君の幸せ06
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もう何度も聞いている授業は退屈でしかなかった。
結果的に、どうしたら芹那の死を防止できるかを考える時間になる。
前回と同様、教師も僕が授業に集中していないことに気が付き、指名する。前回は答えることが出来ずに、掃除を命じられた。
しかし、今回はしっかり解答することが出来た。当たり前だろう、前回も同じ問題を指名されたのだから。
「なんだ。聞いていたのか」なんて、残念そうに肩をすくめる。
教師は聞いていないやつを指名したかったのか、すぐに隣の席でうたたねをしていた高橋を指名した。案の定、高橋は回答することが出来ずに掃除を指名される。
これでもう前回とは異なる未来がやってくる。
高橋は本来ならばすることのなかった掃除をすることになるし、するはずだった俺はまっすぐに帰宅する。
つまり、行動次第で未来を変えることが出来るということなのだ。
うまく行動さえすれば、芹那は救える。それだけが、唯一の希望だった。
窓の外を眺めていると、どこかのクラスの生徒が集団行動の練習をしている。体操服の色がくすんでいない様子から、一年生だと考えられる。去年は自分もあれをしていたのだろうか。規則的な動作を何度も繰り返すそいつらは、不気味さすら感じさせる。操り人形のように、同じ動きしかできないようなゼンマイ仕掛けのおもちゃのような、そんな奇妙さを抱いてしまった。
「芹那。帰ろう」
ホームルームの終わりを告げるチャイムと同時に教室を飛び出した。
まだ部活動の生徒も教室で雑談を繰り広げている。出入り口付近で会話をしていた生徒からの視線を強く感じる。あまり注目されるのは気分がいいものではない。出来ることならば、目立たずに生きていきたい性分なのだ。
芹那は窓際の席で、波留と会話をしていた。
「今日は早く帰ろう」と伝えて、芹那の手を引こうとする。
波留は会話の途中で遮られたことに対して不服そうにしていたが、急いでいる旨だけを簡潔に伝えるとしぶしぶ了承してくれた。
芹那は申し訳ないというような視線を送り、波留に手を振り、荷物を背負った。
校舎をでてすぐに、教室にスマートフォンを置き忘れてきたことに気が付いた。
いつもは制服の左ポケットの中に入れているのだが、重みを感じない。
教室に取りに帰ったとしても数分程度しかかからないだろう。それでも、戻るという選択肢は頭の中で真っ先に排除された。一刻も早く、芹那を家に送り届けたかった。
「何があったの? どうしたの?」
俺はそんなにも深刻めいた表情をしていたのだろうか。芹那は怯えた表情で、俺の手を引き留める。
その表情が強く手を引く俺に対して向けられたものなのか、自らの生命を脅かそうとする何かの存在に対して向けられたものなのかを見分けることは出来なかった。
彼女にこれは悪夢だと言っておきながら、俺自身がそれを否定するような行動をとっている。彼女への配慮が足りていなかったと、反省をするがもう遅かった。
陽が傾いていく空は、まるでカウントダウンをされているような気持にさせる。
まだ、夏の初めだと言うのに、心なしか夕暮れが早い気がする。
何に追われているわけでもない。
それでも、俺は何かから逃げなければならないと強く感じていた。
また明日、投稿します




