勝負は準備の段階で決まっている。
お待たせしました………。
■◇■
『ゼルマ・ノイルラーの〈火球〉がレックス・オルソラに直撃ィィィ!!足元から現れた〈土壁〉に体勢を崩した所を狙われました!!』
まさかの攻撃に、観客が沸き立つ。
〈火球〉は基本的な球の魔術だが、その威力は肉体を傷つけるには十分なものを有している。
直撃時の爆発が威力を証明していた。
『これは流石のレックス・オルソラも手痛いダメージを負ったかー!?』
周囲の目線が、レックス・オルソラに集まる。
〈火球〉衝突時の爆発によって生まれた煙によって、レックス・オルソラの姿は見えない。
だが突如、煙の中から針のような何かが飛び出した。
「ッ〈土壁〉」
その針はゼルマの生み出した壁に阻まれ、停止する。
そして針は壁に突き刺さったまま、その場に崩れた。
その針は、土というには細やかだった。
その針は、砂で出来ていた。
「―――流石に、防ぐか」
直撃から、煙が晴れる。煙の中から現れたのは薄い黄色の球体。
砂で出来た球が、煙の中から姿を現したのだ。
砂の球がサラサラと崩れ、レックスの姿が中から現れる。
それは砂で出来た球体であり、そして砂で作られた壁だった。
「………〈砂壁〉。屈辱だよ、まさかお前程度にコレを使う事になるとはなぁ………!!」
中から姿を見せたレックスの身体には傷一つ見られない。
完全な無傷。ゼルマの放った〈火球〉はレックスの〈砂壁〉によって阻まれたのだ。
「だがもう終わりだ、こっからは泣いて許しを請っても許さねぇ。徹底的にいたぶってやる」
「望む所だ。さっさと来なよ、先輩」
「生意気なんだよ、落ちこぼれのノイルラーがッ!!」
◇
戦闘の段階が一つ上へと移行する。
レックスの使う魔術が変わった為だ。
「おいおい!ありゃなんだよ!?」
フリッツが身を乗り出して、舞台上の二人を見る。
レックスの放つ砂の魔術は変幻自在に姿形を変え、ゼルマを攻撃する。
剣の如き形、槍の如き形。レックスの元から伸びる砂の塊が蛇の様にゼルマを追跡し、攻撃する。
そしてゼルマの放つ攻撃に対しては再び球体に形状を変化させる事で防ぐ。
単純に土の槍を射出する〈土槍〉とは明らかに異なる魔術の形。
より自在で、より攻撃的な魔術。正に攻防一体の戦い方だった。
「あれがレックスの本当の戦術、という事だろうな」
「土属性魔術にあんなのあったか………?」
「はぁ、お前はもう少し勉強しろ。あれは………」
「砂魔術、ですね」
「ッ!?」
「ありゃ、見に来てたかのよ。アンタも」
不意に横から声が挟まる。
エリンがそちらの方向を向くと、そこに居たのは一人の美少女だった。
「クリスタル、シファー」
「お久しぶりですね。食堂の時以来でしょうか」
「………何をしに来たんだ?」
「勿論観戦する為ですが………駄目でしたか?」
エリンの態度に少々棘が出るのも当然だった。
今現在ゼルマが決闘をしているのは他ならぬこのクリスタル・シファーという少女が原因なのだから。
クリスタル・シファーによって産まれた因縁が、彼女の知らぬ場所でゼルマにやって来た。そしてゼルマは退学を賭けて戦っている。
本来ならこの場に立つべきなのは、彼女の方であると、そうエリンが思うのも無理は無い話だった。
だがそれはクリスタル自身は何も知らぬ事であり、彼女自身は悪くないのだ。
「駄目じゃねーよ。ただアンタがこういう場に来るってのが意外だったってだけだ」
そんなエリンの内心を慮ってか、フリッツがフォローする。
「確かに。今までの私なら、決闘なんてものを見に来る事は無かったでしょうね」
「なら今回は何故だ?流石に責任を感じたか?」
「勿論それもありますが………面白いものが見れると先生に言われましたので」
さらっと皮肉を交えたエリンの言葉も物ともせず、クリスタルはエリンの横に腰掛けた。
「………そんで、砂魔術って?」
「砂魔術は土属性魔術の系統の一つです。土よりも細やかな砂を生みだし操る魔術ですが、高度な魔力操作が必要な為に使用する魔術師は少ないそうです」
「その少数の魔術師も砂魔術を専門にしている者は少ない。オルソラ家は数少ない砂魔術の専門家として本国では〈砂蜥蜴〉の名で知られているらしい」
「何で少ねえの?」
「砂魔術の用途が水魔術と似通っているからですね。自由自在な形状は水魔術でも同じ性質ですから」
「形状は自在だがその分硬度が足りないのも理由とされているな」
普段の解説役が二人になった事でフリッツの疑問も普段の二倍の情報量で回答される。
「ふーん、そんなのがあんのか」
「お前の生得属性は土だろう。それ位覚えろ」
「うっせー!俺の得意分野はそういうのじゃねーんだよ!」
フリッツが叫ぶ。実際フリッツの戦闘方法は魔術師の中でも少数派の近距離戦闘主体の魔術師。砂魔術の様な攻撃魔術はそもそもの気質からして無縁だ。
だからと言って学ぶ意味が無い、という訳では無いのだが………フリッツの性格からして難しいだろう。
「………ゼルマさんは少々厳しいように見えますね」
「………」
「先程から〈火球〉、〈土球〉、〈土壁〉の三種類の魔術師か唱えていません。もし他に手が無いのであれば………オルソラの攻防一体の砂魔術を突破する事は不可能です」
これは純然たる事実だった。客観的な評価だ。
そもそもゼルマの攻撃がレックスの防御を貫け無いのであれば、最早勝ち目は無い。
魔術師の実力が急激に伸びる事は無い。
地道な修行を重ね、魔術を学び、理論を立てる。
その積み重ねが魔術師個人の力になる。独自性に繋がるのである。
「少し、期待していたのですが………やはり生まれ持った才能の壁を越える事は不可能なのでしょうか」
クリスタルがそう呟く。
その言葉は、淡々としていながらも、どこか寂しげな雰囲気を纏っていた。
そして。
「なら良かったな。アンタの先生は見る眼があるぜ」
「?」
「今からきっと………面白いもんが見れるからな」
再び戦況に変化が訪れる。
◇
舞台上に伸びる砂の針。
先端は鋭く尖りながらも、縦横無尽に動く触手の如き砂がゼルマを襲う。
しかしゼルマもしてやられてばかりでは無かった。
砂の針を避けながらも攻撃を繰り返す。
ゼルマの魔術は的確に砂の針の合間を潜り抜け、レックスに届く。
レックスの防御壁は強固だが、しかし万能では無い。
レックスが一度に操れる砂の総量は決まっている。これはどの魔術師にも言える事だ。
魔術の威力は生身で受けるには余りにも高い。
特にゼルマの使っている〈火球〉は着弾時に爆発と延焼を伴う。
故にレックスはどれだけ小さな攻撃であっても、攻撃に用いるリソースを割いて防御せざるを得ない。
勿論肉体を魔力によって強化すれば、ゼルマの攻撃程度の威力であれば軽傷で済ませる事も出来るだろう。だが、それはレックスのプライドが許さない。
何故ならこの決闘はレックスにとって圧倒的に勝つ為の戦い。
オルソラ家の砂魔術を解禁した今、レックスはゼルマを徹底的に負かす必要があるのだ。
「………ハハ」
周囲の注目が集まる中、レックスは自身の操る砂の魔術を停止させ自身の元へと戻した。
「………」
ゼルマは回避行動を止め、その場で立ち止まった。
観客にもまた、静寂が訪れる。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
突然。レックスが大声で笑った。
それは余りにも大きな声で、突然だった。
舞台にかけられていた拡声の魔術の調整が間に合わず、闘技場全体に声が響き渡る程に。
そしてピタリと声を止め、口を開く。
「………もう止めだ。こんなやり方は面倒臭せえ。最初はお前をじっくり痛ぶってやるつもりだったが………チマチマチマチマやるのは性に合わねえわ、やっぱ」
そう言うとレックスは自身の杖を振り上げた。
「圧倒的に壊す。やっぱこれが一番速くて良い」
その言葉が何を意味するのか。
恐らく闘技場に集った全員に察しがついた。
現代魔術は手数の魔術。
だが手数で勝負がつかなかったのであれば、或いはその戦い方を止めるのであれば。
答えは一つだ。
「砂塵に塗れた双眸、強壮なる瞼」
詠唱が、始まる。
魔術節を用いて魔術式と成し、効率的に魔術を唱える現代魔術とは異なる魔術の発動方法。
言葉を用いて魔術式と成し、上位存在より賜った権能の一部を拝借する魔術。
即ち、古代魔術。
「―――〈火球〉!」
ゼルマが魔術を発動させる。
レックスの詠唱を妨害する為に、攻撃する。
だがレックスの足元に溜まった砂が盾と化し、攻撃を防ぐ。
簡易的な盾だが、それでも一撃防ぐだけなら十分だった。
「レイザディの爪、隠れたり」
それこそ、オルソラ家に伝わる血統魔術。
砂と爪の神レイザディから与えられし魔術が一つ。
砂の刃によって対象を切り刻む、凶悪なる攻性魔術。
「――――――〈流砂の暗器〉」
詠唱が終わり、生み出された砂が地を這いゼルマへと向かう。
次の瞬間、数多の砂刃がゼルマの肉体を切り裂いた。
◇
『き、決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!レックス・オルソラの古代魔術がゼルマ・ノイルラーの肉体を切り刻んだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
誰もがその光景を見ていた。
砂刃によってゼルマの肉体が切り裂かれる様を、闘技場に集った者達が固唾を飲んで見ていた。
多くの魔術師が驚き、信じられないものを見ているかのように静かにしていた。
その魔術は先程迄の魔術がお遊びにすら思えるような凶悪な魔術だった。
〈流砂の暗器〉。神レイザディの権能である砂と象徴である爪を魔術の形として用いるオルソラ家の血統魔術。
自由自在な形状を特性とする砂魔術の特性を大いに使い、鋭利な刃を形成する。
刃を地を這うように対象へと伸び、そして足元から現れ対象を切り刻む。
暗器の名に相応しい。初見では先ず対処不可能の攻撃魔術………いや、暗殺魔術。
オルソラ家が〈砂蜥蜴〉と祖国において知られる最も大きな理由が、かつて政敵となった一族をその魔術で切り裂き暗殺したという逸話によるものだ。
「ハハッ………!ハハハハハッ!!!ついうっかりやり過ぎたが………意識さえ残ってりゃ良い!!おい、審判さっさと勝敗を宣言しろ!!」
レックスが勝利を確信し、舞台外にて待機していた最高学府の職員に向かって叫ぶ。
だが、動かない、動こうとはしない。
その職員ですらも、静かに舞台上を見ていたからだ。
「おい、審判!何してやがる、さっさと………!」
現代魔術に比べ古代魔術の威力が高いのは常識の範囲内である。
故に、その場に集った魔術師が驚いたのは威力ではない。
その一点から目を離さなかったのは、威力が理由ではない。
「なん、だとぉッ………!?」
確かに〈流砂の暗器〉はゼルマの肉体を切り刻んだ。
魔術の威力は普通の人種が耐えるには余りにも凶悪なものだった。
レックスは目を見開いた。
そこに立っていたのは、血塗れのゼルマ・ノイルラー。
滴り落ちた血が足元に血溜まりを作り、今も尚身体から滴る血が舞台に広がっている。
だが、誰がどう見てもゼルマは戦闘続行不可能ではない。
「何、で………!?俺の魔術は、確かに手前を切り裂いた筈だッ!」
レックスが叫ぶ。
〈流砂の暗器〉はオルソラ家を〈砂蜥蜴〉たらしめた血統魔術。
レックスの保有する魔術の中でも、最も凶悪な性質を持つ魔術だった。
「ああ、確かに切り裂かれた。痛かったよ」
「痛かったで済む訳ねえだろうがッ!!その出血!傷!耐えられる筈がねぇ!!!!」
「だが耐えている。これが事実だろ、先輩?」
「―――ッ!!!!!」
「まぁ、丁度専門家が居たんでな。工夫させて貰ったってだけだ」
そう、レックスがどう言おうとも否定しようとも、目の前にある状況が全て。
レックスの切り札を耐えられ、ゼルマは耐えている。
そして、時が満ちた。
「さて、チマチマチマチマ………だったか。同感だな、俺ももう疲れた」
「あぁ!?」
「俺にも切り札位あるって事だ」
その瞬間。
観客だけではない。
その場に集った全ての魔術師が、ソレを見た。
「遅延魔術………起動」
◇
「勝負あったな」
「ああ、ひやひやしたぜ………てかアイツ後で問い詰めねえとな」
「どういう事でしょうか?」
ゼルマとレックスが会話している様子を見て、エリンとフリッツがそう話した。
何かを把握している二人を見て、クリスタルがその訳を問う。
「あの攻撃をどう耐えたのか、ここからでは把握出来ませんでしたが………ゼルマさんの傷は相当深いように見えます。対しレックスは未だ健在です。圧倒的不利のままです」
「つまり、ゼルマはこの戦いの中で使用する全ての魔術たった今発動し終えたということだ」
「全ての、魔術………?」
その時。
『遅延魔術………起動』
拡声された声が闘技場に響いた。
「ゼルマの得意分野は魔術の連続的起動だが。当然それは大賢者の導き出した理論には到底及ばない。魔術の連続的起動には、既に大賢者の導き出した解答があるからな」
魔術の連続的起動。
つまりは魔術をいかに連続的に発動させるか、という分野の事だ。
ゼルマの唯一得意とする分野がそれだった。
だが不運な事に、或いは世界にとっては幸運な事に魔術の連続的起動という分野には既に解答が存在していたのだ。
魔術陣。それは大賢者を語る上でも特に知られる魔術理論だ。
それは魔術を発動待機状態で保存する技術。
その技術を使えば発動時に魔術陣に魔力を通すだけで、予め保存していた魔術を瞬時に発動できる。それまで打ち切りでしかなかった現代魔術を大きく進歩させた技術。
予め準備しておくが為に複数の魔術陣を同時に発動出来る、連続で発動も出来る。
それまで遅延魔術という方法しかなかった世界に、革命をもたらした新技術。
この技術を応用して魔術書の研究も大いに進んだ。
魔術の連続的起動という分野は、魔術陣による完全な同時かつ連続発動によって結論を迎えた。
魔術陣は高等技術。どれだけの魔術を待機状態に出来るかは魔術師の力量によるが、それは関係ない。
これが結論なのだから。
魔術陣が使えないのであれば、それはその魔術師の修練が足りないのだから。
故にゼルマの理論は時代遅れだった
いかに魔術を連続的に起動するか、というテーマは既に結論が出ている。
それだけ魔術陣という技術は革新的だった。
遅延魔術という理論は時代遅れの産物であると、そう考えられている。
ゼルマが魔導士に認められる事は無い。
彼が唯一得意とする魔術の連続的起動には越えられない結論が出ているのだから。
強いて言うのであれば、時代が悪かったのだ。
ゼルマに付けられた蔑称である落ち零れのノイルラーとは、元を辿ればゼルマの秀でた特性が既に時代遅れでしか無かった為に付けられたものだった。
唯一得意な魔術分野が既に時代遅れ、ノイルラーという家系も訳あり。
故に、時代遅れの魔術師。
―――だからこそ、ゼルマはこの状況を利用した。
空中に浮かぶ、百を超える炎の槍。
遅延魔術によって発動を遅らせていた、ゼルマの発動していた魔術たち。
地上を狙う、〈火槍〉だった。
『な、なんだあれはーーーーーーーーーー!!??』
実況が舞台上空に浮かぶ炎の槍を身を乗り出して見ていた。
舞台上空に浮かんでいるだけに、その魔術はどの席に居る観客からも良く見えていた。
それは舞台に居るレックスでさえも。
「魔術の超多重起動………!?そんな、まさか………魔術陣を!?」
「違う。ゼルマのはそんな高尚な技術じゃねえよ」
「あれは単なる工夫と、気合だ」
◇
ゼルマは決闘が決定し、自身の方針を決定してからすぐに遅延魔術を用いて〈火槍〉を発動し続けていた。
決闘中も、常に〈火槍〉を発動させていた。
ゼルマが簡単な魔術しか発動させていなかったのは、遅延魔術に意識を割かれていたから。簡単な魔術しか使う余裕が無かったからだ。
魔術陣は事前に魔術を準備し、待機状態にする事で好きなタイミングで好きなように魔術を発動する技術。
対し、遅延魔術はあくまでも発動を遅らせているだけ。遅延の待機中常に意識を割かなければならず、しかも遅延魔術という技術自体に魔力を消費する。
だが、ゼルマが今回の戦いで見せたのはゼルマの理論を証明するもの。
それは遅延時間に差をつける事で複数の魔術の同時発動を可能にする技術。異なる遅延時間の魔術を発動させ続ける事で同時に魔術を発動する技術。
魔術陣という高等技術が無くとも、既に体系化されている遅延魔術を用いる事で魔術陣の効果を一部代替する技術である。
魔術陣は高等技術であるが故に、待機状態にしておける実質的な魔術の数は少ない。
一流と呼ばれる魔術師でも数十程度が殆どだ。百には届かない。
だが遅延魔術ならば、より簡単にそれが為せる。
気合と根性。そう表現すると魔術師には似つかない。
だが事実、ゼルマは己の精神力を総動員し約二日間もの間常に魔術を発動させ続けた。
言わば、廉価版魔術陣とも言うべき技術。
最初にこの理論を提出した際は、魔術陣に劣る、実践では非現実的として認められなかった。
だがレックスは間違いなく格上、そんな魔術師相手にこの理論を成功すれば、十分な実績となる。
少なくとも時代遅れの、実践では非現実的な魔術理論では無くなる。
「さて、先輩の壁は俺の〈火槍〉を何発防げる?」
間に合った、というのは限界ギリギリまで魔術を発動させ続けていたから。
半端な数で防がれれば、それこそゼルマに勝機は無い。
確実に一度の攻撃で勝負を決せられる数を用意する時間稼ぎ。
決闘中にゼルマが地道な攻撃を続け、受けに徹していたのもこれが理由だった。
そうして用意されたのは、百を超える一撃という矛盾で勝敗を決する為の魔術。
「十か?二十か?それとも百か?比べてみようぜ」
この攻撃を成す為には、レックスが油断した上で大技を発動し集中が途切れたタイミングを狙わなければならない。
「あ、ああ――――――!!!」
勝負を確信したレックスはそれまで発動させていた砂の魔術を解除していた。
足元にはもう、砂は無い。
「………〈火槍〉」
計百二十四発の〈火槍〉が飛来する。
レックスが〈砂壁〉を唱えるが、もう遅い。
百二十四発の〈火槍〉はレックスに着弾し、轟音と爆風と共に会場を支配した。
■◇■
〇魔術陣
多くの魔術分野に革命をもたらした大賢者の魔術理論。
予め魔術を発動し、発動待機状態で保存する技術。
保存した魔術は魔力を通す事で好きなタイミングで発動できる。
保存可能数は魔術師の力量にもよる。