第2話 目覚め、出会い、その先に…
「っつあッ!」
はあ、はあ、はぁ
こ、ここは俺の、家?
目の前に自分の部屋が広がっていた。
ドアをはいってすぐ左にベットがあり、右には机と今までとったトロフィーや賞状が飾ってある。
正面に大きめの窓があり、そこに入ってくる風がカーテンを揺らす。
その真っ白なカーテンは夕日でほのかな赤に染められていた。
そして俺はベットに横になっていた。
俺はいつ家に帰ってきたんだ?
学園を棗と一緒に出て、その後買い物して……ッ、そ、そうだ、俺は車にひかれたんだ!
ん?あ、あれ?
体を触ってみるがどこにもひかれた形跡はなく、むしろ調子がすごくよかった。
汗かいてるな。
制服のままだし着替えるか…
ガチャ
!?
俺がズボンをおろしたとき誰かが部屋に入ってきた。
「なっ、ななッ!///」
相手も俺が起きてズボンをさげてることに気付く。
「な、なななッ!」
「…にぬねの?」
ボケてみる。
「なにしてんだッ!このヘンタイッ!!」
誰だか知らないが、いきなり入ってきて、いきなりキレた。
「ヘンタイとはなんだ、ここは俺の部屋だ。自分の部屋で着替えて何が悪い。」
「うるさい、バカッ!!」
理不尽だ……。
「早く出てけッ!!ヘンタイ!」
「お前が出ていくんだろ、普通。」
「ぐっ…へ、ヘンタイッ!!」
ダンッ!!
そう言ってやると悔しそうな顔をして出ていってしまった。
なんなんだ……?
っと、それよりさっさと着替えちまうか。
………
……
…
ふうぅ
着替えを終えると、ベットに座り込む。
机の上の壁にある時計を見ると、7時をまわっていた。
そろそろ、ご飯の時間か……
コンッコンッ
そう思うとほぼ同時にノックがきこえた。
「お兄ちゃん?着替え終わった?」
今度は棗みたいだ。
「終わったから、入っていいよ。」
「うん…。」
棗にしては珍しく、すごく静かに入ってきた。
「どうしたんだ?大丈夫か?」
「私よりッ!……お兄ちゃんは大丈夫なの?」
「ん?ああ、車にひかれたみたいだったんだが、このとおりピンピンしてる。」
立ち上がってその場でジャンプしてみせる。
「…そ、よかった。」
棗は安心したように俺の座ってた場所に座り込んだ。
「さっき俺の部屋に入ってきた人って誰なんだ?」
「うん、さっきのは林…って下に行って本人達に聞いた方がはやいね。」
ベットから立ち上がる。
「行こ。」
「まて。」
部屋を出ていこうとする棗を引き止めた。
「さっき達って言ったよな?入ってきた子以外にもいるのか?」
俺も立ち上がり棗に歩み寄る。
「うん。もう一人、私達と同じ双子の姉妹だから。」
そう言って棗は下のリビングへ向かった。
俺も後を追うように自分の部屋をあとにした。
………
……
…
「はじめまして、甘蜜 蜜柑です。そしてこっちが…」
「林檎よ、このヘンタイ!」
リビングに行くと当然のようにコーヒーと、お菓子をつまんでくつろいでいる二人の女の子がいた。
どちらも髪はセミロンよりちょっと長いくらいで、林檎さんの方はツインの髪形でヘアゴムに林檎のような物がついている。
蜜柑さんの方はストレートでヘアピンに蜜柑のような物がついている。
しかし、それがなかったら顔では全くと言っていいほど判別がつかないくらいそっくりだった。
「なんで、人ん家でくつろいでるんだ?」
蜜柑さんの方が慌てて立ち上がりペコリと頭を下げた。
「す、すみません。駆さんが目覚めるのに少し時間がかかるのと、棗さんに誘われてしまったのでお言葉にあまえてくつろいでしまいました。」
「あ、いや、別にいいんだけど、なんで家にいるの?」
俺がそう言った瞬間、周りが時が止まったように動かなくなった。
「お、覚えていないんですか?」
「?……なにを?」
「私達が車にひかれたあなたを治癒してあげたんです。」
「治癒?」
「はい、血だらけのあなたを私の魔法、正確にはちょっと違いますがそれで治癒しました。」
………は?
「あ、ごめんなさい。いきなりは信じられませんよね。じゃあ、ちょっとやってみますね。」
そう言って蜜柑は片手を前にして何か言い始めた。
「…天の燭、地の焔よ…癒しの冷水を受け入れ我に治を与えたまえ……治癒。」
唱え終わった瞬間、棗の腕にあった小さな擦り傷が完全に治っていた。
「これが私の力です。治癒の術は傷はたいていのものでしたら治せます。ただ、肉体の自己再生力を高めただけなので、解毒などには使えませんけど……。」
「ほ、ホントに、魔法?あのアニメとかに出て来る?」
「はい、あんなに早く出せませんけど……。」
「………す」
「酢?」
「スゲーッ!!」
思わず飛び上がってしまった。
「じゃあ、俺を助けてくれたのも蜜柑さんなのか?」
ちょっと激しく言い過ぎたのか、蜜柑さんは一歩下がったが頷いた。
「…ん?つーか、なんで人がひかれて事件になってないんだ?」
「それは私が説明します。」
………
……
…
あなたを襲った車は、地水火風の四大元素のひとつ風を司る者です。
何故駆さんが襲われたかというと、駆さん達は私達と同じ魔法、正式名称『交響技』(シンフォニー)の使い手しかも代々伝わる魔の封印の賢者の生まれ変わりだからです。
今から遡ること数千年前、あなたの前世が魔をこの日本の3ヶ所、いえ5ヶ所と言っておきましょう、そこに封印しました。
さすがに一人の人間が封印しただけ、完全には封じれないので、それぞれの地で多少有毒ガスがでたりしますがここ最近、その封印が弱まり被害が増えています。
調べたところ、現在の新潟県にあたる封印が解かれていました。
その結果、全体の封印の均衡がくずされ封印が弱まっていました。
このままでは封印が完全に解かれ、魔が復活します。
それを防ぐため、私達があなたを探していました。
そして、剣の達人だったと言われるあなたの前世の通りに、剣道の優勝が続くこの玄翁学園で一番強いあなたのもとにたどり着いたわけで、家の前で待っていたらあなたが車にはねられていました。
そこには風の魔力が感じられたので、情報操作で事故はなかったことにしました。
………
……
…
「ということなのですが、わかっていただけたでしょうか。」
「あ、ああ。大体。でも、なんで風の気配がしただけなのに四大元素の仕業とかわかったんだ?それも、シンフォニーとかいうやつなのか?」
「あ、いえ、五つある聖地、封印場所ですがその四ヶ所の魔力の属性が四大元素なんです。そしてその四ヶ所の封印を解いたとき、五つ目の聖地があばかれ封印はとけます。
それには四大元素の力が必要不可欠です。封印は同元素の力を封印の力以上にぶつければ解けるんですが、普通はそんな力は単体では出せないんです。
他の属性に力をかりなければ……」
「それで、他の元素も協力してることがわかったってことか…」
「はい、理解が早くて助かります。
付け足させいただきますと、四大元素を操る者がいると推測しています。」
「な、なんで?」
ここでやっと棗が話に乱入した。
「はい……普段、四つの元素はこの島の東、西、南、北の四ヶ所を守護しています。
そのおかげでこの日本は四季があり、一つの元素が強くなると、季節がかわります。」
………はい?
「ち、ちょっと待って、四季って、な、なに?」
「は?あんたヘンタイなだけじゃなく、馬鹿も混ざってるの?春夏秋冬のことに決まってんでしょ!」
今まで黙っていた林檎さんが、割り込んできた。
ってか、久々に声を出したと思ったら罵倒かよ…
「そうじゃなくて、四季は地球の地軸のずれからなるものだと…」
「はぁ〜?そんなのこっちの世界じゃ常識でしょ?」
……こっちってのがどこだか知らないが、間違いなく俺の周りでは違う。
「林檎ぉ〜、棗さんも駆さんもまだこっちの世界に入ったばっかなんだよ?わかる訳無いでしょ!」
いやだから、こっちってどこですか!?
って、俺も棗も、もう入っちゃってるわけ……
「ごめんなさい、でも、実は地軸とか全く関係無いんです。そして四季の無い国は、一つの元素の影響をうけにくかったり、全くうけなかったりするせいです。」
「ん?つまりそんな強い奴らが、俺なんかを狙ってると?」
「ですからさっきも言ったように、強かったんです、あなたの前世は……不死であると言われたくらい、若いうちに亡くなったと聞きますが…。」
蜜柑さんの表情は見るからに暗くなり、そんな表情を隠すように顔を伏せてしまった。
「でもさ、なんか矛盾してない?」
蜜柑さんの表情に気付いてしまった俺は何も言えなくなっていた。
そんな俺の代わりに棗が口を開いた。
「はい、実は…」
「いいよ、蜜柑。私から説明する……。」
説明を始めようとした蜜柑さんに林檎さんが割り込んだ。
「蜜柑はつらいでしょ。
実は、その人は」
「ちょと待て。」
林檎さんの話を中断してさっきから疑問に思ってることを聞いてみることにした。
「なによ、ヘンタイ。」
林檎さんは話の途中で止められたのが癪に障ったらしく、ちょっと機嫌がわるくなった。
「だからあれはお前が…じゃなくて、何でさっきから前世とかあの人なんだ?何で名前言わないんだよ。」
「……知らないから、教えてもらってないから。」
「な、なんで?」
今までのいろんな事教えてもらっておいて、名前は知らないって変じゃないか?
「言い方がおかしかったね、知らないの誰も…」
「じゃあ、何で今までみたいな事は知ってるわけ?」
「書物があるだけ。それと、前世の記憶がある人がいる。そういう人達の記憶から。」
「……ふーん。」
「納得してくれた?」
いきなり林檎さんは身をのりだして近づいてきた。
「あ、ああ。」
そういうと、少し悲しそうだった瞳に小悪魔みたいな光が宿った。
「フフーン、さーて私の話の腰をおってくれた罪をどうやって償ってもらおうかしら。」
や、やっぱり怒ってますか。
「り、林檎さん、さっきの話の続きをしてくれませんか?」
棗が林檎さんに言ってくれる。
「ふんっ、よかったわね優しい妹さんがいて。」
本当、助かった。
そう棗に視線をおくると
どういたしまして。
と、視線がかえってきた。
「話を続けるわ。…そう、不死と言われたその人が死んでしまった訳は……大切な人を守った為。」
大切な人?
「ご、ごめんなさいッ」
一言だけ言って蜜柑さんいきなり立ち上がって、でていってしまった。
出ていく瞬間の蜜柑さんの目には涙が浮かんでいた。
「蜜柑さん!?」
俺も立ち上がって追いかけようとしたが、林檎さんに腕を掴まれた。
「待って、蜜柑を一人にしてあげて。」
その瞳は悲しみと蜜柑さんを想う強い意志が感じられた。
…けど、
「林檎さんは蜜柑さんの事を想ってそうするのかもしれないけど、こういう時は一人にしないほうがいい。」
「駄目、一人の方が絶対いいから!」
「ちがうッ!!」
思わず大声を出してしまった。
…そう、違う。
皆から逃げ出した時、一人にしておいた方がいいなんて考えた人は誰なのだろう。
目の前にいたらぶん殴ってやりたい。
こっちの声が届かない?
拒否されるだけ?
違うッ!
そんなのは表面上だけだ。
本当は凄くうれしいくて、泣きたいほどうれしいのに負の感情が強くて一人にしてほしいと錯覚するだけだ。
俺がそうだったように…
「ごめん。でも、今蜜柑さんを一人にはできない。」
「あっ、ちょっと!」
「お兄ちゃん!?」
俺は二人の言葉を振り切ってリビングをでて玄関を飛び出した。