君の幸せ05
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俺が出来ることは、彼女の側にいて彼女の未来を何とか変えることしかない。そう決意して、2回目と同様に彼女を迎えに来る。
ガチャリ
玄関が音を立てて開き、よく見慣れているはずの彼女が顔を出す。もう2回も失った最愛の彼女。3回目の彼女はこうして今は生きてはいるものの、すでに2度失ってしまった彼女を思うと胸が締め付けられた。
「ああ、立秋君おはよう」
俺は芹那に迎えに行くことを連絡していなかった。それでも彼女は驚く様子は無く、迎えに来ることをはじめから知っていたかのような態度だった。
大きく深呼吸をする。家から出てしまった以上、もう油断は出来ない。俺が芹那に生きる未来をあげなければならない。そう決意をして、芹那に手を差し出す。強く握りしめた手からは、温かい体温が感じられて鼻の奥がつんと熱くなった。
「今日の夢、すっごいリアルで怖かったんだよ。交通事故に逢わないように気を付けていたら、階段から落ちて頭打つんだ。縁起悪いよね」
彼女も繰り返している。どうしてそんな非現実なことを思ったのだろうか。でも、きっと彼女も同じ2回目を経験している。幸い、彼女はまだこれが長く続いている不思議な悪夢と思い込んでいるようだ。
もしも、彼女がこの不思議な巻き戻しに気が付いたら……そう考えると怖かった。
目の前で芹那を失う俺ですら、たった2回で心が悲鳴をあげている。もしも、何度も自身の死を経験するということに芹那は耐えられるだろうか。
不可解な現実を突きつけるよりか、長い悪夢に苦しむ方が幸せなのではないだろうか。
俺は、彼女に3回目であることを告げない決意をした。
「今から、私すごく可笑しなこと言うから。」
どんなことを言いだしても、その手を離さないでね。そう言って歩き始めた。
「私、もう3回も死んでいるはずなんだよ。変な夢を初めてみたその日に交通 事故、その後に階段からの転落。今日が来るのはもう3回目なんだよ。これは本当に夢なのかな」
もう、痛いのも怖いのも嫌だな。そんな風につぶやいて、握る力を強めた。
俺が巻き戻しに芹那を巻き込んでいるのか、俺が芹那の繰り返しに巻き込まれているのか。
最初はそんな風に考えていたが、芹那を巻き込んでいるのはどうやら俺のようだ。
芹那は痛みにも恐怖にも強くない。すりむけばすぐに痛いと言うし、心霊写真だけでなくどこか遠い国の事件を聞いただけでも怖いとおびえる。
そんな芹那を守ってやりたくて仕方なかった。俺を一番に頼ってくれることが嬉しくて仕方がなかった。
そんな彼女を3回も守り切ることが出来ず、辛い思いをさせている。自分自身に酷く憤りを感じた。
強く握られていたはずの手の力が弱まり、歩調が緩やかに変化する。
「今日を繰り返しているのは私だけ?」
すぐに返事をしなければ、と思うほど言葉は出てこない。視線が宙に泳ぎそうになるのを必死に食い止める。芹那は俺を恨むだろうか。いっそ一回目で終わらせてくれていたらと嘆くだろうか。結果的に何度も苦しい思いを強いている俺にもうやめてくれと言うだろうか。いや、芹那の性格からすると、俺に申し訳ないと謝るかもしれない。芹那の対応がどんなものであれ、それは俺の望むものではないだろう。
だから、俺は嘘をついた。芹那が罪悪感を抱かないように。俺のことを嫌いにならないように。そして、これが長い夢であればいいという自分自身の願望も込めて諭した。
「きっと、これは長い悪夢なんだよ。だから、明日になれば忘れるよ」
明日になりさえすれば、この嘘は信実に変わるのだから。そう自分言いきかせた。
また明日投稿します
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