第8話 ダンケルクを突破せよ!第二段階
第19機甲軍団は、メインディッシュであるダンケルクを平らげるべく、展開を始めていた。
作戦計画は既に決まっていたものを採用し、少々ばかしの変更を加えて、作戦を開始した。
ここで、第19機甲軍団の兵力を確認しておこう。
第1機甲師団、第2機甲師団、第10機甲師団で編成されているわけだが、兵力に心配がある。
いくら戦意の低い相手でも、その数は30万を超える大軍である。
これにはどうするかを会議で決定した。
「ラインベルガー、君の中央突破はシンプルかつ強力な一手になるが、兵力に一抹の不安があるぞ」
「それについては、他の軍団に協力を仰ぐべきでしょう。ラインハルト機甲軍団が真っ先に思い浮かびましたが」
「ふむ、それはいいが。恐らく、上からの命令に従うだろう」
「それについては、手を打ってあります」
「・・・何?まだ何か手があるのか?」
「はい、これはもう正直奥の手でしたが、自然に発生するものでしょう」
「それはいつ発生するのかね?」
「少なくとも、我々が単独で行動を始めたことが上に伝わり、それを知ったトップの人が、発破をかけてくれる手筈です」
「トップ・・・まさか、総統閣下が直々に命令を!?」
「はい、だから奥の手です。総統閣下には、内密にダンケルクについて詳しく説明しています。その際、必ず停止のすることのないよう、念を押しておきました」
「仮に、誰かが停止を叫んだら?」
「それについても、必ず拒否して攻撃を続行させるように、伝えてあります」
「では、なぜ軍集団からの通信を閉ざしたんだ?」
「それについては、我々の上司、ルントシュテット閣下の面子を保つためです。確かに壊さずとも自然と攻撃をすることができましたが、それでは後になって必ず面倒な恨みを買うことになりますから。あくまで事故を装い、その後になってから総統がバックについてくれる、という流れを想定していました」
「そうすれば、ルントシュテットは色々指示を出さなくてはいけない状態になる。無論、他の軍団の投入も。それが狙いか、ラインベルガー」
「はい閣下、正解です。あと、命令を待たずに早めに行動をしたかった、というのもあります」
「ははは!!末恐ろしいやつだ、まったく!」
グーデリアン閣下は笑ってしまう。
ともかく、これで兵力については心配がなくなったわけである。
少なくとも、攻撃を開始した2日後、早ければ次の日には増援がくるであろう。
「は!?な、なんだと!?間違いないのか、それは!」
ルントシュテットが報告を聞いて驚いていた。
停止命令を出したはずの第19機甲軍団が、単独でダンケルクを攻略しようとしているのだ。
まさか・・・命令が届いていないのか?
何かがあったのは確実だが、通信機器の故障でもしたのかもしれない。
しかしだ、命令に従っていないのは一目瞭然である。
だめだ、私の下でそんな勝手な行動はさせれない!
いくらなんでも単独での攻撃は危険すぎる上に、停止命令を出したのにも関わらず攻撃をしようというのか・・・
「とりあえず、待機しろ。上に報告する」
報告の兵が焦り気味に答える。
「しかし閣下、これは大きなチャンスです!」
「だめだ、命令は守ってもらわんと」
「しかし・・・」
「早く上層部に報告する文を作るんだ」
「・・・了解しました」
報告を受け取ったカイテルが、たじろいでしまう。
「え・・・どう報告すればいいんだ・・・」
報告はしなくてはいけない。
とりあえず、総統に現状を報告する。
「なるほど、分かった」
「総統閣下、これはグーデリアンの命令違反ではないでしょうか」
「ふむ、確かに私もそう思う」
「では!」
「まぁ待つんだカイテルよ。話を聞くんだ・・・確かにはたから見れば命令違反だ。しかし、そんなことをする理由がないじゃないか。私が思うに、何かトラブルがあって、それで通信が繋げない状態なのではないか?」
「・・・えぇ、まぁ、確かにそうですね」
「うむ。何よりだ、将来のことを考えるとダンケルク攻撃は真っ当な判断だと、私は思うぞ!」
「・・・了解しました。では、攻撃を続行させます」
「そうしてくれ」
「なんだと・・・総統命令だと?」
ダンケルクを集中して攻撃せよ、との文章が書かれた命令であった。
理由は、将来の国益のためか・・・
こうなっては面子もクソもない。
総統命令に反対することも不可能だ。
・・・仕方がない。
「総統閣下の命令に従い、ダンケルクを早期攻略する。そのため、現在何かしらのトラブルにより、通信が途絶えている第19機甲軍団だけでは兵力不足だ。そのため、ラインハルトとヴィータースハイムの軍団を投入する」
ルントシュテットが上に報告している間、既にダンケルクの戦いは始まっていた。
ダンケルクに向かって大量の砲爆撃を浴びせており、敵兵にとって心理的圧迫は凄まじいものがあった。
ダンケルク方面を見ていた司令部に、大急ぎでオートバイが入ってきた。
連絡の兵が報告した、ルントシュテットからだ。
「第19機甲軍団は全力でダンケルクを攻撃せよ」
なるほど、上手く動いてくれたか。
「君の考え通り、ことが運んだようだな」
「はい閣下、私も一安心です。これで、心置きなくダンケルクを攻撃できる」
連絡の兵は、ん??と疑問の顔を浮かべるが、次の仕事があるため急いで司令部を後にした。
5月24日。
この日は砲撃で始まった。
偵察機の報告で、敵の陣地の位置はあらかた把握している。
制空権は完全にドイツが握っており、ゲーリングも気合い十分なのか、かなりの爆撃隊を投入しているようだった。
上空を見ると、大規模なルフトバッフェの編隊が綺麗に整列してダンケルクに向かっている、その更に上に戦闘機隊が護衛していた。
こういう景色を見ると、どうしてもエース・ハイ・マーチが脳内で再生される。
いや、スツーカの歌もいいな!
・・・やっぱり、航空兵よ、飛翔せよ!かな。
現状、総攻撃は第10機甲師団が到着次第開始される。
こちらが仕掛ける前に、相手が仕掛けてきたら面倒だが。
「閣下、敵は先手を打ってくるでしょうか?」
「これだけの砲爆撃だ、流石に相手も勘付くだろう。そしたら、先手を打ってくるかもな」
「でしたら、私なら、今夜決行します」
「ふむ、敵の戦意の高さから見ても、攻撃に参加する兵士はそれほどの数ではないだろう」
「一応、警戒として、二人に一人見張りをするべきでは?」
「攻撃前夜は休ませたいが?なら、四人に一人は?」
「いえ、ここは念には念を」
「ふむ・・・なら、そうしよう。二人に一人、見張りをつける」
翌日の25日、早朝
朝の挨拶後、開口一番にグーデリアン閣下が
「まぁ・・・なんだ、そういうこともあるさ」
「はい・・・」
昨夜はぐっすり眠れるほど静かで、結局途中から警戒を緩くしたのだった。
まぁ、なんだ。
結果的に兵もある程度休めたし、よかっただろう、多分。
・・・多分。
さ、気を取り直して、攻撃を開始しよう!
砲撃が開始された。
更に、前線からの迫撃砲もフル稼働させ、攻撃を加え続ける。
更に、ルフトバッフェの近接支援も開始され、たちまち黒煙だらけになった。
しばらく経って、ふと東の空に目をやると、とんでもないものを発見した。
「グーデリアン閣下!!あれを!!」
ラインベルガーが指を刺した方向を見ると、凄まじい数のルフトバッフェの航空艦隊が、ダンケルクに向けて飛行していた。
編成は護衛の戦闘機隊メッサーシュミットBf109E型に、地上攻撃隊の急降下爆撃機Ju-87、更には水平爆撃をすると思われるJu88爆撃機が、綺麗な隊列を組んで進んできた。
「これはすごい!!ゲーリングのやつ、やっと本気を出したか!」
流石のグーデリアン閣下も驚く。
情報によると、同規模クラスの爆撃が2回連続して行われるようで、その徹底ぶりには感激すら覚えた。
先に飛行していた偵察機Hs123が、あらかじめ把握していた目標及び、新たな目標を仕切りに爆撃隊に指示しているようだ。
「諸君、ダンケルクの連合軍に、度肝を抜かしてやろうじゃないか!」
まだ若いシュトゥーカ隊のリーダー、オットー大尉はここ一番を前にして、部下たちの士気を上げた。
あとほんの少しで、ダンケルク上空に到達する。
周りを見て、再度その圧巻さに感動する。
凄まじい数だ、これだけいれば我が空軍だけで事足りるのでは?とすら思ってしまう。
ダンケルク上空へ到達し、偵察機から爆撃目標を指示される。
目標は要塞のようで、綺麗に吹き飛ばす必要がある。
目標を視認し、真上までくると、部下にも続くように命令を飛ばす。
スロットルを閉じ、ダイブブレーキをかけると、一気に急角度で降下を開始する。
独特なサイレンを爆音で流しながら、ここだ!というところで爆弾を投下する。
50kgが四発で、最後に少しずらして250kgを落とした。
すぐに機首上げに入ると同時に、後方を確認した。
「どうだ?」
「お見事!命中しました!敵の要塞は吹っ飛びましたよ!」
相方の機銃手が報告した。
「全機、隊列へ戻れ!これより帰投する」
いやはや、圧巻的だ。
至る所で黒煙が上がっており、もはや勝負はついている、とすら思ってしまう。
さて、後は我々の出番というわけだ!
「グーデリアン閣下、時は満ちました。戦車を前進させましょう!」
「うむ!諸君、英雄になりに行こうではないか!」
後方から戦車のエンジンとキャタピラーの音がしてきた。
その後ろには歩兵が続く。
兵力の大まかな配置は、主力をダンケルクの真南から集中して突っ込ませ、それ以外の方面は適度な戦車隊と歩兵を主とした。
一気に中央を突破し、早期に決着をつけようという作戦である。
攻撃を開始してすぐに、中央は突破を開始していた。
「順調のようだな、進撃が早すぎるくらいだ。ラインベルガー、こういう時、注意すべきことは?」
「突出部に対して、相手が側面から攻撃をし、突出部が包囲されることです」
「その通りだ、注意してくれ。相手の動向を注意深く観察するんだ」
「はい閣下」
今回の攻撃は中央駅を目標としており、中央駅を占領すると、事実上ダンケルクは真っ二つ、ということになる。
攻撃を開始してしばらくして、要塞線の突破に成功したと報告があった
・・・勝てる。
だがしかし、通信を聞くに、それなりの苦戦をしているようだ。
いかんせん、こっちの数が圧倒的に負けている。
流石にグーデリアン閣下も悩んでいるようだった。
「ラインベルガー、今日は少し、早めに戦闘を停止させよう。攻撃が強引すぎる気がする」
「閣下、私もその考えでした」
攻撃を停止させた、夕方の17時丁度であった。
26日、早朝。
この日が最重要となってくる。
イギリス本土から撤退の打診があるのだ。
明日にはイギリス本土の船が動くため、その前に殲滅しなければならない。
殲滅とはいかずとも、敵の大将を降伏させなければ。
攻撃を開始した。
戦車隊は凄まじい士気の高さをもって、中央駅に向かって進撃する。
だが、流石に相手もかなり抵抗してくる。
攻撃を開始してしばらく、ネーリング大佐から報告があった。
「兵力に不安があります」
「ふむ・・・そう思うか」
報告を聞くに、昨日に続いて、損害は手厳しいものがあるようだった。
・・・まずいな、これは。
なんとしても今日中に中央駅を占領しないと!
「閣下、兵力の急ぎの移動を!」
「だが、ほかの戦線が薄くなるぞ」
「ここは勇気をもって、再度戦車隊を集結させ、当初の目標を最優先とすべきです」
「・・・」
幕僚全員がグーデリアン閣下の判断を待った。
グーデリアンは悩んだ。
ここで、近めの部隊から戦車を引き抜き、戦力を再度集結することはできる。
しかし、相手がそれに気付いたら、反撃してくるかもしれない。
もう一度、自分の考えを整理する。
・・・ここで臆しては、英雄にはなれない!
結論がでた。
「近隣の部隊から戦力を引き抜き、戦力を再集中。中央駅を最優先で奪取する!」
「第19機甲軍団は、ダンケルク市内に突入を開始」
戦況報告が続々と入ってくる。
それに対して、ルントシュテットは気に食わなかった。
自分の判断とは真逆に事が進んでいるからだ。
そこに更に報告が入る。
一つはカイテルからの連絡で、第19機甲軍団が連絡を取れない原因を把握すること、もう一つは、意外な相手からだった。
・・・ヒムラーか。
連絡を読むに、ラインベルガーについて調査を依頼してきた。
・・・こいつは使えるぞ。
ヒムラーからの要望は聞くしかない、つまり、合法的にラインベルガーの調査を行えるのだ。
こっちは情報を提供するだけでいい、後は上の連中が動いてくれるだろう。
「市庁舎を占領」
通信兵から報告が入る。
ラインベルガーとグーデリアンは双眼鏡で確認する。
「国旗を確認!」
よしいいぞ、その調子だ。
幕僚の一人が報告した。
「最先頭の部隊は、ベルグ運河が二筋に分かれている地点まで進撃した模様」
これに対し、グーデリアン閣下は新たな指示を飛ばした。
「砲兵隊に連絡、ベルグ運河付近の砲撃は、要請があるまで停止。空軍にもそう伝えるんだ」
今の所、なんとかなりそうではある。
中央駅まで約800メートルという所である。
頼むぞ、我らがPanzertruppよ。
しばらくして、新たに報告が入った。
内容は、ラインハルト機甲軍団がクードケルク・ブランシュ地域に進撃中とのことであった。
いいぞ、そうとなれば右側面からの反撃はないだろう。
後はもはや、両軍意地の張り合いである。
ドイツの戦車隊が中央駅に着くのが早いか、はたまた、連合軍の固い意思がそれを防ぐのか。
結果は時間が経つにつれて、明確にわかるものになってきた。
「くそ・・・」
連合軍の防衛線は一気に薄くなってきていた。
ずっと戦闘が続いているため、消耗に消耗を重ねているような状態であった。
連合軍の大将、ゴート大将は絶望的な状況で戦っていた。
もはや、本土からの救援はない、と考えていた。
そこへ連絡が入る。
「大将閣下、本国から命令が出ました」
「我らが首相からか?」
「はい、内容は・・・」
ひと呼吸おいて報告した。
「撤退命令です」
「・・・ん?今からか??どうやって撤退するんだ、まさか泳げとでも??」
「船を派遣するようです。明日から撤退を開始できるようです」
「今、明日と言ったな?はははは!馬鹿馬鹿しい、もはやドイツの連中は目と鼻の先にいるような状態なのにか!」
考えれば考えるほど、絶望的な状況であることを何度も何度も確認する。
司令部には、なんとも言えない空気が漂っていた。
誰もが考えているのは、将来のことであった。
自分のこと、自分達の国の未来、そして、故郷のことであった。
次回「ダンケルクを突破せよ!最終段階」