わたしの幸せ02
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将来の夢は単行本デビューと大きいのでよろしくお願いします!!
いつもと変わらない退屈な授業を受け、先生が来年は受験生だと繰り返す。友人たちとありふれた会話をして、購買でメロンパンを買う。担任の先生が繰り広げる、何のためにもならないようなお説教を含んだ終礼を終え、彼の待つ昇降口に向かおうと準備を始めた。
あたりは部活動に向かう生徒に溢れていた。中学生・高校生と万年帰宅部を貫き通しているためか、部活動へのあこがれが人一倍強かった。特に、夏休みに部活動をしている友人と会うとひどく劣等感に襲われていた時代もあったものだ。
私がテレビの前でごろごろと寝そべっているのに、彼らの炎天下でボールを追いかける姿や合宿で夜通し楽器を奏でる姿を想像したら虚しくなった。ただ、大集団に所属してしまうと上下関係に悩まされたり、同級生同士の熾烈なレギュラー争いが繰り広げられたりすることは目に見えていた。なんとしてもそれだけは避けたかった。そのため、部活動に入るという選択肢は自動的に削除されてしまったのだ。
高校二年生にもなるとちらほらと退部する生徒も出てきた。それに加えて、万年帰宅部仲間の親友が出来たことも大きい。類は友を呼ぶと言うのだろうか、親友も恋人も帰宅部であることは幸いだ。部活動があれば、必然的に共有できる時間は減少してしまうし、何より私自身が劣等感に苛まれていたかもしれない。そうなれば、彼らと今ほど親密な関係が築けていただろうか。
「芹那、ちょっとだけ待ってよ。髪の毛を可愛くしよう。立秋君と帰るんでしょ」
そう声をかけてくれたのは、万年帰宅部の親友である波留だった。波留の妹はくせ毛がひどく、悩んでいたらしい。そんな妹を励ますために、ヘアアレンジを習得したと聞いた。そのかいあってか、今では行事の度に沢山の女子生徒が波留のもとを訪ねる次第だ。
「いいなぁ。私も芹那と帰りたかった。放課後デートしたかった。何なら、私も彼氏が欲しいよ」
そんな雑談を繰り広げている間に、私の髪の毛はするすると編み込まれていった。私は基本的に手先が器用ではない。そのため、普段はハーフアップにしているだけだ。その髪の毛が、器用に編み込まれていくのを見ることが好きだった。
「波留は魔法使いみたいだね」
そう褒めると、照れ臭かったのか波留は恥ずかしそうに笑った。耳が赤くなっている。最後にバニラの匂いするヘアコロンをひと吹きして、教室を送り出される。
「じゃあ、また明日。話聞かせてね」
廊下の鏡に映った自分は髪型のおかげか、いつもより幾分きれいに見えた。ただの自己満足かもしれないが、立秋にはいつだって一番きれいな自分を見て欲しかった。恋に落ちてから時間は経過しているが、その気持ちは衰えることを知らない。
「待った?」そう尋ねると、「全然」と言って手を差し出してくれる。立秋の額にはじんわりと汗がにじんでいて、待っていてくれたことを表していた。
そのころには、私はもう今朝の夢なんてものは全く覚えていなかったのだろう。夢なんてそんなものだ。目覚めた時にいくら鮮明だったとしても、時間の経過とともに曖昧になって、すぐに忘れてしまう。昨日見た夢を翌日に正確に語ることなんてできやしない。所詮、無意識が生み出した映像など現実世界には敵いやしないのだ。現に、夢の事なんてすっかり忘れて立秋に夢中だ。
交差点に差し掛かった時に、ふと嫌な記憶が脳裏をよぎった。嫌な汗が噴き出す。信号が青に変わったにも関わらず、渡り始めない私を立秋がのぞき込んで心配する。この信号を渡らなければ、家につくことが出来ない。避けられない道のりなのだ。青信号がちかちかと点滅をはじめ、私を催促する。心配そうに見つめる立秋の腕を引き、慌てて渡りだそうとした。
確かに信号はまだ点滅していた。ここの信号は比較的長く点灯するのだ。毎日、通学路として使用しているのだから、それくらいは把握していた。それなのに、タイヤがアスファルトをこする音が鳴り響き、焦げ臭さを感じる。こういう時に、痛みは後に感じるものなんだなと、薄れいく意識の中でぼんやりと思っていた。立秋が何かをつぶやいた気がしたが、もう私の耳には聞き取ることは出来なかった。
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