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明日になれば君は  作者: 仁科 すばる
9/24

君の幸せ04

評価よろしくお願いします。

 暑い。

 夏がもうすぐそこまで来ているのだろうか、寝苦しさから目を覚ました。

 

 時計はちょうど深夜一時を指している。先ほどまで見ていた悪夢は、ただの夢ではないことには気が付いている。昨日目覚めた時には、まだ悪夢を見ていたと考えていたが、これは三回目の今日が始まったのだと確信する。

 

 とりあえず何かお腹に入れよう。そう思い立って、部屋の扉を開けた。


「立秋、どうした? 顔色が良くないぞ」

 

 昨日と同様に、向かいの部屋から父が顔を出す。やはり、仕事をしていたのだろう。前回と同様に見慣れない黒縁眼鏡をかけている。父の職業は、プログラマーらしい。俺に詳しいことはわからないが、自宅にこもってパソコンとにらめっこをする様子をしばしば見かけることがある。


 母とは職場で出会ったらしい。昔の恋人を交通事故で亡くしてから、ずっとふさぎ込んでいた父を母が献身的に励まし続けたとか。何年も側にいたという母もすごいと思うが、一人の恋人のことをそこまで愛し続けた父もまた、一途な愛の持ち主なのだろう。今でも、命日には必ず花束を持って出かけているのを見かける。


「大丈夫だよ。変な夢を見て、目が覚めただけ。キッチンで何か少し食べ物探してくる」


 父はそうか。という言葉を残して部屋へと戻っていった。


 芹那が死ぬ今日を繰り返している。父にそうしたところで伝わるわけがない。たとえ伝えたところで、信じてもらえるとも思えないが・それに、父に過去の恋人のことを思い出させるような会話はすべきでないだろう。


 父への配慮と、自身の諦め。そしてこれが夢であればどんなに幸せかという希望を込めて、夢を見たということにしておいた。


 冷蔵庫の中には昨日の夕飯の残りの焼きそばが少量残っている。


 前回も焼きそばを堪能したため、以前のような感動はない。それどころか、ソースの味に飽きさえ感じていた。焼きそばのような濃い味のものは、たまに食べるくらいがちょうどいいみたいだ。それでも、疲れが蓄積していた身体は焼きそばの濃い味に喜んでいた。一気に皿の中身をかきこみ、お腹を満たす。


 明日の弁当の中身が無いと嘆く母の存在は、もうとっくに消え去っていた。


 キッチンのカーテンが夜風に揺られて、かすかな隙間から月明かりが覗く。


 今日は数十年に一度か何かの珍しい月が見れるとか言って、テレビでうるさく騒いでいたっけ。俺はあまり、月や星に興味がない。珍しい現象に対して、恐怖さえ感じる。いつもと違うことは本当にいいことなのだろうか。そんな後ろ向き思考を持ち合わせてしまったためだ。でも珍しいものや奇麗なものが好きな芹那ならば、喜んでみたのだろうか。ふと、三日越しの昨日に思いを馳せた。


 珍しい月に対して恐怖を抱くような俺が、この巻き戻りの現象に対しては不思議と恐怖を感じていない。それどころか、感謝さえしている。もしも、あのまま時間が経過していたならば、芹那はすでに帰らぬ人となっていただろう。俺は芹那を失うことが何よりも一番怖い。芹那が生きている明日は喉から手が出るほど欲しい。でも、芹那がいない明日であるならば、もう来なくていいとさえ思う。


 悪夢だと思っていた芹那が引かれる一回目。

 夢と合致していると気が付き、芹那が階段から落ちる二回目。

 そして巻き戻されて始まった今回の三回目。


 何がどうやって、どうして巻き戻されているのかはさっぱりわからない。それでも俺は月に向かって祈った。


――どうか芹那が死ななない今日がやってくるまで、巻き戻せますように。


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