継続もまた才能の一つなり。
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『さぁ!感じているでしょうかこの高揚を!会場全体に満ちた期待の熱気を!!一日目とは比較にもならない待望の時間、その到来を!!見渡す限りの興奮を!!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
『ええ、ええ、ええ!!かくいう私も期待に胸が打ち震えて止まりません!!それも当然でしょう!七日間に渡る智霊大祭の最終日!!そして今、新星大会を勝ち残るたった一人の魔術師が決まるのです!!』
実況の声に答えるように、会場全体も震えていた。床が、壁が、振動していた。
それは決して闘技場が脆いという訳では無い。
轟雷の如き歓声が、第一闘技場全体を揺らしているのだ。
これまでのどの一日よりも巨大な歓声。それは彼等の期待の表れであった。
それも当然である。
この場に集まった観客の大半は最高学府に所属する魔術師である。
彼等は魔術の研究者であると同時に、魔術という未知の探究者でもある。
そんな彼等の好奇心は、凄まじいものだ。
それがどのような事象に向けられているのかは魔術師によって様々だが、彼等は一様に魔術に対して飢えている。知りたいと願っている。
魔術師同士の戦い、決闘が魔術師にとって特別大きな娯楽となっているのはこうした彼等の性質も大きいだろう。魔術師同士の試合ではその多様な魔術が飛び交い、技術を見ることができる。
だが、これはあくまでも理由の一つである。
最も大きな理由は……
「皆誰かが戦ってるのを見るのが好きなんだよなぁ、結局。後単純に暇だしよ」
「安全圏に居る場合、という前提が抜けているぞ」
「分かってるって。でも高尚な目的で此処に来てる奴なんて少数派だろ?」
「まぁ……それは否定はしない」
フリッツの言葉にエリンも消極的ながら肯定する。
新星大会の本来の目的とは、若き才能を見出すこと。決して魔術師同士の戦いを娯楽として消費する目的ではない。そちらはあくまでも副産物的なものだ。
魔術師に必要な物は知識、そして才能であるというのは多くの魔術師にとっての共通認識だ。
才能が有ろうと知識が無ければ、魔術師の道を進むことは出来ず。
知識が有ろうと才能が無ければ、魔術を十全に使うことが出来ない。
どちらも魔術師にとっては重要なものだ。
だが知識は自らの努力、鍛錬で身に着くものであるのに対して才能はどうにもならない。
勿論知識を、つまりは技術を身に付ければ魔術師としての力は伸びる。より効率的に魔術を発動させられるようになる。
だが魔術回路や魔力量といった生来のものによる差を技術で埋めるのは難しいのが事実。だからこそ魔術師の世界には家系という概念が重視されているのだ。血統魔術の存在も、こうした家系を重要視する文化を助長する一因であろう。
兎も角だ。
新星大会の目的とは実力ある魔術師を見出すことを目的にキセノアルド・シラバス学園長によって創設された大会。
実力とは即ち知識と才能を合わせた魔術師が持つ力量のこと。
最高学府に長く在籍すれば必然、知識に基づく技術が身に付き実力は伸びていく。だが三年目までの若き魔術師はまだ知識が身についていない状態だ。
故に三年目までという制限を設けることで、若き才能ある魔術師をより効果的に見出すことができるようにな大会になるという訳である。
最高学府の学徒は四年目からは自身の所属する部門を決めることになる。
そして才能ある魔術師を自身の部門に引き入れることはその部門の力を増す事に直結する。
言わばこの新星大会とは巨大な勧誘活動の一環なのだ。
「……今年から三学年合同の大会になったからな。その分娯楽としての側面が強くなったんだろ」
「まぁお偉いさん以外にはあんま関係ないっちゃないわな」
「ゼルマ……下手にこいつに同意するな。調子に乗るぞ」
「馬っ鹿!普通に真面目だわ!」
観客席にはエリン、フリッツに加えて珍しくゼルマの姿もあった。
普段なら講義の終わり等に良く出会っている三人。しかし智霊大祭の期間中は講義もなく、またエリンとフリッツはクリスタルの、ゼルマはフェイムの補助要員になったこともあって祭の期間中は中々出会う機会が無かったのだった。
そんな会話をしていると、会場全体にアナウンスが鳴り響く。
『さぁ!会場にお集まりの皆様!本日はこの栄えある新星大会最終日に足を運んで頂き誠にありがとうございます!大変お待たせ致しました!これより優勝を争う選手四名の入場です!!!!』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
割れんばかりの歓声と万雷の如き拍手に迎えられながら、会場の東西南北に開いた門からそれぞれ魔術師が入場してくる。
彼等はいずれも新星大会をそれぞれの闘技場で勝ち残った猛者。
間違いなく同世代における実力の上位者である。
四人の魔術師は地面に敷かれた道に沿って舞台上迄歩いて来る。
その間も歓声と拍手は止む事はなく、寧ろ期待が高まるにつれてそれ等も勢いを増しているようだ。
そして、遂に四人の魔術師が顔を合わせる。
これまでは別々の闘技場で戦っていた四名。今日この日が初めての顔合わせだ。
『皆さまご注目下さい!この四名の魔術師こそ!新星大会を勝ち進んできた猛者!しかも全員がキセノアルド学園長自らが見出した特待生!!特待生四名がこの場に揃い、優勝を争うことがこれまでにあったでしょうか!?これは新星大会始まって以来の激戦を繰り広げる予兆でしょうか!!??』
集まった魔術師は男性一名、女性三名。
四名中唯一の男性であり黒髪の魔術師ズィエ・ロルテン。
ゼルマも良く知る白髪の魔術師クリスタル・シファー。
一人異彩を放つ服を纏うフェイム・アザシュ・ラ・グロリア。
そして緊張感が無いのか観客席に向けて手を振っているのがカレン・ラブロック。
いずれも学年こそ違えど、特待生である。
「やはり特待生が勝ち残るか。予想はしていたが……」
「現実は残酷だってか?」
「まぁな。だが特待生全員に参加義務があるのなら、こうなるのは当然かもしれない。彼等は文字通りの『特別』な才能の持ち主だ。寧ろ……こうなることこそ学園長の望みだったのかもしれないが」
特待生は傑出した才能を持っているからこそ特待生に選ばれている。
学園長自らが選んだ、という事実はそれを確かなものにしている。
そんな特待生が知識よりも才能を重要視するような大会に出場……それも三年目までの全員が出場するとなれば最終候補者全員が特待生となる未来も決して予想外ではない。
そして学園長が態々彼等に大会出場の義務を与えたのも、『勝ち残り、特待生たる才能を示せ』ということなのかもしれないとエリンは考えていた。
「だがエリンも実力では負けてないと思うぞ。今回は参加しなかっただけだ」
「世辞は止してくれ。私は単に彼等より長い時間魔術を学ぶ機会があっただけに過ぎない」
「……それも含めて実力だと俺は思うけどな」
ゼルマのそれは本心であった。
エリンの種族はエルフ。精霊に近き人、森に住まう者、智慧ある人等の異名を持つ種族だが最も有名な特徴はその寿命だろう。
人種の平均寿命は約七〇歳程だが、エルフは最低でもその倍以上を平気で生きる。より純血のエルフ程その寿命は長いと言われ、王族ともなれば千年以上生きる。
エリンもエルフの中では若いとはいえ、年齢は六〇歳程。ゼルマが現在一八歳なのでエリンは既にゼルマの三倍以上も生きている計算になるのだ。
だが長く生きられることと、長く続けられることは全く別のことであるとゼルマは思う。
仮に寿命こそが魔術師の実力に比例するのであれば、全てのエルフは賢者として大成している筈である。魔術に限らずともだ。
だが実際にはそうでは無い。それは全てのエルフが魔術師として魔術を究める道を歩み続けられないからである。
そういう意味では、少なくとも同年代のエルフよりも遥かに賢明であり、最高学府に所属してから二年という年月で優秀さを証明するエリンは決して実力において特待生の彼等より必ずしも劣っているとは言えないだろう。
『ではこれより選手の方々には籤を引いて頂きます!この籤にはそれぞれ一か二の数が書かれており、引いた数が皆様が戦う試合の順番となります!!』
実況の声に合わせて、大会運営職員が一つの箱を舞台上へと運ぶ。
箱の上部には円形の穴が空いており、中は空洞になっているようだ。
箱の中身までは確認できないが、どうやらあれが籤の入った箱で間違いないらしい。
『念の為ですが、魔術等の手段を用いて結果を操作するのは固く禁止されています!もし不正行為が発覚した場合は大会運営を通して理事会並びに特待生の皆様に関しましては学園長まで報告がなされることもあり得ますのでご注意ください』
これは当然の規則である。
魔術を使えば箱の内部を見通すことが出来てもおかしくない。出来るとまでは断言しないが、そういう魔術も存在する以上可能性は否定できない。
加えて特待生にとっては学園長への報告というのは一番効く忠告だろう。ともすれば特待生としての資格を剥奪される危険性すらあるのだ。
特待生とは最高学府における様々な特権を認められた存在。その特権が無くなる可能性があるのならば普通態々不正行為を働こうと考える人間はいないだろう。
『さぁでは第一闘技場勝者の選手から順に籤をお引き下さい!』
クリスタル・シファーが一歩前に出て、職員の持つ箱の中へと手を入れた。
その後も順に籤を引いていき、全員が引き終わった時点で籤を開封する。
対戦カードはこのような結果となった。
最終日一試合目
クリスタル・シファー対ズィエ・ロルテン
最終日二試合目
フェイム・アザシュ・ラ・グロリア対カレン・ラブロック
『では改めて宣言しましょう!新星大会最終日―――開幕ですッ!!!』
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