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第7話 Goodbye Holiday

『希美ちゃんってマジでヤバイよね。』


『確かに。勉強ができて運動神経も抜群だし。』


『部活の助っ人を掛け持ちしているうえに成績も学年トップ。』


『それでいて生徒会長までこなしているとか完璧すぎるっしょ。』


『見た目もめっちゃ可愛いしね。』


『えー。私は可愛いって言うより美人系だとおもうけど。』


『というかむしろイケメン系?男子だけじゃなくて女子にもモテモテだし。』


『なんかほんと、住む世界が違うって感じ。』


『けど嫌味な感じはしないよね。優しくて頼りがいもあるし。』


『確かに。ドラマやアニメの主人公みたいっていうか。』


『めっちゃわかるわ。なんか人知れず平和のために戦ってそう。』


『何それウケる。まあ言いたいことはなんとなくわかるけど。』


『戦っているかは別にして、毎日がすっごい充実してそうで羨ましいよね。』


『うーん。私は羨ましいとは思わないかなぁ。充実はしているだろうけどめっちゃ大変そう。』


『私ら凡人と違って本人は大変とか思ってないんじゃない?いっつも笑顔だし。』


『大変なことも辛いことも関係なく楽しんでるって感じ。』


『そういうところも主人公っぽい。』


『ぽいって言うかもはや主人公そのものだね。』





『『『『希美ちゃんって本当にすごいよね!』』』』








―。



「あっ。き、気が付いたみたいだよ。」



……なんだかひどい悪夢を見ていた気がする。頭がガンガンするし思考も安定しない。喉が異様に乾いていて息苦しい。全身が汗ばんでいて気持ち悪い。どうしちまったんだ私の身体は?いったい私に何が起きた?ここはどこだ?今は何時だ?私の傍にいるのは誰なんだ?本当に何が何だかわからない。全く状況が飲み込めない。なあ、わかる奴がいたら教えてくれよ、頼むから…。





「ったく心配かけさせやがって。っておい、ボーっとしているが私が誰かわかるか?」



……ああ、わかるよ。お前のやかましい声もにぎやかな面も残念ながら一生忘れられそうにない。普段は鬱陶しいことこの上ないが、こんな状況だとそのアホ面に妙な安心感を抱いてしまう。さすがに私の相棒を自称するだけのことはあるな、瑠花さんよ。





「……顔が近いよ、この馬鹿。」



目覚めのキスでもかますんじゃないかってくらいに顔を突きつけてきやがる馬鹿を両手で押しのけながら、私は横たわっていた上体をゆっくりと起き上がらせるた。そして、少しずつクリアになっていく頭をフル回転させ状況の整理を試みる。



あまり馴染みはないが、どうやらここは学校の保健室らしい。そして、ベッドの周りには瑠花のほかにもう4人。もうすっかり見飽きたメンツが安堵とも心配とも取れる表情を浮かべて私のことをじっと見つめている。国分さん。清水さん。国分さん。…そして、鈴木美玲さん。瑠花はともかくどうしてこいつらまで……。なんていうのは流石にお惚けが過ぎるか。



「や、八島さん…。その…本当にごめんなさい……。まさかこんなことになるなんて…。」


視線が合うや否や、今にも泣きだしそうな表情を浮かべて謝罪の言葉を述べてきた清水さん。そうだ、だんだん思い出してきた。私は昼休みに彼女によって美術室に誘われ、笑顔の自分が書かれたキャンバスを見せられたんだ。そして、その絵について問答を交わしている最中にぶっ倒れてしまったと…。



…ああ。自分が情けなすぎて恥ずかしい。ただ言葉を交わしていただけでぶっ倒れるなんてとんだお笑い草だろ清水さんに迷惑をかけるだけじゃ飽き足らず、瑠花や鈴木さんたちにいらぬ心配を掛けさせてしまったらしいこともいただけない。穴があったら入りたい…。というか、できれば今すぐ消えてなくなりたい。



……だが、その前に通すべき筋は通さねば。



「…謝るのは私の方だよ。突然倒れて驚かせちゃったよね。鈴木さんたちも、心配掛けちゃってごめん。」



勝手に絵のモデルにされた。見たくもない自分の姿を見せられた。思い出したくない過去を蒸し返された。しかし、だからと言って私なんぞが清水さんたちに迷惑や心配を掛けて良い理由はどこにもない。そもそも、倒れてしまった原因は私がメンタルクソ雑魚の虚弱体質であるためなのだ。清水さんに非は全くない…とまでは流石に言わないが、この場で謝罪すべきはやはり私の方だろう。



「…何があったかはこいつから大体聞いたよ。まあ、保健の先生や担任には貧血で倒れたんだろうって誤魔化しといたけどな。本当のことを話すのはお前的にも都合が悪いだろうし。」



本当に流石だな、瑠花さん。その心遣いには素直に礼を言わせてもらうよ。確かに精神的ショックで倒れたなんて話したら後でいろいろと面倒なことになりそうだしな。ところで、その言い方だとこの場にいる連中は全員私が倒れた本当の理由を知っているってことだよな?



「先生には適当に理由を付けて外してもらったわ。色々話したいこともあるし、あなたの方も聞きたいことが山程あるだろうしね。」



保健の先生を保健室から追い出すなんていったいどんな手品を使ったんだ?それに、鈴木さんや瑠花はともかく国分さんたちはこんなところで油を売っていい身分じゃないだろう。先ほど時計をちらっと見たが、時間的に今は部活動の真っ只中のはずだ。それもこれも委員長様のとんでも超能力でどうにかしたって言うなら素直に納得してやるが。



まあ、そのあたりの事情は後で瑠花に聞いておけば問題ないか。そんなことよりも今は鈴木さんの話したいことってやつの方が重要だ。私としては鈴木さんだけでなく、国分さんや清水さんにも色々問いただしたいところだったしな。



だがしかし、私には鈴木さんの話を聞く前に片付けておかねばならない課題が残されている。




「……藤本さん。あなたも私と2人きりで話したいことがあるんじゃないの?」



私はフェアじゃないことを好まない。はっきり言ってこれ以上の面倒は御免蒙りたいが、このまま話を進めてしまうのはどう考えてもバランスが悪いだろう。国分さんから愛の告白され、清水さんから絵のモデルにしていたというカミングアウトを受けた。ここまでの展開を鑑みれば、藤本さんも何かしら私に対して語りたいことがあるはずだって考え至るのは至極当然の流れだろう。そいつを聞かずして次の段階に進むなんて不公平は私の信条が許さないのだ。





「えっ、私?いや、特にないけど…。」





…おい、悪いが誰かシャベルを持ってきてくれないか。穴を掘って埋まるから。





「…え、あっ。えっと…。そ、そっか…。なら別にいいんだけど……。」



ああクッソ。本当に死にたい。泡のように消えてなくなりたい。いったい私は何を勘違いしてやがったんだ。そもそも私みたいなゴミに好意を抱いたり絵のモデルにしようとした奴らの方が少数派だってのに。そんなあたりまえのこと最初から分かっていたことなのに。国分さんや清水さんがそうだから藤本さんも私に何かしらの興味を抱いているだろうなんておこがましいにもほどがある。ああもうっ。爆散して死ね、私。



「ちょっと待って。こっちから話すことは特にないけどさ。私も八島さんにいろいろ興味はあるんだよね。だからさ。せっかくだし2人で過ごす時間はもらってもいいかな?」



もういいよ、藤本さん。そういうフォローは逆に傷つくからやめてくれ。私なんて誰かに興味を抱かれるような価値もないミジンコ以下のクズだ。国分さんや清水さんの件もきっと何かの間違い。彼女たちがここにいるのも私を心配してではなく、鈴木さんか瑠花辺りに無理やり連れられて仕方なくみたいなことなんだろ。いや待てよ。そうか、わかったぞ。鈴木さんの話したいことって言うのはきっと、今までのことは全部ドッキリでしたとかいうネタ晴らしに違いない。ああ、そう考えると全部腑に落ちた気がする。いや、正直こんなド陰キャをからかって何が楽しいんだってツッコミたい所ではあるが、変に話を伸ばしても仕方がないのでここは何も言わないでおくのがいいだろう。こんなつまらない茶番はもう懲り懲りだ。さあ、誰でもいいからさっさとネタ晴らしをしてくれ。このくだらんドッキリにオチを付けてくれよ。それであんたらとの短い付き合いも完全に幕引きだ。





「……大丈夫?ひょっとしてまだ具合悪い?」



私が何の返事もしなかったせいだろう。藤本さんは心配そうな表情を浮かべながら私の体調を気遣うようなセリフを吐いてくる。本当は私のことなんてどうでも良いと思っているくせにまったく白々しい。しかしまあ、このまま黙りこくっていても話が進まないのは確かか。



「……ごめん、大丈夫だよ。えっと、私と2人で過ごしたいだっけ?話すこともないのに一緒にいてもしょうがないじゃないかなって思うんだけど…。」



ここではっきり断りのセリフをぶつけられない自分が本当に情けない。これはまた後で瑠花にどやされるだろうな。とは言え、大抵の人には先の文言だけで私にその気がないことがなんとなく伝わるだろう。ここでなおも食い下がる奴がいるとすれば、そいつはよほど空気が読めないアホに違いない。




「もう、拗ねないでよ。私が悪かったからさ。ちょうど今度の日曜日は試合もなくて暇なんだよね。ねえ、いいでしょ?」



誰が拗ねてるってんだこのアホが。てか、何でわざわざ貴重な休日をあんたに捧げなければならないんだ。放課後は部活があるだろうから仕方なしにしても、昼休みとかいろいろ都合のつけようはあるだろう。あんたは暇でもこっちには惰眠を貪りつくすという最重要イベントがあるんだぞ。






「うーん。正直気が進まないけど結月だけ仲間外れにするわけにもいかないしね。」


ちょいと国分さん?なんであんたが了承するかのようなセリフを吐くんだ?確かに仲間外れはよくないけど、それとこれとは話が別だろうが。



「まあ仕方ないよね。その代わり今度は私といっしょに遊んでよね、八島さん。」


勘弁してくれよ、清水さん。これ以上私から休日という名の安息を奪おうとしないでくれ。私の関知しないところでならいくらでも絵のモデルにしてくれて構わないからさ。



「付き合ってやれよ、希美。それがお前の今為すべきことだ。」



おいおい瑠花さん。お前は私の味方じゃなかったのか?というか、お前はいったいどの目線から語っていやがるんだ。あんまり調子に乗ってるとこの前奢ってやった飲食代請求するぞコラ。



「決まりね。それじゃあ今日のところは八島さんの目が覚めたことを先生に報告して解散にしましょう。私の話はまた日を改めてということで。」



…どうやらもう何を言っても無駄らしい。サヨナラ私の休日。またいつか会えると信じているよ。再会できるその時までにこの場の連中全員を呪ってやるからな。覚えていやがれこんちくしょう。


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