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大賢者の末裔  作者: 理想久
第二章 魔術師の道程
28/87

人はその好奇心を抑えられない生物なのだ。

 

 ■◇■


『さぁ!遂に始まりました待ちに待った智霊大祭!!普段から活気溢れる最高学府ですが、智霊大祭期間中は普段以上の熱気に包まれております!』


 最高学府にアナウンスが響く。闘技場周辺から中央通りに至るまで、魔道具によって拡声された音声が最高学府の内部を揺らしていた。

 通りには出店が立ち並び、人に溢れ返っている。見れば魔術に関連する物だけではなく、料理や雑貨まで様々なものが売られていた。

 普段の最高学府以上の盛り上がりである。


 智霊大祭。最高学府で行われる三つの大きな祭の一つ。七日間に渡って開催される、最高学府最大級のお祭りだ。

 その由来はかなり古く、期間中は魔術師非魔術師を問わず様々な人々が最高学府にやってくる。大陸を見渡しても間違いなく最大級の祭りと言えるだろう。


 最高学府外の情勢や権力闘争に影響を受け難い最高学府だからこその盛り上がりという訳だ。


『一週間に渡って開催されるこの智霊大祭!中でも多くの魔術師が注目し期待しているのは、最終日にここ第一闘技場で決勝戦が行われる新星大会でしょう!』


 アナウンスを担当する魔術師が闘技場中央に浮遊する台の上から喋る。

 これも第一闘技場に備え付けられた魔道具の一種だった。台は中空で緩やかに回転している。


 第一闘技場は最高学府で最も大きな闘技場。

 それこそゼルマが決闘を行った第二闘技場やその他の闘技場とは一回り以上も広い。

 こうした大きな催しの際にしか解放されない、特別な闘技場であった。


『今年は例年の学年毎の開催から三学年合同の開催へと変更され、一つの大会としては最多の参加人数となりました!なんと今大会の参加人数は例年の二倍!しかも中には特待生も多く参戦しております!例年以上の実力者が参戦する密度の非常に濃い大会となりました!!』


「ま、去年の総参加人数より結構減ってるけどな」

「物は言いようだ。確かに去年の平均参加人数の二倍ではあるのだからな。嘘は言ってない」


 そんなアナウンスを観客席から退屈そうに見る二人の魔術師が居た。

 エリンとフリッツである。


「しかも『特待生も多く参戦』!って全員参加なんだろ?詐欺じゃん」

「特待生が全員参加していると知れば参加者はもっと減っていただろうからな。今から辞退する者が増えてもおかしくない。誤魔化すしかないんだろう」


 結局出場選手は当日まで発表されることは無かった。当日の朝、つまり今日の朝にやっと出場選手と試合進行の予定表が公開されたのである。

 運営側はこれを、新体制移行に伴うルール変更の一環と説明した。

 曰く、『これまでのシステムだと自分と戦う可能性のある者だけを対策出来てしまった。それでは真の実力を測ることに繋がらない』という。

 真実は分からないが、これを事情を知るエリンとゼルマは特待生全員参加によって学徒が出場を避けることを防ぐ為だと認識していた。


 だが勿論例外も居る。


「あーこうなると参加したくなってきたな……飛び入りとか駄目だっけ?」

「馬鹿言うな。今日から七日間は私達はクリスのサポートに徹するんだ」

「へいへい、分かってますよ。てか意外とやる事多いよな。これじゃ祭り楽しめないぜ」

「最終日以外は手分けして要注意人物の情報を集めることになるからな。期間中は殆ど闘技場に籠ることになるだろう」


 アナウンスが話していたように第一闘技場で七日目の最終日に決勝戦が行われる。それ以外の日でも第二闘技場、第三闘技場、第四闘技場までを解放して、期間中は毎日試合が行われる予定だ。

 流れとして同時に四試合を行い、各闘技場で六日目までに一人を選定。最終日に残った四人から優勝者を決めるというものだ。


「ゼルマはもう準備中かな?」


 フリッツがぼやく。第一闘技場の観客席にはゼルマの姿は無かった。


「フェイムの一回戦が第二闘技場だからな。今頃観客席で放送を聞いているんじゃないか?」


 サポートメンバーは他の出場者の試合を見て情報収集を行うのも役割の一つ。

 従来の大会では選手が自身で情報収集をしなければならないのが普通だったが、今大会ではサポートメンバー制度によってある程度選手に余裕が生まれている。


 今頃各選手のサポートメンバーは各闘技場の出場選手の情報を集めている所だろう。

 もっとも、公式に決闘などを行ったことが無い魔術師も中には居る。そういった魔術師の場合、実際に試合をしている所を見なければならない。

 ゼルマが現地に赴いているのも、単にフェイムの試合を見る為だけでは無かった。


『さぁ、長らくお持たせいたしました!ただいまより新星大会開幕です!』


 そしてアナウンスと共に、四つの闘技場で同時に試合が開始された。


 ■◇■


 第二闘技場、観客席。


 第一闘技場よりかは流石に劣るが、ゼルマの決闘の時よりも数倍の興奮が闘技場を満たしていた。観客席に座れなかった観客がなるべく近くで見ようと縁に沿って立っている。

 まだ試合開始まで少し時間はあるが、どの観客も待ちきれない様子である。


「………」


 ゼルマは配布されたトーナメント表を見る。

 フェイムの一回戦の相手は多少腕の立つ魔術師だった。

 勿論こんな大会に出場している時点で、戦いにならないような魔術師は居ないのだが。


 六門主やそれに準ずる名家の魔術師ではなく、特待生でもない。

 しかしゼルマと同年代の彼は、それなりに実力のある魔術師として知られている。


 つまり、


『さぁ開始予定時刻五分前となりました!!第二闘技場第一試合の選手の入場ですっ!!』


 先程とは異なるアナウンスが第二闘技場に響く。大会開始後は各闘技場に存在する運営の魔術師が実況を担当するのだ。

 因みに最終日は実況に加えて解説の魔術師も加わる。

 普段は滅多に姿を見せない六門主の魔術師が顔を見せることもあり、新星大会の決勝とは別に密かに楽しまれているのだ。


『東口から入場したのは現在二年目の魔術師リガ・アーティラ!非魔術師の家系出身ながら、めきめきと実力を伸ばし、直近の戦術訓練では非常に好成績を残しております!今大会ではどのような成績を残してくれるのか、期待の二年目ですね!』


 名前を呼ばれた魔術師、リガ・アーティラが入場し観客席に向かって手を振る。

 だが盛り上がりは少ない。

 勿論歓声はある程度あがるのだが、それでも第二闘技場に集った人数を考えれば少ない。


(少し可哀そうだが、当然だな。ここに居る奴等の殆どが見に来たのは………)

 

 そして、爆発するかのような歓声があがった。


『さぁ!たった今西口から入場して来たのは今大会最初の特待生!帝国に座する皇帝の血を引く者であり、その血統に劣らぬ才能と実力を秘めた少女!』



『グロリア帝国第五皇女………フェイム・アザシュ・ラ・グロリアぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 歓声が最高潮に達する。


 現れたのは黄金の髪を靡かせ、透き通る碧眼を備えた少女、フェイム・アザシュ・ラ・グロリア。その美しさは、例え観客席との間に距離があろうと、損なわれるものでは無かった。

 一歩歩くごとに、領土を広げる様な空気。確かな覇気を感じさせる者のオーラを纏っている。


 最高学府は広大であり、学徒の人数も膨大だ。

 学年が異なれば、普段過ごす校舎も異なる。故に違う学年の学徒を見る機会は少ない。

 この場に集った観客もそうだった。


 更にはフェイムは特待生であり、通常の講義には殆ど出席していない。

 故に、こうして大衆の前に姿を現す機会は今日が始めて。


 皆、興味を持っているのだ。

 最高学府に認められた才能、特待生の実力を。

 そして何より、彼の皇帝の血を引く者の実力を。


(………他の出場者もそりゃ見に来るか)


 ゼルマが周囲を見ると、歓声をあげる観客の中に何人か静かにステージを見守る者たちが居た。

 彼等は皆ゼルマと同じく、新星大会出場選手のサポートメンバー、或いは出場選手本人だ。


(トーナメントが発表された時からこうなるとは思っていたが、流石に対策はされるだろうな)


 新星大会は七日間に渡って試合が行われる。一人当たりの試合数もそれなりに多い。

 だが全員の情報を集める事は不可能だ。トーナメントが発表されたのは今朝の事であり、今からフェイムが戦う可能性のある選手全員の戦術や得意な魔術を探る時間は無い。

 こうなるとフェイムの様に名の知れた魔術師は不利になる。

 フェイムが様々な相手を想定しなければならないのに対し、相手は最初からフェイムに注目し、対戦することを想定して対策を立ててくるからだ。


 第二闘技場のトーナメントには特待生はフェイム含めて二人。その他に名の知れた魔術師がニ、三人といった所だった。

 ゼルマが見た所、他の闘技場に比べればかなり実力者は少ない方だ。

 一番混戦状態なのはクリスタル・シファーがいる第一闘技場。特待生やその他実力者が多数存在している。そこに比べればましだろう。


(………本音を言えばクリスタルは最終日に残って欲しくないが、多分残るだろうな。第一闘技場のどの魔術師よりもクリスタルの方が強い。正直三年目の特待生は戦闘向きの奴等じゃない)


 ゼルマがこの大会で特に警戒しているのは三人。

 一人は言わずもがなクリスタル・シファー。ゼルマは彼女を優勝させない為に参加している。

 二人目はアズバードの後継者、ナルミ・アズバード。六門主の正統な後継者だが、その記録は驚く程少ない。殆ど皆無と言って良い。

 だが彼の書いた魔術論文はどれも確かな才能に裏打ちされたもの。


 そして三人目、フェイムが話した一年目の特待生。


(名前は、カレン・ラブロック)


 特待生の情報は別に秘匿されている訳では無い。調べれば普通に判明するものだ。

 フェイムから存在を教えられ、ゼルマは翌日すぐに彼女の情報を調べていた。

 だが分かったのは素養入学で入学して来た全くの素人であるということと、魔術の実技に関する成績が好調であるということだけ。

 いっそ不自然とすら思える程に、彼女の情報が存在しなかったのだ。


 勿論ゼルマとて魔術師だ。血統が齎す魔術の素養がいかに魔術師にとって重要か知っている。

 皇族の出身であり幼少期より魔術の教育を受け研鑽を積んできたフェイムと、魔術を扱い始めてから一年も経過していないカレン。普通に考えればカレンがフェイムに勝てる筈も無い。


 だがカレンもまた特待生に選ばれている。

 

(何かがあるんだ。特待生に選ばれる何かが。………彼女はまだ最高学府で一度も試合をした事が無い。見られるとした第四闘技場だが………試合予定的に厳しいか)


 この一週間にどう動くかを考えていると、遂にアナウンスが流れる。


『さぁ!長らくお待たせいたしました!!開始時刻です!ただいまより、第二闘技場第一試合を開始します!!開始の合図と共に、試合を開始してください!それでは―――』


 そして、


『試合、開始ッ!!』


 第一試合、リガ・アーティラ対フェイムの試合が開始される。


 ◇


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