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最初の出会い


今日、仕事の休憩時間に妻からメールが来た。

「大切な話があるから早めに帰ってきて欲しい」と非常に不穏なメールである。


 彼女は、昔から僕にとっては、なかなか理解できないパラレルワールドの住人で片思いの女の子、仲の良い友人、恋人、そして今や愛すべき妻である。

 彼女との出会いはなかなかに古い、僕と彼女が10歳の春。

 僕はあの日、両親とささいなことで喧嘩して祖父母の家にバスで家出の途中だった。

 むしゃくしゃする気持ちを鎮めるために外を眺めながら気を紛らわしていた。

途中のバス停でえんじ色のスカートと白いブラウスを着て赤色の手提げ袋を持った同い年位の女の子がバスに乗ってきた。

彼女は僕が座っている場所からだいぶ手前のほうの席についた。

バスに乗ってほぼ10分足らずで彼女は居眠りを始めた。

後から見ると、彼女の頭が下にゆっくりこっくりこっくりと動いているのが見えていた。

彼女の豪胆さに驚いた。

僕はバスに乗る時、降りるバス停が気になって眠れないたちだ。

電車でもそうだ。

小心者なので眠くならないのだ。

彼女はちゃんと起きることができるのか、でももしかしたらバスに慣れていて居眠りをしても大丈夫な人なのかもしれないと心配をしながらも、同時にそんなふうにも思っていた。

揺れる彼女を見ているうちに僕の苛立ちは落ち着いていった。そして終点のバス停まで着いた。僕は降りようと、身の回りのチェックをして、立ち上がった。

そして、彼女がまだ居眠りをしていることに気がついた。

僕は後からその様子を見ながら声をかけようか迷っていた。バスの運転手さんが「終点ですよ」と大きな声で運転席からこちらに話しかけた。

彼女はびくっとして、慌てて立ち上がり、握っていたバスの料金を運転手さんに渡して、慌てて走っていった。

運転士さんはぽかんとした後にはっとして女の子の後ろ姿に「料金足りませんよぉー」と叫んでいたが、女の子はわき目も振らず、気づきもせず走り去っていった。

運転手さんは困っていた。僕は何が起きたのかわからず、それを見ていた。

そして彼女の赤色の手提げ袋がそのまま座席に置いてあることに気がついた。

彼女は居眠りをしていて、途中で運転手さんの声に驚いて忘れていたらしい。

さらに降りるバス停を間違えて降りたため、手に持っていた料金も全く足りないと言う状況になっていることに気がつかなかった。

僕は少し考えて彼女の手提げを拾い運転手さんに彼女の足りないお金を渡して自分の料金を払い、運転士さんに「あの子に忘れ物届けるね」と言ってバスを降りた。

もしかしたら手提げ袋を忘れたことに気づいて戻ってくるかもしれないと少し考えたが彼女が走っていた方向に行ったらすれ違うこともないだろうと考え直し持っていってあげることにした。

彼女が走って行った方向に僕も歩いて行くと、彼女が鼻の前に両手を当てておろおろしているのが見えた。一瞬手提げを忘れているのに気がついて戸惑っているのかと思ったけれどよく見てみると、白いブラウスが点々と赤い雫が落ちていることに気がついた。多分鼻血だと思う。僕は彼女に手提げを渡そうと近づこうとしたが、彼女は走って公園のほうに行ってしまった。多分公園のトイレや水飲み場、で顔や手をきれいにしようと思ったんだと思う。

僕は同じ年代の女の子が鼻血が出ているところを同じ年代の男の子に見られるのは恥ずかしいんじゃないのかなあと一瞬で思い至った。

どうしようか迷ってトイレの出口近くの桜の木の枝に手提げ袋を引っ掛けて。

もし使ってもらえたらいいかなと思いながら、ハンカチもその手提げ袋の上に置いておくことにした。

知らない人のハンカチなんて使いたくないかもしれないけど、結構服も汚れていたしハンカチで隠すこともできるかもしれないといろいろ考えてそうすることにした。

そして引っ掛けた後物陰からこっそり覗いて彼女が出てくるのを待った。

彼女は公園のトイレットペーパーで鼻を押さえながら出てきた。そして少しびっくりした顔して桜の木を見ていた。枝に引っかっている手提げに気がついたようだった、そして、僕が置いておいたハンカチを手に持って手提げの中を確認していた。

そして自分のものだとはっきりと確認を終わった後、辺りをキョロキョロ見回して大きな声で「ありがとう」と言った。僕はなんだかとっても嬉しくて、彼女のヒーローになった気持ちになった。

 その後彼女がどうなったのかはわからないけれど、祖父母の家に行った後両親とはすぐに仲直りした。

家出の理由は、ささいなことだったし、もう怒る気にもなれなかった。これが彼女とのはじめての出会いだった。

僕が住んでいる場所と彼女が住んでいる場所は離れていたし、その後当分会う事はなかった。だけど、祖父母の家に遊びに行く時はあの子がもしかしたらいないかなぁ、あの後どうなったのかな、なんていつも心の隅っこの方で思っていた。そんな中2度目の出会いは13の時、祖父母の家の近くの本屋にいった時だった。またしも春だった。


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