表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失われた勝利への道  作者: にわかの妄想者
1940年 フランスの戦い
6/61

第5話 作戦開始

5月10日朝の5時30分。

前日までは悪天候であったため、上層部は作戦開始の延期を考えていたようだが、快晴となった。

前日までの悪天候が嘘のようである。

と言っても、史実がそうだったから、想定の範囲内である。

戦車のエンジンが始動し、一斉に前進を開始した。

小国ルクセンブルクには、領内通過を認めさせた。

その先にあるのが今作戦の難所の一つ、アルデンヌの森である。

最初が肝心だ。

今日にはアルデンヌにつき、二日目でアルデンヌの中間地点以上に進撃したい。

初日は順調そのもの、あたかも演習のような動きで素早く軍全体が動く。

現在、ラインベルガーはsd.kfz.251の指揮車仕様(装甲兵員輸送車)に乗車し、グーデリアン閣下と行動を共にしている。

前進を開始してしばらくすると、グーデリアン閣下が話しかけてきた。

「ラインベルガーよ、一つ聞いてもいいかい?」

「はい閣下、何なりとお答えします」

「例の、進撃停止と攻撃停止命令の件だが」

「あぁ、そういえば当日までは話さないとの約束でしたね」

「どう回避するかね?」

「それは閣下が知らない方がよろしいかと」

「なぜ?」

「少々無茶をするとだけは言っておきます。何せ、あのご老人方に反抗するも同然のことをするのですから」

ラインベルガーの考えはかなり危険だ。その行動一つとっても、バレたら速攻で軍法会議ものだろう。そんな危険なこと、今閣下に被ってもらう必要はない。

「・・・ふむ、なんとなく想像はできたぞ」

愉快そうに閣下は笑う。

「絶対誰かに言ってはダメですよ」

「そうしよう」

同乗していた通信兵が二人の顔を交互に見ている。

なんのことだがさっぱり分からんという表情だ。

しかし、笑っているということは少なくとも良いことなのだろうと、自然と笑顔になった。


前方には凄まじいほどの森林地帯が広がっていた。

起伏は少ないが、平坦ともいえない。

二日目の行動を開始した。

作戦の第一段階である、アルデンヌの突破が始まったのである。

ほぼ真西に向かっての進撃となるが、森の中は油断してはいけない。

敵とは違う、錯覚という別の不安要素があった。

グーデリアン閣下が質問をしてきた。

「アルデンヌの森を突破するとき、何か問題は発生す...失礼、発生するんだったな」

「はい閣下、他の師団と進路が被ってしまい、進撃が予定より遅れてしまった、と記憶しています。なので、他の進撃中の師団との間隔を確認すべきでしょう」

「覚えておこう」

凄まじいほどの森林地帯、さすがはアルデンヌと言ったところか。どこを見ても深い森である。

我々グーデリアン閣下の第19機甲軍団は、中央に第1機甲師団、右に第2機甲師団、左に第10機甲師団という形で進撃中だ。

しばらく経って、一つ問題が発生した気がした。

ただの勘ではあるが、少しの不安でも解消しておくべきだ。

「閣下、第2機甲師団の隣はラインハルト機甲軍団でしたね、確か」

「その通りだが、何かあったか?」

「先ほどの進撃路の混雑ですが、もうすぐ起きる気がしてきたのです。一応、確認すべきかと」

「直感か?」

「はい」

「確認しておこう、その感覚は指揮官にとって大事だよ」

無線で交信を始める。

どうやら交信中の閣下の表情から察するに、当たりだったようだ。

「ラインベルガー、君の言う通りだった・・・ラインハルト軍団と混雑が起きている」

「すぐに進撃方向を修整するよう、伝えるべきです!」

「そうしよう」

すぐにグーデリアン閣下は交通整理を始める。

元々グーデリアンは通信畑にいたため、自ら交通整理を始めた。

ラインハルト機甲軍団の進撃方向を修整するよう伝えたと同時に、自分達が今どこに向かって進撃しているのか、現在地を定期的に確認するように伝える。

アルデンヌの森は四方八方を木に囲まれ、迷いがちとなってしまう。

そのため、自分達の居場所と進撃方向を、コンパスと太陽の位置で入念に確認する必要がある。

「いいか、割り込ませるな、混乱するぞ!」

もしここで進撃路を譲った場合、全体が南にずれることとなり、かなり面倒なことになる。

グーデリアンはそれを理解した上で、交通整理を行なっていった。

進撃は今のところ順調だ。

むしろ、本当に敵に向かって進撃しているのか、不安になるくらい静かだ。

落ち着いた頃、グーデリアン閣下が笑顔で皆に言う。

「フランスの連中は大慌てするだろうな!」

「それは間違いありませんね、閣下。大慌てどころか、腰を抜かして動けないでしょう」

軽く雑談をする、それくらい余裕があった。

しばらくして、再度問題が起きた。

「またラインハルト軍団と混雑が起きています」

通信兵が慌てて報告する。

「さっきの命令をそのまま繰り返すんだ。一度起きたことだ、慌てずに対処しよう」

グーデリアン閣下は冷静に対応する、通信兵も落ち着いて対応した。

「閣下、今日中にはヌフシャトーへ到達でしょう」

「私もそう思う。多分、ほとんど敵はいないだろうから軽く越えよう。だが、油断は禁物だ」

閣下の言う通りだろう。

相手は人を殺せる武器を持っているのだから。


予定通りヌフシャトーへ到達。

予想していた通り、敵軍の抵抗は微弱ですぐに撃破した。

「今の所順調そのもの、一気にブイヨーまで走るぞ!」

グーデリアン閣下は皆の士気を上げる。

三日目にはブイヨーに到達。

ブイヨーはヌフシャトーとスダンの丁度間くらいにある街で、スモワ河が流れている。

到達するとすぐにスモワ河の渡河を開始、敵は抵抗をしてはきたが、やはり微弱な抵抗に終わった。

そしてそのままムーズ河まで進撃、さらに圧倒的少数のフランス軍を蹴散らしながら進撃した。

これにはフランス軍は大混乱となった。

まさかのまさか、絶対に来ないであろうと思っていたアルデンヌから、ドイツ軍の戦車が猛進してきたのである。

そもそも論として、フランスの作戦計画では長期戦に持ち込む計画であった。

だからマジノ線などの防衛線を構築していたのだが、それはアルデンヌにドイツ軍が現れたことで、全てが狂ってしまった。

フランス軍の急務は、どこでドイツ軍を迎え撃つのかを決定しなければなかった。

しかし、パリの司令部は混乱を極めていた。

「しかし、フランス軍には少しばかり同情しますね。練っていた作戦が全て無にきしたも同然の状態なのですから」

ラインベルガーはムーズ河に架橋している工兵隊の作業を見ながら、頭の中で今後の展開を再度確認していた。

「そうだな。私からすれば、現代における要塞の役割は終わったも同然であろう。それを軸とした作戦を計画したのだから、我々がそれを上回る作戦を計画したのだよ」

「閣下の、現代戦の考え方はどのようなものでしょうか」

「ズバリ、機動力だろう。戦車と速い足の装甲車両により、一気に目標を制圧する」

「閣下、改めて尊敬致します。私では、到底できない実現内容です。閣下は、それを実現させました」

グーデリアンの構想は第一次世界大戦後に、上層部に受け入れられるものではなかった。

しかし、そんな逆境の中でも自分の考えを曲げず、ついにはこうして戦車隊を率いて前線を闊歩している。

一種の、理想を実現させたと言っても過言ではないだろう。

そういった点で、個人的にはグーデリアン閣下をかなり尊敬している。

「そうだな・・・確かに私もかなり頑張ったが、やはり、ヒトラー総統の存在が大きかったかな」

「何故でしょうか?」

「もしヒトラー総統閣下が就任していなかったら、こうして装甲部隊を自在に動かせはしなかっただろう。もしかしたら、この装甲車両ですら数が足りていないかも」

グーデリアン閣下は片手で車両をトントン叩きながらそう言った。

「もっと言うと、この作戦ですら上層部は消極的だった。ここ、ムーズ河すら渡れないと言った奴もいたな」

「こうして工兵隊が余裕の表情で橋を掛けていますが、上層部に連絡を入れましょうか?」

「いや、やめておこう。敵だけでなく、味方にすら敵を作りたくはない」

ラインベルガーは、グーデリアン閣下が一瞬迷ったのを見逃さなかった。


ともかく、作戦の第一段階は成功である。

後は、フランス軍のあの男と、ダンケルクだろう。

ラインベルガーは状況の整理を終える。

作戦は一つの重大な局面へ入ろうとしていた。


次回「フランス軍の反撃」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ