~72柱を統べる者~
とある平日の朝、俺の意識を覚醒させたのは自分の左腕の肉が焼ける熱さとその吐き気を催す匂いだった。
生前俺(結城到耶)は人生を半ば終わらせた取り柄がゲームへの集中力だけというただの不登校の高校生一年生であった。
そうして毎日ゲームばかりしていた俺にとってそれはそんな俺への必然的な天罰だったんだろう。
俺は自室のタコ足配線による火災というなんとも情けない理由で命を落とした。
(自分で言うのも難だが酷すぎるだろ…)
死ぬ間際に最後に考えたことは最近本気でやりこんでいたサバイバルゲーム「ソロモン72柱第一戦線」の最後の悪魔を入手し損ねたことだった。
「あーぁ、アイツの能力なんだったんだろな…」
そうして俺の人生はその呆気ない幕を閉じる…はずだった…
えっ…ここどこ?…気がつくと俺の前には1つの大きな扉。そして前から誰かの声がする。
「扉を開けろ」唐突に話しかけてきたフレンドリーなそいつはいかにも神らしい風貌をした…というか神?
「あくしろよ」
口悪っ!!!
神は扉を開けろと俺に急かしてくる。
「理由もなくこんな怪しい扉開けねーよ!」
と思ったが明らかに強そうな雰囲気を醸し出している相手に対して喧嘩腰になるのはよくない。
仕方なくなぜ開けるのか理由を聞いてみると
「この先にお前が戦う世界がある」
なんて言い出した。
普通にバトル系異世界転生じゃねぇか…
そしてこの展開の嬉しさよりもあるのものが俺の目を引きつける。
神が人差し指にはめてる指輪、それが例の俺がやってたゲームの最強のアイテム「ソロモンの指輪」に酷似しているのだ!!
異世界転生と言ったらやはり戦闘は避けられないだろう。
そんな世界であの指輪は俺に究極のアドバンテージをもたらしてくれる!!!
そんな妄想を膨らませながら俺は神の指輪を奪う作戦をたてる…が思いつかない………
仕方がない、もう強奪するしかない!
そうして俺は神が隙を見せた瞬間を逃さずゲームで鍛えた自慢の指の器用さで神の人差し指から正確に指輪を引き抜く
(ちょっとゴリって音がしたのは内緒)。
「貴様何をしてるんだ!!!」
途端にやっぱり神はキレた。
かなり怒っているが指輪を奪ってしまった以上もう引き返せない。そして普段使わない体をフルに活用し全力で俺を待つ扉の向こうへ行っ…
「ドバッ!」
扉を開けるのは容易かった。しかし俺は自分の左腕が失くなっていることを理解するのに多少の時間を要した。
逃げきる寸前で飛ばされた?
痛いというよりも自分の腕が無いということに対するパニックが脳を駆け巡る。
意識が遠のいていく。
ここで死ぬ?
転生したばっかなのにいくらなんでも酷すぎるだろ…
朦朧とする意識の中、俺は最後の賭けで異世界あるあるの中の1つである、あの片手で空中にウィンドウを開くジェスチャーをしてみる。
「フィン」
ウィンドウが現れる。
「やっぱりか…」
そうして収納ボックス的なアイコンをタップするとそこにはさっき神から奪った指輪が収納されていた。
名前も「ソロモンの指輪」
さらに効果も書いてある。そこにはこう書いてあった。
体の一部を生け贄とし悪魔を宿せ。
悪魔はそれぞれ、力を渡す代わりに異なる代償を求める。
指輪を人差し指にはめ、契りを結べ
だそうだ。
「えっ、ちょっと待ってこれって飛ばされた左腕を生け贄ってことにできねーかな?」
刹那的な閃き。だが、やれるかもしれない。
俺はソロモンの指輪をクリックしそこから「装備」を選択する。
その瞬間、自分の体が重くなるような感覚に襲われた。いや、違う…俺の失われた片腕が元に戻っている?!!
魔方陣らしき模様が手のひらに、そしていたるところに紋章のようなものがあるが正真正銘、俺の腕だ…
さらに目の前に広がるのは広大な草原。
「勝った…」
俺はこの世界での勝利を確信した。ソロモンの指輪とかいうチート装備付きで転生とかぶっちゃけ俺tueeeeeがひたすら続く展開しか考えられない。
ということで俺のすることは決まってる。まずは探索だ!
喜びの最中、この時の俺は自分がしていた重大な勘違いにまだ気づくよしもなかった。人の先入観は時に残酷である。
はじめまして。阿頼耶識です。
今回お読み頂いた方、誠にありがとうございます。
投稿頻度はできる限り早くしたいのですが、内容に凝りたい性分なもので時に遅くなるときがくるかもしれませんが必ず質は保証します!
次の話を楽しみにしていただけると幸いです!