第3話 作戦準備
1939年12月29日午前10時。
この日、グーデリアン閣下との本格的な作戦計画が始まった。
軽く雑談をした後、本題にグーデリアンが先に触れた。
「今度の作戦は、先のポーランド戦とは全く違う状況だ。まず君の意見を聞きたい」
「フランス侵攻作戦ですが、作戦は三段階に分かれています。まず、第一段階で敵の意表を突いた突破、第二段階で敵に息をつかせぬほどの進撃、第三段階で敵の殲滅です」
「第一段階でアルデンヌの森、第二段階で突破の繰り返し、第三段階でパリ、かね?」
グーデリアンは自分が考えていた構想とほぼ同じだっため、すぐに具体的な部分を答えた。
しかしグーデリアンは、最後の第三段階で疑問を覚える。
ここでは口を挟まないようにしたが、すぐにその疑問は解消されることになる。
「はい閣下。しかし、最後のパリは合ってはいますが、第一目標は違います、パリはその後です」
「というと?」
「我らが装甲軍はドーヴァーまで快進撃をしますが、そこで問題が発生します。ダンケルクにて大規模な包囲が起こるのです。その数、ざっと30万以上」
「なんと・・・そんな大規模包囲が起こるのか・・・して、史実ではどう伝えられているのかね?恐らく、殲滅したのだろう?」
「いいえ、殲滅しませんでした。空軍による爆撃を主体としたものしか、ダンケルクに攻撃はありませんでした。その後、ドイツ軍はみすみす大量の敵兵を、難攻不落のイギリス本土に逃してしまいます」
「なん・・・だと・・・なにをやっているんだ、そのような大軍をみすみす逃がすなど!」
「閣下、これは歴史上正確な情報として伝えられています。今度の作戦でも同じことが起きるかもしれません。しかし、そうならないために、こうして作戦を計画しているのです」
「…そうだな。あまりの驚きに、少々混乱した」
「私も初めて知ったときは驚きました。しかし、私は対処法を知っています」
「具体的なものがあるんだね」
「はい閣下」
ラインベルガーは説明した、ダンケルク包囲戦の勝利への道を。ラインベルガーの作戦は、大胆なものだった。
まず、包囲ができた時点で、包囲されている敵軍を2つに分断してしまう。
文字通り、真っ二つだ。
その後、包囲を狭めて確実に殲滅していく、という一見シンプルなものだ。
しかし、実行するにあたっていくつか障害がある。
まず第一に、攻撃の許可が降りるかどうかだ。
史実では、連合軍から反撃されたことを理由に、前進停止の命令を出された。
結果、ダンケルクを攻撃しなかった。
他にも問題はある。
本当に攻撃の許可が降りるかどうか。
自分が作戦計画をこうして正式に練れているのも、ヒトラー総統直々の指令あってこそだ。
しかし、それをよしとしない連中もいる。
特に、あのカイテルとルントシュテットは話を聞くに、私のことをかなり疑っているようだ。
まあ無理もないが、パーフェクトゲームにするには、少々強引なやり方も必要となる。
しかし、それがここにきて面倒なことになっている。
攻撃の許可という点でこれほどまでに足枷になろうとは。
この足枷、そう簡単には取れそうにない。
うまくいっても上からNoと言われたら、それこそ史実の二の舞、三の舞だ。
自分一人で悩んでもしょうがないので、根っからの軍人、グーデリアン閣下に話す。
「なるほど、上から進撃停止に攻撃停止命令か。我々が敗北する理由が分かった気がするな」
「いけいけどんどこの勢いを自分でころすのですから、一概にアホとは言えませんが、フランスではアホと言っても問題ないかと」
グーデリアンは爆笑した。
着任して二日で、軍上層部をアホ呼ばわりしたのだ。
「全く、君という奴は。中々に面白いぞ」
「ありがとうございます。フランスでも、それだけ快笑したいです」
グーデリアンとラインベルガーはひたすら考えた。
攻撃方法、部隊編成、空軍からの協力、補給方法、進撃スピード、敵の捕虜の扱い、海軍の協力、そして、機甲軍の動きの細かい部分まで。
気付けば、日が落ちていた。
「これだけの細かく、完成度の高い作戦、今まで練ったことがない」
「ありがとうございます。中途半端が一番良くないですから。あらゆる場面を想定し、作戦を組む。本番になってから対処する、では遅いのです。その時点で、優秀な味方の将兵の胸に弾丸が撃ち込まれることになります」
「うむ!全くもってその通りだ。こちらの損害は最低限に抑えたいからね。今日はもう遅い。頭の回らない状態で物事を考えても、いい案など出てこない。今日は、これにて解散ということで」
「了解しました。閣下、お先にどうぞ」
「あぁ、すまんね」
グーデリアン閣下と別れた後、ラインベルガーは、これぞドイツ、というような外観の自宅に帰宅した。
ヒトラーと話をした時、泊まる場所は?と聞かれて、正直に「ない」と言ったら、ちょうど空き部屋をあててくれたのだ。
風呂に入って、少し冷めると、布団に入って寝てしまった。
それから1週間以上は作戦計画に没頭した。
途中の時点で作戦の大部分が完成していたので、実現するために必要な情報と、人脈を構築する時間が多かった。
特に空軍に注力した。
どうするか迷ったが、一番手っ取り早いと考えて、ドイツ国家元帥であり、空軍総帥のヘルマン・ゲーリングに話を持ちかけた。
話はこうだ。
次の作戦では空軍からの協力が必要不可欠で、空軍の支援が直接勝利へと繋がると。
ゲーリングはこの話に乗った。
「任せたまへ!ルフトバッフェは120%、君達の望む支援を約束しよう!」
120%か、ありがたい。と言いたいが、このおっさん、ちと信用できるか怪しい。
一応、空軍がミスった時のことを考えておく。
しかし、なんだ。
これ、本当に上手くいく気がしてきた。
自信の裏付けほど頼もしいものはない。
さてと、次は...
ラインベルガーはとにかく考える日々が続いた、常に勝利を考えて。
しかし、1月10日に事件は起きる。