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明日になれば君は  作者: 仁科 すばる
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俺たちの幸せ04

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さえぎる雲一つない空から降り注がれる日光が、じりじりと皮膚を焦がす。


「おはよう」


今までとは打って変わって、堂々と玄関のチャイムを鳴らした。

ボタンを押す指が震えていたのは、緊張感によるものではない。もしかしたら、芹那はもう行ってしまったのではないかという不安から来たものだ。


インターフォンから返事はなく、不安が募る。

ガチャリ。

そう音を立てて開いた玄関から顔を出したのは、波留だった。


無言のままで表札の所まで戻り、苗字を確認する。間違いなく、当たり前なのだが芹那の自宅だ。

いや、俺はそもそも波留の自宅の場所を詳細には知らない。


困惑する俺を指差しながら波留は笑っている。前回の涙が吹っ切れたような顔をしていた。ひとしきり笑い終えて、まっすぐに俺の瞳を見る。


「今日はこれで最後だから、目一杯可愛くしてほしい。親友に頼まれたから、来たんだよ」


芹那は俺が電話した後に、波留に連絡をしたようだ。嬉しそうに笑う波留だが、目元が赤くはれている。


「芹那の最後の今日は譲ってあげる。だから、ちゃんと大切にしてあげてね」

また学校で。そう言い残して自分の荷物を背負って帰っていく。


その背中が小刻みに震えているのを俺は見逃さなかった。あいにく、かける言葉を持ち合わせてはいなかったけど。


まもなくして、芹那が玄関から顔を出す。化粧も髪型も派手すぎないナチュラルな物であったが、波留の丁寧な仕事が伺えた。芹那への想いの集大成。


芹那に見とれてしまっていたことに気が付き、慌てて左手を差し出す。


「そんなに警戒しなくても、私は逃げないよ」

もう、今日が最後だからね。そう言って眉尻を下げる。



「ねぇ、立秋君。今日は天気がいいね」

「そうだな。つい最近まで雨が降ってたのに」

「昨日の月見た? すごく綺麗だったよね。次は何年後なんだろう」

「次は一緒に見れたらいいな」

「そんなに先のことはわからないよ」


私は今日で最後だから。言葉にはしないが、そう言っている気がした。


手をつないで歩く通学路。俺たちは、これが初めての今日であるかのように振る舞うことにした。それでも最後の今日であることは明らかだった。


なるべくゆっくり、終わりの見えている今日を噛みしめるように進む。


時間をかけて歩いているつもりだった。それでも、学校までの道のりは有限で、すぐにたどり着いてしまう。


「じゃあ、また放課後に」

「ありがとう。また放課後」


手を離すことが名残惜しかった。この手を離したら、もう二度と会えないような気がして怖かった。後ろ髪をひかれながら、芹那を波留に引き渡す。

本当は今日一日くらいずっと一緒にいたかったのだが、芹那には波留との時間も大切にして欲しい。


俺がいなくなった時に、芹那を支えるのは波留だろうから。


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