第2話 鷲との対面
1939年11月28日、約6か月後にはフランス侵攻が始まるドイツの首都ベルリンに、自称勝利へと導く者、ラインベルガーは転生した。
容姿は至って普通、ドイツのゲルマン民族らしい風貌だ。
着ているのは軍服で、勲章や手帳、身分証明証を見るに、ドイツ国防軍・陸軍所属の野戦指揮官のようだ。
階級は、少佐であった。
しかも、この時代のドイツでは最先端とされる機甲部隊所属、これほど運の良いことはない。
早速だ、行動を開始しよう。
ここはベルリンの少し外れた場所である。
と言っても、この場所にあらかじめ移動しておいてから転生したから、当然といえば当然か。
とりあえず、会いたい人物がいる。
作戦に参加できるかも不明だし、史実とは異なることが起きる可能性がある。
1939年の冬のベルリン観光は、やることやってからだな。
行き先は、OKW、国防軍総司令部である。
そこに、ドイツ機甲部隊の生みの親、ハインツ・グーデリアンがいる。
ラインベルガーはそこら中を走り回った。
グーデリアン閣下に面と向かって、自分は未来からやってきたと馬鹿正直に話したら、意外と話が進んだ。
ど正面から次なる作戦の詳細を話したら、意外とすんなり信用してもらえた。
これで基盤はできたも同然。
次に重要視したのが総統アドルフ・ヒトラーからの信頼獲得である。
これにはグーデリアン閣下から総統閣下に直接会う機会をとりつけてもらった。
場所は、ホテル・エルンスト。
1939年12月19日午前9時、ついにアドルフ・ヒトラー総統と直接話をすることができる日がやってきた。
ここまで、かなりの苦労をした。
一介の野戦指揮官が、総統閣下と直接話をしたいと言い出すのだから。
この話をグーデリアン閣下が聞いた時の反応と言ったら、中々面白かった。
これからの展開に胸が躍る。
「今日は中々に天気がいいなー、デビュー戦にもってこいじゃないか」
ラインベルガーの他に乗っているのは、運転手の親衛隊隊員のみである。
一人で行くつもりだったんだが、ヒトラー総統が護衛をつけるようにと、計らいがあったようだ。
まだ完全には信頼されていない証拠でもあるんだが。
「着きました、目的地です」
「ご苦労」
「ここで待機していますので、終わり次第、ご自宅までお送りいたします」
「そのことなんだが、ここの近くで別件の用事があってね。すぐには家には帰らない。だから、今日の午後は自由に過ごすといい」
「承知致しました」
運転手に別れを告げて、ホテルへと入る。
ラインベルガーは覚悟する。
今日がダメなら、次はないと考えてもいい。
そうなればドイツは、史実と同じ道を辿ることになるだろう。
覚悟を決めて、指定された部屋の扉をノックする。
中から、「入れ」と、あの聞き覚えのある声がする。
「失礼します」
歴史上の独裁者の一人、その本人がいた。
この人が、一兵卒から一国の長となった、アドルフヒトラーその人か。
「うむ、君がラインベルガー君だね。グーデリアンから話は聞いているよ」
「こうして総統閣下とお話をする機会をいただけたこと、誠に感謝の極みであります」
「うむ、立ち話はなんだ。座りたまえ」
「ありがとうございます」
「少々多忙の身でな。できるだけ時間は取ったつもりなんだが、30分ほどしか取れないこと、申し訳なく思っている」
「いえ!とんでもありません。お話できるだけでも、10分でもありがたいものです。それを30分も・・・重ねてお礼を」
「いやなに、気にしないでくれ・・・私は気になってしょうがないのだ、未来からの転生者に。グーデリアンから話を聞くに、次の作戦の標的国どころか、グーデリアンの作戦の詳細な部分まで言い当ててしまったそうじゃないか。君は、本当に転生者なのか」
ラインベルガーは堂々と返事をする。
「その通りです。私は2022年の未来からやってきた、転生者です。ドイツの行く末をほとんど理解、記憶しています」
ヒトラー総統はよほど興味があるのか、食い付いた。
「間違いないようだな・・・やはり、グーデリアンの話は本当だったか。結論から聞こう、ドイツは勝てるのか」
「非常に言いづらいのですが、最終的にドイツは敗れてしまいます。1945年5月7日2時41分、ドイツは敗北を認め、第二次世界大戦に敗北してしまいます。」
「・・・そうか、敗北してしまうのだな」
「しかしご安心を。私は、ドイツを勝利へと導くために転生してきたのです。早速ですが、次なる作戦、フランス侵攻について、僭越ながら作戦を掲示させていただきます。と言っても、グーデリアン閣下の案をそのまま踏襲したものですが」
「・・・ふふ、確信したよ。君ならば、ドイツを勝利へと導くことができる。グーデリアンと作戦を念密に計画してくれ。フランスを攻め落とそうではないか!」
大きく身振りを動かし、まるで演説をしているかのような気迫に、少し圧倒されてしまう。
その後、大まかな作戦内容や、ドイツは大戦後どうなっていくのかを伝えてしまい、最後の別れの言葉に、ヒトラーは「勝利へと導いてくれ、ラインベルガーよ」と言って、次なる目的地へと向かって行った。
凄まじく濃い1時間だった気がする。
1時間だけなのに、本当に心底疲れた。
しかし、やることはある。
グーデリアン閣下と作戦を練ろうじゃないか。
戦いは始まったばかりである。