プロローグ〜日常〜
「……を捕らえよ、我が同士達よ。」
暗いどこかの部屋、赤、青、緑、茶に光る四つの珠がある。
その珠は、四方の方角にあり、その中心に一人の人間がいる。
「はっ!」
四つの珠は返事をすると、それぞれ四方に飛んで行った。
「あれから…〜年、今こそあなたを……。」
……………
………
…
「はぁー、晩飯当番面倒だなぁー。」
ここは、国立源翁学園三年A組。
「仕方ないだろ、妹の棗ちゃんと二人暮しなんだから。
それが嫌だったら棗ちゃんに家事を任せて、部活終わってからバイトでもすればいいんだよ、駆。」
俺は、全道 駆。そして、俺の愚痴を聞いてるのが榎本 椿。そして、今話題に出た棗ってのは俺の双子の妹だ。
「それはできない!二人暮しで片方に家事全部任せられるかッ!」
「駆はそういうとこ、まめだよな。」
椿は感心するように言った。
「あっ、俺そろそろ会長会議の時間だから行くよ。」
椿はクラス委員長で、昼休みの放送で放課後会議があると言っていた。
「駆も部活で昨日から校内戦してなかったか?」
「あっ、やっべ……悪い、俺行くから」
そう言って俺は剣道部室にむかった。
幸いにも先生はまだ不在で怒られる事はなかった。
数十分位で先生が道場に入って来た。
「おーいっ昨日の続き、校内戦をやるから集まってくれっ。」
狭い道場に渋く、太い声が響く。
その男のもとに何人かの学生が集まる。
その男の名前は、向日葵 陽先生だ。
「昨日は準決勝までやったから決勝だけだな。
よしっ二人とも準備してくれ。」
「はいっ。」
そんな先生の言葉に返事をしたのは、決勝で俺と戦う笹島部長。
部長は、小さい頃から剣道の英才教育を受けていたらしく、全国大会でもたいてい勝つ。
「今日こそ倒すぞ、駆。」
そう、そんな部長でも俺には勝てない。
あまり強い強いと言われるのは好きではないが、自分でも強いと思う。
そもそもその力がわかったのは七年前。
当時俺の住んでいる町で連続誘拐殺人事件があった。
無差別に誰でも誘拐し、金を出させては死体を家族に晒す。
そんな奴に俺と、棗が誘拐されたのだ。
そいつは電話で俺達の声を家族に知らせると、俺達を殺しにかかった。
俺は棗を守ろうと犯人に立ち向かったところから記憶がない。
棗も覚えてないらしい。
記憶があるのは犯人が捕まり、警察に保護されたところからである。
犯人は、俺達を監禁していた港の倉庫でのびていたらしい。
犯人に事情を聞くと
「か、怪物、怪物…。」
としか言わず、何のことかわからないまま事件はスーパー小学生!誕生!っということで終演を迎えた。
そんな話題で俺達に近付いてくる輩は沢山いて、質問の嵐になった。
俺と棗は事件の時の事を思い出そうとすると頭痛がする、そんな事をお構いなしにメディアは問い詰めをやめなかった。
そんな記憶から、俺と棗は人込みがコンプレックスになっていたが、俺は椿が俺を支えてくれた。
ほんの些細なことでも怯んでしまった俺に優しく声をかけてくれた。
そして今ではコンプレックスはなくなったが、棗はそんな親友がいないのかまだ人込みは苦手で、学校でさえ猫を被っている。
「……る、…ける。」
棗はコンプレックスを解消してくれるだろうか。
「駆!!」
「うわぁ!」
気が付くと陽先生が目の前で呼んでいた。
「どうした、駆がボーッとするなんてらしくない。」
「あ、はい、ただちょっと考え事を……」
そんな事を言うと先生が心底驚いた顔をした。
「だ、大丈夫か!?駆が考え事してるなんてこのあと台風でもくるのか!」
「先生…さすがにそれは酷いです。俺だって考え事くらいしますよ。」
「ははっ、すまんすまん。で、話聞かないでなに考えてたんだ?」
「いや、なつ…って何でもないですッ。」
危ない、先生に棗の事を俺から話すと、いつもロリコンだの、シスコンだのからかわれる。
「何でもないなら話を聞けっ!全く、よしっ!二人とも準備をッ」
先生は仕切直す。
…………
試合の準備が始まると周りが静かになる。
「源翁学園剣道校内戦決勝戦以下略……はじ」
「おにいさんッ!!」
先生が試合のルールをいつも通り省いて始めようとすると、剣道場に怒声が響いた。
「おにいさんッ!今日の晩御飯の当番は、おにいさんでしょッ!!なんで部活に参加してるんですかッ!!」
「な、棗……。」
そう、当番をサボろうとした俺に気がついて棗がやってきたのだ。
「陽先生、おにいさんをかえしてほしいのですがよろしいでしょうか。」
棗が無駄に丁寧な言葉で先生に了承を得ようとする。
「んー俺はいいが、笹島に聞いてくれ。」
いいのかよッ!?
校内戦中だぞッ!
「私も構いません。どうせ今の実力では到底駆に勝てない。」
「ありがとうございます」
棗はそう会釈しながら、俺の腕を掴んだ。
「ほら、早く着替えてください。」
「わかった、わかった。」
「絶対にわかってない返事ですね、今のは…。」
棗が睨む。
「わ、わかった、ホントにちゃんと着替えてくるから待ってろ。」
「…わかりました。2分で来て下さい。」
棗はふに落ちない様子で道場を出て行った。
ちなみに、剣道の衣類を着たり、脱いだりするには確実に2分以上はかかる。
よって、棗の言う時間では無理なわけで…
「にいさんッ!!早く!」
出てったはずの棗が真後ろにたっていた。
「うわぁッ!な、棗、おまえ今出てったよな?」
「いいから早くしなさい。」
そろそろ本気で怒りそうな怒りオーラがでていた。
いや、まあ既に怒ってるけど……。
って、早く着替えないと。
…………
………
……
なるべく早く着替えて、5分位かかった。
実際5分で着替えるのは至難の技で、凄い事なのだが校門で待っていた棗の最初の一言は『遅いッ!』だった…。
「…で、なんでお兄ちゃんは部活に行ったのかなぁ?」
気がついたと思うが、おにいさんがお兄ちゃんになっている。
棗は二人の時は言葉遣い、仕草、性格が変わる。
要するにさっき説明したが、学園では猫を被ってるわけだ。
「なんでって聞いてるんだけど?まぁどうせサボろうとしただけだろうけど。」
うっ…それは事実だ。
「いや、校内戦だから行って終わってからやろうと……。」
適当に言い訳をしてみることにした。
「そうゆうとこにしてあげる。ただし、プレ3買って。」
なにッ!?こいつはなにを言い出すんだ。
「おま、高すぎるだろ、それはさすがに…」
「お願い!以後一週間の家事全部やるから。今日の罰ゲームも無しにするから!」
棗は俺の右袖を掴んで駄々をこねるように言うが、さすがに買えない。
「無理なものは無理だ、それにそんなもの買ったらますます勉強しないだろ。」
棗は世に言うゲーマーで、家に帰ったら家事をしてるか、ゲームをしてるかだ。
ちなみに本人いわく、学園での態度はゲームの影響らしい。
俺はゲームに詳しくはないが、所謂ギャルゲーみたいだ。
「別にいいでしょ、この間だって学園で3位だったんだから。」
「だからって…」
「じゃあッ!!……私の初めて、あげるから…///」
顔を朱に染めて言ったと思ったら、すぐ顔を伏せてしまった。
?何なんだろう。
「初めてって何だよ?」
聞いてみた。
「…そ、そんなこと……皆まで言わせないで///」棗はますます顔を染める。
「はぁ、何だかわからないけどわかった。買ってやる。そのかわり初めてってのは何だかわからないが、当番二週間ぶんな。」
「ほんとッ!?」
「うわっ、急に顔を上げるな。本当だ、本当だからちょっと離れろ。」
「やったぁー!!」
おもいっきり棗が跳びはねた。
そのひょうしにスカートが少しめくれて…今日は水色か……、ってそうじゃない!
「棗、スカート、スカートめくれてる。」
「きゃっ!え、えっち。見ないでっ!」
「お前が跳びはねたせいだろッ!」
「で、いつ買いに行くの?」
人の話聞けよ!
「はぁ、まぁ今週末あたりか。」
「あぁ〜、早く週末にならないかなぁ〜。」
なんか、凄く楽しみにしてるのがよくわかった。
「で、今日の晩御飯どうすんだ?家になにもないぞ。」
「うん、今日はお兄ちゃんの好物の和風料理にしようと思うんだ。だから早くスーパー行こっ!」
そういって棗に引かれるままスーパーに向かった。
…………
………
……
…
「……で、なんでこんなに荷物があるんだよ!」
スーパーから家に帰る途中、俺の腕が限界になりそうなほど大量の荷物があった。
「だ、だって安かったんだもん。それより大丈夫?一つ持とうか?」
俺は今、中が大量のエコバックを三つ持っている。
「いや、大丈夫だ。それにこんな重いもの妹に持たせたら、兄として、男として最低だからな。」
「もう、そんなこと気にしなくていいのに…。」
「そういえば、さっきのプレ3買うのはいいとして、」
「うんッ」
「何でそんなに嬉しげなんだよ。」
「えへへ。」
「まぁいいや、それでさっき話してた初めてって何だよ。」
『初めて』、その言葉を言った瞬間、棗が赤くなり俯いてしまった。
「何だよ、さっきもだよな。なんなんだよ、その初めてって。」
棗は、ためらうように口を開かなかったが少したったとき消え入るような声で話し出した。
「…キ、…キスを……。」
「………は?」
何だって?聞き間違いだろ?
「だから、……キス…。」
キ、キスだと?
「キスってあれか?鱚料理でも作ってくれるのか?」
「せ、接吻の方のキスだよ……。」
ほ、本気か?
「キ、キスなんて好きな奴とやるもんだろ。しかもファーストキスだったらなおさらだろ。」
「……好きだもん。」
「何?」
「好きだもん、お兄ちゃんのこと。あの誘拐事件の時守ってくれてから、好きだったんだから!」
「な、だって兄が妹を助けるのはあたりまえで…。」
「それでもッ!…好きなんだから。」
な、何を言ってるんだこいつは……。
「そ、それにそもそも俺と棗は兄妹でしかも、双子なんだぞ。」
…………
…………
少しの間二人の間を沈黙が支配した。
「ぷっ」
ぷっ?
「ぷはははッ、何本気にしてんの冗談だよ。」
……は?じ、冗談?
「な、何だよ。冗談かよ…ちょっとキツすぎだぞ。」
「えへへ、ごめんなさ〜い。あっもうこんな時間だ。早く帰ろう、ほらほら。」
棗は無理矢理背中を押してきた。
「わ、ちょっと、お、押すな。自分で歩くから。」
そう言うと背中から押す力が消えた。
「全く……。」
俺はそんな冗談に呆れつつ、荷物が重かったから一刻も早く家に帰りたくて早足で歩いた。
だから棗が俺から少し離れた所で
「本気なんだから……」とつぶやいたことに気付くはずもなかった。
…………
………
……
…
「ふぅっ、後少しだな。」
俺と棗はもうほとんど家の前にいた。
目の前の小さい交差点をわたるとすぐ家だ。
「うんッ、もう少しだから頑張って。」
この交差点は小さい割に車の数が多い。
……
…
信号が赤から青に変わろうと点滅している。
もう少しだな…ッ!!
背中から衝撃がはしった。
そう思った時には既に遅かった。
俺は車道に飛び出していた。
いつもの俺ならぎりぎり歩道に戻ることもできただろうが、今の俺は大量の荷物を持っている。
「お兄ちゃん!!」
棗の声が聞こえたすぐ今度は横から衝撃がはしる。
痛みから目をつぶるが、とんでいるのがわかる。
そのまま俺は地面に叩きつけられた。
「お兄ちゃん!!」
棗が近付いてくるのがわかる。
まぶたが重い。
「大丈夫ですよ。彼は死にません。」
「ホント、死ねばよかったのに…。」
「えっ?あえっ?」
聞いたことのない女の声が二人と棗の声が微かに聞こえたが俺は意識を失った。