俺たちの幸せ06
次回ラストです。
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暑い。
そのうえ、体が鈍く痛んで自由が利かない。かろうじて手は動くが、足は感覚さえも危うい。
ゆっくりと瞳を開けると、見たことのない照明が目に入った。電気がついておらず、まぶしさを感じることはなかった。ここがどこか、まったく見当がつかない
遅れながらに嗅覚が正常に機能し始めたのか、消毒液の匂いを察知した。
病院だ。
どうして俺は生きているんだ。そう思うと、本来は喜ばしいはずの生にとてつもない恐怖を感じる。俺が生きているということは、芹那はいったいどうなったのだ。
あれだけ待ち望んでいた明日はすでに訪れいていた。むしろ、とうの昔に過ぎ去っていて、あの日から一週間も経過している。
元からインストールされていた検索アプリを使用して、あの日のニュースを検索する。小さな街だが、死人が出た事故ならば報道くらいはされるだろう。
そう思い、血眼になって画面を凝視するが見つからない。見つからなかったことに対する安心感から、一時の安堵を得た。
しかし、未成年だから規制がかけられた可能性も捨てきれない。
再び襲ってきた不安を払拭すべく、波留と高橋に連絡を入れる。二人とも授業中なのだろうか。返信は一向に来る気配がない。
もやもやとした気持ちで、痛む足を眺めることしかできなかった。
コンコン
ドアノックの音が個室に響く。看護師だろうか。母さんかもしれない。なんせ、一週間も眠っていたようだ。目覚めたと知れば、さぞ驚くだろう。
「え……」
戸惑いの声が、重なる。
ドアを開けたのは看護師でも母さんでもなく、芹那だった。
あまり眠れていなかったのだろうか、目の下に大きなクマを作っている。それでも、見たところ大きな外傷はないようだ。
芹那が生きている。芹那が明日を生きている。
「本当に、よかった」
心の底から漏れ出た言葉が、静かな病室に反響した。
「それは私のセリフだよ、立秋君」
そう言って、泣きじゃくる芹那を抱きしめてあげたかった。
しかし、全身の怪我と固定された足が邪魔をしてそれは許されなかった。せめてもと、かろうじて動く左手で彼女のぬくもりを確かめる。
あの日、俺は芹那の代わりに死ぬつもりだった。そうすれば、命の数が合うから。
それなのに俺たちは今こうして、二人とも生きている。
俺たちの代わりにどこかで命を落とした人がいるのかもしれない。
それでも、目の前の芹那が生きている。目の前の恋人よりも大切な人なんているわけがなかった。
僅かに開かれていた窓から、風が吹き込む。揺れるカーテンの隙間からは、感動的な再開にはふさわしくないような曇り空が見え隠れしていた。
それは俺にとって、世界で一番美しい空に映った。そう思わせるほど、あの快晴の日を繰り返してきたのだ。
「ねぇ、芹那。俺と一緒に明日も生きて欲しい」
日曜日に更新します。




