第4話 : 権利、そして不可逆
《ネコの意識》
会議室にて鑑定結果を話題に見識を交換していた所に何故か霧がかかる。比喩ではなく、物理的に。
会議室の正面、一番奥に置かれたホワイトボードの辺りに霧が集まる。何故だろうか、1ミリも体が動かない。動かそうとしているが金縛りにあったかのような現実感の無さと強ばり。目は動く、ほかの研究員も然程私と変わらない様子だった。普段から周りの人間の1歩後ろを場所取る癖のおかげでホワイトボードから私が1番離れていた為、全ての人間がぎりぎり視界に入る。
段々と霧は形を作り、やがて例の隕石になった。何故か今回は服を着ている、助かった、私の服を生物実験棟に置き去りにしてきたわけではないらしい。
そんなことを考えている場合では無いのは理解している。この会議室は地下5階。生物実験棟は地上の別棟であり、ここに至るまでに生体認証がある筈、あぁ、私の指紋や虹彩まで真似をしているのか。だとしても何故鍵を閉め密閉しているこの部屋に到達できるのであろうか。
もしや、人間が観測できる粒子よりも小さい固体の集合体でできているのか?
隕石は、初めて人間を睨みつけた。体は下を向いているが目だけはこちらを捉えている。睨みつけているだけで敵対意思は無いのかもしれない、だが研究員からすればどちらにせよ身の危険を感じるのであろう。
異様な威圧感から自らの意思で抗い、銃を構える周りの研究員達。私はそこまでに至らない、何故なら鉛弾でどうにか出来る硬度でないことを私は理解している。
研究員D「う、動くな…!う、撃つぞ!」
隕石「…た…」
研究員D「手を上げろ!」
研究員C「言語理解能力があるのか分からない生命体に大きな声を出すのは危険行為だ。落ちつくんだ。」
研究員D「その事は理解してる、理解してるが…」
隕石「…な…」
隕石は自分の体の自由を確かめている様子だった。手を握る、開くを数回繰り返し、二足歩行をしている。
だがまるで赤子だが人間とは成長のスピードが異なりすぎている。悪魔的な速さで体を操作している。
手を挙げるという動作にすぐに入れない辺り、流石に言語は理解出来ていない…か、会話する手段がないのか。
隕石「…」
隕石は無言のまま手を上にあげ、降伏の意思を示した。だが何故か言葉を理解して動いたようには見えなかった。
研究員達はあまりにも人智を超えた出来事に驚愕した顔色を隠せず、膠着した状態が10分続いた。
そして隕石はどういうわけか涙のようなものを頬に垂らした。