「キーンコーンカーンコーン」

授業もろくに聞かずそんな妄想をしていたら終業の鐘がなりこの間のテストの追試をバックれて家に帰る。


「明後日もテストなのにやべーなぁー」

帰りの足取りは行きとは違って軽やかだ。


家に帰って傷付いた自尊心は不祥事を起こした芸能人を叩いたり、ネットで気に入らない人をチー牛扱いしてストレスを発散する。

自分が言われて傷付く言葉を相手にぶつけるのはとても快感なのだ。ネットサーフィンをしてゲームをしてお気に入りの女優さんで抜く。


そんな毎日の繰り返し。


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