父さんの幸せ01
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あぁ。相変わらず今回も暑いな。
汗が衣服を湿らせる不快感で目を覚ます。
右腕に目をやると、大きな切り傷があった。前回、芹那をかばおうとして作ったものだろう。大きな傷ではあるが、切り口は浅くて出血量も少なく済んでいる。
何度も巻き戻るなかで、自分がけがをしたのは初めての出来事だった。芹那を助けるつもりで向かっていったにもかかわらず、芹那に守られてしまった。芹那の傷は巻き戻りと共に消えているようだけど、自分の体の傷は引き継ぐらしい。自分の命の終わりが、この巻き戻りの終わりになりかねない。より一層気を引き締めなければ。それに、あまりにも大きなけがを負うと、行動に支障が出る可能性もある。
自身の部屋にある簡易の救急箱から消毒液と包帯を取り出し、応急処置をする。消毒液しみて、自身の怪我をさらに実感する。
とりあえず薄い長そでのシャツを羽織っていれば、かろうじてごまかしきれるだろうか。こんな暑い日に長袖なんて、変に思われるかもしれない。それでもないよりはましなはずだ。そう思い、シャツを羽織ってから部屋を出る。
「立秋、どうかしたのか? 顔色が良くないぞ」
父の存在を忘れていた。腕のことをなんて説明しよう。心配性な父のことだ。学校を休むように言われるかもしれない。そう思い、反射的に右腕を隠した。
「大丈夫だよ。変な夢を見て目が覚めただけ。喉が渇いたから、キッチンに行ってくる」
なるべく早く会話を終えようと、早口になる、大丈夫だ。きっといつも通り、これで部屋に戻っていく。頼むから腕のことに気が付かないでくれ。そう心の中で念じ続けた。
「少し話をしないか」
俺の願いは虚しく、父は部屋には戻らなかった。焦りを隠すように、うなずく。笑って位はみるものの、口角が引きつってうまく笑えているか微妙なところだ。今回は、巻き戻っていないのか。それが一番困る、それだけは避けたい。他に考えられることとしたら、今までにはなかった怪我という特典が付いたせいて、周囲の行動が変わってしまったのか。どちらにせよ、あまりうれしくはない状況だ。
「立秋。安心しなさい。多分、お前が心配していることはまだ起きていないよ」
少し乾いていて、優しい父の声。久しぶりに会話らしい会話をしている気がする。最後に会話をしたのは、確かに機能ではあるのだが、今日を何回も繰り返しているとその感覚が可笑しくなっていた。
「今は何回目なんだ。もう少なくとも数回は経験しているんだろう」
思わずうなずくが、どうして父がそんなことを知っているのだろうか。父も巻き込んでしまったのだろうか。いや、巻き込んだというよりも経験したことがあるかのような口ぶりだ、父は俺がうなずいたのを確認して、階段の方へ向かっていく。
「キッチンへ行こう。多分、とっておきのアイスクリームが残っていたはずだ」
父は冷凍庫の奥から、少し値段の張るアイスクリームを出してくれた。
回数を重ねていくにつれて、昼食もおろそかにしていたため、嗜好品を口にするのは久しぶりだった。
まだ硬いアイスクリームをスプーンで無理やりすくい、口に運ぶ。父の方に目をやると、父はアイスクリームが少し柔らかくなるのを待っていた。
大人になれば、アイスクリームが柔らかくなるのを待てるようになるのだろうか。
それとも、性格の問題なのだろうか。
俺は、何となく後者だと思う。
自分のことはわからないが、何となく芹那は何歳になってもアイスクリームが柔らかくなるのを待てない。
そんな風に思う。
「立秋。今から少しだけ、父さんの昔話に付き合ってくれ」
父さんはそういって、少しだけ柔らかくなったアイスクリームを口に運んだ。
また明日投稿します。




