表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
1章〜自称悪魔な天使の話〜
8/43

8話 『始動、部活動って話』

「さて、そろそろ貴方は邪魔にならないよう隅で立っていてもらえるかしら」


 笑いの虫が治った神鬼がいつもの調子でそう口を開いた。

 少し通じ合えたかもと思えたが、どうやらそんなことは無かったらしい。


「邪魔にって……なんの邪魔になるんだよ。こんな二人しかいないだだっ広い教室なのによ」


 元々空き部屋となっていたこの教室には、神鬼の座る椅子と、もう一つ椅子があるだけだ。

 二人で使うスペースとしてはあまりにも充分すぎる。

 普通は三十人で使うものだしな。


「貴方の今いるその場所に依頼者が来るのよ」


「依頼者?」


「そう、依頼者」


「そんな今日出来たばっかの、何の実績も無い場所に依頼者なんて来るかよ」


「貴方は“新装開店”という言葉のマーケティング力を知らないようね……」


「はぁ……」といつも通り大きめのため息が神鬼から漏れる。

 新装開店か……俺はそういう店にあまり入らないタイプだしな。

 だって怖いじゃん、入ったら不味いかもしれないし。

 俺は新装開店より平常開店の店に行くよ。


「よく聞きなさい淫鬼夜くん」


 きつめのトーンで神鬼が口を開く。


「貴方のように他者との関わりを避け、社会のコミュニティから乖離した人生を送っている人には分からないでしょうけどね。人というのは誰しもその心の内に誰にも言えないような悩みを一つや二つは抱えているものなのよ。特に高校生なんていう思春期真っ只中の学生なんかはね」


「お前は枕詞に俺への侮辱を入れないと喋れないのか?そうゆう縛りプレイなのか⁉︎」


 ツッコむが、当然の如くスルーされ神鬼は話を続ける。


「私が思うに――この教室の前を通りがかった人は皆、目新しいこの部活のポスターに目を惹かれ足を止め内容を読むでしょう。そしてきっと心のどこかで思うはずよ。“誰にも打ち明けられないこの悩みを解決して欲しい”と」


「うーん……するかそんなこと?だって顔も合わせた事無い赤の他人だぜ?」


()()()()()()()()()()()()()()だからこそよ」


 神鬼は推理ドラマで犯人のトリックを見破った探偵ばりにニヤリと微笑する。


「自分の住む世界(グループ)とは無縁で、無害な赤の他人だからこそ、悩みを打ち明けられる。人間であれ怪人であれ、人とはそういう生き物なのよ」


「たしかに……そうかも知れない」


 思わず納得してしまった。

 確かに悩みや愚痴って、バレるリスクを考えると全然関係無い人の方がしやすいし、神鬼の言っている事は正しい気がする。

 去年プレイしたギャルゲー『LOVE So so』。ギャルゲーでは異例の世界で累計出荷本数100万本を誇ったその物語に登場するキャラクターの一人――お嬢様にして学年カースト最上位のキャラである白雪美湖も、クラスカースト最下位の主人公ならって事で不満を打ち明けてくれて、いつの間にか仲良くなっていたって経緯だったもんな。

 うんうん、と一人で納得して頷いていると、神鬼が口を開く。


「さ、分かったなら退いて頂戴。私の見立てでは、あと三十秒後に依頼者が来るのよ」


「……随分と具体的だな」


 どういう計算方法だよ。円周率掛ける半径掛ける3.14か?


「さっき貴方が無礼にも私の過去を詮索している間に、表のポスターの所で足を止める女生徒の集団が見えたのよ。顔を見るに、その内の一人は必ずここに来るわ」


 あの時そんな所もちゃんと見てたのかよ。まじで抜け目のない奴だな。


「あの子がその後、その友達達に何か理由をつけてここにやって来る。人の心境の変化に掛かる時間を考慮してでた結果の示す時間が、あと三十秒後なのよ。今はもう三秒後だけど」


「本当かそれ?適当に言ってるだけじゃ――」



「あ、あのぅ……まだ部活動中でしょうか……?」



 突然、部室の扉が開けられ、一人の人物が()()()()()

 現れたのではない。舞い降りたのだ。

 そう形容してしまう程に、その人物は輝いていた。後光を携えていた。


 何と言ったって、その人物は、


「せ、生徒会長――」


 我が高校の生徒会長にして一学年上の三年生、天使族の天使天使(あまつかてんし)なのだから。

 天界から滴る水のように透き通った声、白い肌。

 それにサキュバス族とはまた違う煌きを放つ美しい金色の髪。

 サキュバスの金髪は月の光で作られたのなら、きっと天使の金髪は太陽の光で作られた輝きなのだろう。

 そして何より頭頂部から数センチ上に浮かぶ輪っか。

 今まで近くで見た事なかったが、まさに天使だ。

 リアル女なんてクソだ、ゲスだ。と貶す俺でさえもそう言わしめる、流石天使(てんし)


「ふっ……これでまた一つ、私の正しさが証明されたわね」


 呆気に取られる俺に、神鬼が得意げに鼻を鳴らした。


「怪人研究部さんに、ご依頼がしたくて参ったのですが……よろしいでしょうか?」


 天使(あまつか)先輩が、少し物怖じした様子で話す。

 うーん……マジ天使(てんし)


「えぇ、大丈夫ですよ。今椅子をご用意しますので少々お待ち下さい」


 誰この人?と思わずツッコミたくなるような営業スマイルで神鬼が笑う。


「淫鬼夜くん、早く椅子を」


「あ……は、はい」


 突然の大物の来客に頭の整理が付かなくて、思わず命令を聞いてしまう。

 教室の後ろに並べられた机の山から椅子を一つ取り出し、神鬼と向かい合うような形の場所に置く。


「ご丁寧に、恐れ入ります」


 柔らかそうな口の端がきゅっと吊り上がり、天使(あまつか)先輩が俺に微笑んだ。


「あっ……い、いいっすよ……仕事なんで」


 なんかカッコつけた言葉が漏れる。

 だが、同級生にこき使われるのが仕事とは、何ともカッコ悪いものだ。


「では改めて――」


 天使(あまつか)先輩が椅子に座ったのを確認すると、神鬼が口を開く。


「私はこの怪人研究部の部長を務めます。神鬼角無です」


「お初にお目にかかります神鬼さん。この学園の生徒会長を務めます天使天使(あまつかてんし)です」


 よく通る声――だがその声に感じるのは柔らかみと温もり。

 エンジェルボイスとも称されるこの声をマイク越しで無く、こんな至近距離で聴けるとは今日は中々についている。


「そしてこちらが――」


 そこで神鬼は口籠ると、小首を捻った。


「えっと……何というお名前だったかしら?」


「さっきまで普通に言えてただろ!淫鬼夜だよ!淫鬼夜ひなた!」


「あぁそうだった。そんな名前だったわね」


 コホン、と神鬼が咳払いをする。


「こちらはこの部活の清掃員、淫鬼夜ひなたと申します」


「清掃かよ!せめて部員にしてくれよ」


 ボケなのか?それとも本気なのか?

 だがボケるようなタイプでも無いし、本気で俺のことを清掃員だと思っているのだろうか……。


「ふふっ――」


 ふと、鈴玉を転がしたような笑い声に、思わず振り向く。


「淫鬼夜くんの声、初めて聞きました。とても凛々しくて格好いいですね」


 誇張なく、文字通りの天使(てんし)の微笑みを浮かべ天使(あまつか)先輩が俺をみていた。


「えっ、俺のこと知ってるんですか」


 驚きだ。何せ俺は天使先輩と言葉を交わした事も無ければ、半径十メートルにすら入れた事がない。

 それぐらい遠い存在なのだ。


「えぇもちろんです。だって私に投票して下さったじゃないですか」


 言われて思い出す。

 そういえばそんな事をしていた。まぁ公約とかはよく読んでないから、適当に投票しただけだけど。

 いや、そうじゃなかったか?

 まぁ思い出せないくらいには適当な投票理由だ。

 なのに覚えていてくれるなんて、何ていい人だ。


「あの一応の確認なのですが――」


 天使(あまつか)先輩が、可愛らしく片手をあげる。


「はい、何でしょう?」


「外のポスターに書いてありましたが、この怪人研究部という部活は、怪人の悩みを解決して下さるというのは、誠の事なのでしょうか?」


「えぇ、本当です。私達怪人研究部は、依頼者の悩みを聞き、それが法に触れるような物で無ければご解決いたします」


 二人が話す様子を、俺は神鬼の斜め後ろで棒立ちしながら観察する。

 後ろに椅子はあるし座ってもいいんだが、なんか神鬼に怒られそうなのでやめた。


「しかし、無償でお悩みを解決するという訳ではございません。こちらも商売ですので」


 商売なのかよ、部活じゃねぇのかよ。

 とツッコミを入れるのも、神鬼に怒られそうなのでやめた。


「もちろん報酬に関しては存じ上げております。報酬を叶えた事に関する感謝の心と――」


「そして――」と先輩は言葉を続ける。


「私の体をお見せすればいいのですよね?」


「ぶーーーーッッ!」


 思わず吹き出した。

 神鬼に怒られようと構わない。これだけは反応せずにはいられなかった。


「汚い……唾を吹きかけないでちょうだい淫鬼夜くん。陰キャ菌が移るわ」


「陰キャ菌って何だよ⁉︎陰キャは移らねぇよ!移す相手がいないからな!」


「悲しいわね……」


 マジで慈悲に満ち溢れた瞳で神鬼が俺を見る。

 流石に悲しい。


「てかそんな事はどうでもいいんだよ!何だよ報酬に全裸って、初めて聞いたぞ!」


「貴方部員なのにそんな事も知らないの?表のポスターにちゃんと書いてあるけれど」


「んな馬鹿な!」


「じゃあ見てくればいいじゃない。百聞は一見にしかずよ」


「あぁ見てきてやるよ。証明してやるよ。お前のミスを!」


 部室を出て、扉に貼ってあるポスターを見る。

 ポスターには吸血鬼や幽霊などの怪人の絵と、この部活についての短い説明。

 さっき入った時と変わった様子は無い。


「やっぱり書いてないじゃねぇか」


 神鬼め……やはり嘘を。

 と思ったが、さっきの全裸発言は神鬼ではなく、先輩がしたのだと思い出す。


「先輩はこのポスターでこの部活を知ったんだ」


 じゃあその報酬が全裸というのも、ここに書いてあるに違いない。

 改めてもう一度、ポスターをくまなく観察する。

 じーっと上から観察して、ある一つの違和感に気付いた。

 ポスターの端の端。吸血鬼の絵の足元に、何か細かな汚れのようなものがある。


「ん……?シミか?」


 顔を近づけてよく見ると、それが文字だということに気が付いた。

 そしてそこに、求めていた答えは存在していた。


『注:成功報酬として、これからの部の発展のため、依頼者の全裸写真を撮らせて頂きます』


 そう文字が刻んであった。

この話に入るまでがあまりにも長いので、いつか書き直そうと思います。いつか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ