君の幸せ03
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あまりにも全ての出来事が夢の中と合致している。意識しすぎているからだろうか。同じ行動をとってはいけないと直感的に強く思う。
芹那は俺との下校中に事故に逢う。それなら俺と帰らなければ助かるかもしれない。しかし、事故に逢う可能性のある恋人を一人で帰らせるわけにもいかない。遠回りをしてでも他の道を通るか、帰りの時間をずらそう。そうするしかない。
どうしたら彼女の死を回避できるか、そのことが頭の中の全てを占めていた。
快晴の空を見つめながら、授業そっちのけで考えこんでいたためか、教師に指名された。慌てて黒板に目をやるが、どの問題を解いているかさえわからなかった。
結局、答えることが出来なかった。ここぞとばかりに、来年は受験生という言葉を振りかざして説教を繰り広げる。うっとおしい。そんな感情がこぼれていたのだろうか、怒り狂った教師は放課後に掃除をしておくように命じる。
これは昨日の夢にはなかった展開だ。ただ、これで放課後に居残りをする口実が得られた。
予期せぬ報酬を与えてくれた教師に、俺は怒られていたことも忘れて感謝の気持ちを述べた。教師は唖然とした表情で戸惑いを見せ、隣の席の高橋が手をたたいて豪快に笑った。
「悪い、芹那。罰掃除させられることになった。少し帰りが遅くなるから、待っててくれ」
いつもの俺ならば、確実に先に帰っているように言っただろう。でも、今日は芹那の帰宅時刻をずらす必要がある。
手伝うと言って、教室を訪ねてきた芹那は待たされているのにも関わらず、教室を見渡して何かを考えている。柔らかな笑みを浮かべているため、悪いことではなさそうだ。自分の教室に芹那がいるという状況は新鮮で、同じクラスだったらよかったなと思う。授業中にうたたねをする芹那を想像して、自分の表情筋が緩んだのを感じる。もしかしたら、芹那も同じようなことを考えているのかもしれないな。
「何の授業で話聞いてなかったの」
「数学」
「珍しいね。」
「少し。いや、かなり真剣に考え事をしてた」
「授業を聞いてなかった人とは思えないほど、まじめに掃除するんだね」
なんてことない会話をしながら掃除を進める。正直に、俺も芹那が死ぬ夢を見たころを伝えてもよかったのだが、直前で思いとどまった。二人して同じ夢を見ていたことを知ったら、芹那は怯えるに違いない。無意味に彼女に追い打ちをかける必要はないだろう。
いつもよりも入念に、時間をかけて掃除をする。
芹那が事故に逢う時刻を正確には覚えていないが、学校からすぐに帰宅したことだけは確かだ。一時間程度ずらせば、事故はすでに発生し終えているはずだ。
時計を見ると、掃除を始めてからちょうど一時間。今から帰宅すれば、問題ないはずだ。そう踏んで、芹那に帰宅を促す。
「俺、先生に連絡だけしてくるわ」
俺は芹那が交通事故に逢う夢を見た。そしてこれは予知夢か何かの類で、神様が芹那を守れというお告げをくれたのだと考えていた。これはそんなに優しいものではないのかもしれない。
芹那は俺が落ち込んでいるときには、いつも決まって同じことを言う。
「人生はプラスマイナスゼロになるようにできているんだよ」
もし、本当に人生が足し引きゼロになるようにできているのなら、芹那に出会った時点でもう、俺の人生にはマイナスしか残っていないのかもしれない。
遠くで響いた鈍い衝突音。嫌な汗が背中を伝う。音のした方向へ向かって駆け出した。部活動静だろうか、生徒の悲鳴が聞こえた。廊下を曲がってすぐの階段の踊り場に、横たわる芹那を視界が捉える。芹那の名前を呼ぶが、反応がない。心拍数が自分の焦りを通達してくれているが、脳は非常に冷酷で冷静だった。
「あぁ、今日を巻き戻さなきゃ」
視界がブラックアウトして、意識を手放した。
また明日投稿します