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失われた勝利への道  作者: にわかの妄想者
1940年 フランスの戦い
7/61

第6話 フランス軍の反撃

フランス軍のとある場所の司令部で、戦車隊指揮官が険しい表情で報告書を読んでいた。

「グーデリアンか...」

その男の名はシャルル・ド・ゴール、世界大戦後には大統領となる男である。

幕僚の一人が質問をする。

「大佐、この状況で何かいい案はあるでしょうか?」

「そうだな・・・戦車を率いて、どこかで待ち伏せを仕掛ける」

「となると、どこで待ち伏せるかが重要ですね。できるだけパリの近くは控えたいです」

「その通りだ。パリの近くではなく、もっと前で...マルルはどうだろうか」

「我が機甲部隊の速度と、敵の進撃速度を考えると、最適と考えます」

「ならばマルルで迎撃だ。全軍、出撃準備だ」

「すでに準備完了し、いつでも出撃できます」

「そうか、ならばよろしい」

そう言ってド・ゴールはそのままの足で自身も指揮車に乗り、マルルへと戦車隊を率いて向かった。


「怪しい・・・」

ラインベルガーは非常に疑問であった。

なぜなら、いくらなんでも敵が少ないのである。

多分、これからフランス軍の防衛ラインには当たることになるだろうが、戦車がほとんどいない。もっといるもんだと思っていたから拍子抜けである。

もちろん、転生してくる前に軍事系の本だったり、資料は読んできた。

だからこそ上出来な作戦が組めている。

だが、正直なところ、フランス戦はそれほど詳しくない。

流石に大局の流れは分かっているが、どこで敵が待ち伏せているかなどの細かい所までは記憶が曖昧なのだ。

だが、それは問題外であると考えている。

なぜならダンケルクさえ落とせれば、今回のフランス戦での仕事は完璧と言えるからだ。

それまでは自分の出番はほぼない。

ダンケルク包囲後、アラスの戦いが起こることは、事前にグーデリアン閣下に伝えた上で作戦を組んでいる。

作戦としては、こちらが完全に罠を張って、空軍との協力を得て、敵先頭の機甲部隊を殲滅する作戦である。

さて、どうしたものか・・・

ラインベルガーの不安と思わしき疑問は晴れない。どうも、この先で匂うのだ。

これは・・・罠を張っている?

ラインベルガーは憶測だが、そう考えてみる。

これからフランス軍の防衛ラインに当たるだろう、問題はその先だ。

地図を広げて、進撃路を確認する。

これから第19機甲集団は、ひたすらダンケルク方面に向かって進撃する。

その道中で罠を一度か二度、張ってくる可能性が高い。

場所は・・・マルルか、その先のサン・カンタンだろうか?

どちらにせよ、グーデリアン閣下に相談する。

「なるほど、マルルとサン・カンタンか」

「はい閣下、どうやら敵はどちらかで罠を張っているようです」

「これだけ敵が少ないと、どこかで戦力を集中投入してくるだろうと思っていたが」

「多分、マルルの線が高いです。私なら、そこで待ち伏せをします」

「君の勘は中々鋭い。マルルの一歩手前で、一度止まるべきだろう」

方針は決まった。しかし、その前にフランス軍の防衛ラインを突破しなければならない。

しばらくして、前線から砲撃の音が激しく聞こえてきたと同時に、通信が激しくなる。

どうやら、防衛ラインに到達したようだ。

「閣下、火力を集中して、突破を狙いましょう」

「予備兵力を投入すべきだな。君の言う通り、一気に突破するぞ!」

予備の部隊に前に出るよう連絡した後、いきなり空気が震動した。フランス軍の砲撃と思われる。

幸い、少し離れた場所に弾着したため死なずに済んだ。だが、次はどうだろうか?

修正してくるかも。

次は近めに弾着した。すかさず、前に走るよう命令する

「走れ!」

運転手は顔を硬直気味で必死に走らせる、味方のⅡ号戦車の一群に到着した。

「いやはや、危なかったですな!」

Ⅱ号戦車の車長が声をかけてきた。

「これくらいないと気が緩んでしまってな、丁度よかった」

グーデリアン閣下がそう返すと、車長は笑いながら車内に戻った。

隊形を整え、グーデリアン閣下が命令を出した。

「攻撃を命令する。Ⅲ号戦車を前面に立てて、後ろからⅡ号戦車を伴い、火力を集結して敵の防衛戦を集中突破せよ!」

攻撃が開始された。

エンジンと戦車砲、銃撃のこれぞ戦場といった雰囲気である。

前方の前線では黒煙が上がり始めている。時間が経つにつれて、一つ、また一つと黒煙が増えていく。

司令部の通信機能はフル稼働でやっと状況に整理がつくくらいで、担当の通信兵は凄まじい情報の洪水を明確に把握していく。

「敵の抵抗は激しい!」

「損害二輌」

「シュトゥーカによる近接支援の要あり!」

「対戦車砲を優先して潰せ!!」

交信から察するに、苦戦しているようだ。

ここは一発、発破をかけよう。

「閣下、何かシンプルに勇気の出る言葉を」

「ん?何かな?」

「勇気が、常に勇気が、更に勇気が必要なのだ」

「フリードリヒ大王の言葉だね」

「そうです。これを少々ばかり変えて、勇気を、常に勇気を、更なる勇気を、と」

「それいいな」

早速グーデリアンは、良いタイミングで苦戦中の部隊に言葉をかける。

それを聞いた隊長たちは、気を取り直して攻撃を再度開始する。

攻撃開始から25分、ついに突破に成功したと通信が入る。

「閣下、一気に突っ込みましょう!」

「突破口を拡大せよ!」

防衛ラインの突破により、フランス軍は総崩れとなった。

至る所で降伏する兵と、大急ぎで撤退する部隊に分かれた。

戦闘がある程度止んだ頃、司令部をフランス軍の防衛ラインだった場所まで進ませ、様子見をする。

至る所に死体と戦車の亡骸が見える。

フランス軍の戦車を見物しに行く。よく見ると、戦車を砲台のように固定して用いていたようだ。

「これでは戦車の性能を最大限活かせない」

「フランスの戦車は決して弱いわけではないが、使い方を誤るとこうなるわけだ」

フランスの戦車は性能的に言えば、この時点でドイツ以上のものもあるが、使用者によって性能を最大限活かせず終わる場合が多いようだった。


「防衛ライン、突破されたようです。各地で敗走しています」

「やはりか。戦車と兵力を無駄に犠牲にしただけだな、これでは」

話しているのはド・ゴールと幕僚の一人だった。

ド・ゴールの戦車部隊はマルルに展開を完了し、完全に待ち伏せの状態に入っていた。

ド・ゴールの作戦は波状攻撃を軸にしたもので、第一段階で陽動、第二段階で本格的な攻撃、第三段階で第二段階で終わりと思わせての更なる戦車による攻撃である。

ド・ゴールはこの作戦に自信があった。

必ずやドイツの戦車隊を撃破し、祖国を救うと。


グーデリアンとラインベルガーは、防衛ライン突破後のマルルについて話していた。

「ラインベルガーよ、君がフランス軍なら、マルルでどう戦うかな?」

「はい閣下、私なら完全に待ち伏せを使うでしょう。ただの待ち伏せではなく、攻撃的な待ち伏せ戦法です」

「詳しく頼む」

「まず、部隊を大まかに二つに分けます。そのうちの一つを更に二つに分けます。これらを順にA、B、Cとします。Cが陽動を担当し、Bが軽い攻撃、Aが本格攻撃でしょう。手順はCが囮となって、ドイツ軍を誘い込みます。そこで、あえてBに攻撃をさせます。本格的な反撃と思わせるためです。しかし、本当はAが本命で、Aを側面なり正面なりで最後に攻撃を加えさせます。これにより、我々の混乱と撤退を強いるでしょう」

「波状攻撃をするわけだ。しかし、それだけの数の戦車を持っているのか、ド・ゴール一人で」

「作戦計画時にもお話ししましたが、フランス軍全体で見れば戦車の数はこっちが負けています。しかし、史実ではフランスは戦車を分散して使用したため、各個撃破されてしまったわけです」

「となると、ド・ゴールは分かっているわけだ、戦車の使用方法を」

「そうなりますね」

「今日攻撃するか?」

「いえ、今日はやめておいた方がいいでしょう。今日か明日、どちらにせよ、相手はすでに展開を完了している可能性大です」

「ふむ、そうだな。君の言う通り、一度手前で停止しようか」

部隊は進撃の足を止めた。明日になればすぐにマルル攻略に取り掛かる。


「大佐、グーデリアンは足を止めたようです」

「やはりか。夕暮れ時の逆光で、自分達が不利になるのを分かっている」

「とすると、我々が潜んでいるのを分かっているのでは?」

「その可能性は低いが、グーデリアンのことだ。薄々勘付いているのだろう、待ち伏せの予感を」

「手厳しい相手になりそうですね」

「そんなことはない。成功する、この作戦は」

ド・ゴールの指揮する戦車部隊は自信に満ちていた。

絶対に勝つという自信であった。


5月17日明朝、天気は中々に良い。

できればピクニックでも行きたいほどだ。

戦車はエンジンを既に始動済みで、先に装甲偵察車をマルル方面に出す。

万が一、偵察車が攻撃をくらっても、その速い足を活かして逃げることができる。

昨日は良く眠れた、頭の中がスッキリしているのが分かる。

朝食を食べる時間ではあるが、ラインベルガーは朝はあまり食べないので、コーヒーかココアを飲むだけにしている。

ココアを飲んでいると、グーデリアン閣下が上機嫌で出てきた。

「諸君おはよう、昨日はよく眠れたか?」

「はいお陰様で」

「お、ラインベルガー、緊張はしていないようだな?」

「いえ、緊張はしていますが、眠気の方が勝りました」

それを聞いて皆笑う、雰囲気は良しと言った感じだ。


「敵の偵察車を確認!」

「きたか・・・!」

警戒するように伝えると、全体に緊張が走る。

ド・ゴールも自分の指揮車に戻り、双眼鏡で東の方角を確認する。

まだ敵は見えず、樹木や並木路が見えるだけだ。

「その偵察者の正確な位置と数は分かるか?」

「三輌を確認、位置は・・・ここから7キロの地点」

「他は?戦車はいないのか?」

「後続の部隊は確認できていません。また、霧が濃く、視認不可能」

「了解した」

緊張の時間が流れる、本番前は皆緊張するものだ。

しかも、祖国の運命が掛かった重要な一戦なのだから。

頭上にドイツの偵察機が飛来した。

こちらは完璧なほどに偽装を施しているため、いくら目が良くとも発見はできないだろう。

「敵偵察車、接近中」

「あれか」

双眼鏡で視認した、確かに三輌いる。

さてと、どうしたものか。

「こちら陽動部隊、攻撃しますか?」

「いや、やり過ごせ!」

「了解」

ここで攻撃すれば、敵の主力を効果的に攻撃できない。

偵察車くらいなら見逃しても問題ない。

とにかく、後続の主力の戦車隊を叩きたい。

「いいか、まだだ、耐えるんだ」

自分にも言い聞かせるように、各部隊に伝えた。


「まだ、敵は見えずか・・・」

ラインベルガーは考え込んだ。

偵察機からの報告も、何もない。

こういう時は一人で悩まず、相談を第一にすべきだ。

「グーデリアン閣下、もしかしたら杞憂に終わるかもしれません」

「・・・いや、必ず敵は布陣している。もしいなければ、私のミスとして報告してくれ」

「いや、しかし、閣下・・・」

「誰にでもミスはある。君の場合、今回のミスは将来全体に関わるものだ。優秀な若い芽を早くに潰してしまおうなんて、そんなことはさせんよ」

「・・・ありがとうございます。必ず、挽回してみせます!」

メヘレン事件の後、総統を交えた緊急会議の場で、ルントシュテットと賭けをした。ラインベルガーの言う通りの大局の流れにならなかった場合、軍をやめる取り決めになっている。

なんとしてもミスをしてはならない。

「その粋だ。若いうちは、それくらいが丁度いい。それにだ、敵は潜んでいる可能性が高いわけだ」

「何故でしょうか?敵はいる可能性が高いわけを教えていただきたいです」

「うむ、後学のためだ。もったいぶらず教えよう。まず、よく前方を確認するんだ」

「・・・霧が濃いですね、それに、隠れるには丁度いい森林地帯がちらほら・・・あ!!」

「気付いたようだな。その通り、待ち伏せを仕掛けるには最適な場所だよ。更に、敵の立場になって考えると、君の言った通り、マルルが適切だ」

「敵もまさかマルルとは思うまい、といった具合でしょうか」

「そんな所だ。と言うことはだ、ここまで分かったならやることは二つに一つだよ」

「・・・先手必勝!!!!」

「正解だ!。さぁ、どう攻めるかな、ラインベルガーよ」

「まず、敵が隠れているかもしれない場所に、砲撃を加えてみてはいかがでしょうか」

「敵は慌てるだろうな」

「敵はどうするか迷うはず、まず打って出てくるでしょう。そこで、先んじて足の速い偵察を突っ走らせ、敵戦車の後方へ移動、そして、20mm機関砲でひたすら装甲弱点部と履帯を狙い撃ちします。これにより、敵戦車は足を止めざる負えない状態にします。最後はIII号戦車による斉射で終わりです。」

「その後が問題だな」

「必ず第三波がいるでしょう。来たのが分かった時点で、側面から予備や第19機甲軍団の手の空いている部隊で攻撃させます。後はシュトゥーカで仕上げでしょう」

「空軍との協力体制は整っているのが幸いだな」

「必ず最高の戦果を出してくれますよ」

ついに始まる決戦である。

両者戦車隊の準備は、完璧であった。


「撃て」

ついに戦いの火蓋は切って落とされた。

まずは怪しいところに砲弾を叩き込む。

そうすると、ゾロゾロと前に敵戦車が出てきた。

すかさず装甲偵察車を側面から最高スピードで突っ込ませ、敵の動きを止めにかかると同時に、III号戦車で斉射を加え続ける。

III号戦車は37mm主砲だが、直撃すれば中にいる人間は脳震盪でまともに動けなくなる。

練度の高い戦車兵なら幾分かマシになるらしいが、相手はそれほど練度は高くないはずである。

一発弱点部に命中、爆発炎上した。

敵の戦車の大まかな数は不明だが、かなりの数がいるのが分かる。

「迷うな、履帯と弱点部を狙え。有効打でなくとも構わん、怯まず撃ち続けろ」

ラインベルガーとグーデリアンの司令部は、前線からそう遠くない場所に布陣した。

時間は戦闘が始まって少ししか経っていないが、かなりの数の黒煙が上がっている。

「彼我の損害は五分五分で、激戦を展開中!」

「敵の戦車に一際固いのがいる!くそ、倒せな・・・」

「損害多し!増援求む!」

苦戦しているようだが、それもそのはず。

ラインベルガーはこの時点で、相手の戦力数は連隊規模か、それより多いと予想した。

雰囲気からして、既に敵の第二波は投入されているはずだ。

残りは第三波だが、いつ攻撃してくるかな?

「閣下、早急に右側面に予備の兵力を展開しましょう!」

「丁度それを考えていた。君も同じ意見だろう」

「はい、第三波が来るなら右側面です。そうすれば、完全に我が軍の意表をつける」

「よし、すぐに展開だ。一応、右側面方向を見れる位置に対戦車部隊を即席でもいいから配置しよう」

「広く視認できる位置に、暇をしている8.8 cm高射砲部隊を配置してみてはどうでしょうか」

「それ、いい案だな」

しばらくして、戦局は大きく動く。

予想通り、右側面から第三波が攻撃してきた。

予め展開した部隊と、対戦車専門の部隊が砲撃を加える。

報告から察するに、敵は慌てふためいているようだ。

「閣下、総仕上げといきましょう!」

「全軍、掃討戦に移れ!」

敵は主力の部隊を大きく損失し、撤退を開始した。

それを捕捉し、攻撃を加え続けた。

と同時に、上空からシュトゥーカが独特のサイレン音を爆音で流しながら急降下を開始した。

50kg爆弾の爆発の後に続いて、250kgの大きな爆発が起こった。

勝ったな。

通信兵が報告する。

「敵、大きく撤退します!」

「閣下、我々の勝利です」

「そのようだな」

「追撃戦については、深追いしない方がいいでしょう。偵察隊からの報告だけでも、十分過ぎるほどの戦果です。多分、アラスの戦いに響くほどの損害を与えました」

「こちらもそれなりの損害が出てしまったが、これほどの規模の戦車戦は初めての経験だ。仕方がない」


グーデリアンとラインベルガー率いる第19機甲軍団は、フランスの主力と思われる戦車部隊に痛手を負わすことに成功した。

しかし、同時にドイツの抱える戦車の問題が、はっきりと表に出ることとなった。

装甲と主砲の火力が、これからのドイツ戦車の焦点となった。

マルルの戦い終結後、第19機甲軍団は気持ちを新たに、ダンケルクへ走る。


次回「ダンケルクを突破せよ!」

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