君の幸せ01
評価いただけると嬉しいです。
この物語は皮肉なことにも君の死から始まった。
どうして、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
俺は、最愛の恋人である芹那と一緒に下校していたはずだ。今朝、怖い夢をみたなんて可愛らしいことを言うから、柄にもなく手を繋いで送迎をしていた。悪夢が現実に発生するなんてことを予期していたわけではない。ただ、普段は照れくさくて出来ないことを実践する口実を得たくらいの気持ちだった。
俺が登下校を見守って、しっかり周囲に気を配っていたら正夢になんてならない。させない。それくらいにしか考えていなかった。俺らが登下校に使う道は交通量が多い国道だ。だから、芹那を車道側に歩かせることは絶対にしない。国道でなくてもさせないだろうが、いつも以上に配慮をして歩いていた。
俺の手の中にすっぽりと納まった小さくて丸みを帯びた手は、握りしめたらつぶしてしまうのではないかと不安になった。そんな彼女の小さな右手は、衝撃音と共に消え去っていった。アスファルトが摩擦で焦げたのだろうか。とても焦げ臭い。芹那が轢かれたと理解するよりも、匂いが先に脳に到達した。遅れて、芹那が事故に巻き込まれたと理解する。
本当に一歩先、たった一歩先を進んでいただけなのに。
通行人が、俺を案じて声をかけている気がする。聴覚は言葉を捉えているはずなのに、脳が音声を言語として処理しない。水中にいるかのように、遠くにぼやけて聞こえる、肩をたたかれていると感じるが、それに返答するだけの気力は残っていなかった。
視界が大破した車と、芹那の姿を映し出す。ただ、それを理解することを脳が拒んでいる。
どれくらい時間が経過したのだろう。乾いたのどで、ようやく絞り出した言葉は
「今日を巻き戻せたらいいのに」
そんな非現実な言葉だった。そこで俺の視界はブラックアウトした。
最後までお読みいただきありがとうございます。また明日投稿します