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明日になれば君は  作者: 仁科 すばる
20/24

俺たちの幸せ03

星海です。

コメント、評価お待ちしております。

 これを最後の今日にしなければ。


 長い夢を見ているような気分だった。巻き戻るなんてファンタジーか夢物語な経験を繰り返しているなんて。


 そして、夢はいつか必ず醒めるものだ。

 物語にだって結末がある。

 だから、俺らの夢物語に終止符を打つ必要があるのだ。


 芹那に苦しい思いを強い続けてまで、俺は今日を繰り返し続けてきた。最後の今日にいたっては俺の完全なるわがままだ。芹那には申し訳ないが、最後のわがままを許してほしい。


 カーテンの隙間から月明かりが漏れ出る。憎たらしいくらい美しい月。そのせいか、星はほとんど輝きを見せていない。光を自ら発しているのは星の方なのに、月の方がずっと明るく見える。


 とりあえず、お腹に何か入れようと部屋を出た。

 父が自分の部屋から顔を出す。黒縁の眼鏡をかけていて、今日もやっぱり仕事をしていたようだ。


「立秋、どうした? 顔色が良くないぞ」

「大丈夫だよ。変な夢を見て目が覚めただけ。キッチンで何か少しだけ拝借してくる」


 もう、何度も繰り返し行われてきた親子の会話。前回のように、父さんがそれ以外の会話を求めてくることはなかった。前回は、そんなにも顔色が悪かったのだろうか。些細なことでも今日は分岐するのだろうか。


 それは、考えても答えの出ることのない問いだ。そう諦め、キッチンへと続く階段を下った。



 冷蔵庫の中身は代り映えすることが無く、焼きそばがあった。

 もう食べ飽きたと手をつけなくなっていた焼きそばと父さんのアイスクリームを拝借する。


 やはり、焼きそばはおいしい。今日を繰り返すのはこれが最後。そう思うと、この焼きそばを口にできるのも最後ということになる。ほんの少しの寂しさを噛みしめながら、焼きそばを平らげた。


 焼きそばと一緒に冷凍庫から出しておいたアイスクリームはスプーンですくえる程度に溶けていた。俺が大人になるのは想像よりもずっと早かったみたいだ。スプーンを差し込んだ時、ふとそう実感した。


 硬いアイスクリームを無理やりスプーンですくう方が、やっぱり俺の口には合っていたみたいだ。口にして、自分はまだ子供だったと再確認して笑った。


 ひとしきり空腹が満たされた俺は、次にすべきことを考える。

 まずは芹那に電話をかけなければならない。全てはそこからだ。時計は深夜二時を指している。芹那はまだ目覚めていないだろう。


 前回、彼女はこの巻き戻しの世界から抜け出そうと決意を実行した。彼女の葛藤を自分はないがしろにしたのだ。そう思うと胸が掴まれたように痛かった。


 芹那の起床時刻を正確には把握していないが、手遅れになる前に電話をかけなければならない。こんな真夜中に常識はずれかもしれないが、着信履歴から番号を探す。着信履歴の一番上にいつだってある芹那の名前をタップする。


 呼び出し音が鳴りだすと、通話はすぐに開始された。

「もしもし……」

「どうして、どうして明日に進んでくれないの?」

 俺が声を発すると同時に芹那は悲痛な声で俺を責めた。


 芹那が俺を責めたくなる気持ちは十分に理解できる。あの屋上にたどり着くまでに、いったいどれだけ自分に仕方がないと言い聞かせたのだろうか。

 今の芹那には、俺はただの邪悪な存在なのかもしれない。


 それでもいいから俺はもう一度、最初から今日を始めなければいけなかった。芹那からどう思われてもいいから、今日が必要だった。


「本当に、ごめん。もう、これが最後の巻き戻しにする。約束するから。だから、最後の今日を時間が許す限り、一緒に過ごしてくれないか」


 芹那が大きなため息をついた。

 それは電話越しでも伝わるくらいに、愛情に満ちたため息だった。

 結局、芹那は俺には甘いとつくづく思う。


「本当に、もうこれが最後の今日だからね」


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