42話 『-最終回-』
“この章の”最終回です。全然続きます。
「吸血鬼なんて目指さなくていいんだ!お前はスライムとして最強の怪人になるんだろ!」
淫鬼夜のその言葉に、スラミの無いはずの心臓がドクンと跳ねる鼓動が聞こえた。
「スライムとして、最強に……」
目を閉じて、思考する。
「そうだ……私は……」
走馬灯のように幼少期からの記憶が蘇ってくる。
『最初に倒される種族は、必ずスライムです』
学校の授業で、必ずそう教わった。
スライム族は体も強く無いし、魔力も強く無いから歴史書でもゲームでも漫画でも、必ず最初に倒される怪人だった。
『ごめん、スラミちゃん。体育のペアはクラーケンの子と約束があるの』
体を使う授業では、弱い私とは誰も組んではくれなかった。
私は頑張った。何度も何度も練習して皆んなに追い付けるように必死で努力した。
『評価……Eマイナス……』
けれど必死で努力するだけじゃ、体の強い怪人たちとの差は埋められなかった。
『スライムは体が他の種族みたいに強くないのよ。スラミちゃんは他の事で一番になればいいのよ』
『最強なんて目指さないで、立派なお仕事につけばいいのよ。頭の良さで最強になればいいわ』
そんな私に、親戚の叔父さんや叔母さんはそう言って励ましてくれた。
私達の種族は体は強くなかったけれど、頭が良かったからそれなりの評価は受けていたし、別にひもじい思いはしていない。強さだけが物を言うわけじゃない現代では、種族として弱い事で不利益を感じたこともあまり無い。
だけど――だからって諦めて何もしないなんて、私には出来なかった。
『何でそんなにスラミは最強なんかにこだわるの?そんなのならなくたっていいじゃない。パパみたいな立派なお医者様になればいいわ』
『世の中には皆、適した事柄がある。お前はそんなこと頑張る必要はないんだよ、スラミ。そんな事は他のバハムートや吸血鬼達のような強い種族に任せればいい』
パパもママも、みんな諦めていた。
みんな口々に自分達はスライムだからって、スライムだから何も出来ないって決めつけて、弱い種族だと認めてしまっていた。
悔しかった。私達も強いんだって証明がしたかった。
そんな時だった。私があの人に出会ったのは――
『悪いな。お前と俺とじゃ格が違う』
運命だと思った。
最強と呼ばれる吸血鬼の先輩が、私の目の前に現れた。
その人は圧倒的な力で、自分よりも何倍も大きくて強そうな怪人を一瞬で倒した。
その人についていけば、私は必ず最強になれると思った。
だから私は一生懸命その人の技を真似して、その人の様になろうとした。
だけど――
私は吸血鬼じゃない。淫鬼夜先輩みたいに魔力が高いわけでも、身体能力が高いわけでも無い。持ってる才能が違うんだ。だからどうやったって先輩のようになる事は出来ない。
そんな事、始める前から分かってたことだ。
『夢を見るのは自由だろ。確かにスライム族は弱いけど、だからって最強を目指しちゃいけないなんて事はないはずだ。だろ?』
あの人はそう言って、優しく私に微笑んでくれた。
「どうして忘れていたんだろう……」
そうだ。
だけどそんな事は関係ない……。吸血鬼じゃなくても構わない。
だって私は、スライムなのだから。
私の夢は、スライムとして最強になる事なんだから――
私は、スライム族に生まれたことを汚点だと思った事はない。
むしろ私にとって、スライム族として生まれた事はとても誇らしかった。この水のように柔らかで透き通った体も、他のどの種族とも違う魔力を心臓に生きる生命の在り方にも、私は誇りを感じている。
でもみんなは違う。
パパもママも優しくて頭が良くてとても素敵な怪人なのに、おじいちゃんもおばあちゃんも叔父さんも叔母さんも――みんなみんな私の誇れる大好きで素敵な怪人なのに……。
だけど、スライムだからって理由でみんなから虐げられて、いつの間にかみんな自分の種族を言い訳にして、挑戦する事をやめてしまっていた。
今まで弱かったからって、みんな挑戦する前から諦めてしまっていた。
そんなのは嫌だ。
スライムという種族を、挑戦しない理由にはして欲しくなかった。
私はスライム族のみんなに、私と同じように思って欲しかったんだ。
“スライムに生まれたことは、とても素敵で素晴らしい事なんだって――”
「スライム族は……雑魚種族なんかじゃありません……」
スラミは自身のクラウンに伸ばした手を止めると、そうヴォルガに向かって話した。
「はぁ……?」
踏みつけられながらもまだ諦めないスラミに、ヴォルガは怪訝な表情で炎を揺らした。
(だから私は、最強にならなくちゃいけないんだ。みんなが自分で自分の事を大好きでいられるようにッ!)
スラミは全身の力を振り絞り、ヴォルガの足を跳ね除けようと試みる。
「スライム族は、多くの怪人達に経験値を与えてきました。どの種族よりも最初に倒されてしまうのは、誰よりも前にいたからです。誰よりも前にいたのはスライム族が恐れを知らない勇気のある強い種族だからですッ!」
ヴォルガに踏みつけながらも、スラミは鋭い眼差しでヴォルガを睨んだ。
「…………」
再び闘志の眼差しを灯すスラミの蒼い瞳に、ヴォルガの心境はざわつく。
自分が圧倒的有利な状況だというのに、ヴォルガは背筋の凍るような恐怖を覚えていた。
その感覚は初めてではない。ちょうど1ヶ月前――淫鬼夜に刃を突きつけられた時と同じ恐怖の感覚だった。
(何でこんなクソ雑魚があの吸血鬼に見えんだよ……)
嫌な汗が流れ、自分の炎で蒸発する。
“自分が勝てる相手では無い”という恐怖を、自分の何倍も小さい最弱であるはずのスライム族からヴォルガは感じていた。
「私達は強いんです……だから何度も立ち上がれるんです!それを――」
スラミは体中の力を振り絞り、何トンもあるヴォルガの足を徐々に押し返す。
「スライム族は最強なんだって事を今日…………私が証明するんですッッ!」
蒼き闘志が宿ったスラミの瞳がヴォルガを睨んだ。
「ハハッ、そうかよ……」
スラミの言葉に、ヴォルガは嫌な笑みを浮かべ炎を揺らした。
「じゃあやってみろよ!最強様よぉッ!」
自身のスラミへの恐怖を掻き消すように、ヴォルガは大声で吠えると足を高く上げ、炎を纏わせた。
「潰れろぉ!スライム女ァッッ!」
獄炎を纏った強烈が繰り出された衝撃で、とてつもない地響きが会場に鳴り響いた。
「スラミッッ!」「パピプラフィンさん……ッ!」
淫鬼夜と神鬼が観客席から食い入るように見つめる。
「ぴぃ……ぴぃ……」
砂埃がはけると、そこにはボロボロに溶けながらもかろうじて立つスラミの姿があった。
スラミは痛む体を必死に動かし、寸前の所でヴォルガの攻撃を避けていた。
「チッ……うざってえなあ!早くやられろよ雑魚ッ!」
ヴォルガは吠える。
「私の特技……私にしか出来ない事……」
スラミは俯き、一人ごとのように小さく呟く。
「テメェの特技だと?んなのあるわけねぇだろクソ雑魚種族がッッ!」
ヴォルガは拳を合わせ火花を散らすと、再び爆炎を拳に点火させた。
「そんなことありません。私は――」
ヴォルガが近づいてくる中で、ゆっくりとスラミは静かに目を閉じた。
『お前、なんか強みあんの?』――1ヶ月前、そう淫鬼夜に最初に聞かれた言葉をスラミは思い出す。
(私の得意な事はマスターのように魔力の扱いに長けている事じゃない。力の強い事でも無い。胸を張るんだ!叫べ!私の――スライムの強さをッ!)
「私は――――溶けれますッッ!」
ヴォルガの熱炎を纏った拳が当たる直前、スラミは自分の体を極限まで液体に変化させる事でその攻撃をかわした。
「何ッ⁉︎」
自分の全力の一撃を避けられた事に、ヴォルガは驚愕の顔を見せる。
「クソが…………本当うざってえなぁッッ!」
ヴォルガは何度も拳を振り上げるが、液体となったスラミは掴んでもなお、すぐに手の隙間から溶けていく。
(今までの疲労で体力の消耗は私の方が圧倒的に多い……このまま防戦一方だと負けるのは間違いなく私だ。限られた体力で勝負をつけるなら、さっきみたいに一瞬の隙を見て全力の一撃をするしかない)
スラミは攻撃を避けながら思考する。
(勝負は力量だけが物を言うんじゃない。賢い人が勝つんだ!見極めるんだ――必ず勝機はくる!)
「つまんねぇんだよ!テメェが勝つ事なんて誰も望んでねぇ!この歓声が聞こえるだろ!大衆が求めてるのは強者による圧倒的力の行使だ!テメェは大人しく俺の養分になってんのがお似合いなんだ雑魚ッッ!」
ヴォルガは吠えると再び爆炎を纏った拳の連打を叩き込む。
「生まれた時から決まってんだよッ!テメェじゃ俺には勝てねぇッ!」
ヴォルガの攻撃には炎を纏った全力の一撃と、炎がまだ弱い息切れした一撃がある。
全力の一撃を喰らえば一発で致死量の威力だが、弱い方の一撃なら体を溶かす事で限りなく自分へのダメージを0に出来る。
スラミはその弱い攻撃が来るタイミングを探知し見極めると、わざとその攻撃にのみ当たり続けた。
その度にスラミの体を構成するスライムが溶解し、体がどんどん小さくなっていく。
「ゲハハッッ!溶けるなんてクソ雑魚の特技じゃ何の意味もなかったな!弱いテメェにお似合いの姿だぜ!そのまま溶けて消えちまえッッ!」
ヴォルガが再び熱炎を纏う。
「消え去れや!『業炎ノ叫び』!」
叫んだ刹那、ヴォルガの攻撃が止まる。
「なっ⁉︎」
ヴォルガは驚愕し、自身の腕を見る。
スラミから溶け出したスライムがヴォルガの体にまとわりつき、地面と体とを接着させていた。
「すごくねばねばにもなれますッ!」
何度もヴォルガの攻撃を受けた事で、ヴォルガの体には大量のスライムがまとわりついていた。
そしてそのスライムを粘膜質の強い物へと変化させる事でスラミはヴォルガの動きを止めた。
「それがどうしたぁッッ!」
激昂したヴォルガの体の炎が再び灼熱の色を放つ。
「テメェは雑魚なんだよ!良い加減諦めやクソがァッ!」
眩い炎熱はスラミのスライムの体を瞬く間に蒸発させていく。
「テメェは何をやったって駄目なんだよ!雑魚は大人しく俺ら王たる種族に従ってればいいッッ!」
だが挑発するヴォルガのそれを何とも思わず、スラミは体をバウンドさせ一気に円を描くように加速を始めた。
「なんだ……?」
広大な会場を高速で移動するスラミ。
その勢いにより会場には大きな竜巻が巻き起こる。
今やスラミの体の大部分は溶け落ち、人型を保てなくなったスラミのその姿は原初のスライムと同じ拳ほどの小さなスライムの塊となっていた。
それとちょうど同じ頃、観客席にいる淫鬼夜がスラミを見ながらつぶやく。
「俺、アイツに一つだけ嘘をついてたんだ」
「嘘……?」
淫鬼夜の言葉に神鬼が首を傾げる。
「淫鬼夜零式は俺の100分の1の力なんかじゃない。本当は俺と全く同じ魔力を持った分身なんだ」
「え……?」と神鬼。
「スラミは最強になりたいって言ってたが、その夢は最強の種族である吸血鬼を倒さないと絶対に叶わない……。だから俺は零式を通してアイツに本気で挑んでいたんだ。けど、その100%の俺でも最後のアイツのあの攻撃は避けられなかった……」
淫鬼夜はあの時のスラミの殺意を思い出し、尊敬と妬みの混じった笑みを浮かべた。
「正直ションベン漏らすかと思ったぜ。スラミのあの技は紛う事なき、アイツだけの最強の技だ――」
スラミは最高点まで加速すると、一気に空へと舞い上がった。
「なんだよ……その高さ……」
ヴォルガは天を見上げる。
スラミの跳躍幅はゆうに高さ1000メートルを超えていた。
「そして――」
太陽を背にして空へと舞い上がったスラミの姿は、まるで偉大な神のようにヴォルガの瞳には映った。
「『たいあたり』は、先祖代々受け継がれてきた自慢の技ですッッ!」
スラミ体を限界まで伸ばし一気に収縮させると、その反動で一気に地上にいるヴォルガへと突進する。
「クソッッ!」
高速で突進するスラミに対して、ヴォルガは攻撃を避けようと体に纏わり付いたスライムを焼き切ろうと必死で試みる。
だが、
「はああぁぁああああッッ!」「ウオオォォオオオッッ!」
ヴォルガがスライムを焼き切るよりも一瞬早く、
全身全霊を込めたスラミのたいあたりがヴォルガのクラウンへと届いた。
「…………ッッッ⁉︎」
金属が弾け飛ぶ爆音と共に、激しい衝撃波が轟く――
「そんな……この……俺が……こんな雑魚種族に……」
地形が変わるほどの衝撃、その威力に耐えきれずヴォルガは白眼を向いて意識を失った。
ドサッと音を立ててヴォルガ・ラスターヒートは地面へと倒れた。
「はぁ……はぁ……」
全質量を加え捨て身で攻撃したスラミは、ふらふらとしながら立ち上がると周りに散らばったスライムを回収し戦闘服を着込む。
そしてスラミはヴォルガの額からヒビ割れたクラウンを剥がすと、自分のクラウンと組み合わせ頭に乗せた。
「………………」
静まり返る会場。
その誰も予想し得なかった事態に、観客の誰もが息を呑み、言葉を失った。
『誰もお前が勝つ事なんて望んでねぇ!』
先程のヴォルガの言葉がスラミの頭に響く。
だがそれと、ロザリアの声が響くのはほぼ同時だった。
『優勝は――スラミ・パピプラフィン選手だあ!』
実況の声と共に勝利を祝した何百発もの花火が上がり、一気に会場に歓声が溢れかえった。
『なんと千年という長い歴史を持つこの学術対抗戦で初めて、スライム族が頂点に立ち、見事王としての称号を手に入れました!これはとんでもない快挙です!』
ロザリアの声に会場は一気に盛り上がり、スラミの勝利を祝した。
「スラミちゃーん!おめでとう!」「パピプラフィンさんカッコいいー!」
クラスメイトや友人のみならず、会場にいる全員がその歴史的な快挙に対しスラミに歓声を上げた。
「やった…………」
スラミは天を仰ぐ。
その眼前に広がる景色は、雲ひとつない蒼い空だった。
「パパ、ママ――みんな。勝ったよ」
その自分と同じ広大な空を見上げ、スラミの瞳からスライムで出来た涙がこぼれ落ちた。
「スライム族はもう、弱い種族なんかじゃないよ――」
もう自分の種族の事で弱いなどと言われる事は無い。
もうスライム族だからって、何かを諦める理由にはならない。
これでスライム族のみんなは、スライム族として誇りを持って名乗る事が出来る。
「“最強”に……なれたんだ……」
ずっと求め続けていたその2文字。
それは世界のルールを覆すには充分だった。
「ぴぃ……よかった……よかったよぅ……」
自分に送られる万雷の拍手喝采。
それを見て、スラミの瞳からは次々とスライムで出来た涙がこぼれ落ちていく。
「ほらな⁉︎勝っただろ⁉︎どうだ神鬼!参ったか⁉︎」
会場の大声援の中でも、一際大きな声で淫鬼夜がはしゃいだ声をあげた。
「俺の言った通りだろ⁉︎スラミは強いだろ⁉︎負けなかっただろ⁉︎」
「はいはい淫鬼夜くんの勝ちですね。私が判断を誤りました。すごいすごーい」
「チッ」と神鬼は心底めんどくさそうに舌打ちをした。
「はっはっは!そうだろう!はーはっはっはッッ!」
だが神鬼のそんな態度など気にも止めず、淫鬼夜の高笑いが会場中に響いた。
その淫鬼夜の方にスラミが顔を向けると、ちょうど淫鬼夜と目があった。
そしてスラミの合った淫鬼夜は満面の笑みを浮かべた。
「スラミ!良くやった!流石俺の一番弟子だ!」
「ぴ――」
淫鬼夜のその屈託の無い笑顔に、トクンと無いはずの心臓が響いた気がした。
「ぴ、ぴぇぇ…………」
頬が熱くなる。
優勝して、心に余裕が出来てようやく気づいた。
辛い修行に耐えてたのは、最強を目指すという夢があったから。だけどきっとそれだけじゃない。
(マスターが――淫鬼夜先輩がいたから私はここまで頑張れたんだ)
学校が終わったら遠くの山まで登り、夜が更けるまでずっと淫鬼夜先輩は特訓に付き合ってくれていた。
先輩は『んじゃ俺はギャルゲーで忙しいから自主練やってろ』そんな事を言ってゲーム機をずっと見ていたが、私は知っている。
先輩が手にしていたゲーム機が、この1ヶ月間ずっと充電が切れていた事を。
「はい!マスター!」
けど今はこの気持ちを伝えてはきっと先輩を困らせてしまう。
また次の日、私は先輩にこの気持ちを伝えよう。
だから今は、
「私、最強になれました!」
この喜びを体いっぱいで喜ぼう。
「おめでとう!スラミ!」「パピプラフィンさん、おめでとう」
満面の笑みで笑うスラミに、淫鬼夜と神鬼も口喧嘩をやめてスラミに向けて拍手を贈った。
「スライムのお嬢ちゃんおめでとう!」「強かったぜ!最強だ!」「感動した!」
鳴り止まない歓声、そこに再びロザリアの実況が響く。
『どうか皆さん、この1000年破られる事の無かった快挙を遂げたスラミ・パピプラフィン選手に今一度大きな拍手を、そして目一杯の祝福を!』
こうしてこの日――最強を決める学術対抗戦の歴史上1000年で初めて、“最強”の座にはそれまで“最弱”と呼ばれたスライム族の少女の名が刻まれた。
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「すげえな。もう1週間も経ったってのにまだスラミの優勝特番が一挙24時間放送だってよ」
放課後、怪人研究部の部室。
スマホでネットニュースを見ながら俺はその異様なまでの盛り上がりに若干ドン引きながら呟いた。
「しかも今度はCD出すらしいし、何々……次はスラミの人生が映画化、アニメ化の発表……スライム族が社長を務める会社の株がストップ高……」
スクロールを続けるがまだまだスラミの話題は終わらない。
「街にはスラミを真似て水色の服を着る若者が急増……スラミのおかげで水の売れ行きが良いので海の王ポセイドンが1000年前の国宝――アトランティスをスラミに贈与…………凄すぎだろ、マジで社会現象になってんじゃん」
「当たり前よ。1000年破られることの無かった快挙だもの。そんな極上のネタをメディアが見逃すはずがないわ」
隣に座る神鬼がいつもと同じように本を読みながらそう答えた。
「1000年……1000年って改めて思うとすげぇよな。だってエルフおばが16歳だったんだろ?全然想像つかねぇわ。マジですげぇって言葉しか出てこねぇわ……」
「え、えへへ……」
と、前方の依頼者席に座るスラミが恥ずかしそうに笑った。
「いいのか人気者?こんな場所で座ってて」
「ぴゃ、ぴゃい!今日は怪人研究部さんの為に全部取材はお断りしてましゅ!」
「フッ、そうか」
相変わらずどこかおどおどした様子のスラミに、俺は思わず鼻を鳴らした。
世界中のどの種族よりも強いっていうのに、何とも謙虚なもんだ。
「ほ、本当にありがとうございました!怪人研究部さんのおかげで、私はずっと夢だった最強になることが出来ました!」
スラミはそう言うと深々と頭を下げた。
「もうスライム族だからって言い訳に負い目を感じる必要は無くなりました!これからは私、胸を張ってスライム族だって事を自慢します!」
「そう、良かったわね」
と神鬼は読んでいた本を閉じると、本当に嬉しそうに今までに見た事が無いほど柔らかな笑みを浮かべた。
(そうか。神鬼とスラミって似てるのか)
と俺はその時気付いた。
角が無い事で虐げれてきた神鬼と、スライム族という理由で虐げれてきたスラミはどことなく境遇が似ている。
だからだろう。だから神鬼はあの時スラミの依頼を受けたんだ。
脳筋作戦しか考えてなかった神鬼の事だ。本当はスラミが勝てる根拠なんて何もありはしなかったんだろう。だけど自分の境遇を変えたいというスラミの心に自分を重ね、依頼を受けたんだ。
「じゃあ、報酬は今日中に私のパソコンに送ってちょうだいね」
「ぴゃい!本当にありがとうございました!先輩!」
そう言ってスラミはもう一度深々とお礼をした後、
「マスター、私……」
スラミが何かを言いたげに俺の方を見つめた。
「もうマスターって呼ばなくてもいいんだぞ。俺はもうお前のマスターじゃないんだから」
「いえ……呼ばせて頂きます。私、次の目標が出来ましたから!」
「目標……?」
首を傾げる俺に「はい!」とスラミはニッと笑った。
「次はマスターに勝って、本当の最強の証を手に入れて見せます!」
「俺に?」
「やっぱり最強を自称するのなら、最強であるマスターを倒さないとダメだって思うんです!だからそれまでマスターと呼ばせて下さい!」
「なるほど、そういうわけか」
フッと俺は鼻を鳴らすとメガネを上げた。
(もうお前は、俺に勝ってるんだけどな)
淫鬼夜零式に勝ったという事は、スラミは事実上俺より強いという事になる。だがその真実をスラミは知らない。
なら俺ももう一度特訓をつけてやろうじゃないか。この最強のスライム族の少女に。
「言うじゃねえか。淫鬼夜零式より俺は100倍強いんだぜ?」
「もちろん承知してます!100倍強い特訓にも耐えてみせます!」
「いいだろう――」
「100倍強い特訓、ちゃんと覚悟しとけよ!」
そう言って俺はマスターとして威厳を持って答えた。
【最終回:目一杯の祝福を君に-完-】
【祝‼︎第1回‼︎やらせなし!本当に誰からも聞かれていない質問に答えるコーナー】
Q.32話で淫鬼夜が詠唱している時、ヴォルガが「厨二病じゃねぇか」と馬鹿にしていたのにその後すぐに『ヴォルケーノなんとか』って厨二病発言をしているのが気になります。ミスですか?ヴォルガも厨二病じゃないですか。
A.いいえ。仕様です。
あれは長文詠唱がいらなくなったのにそんな事をするなんて厨二病だ。という意味で、それを行っている淫鬼夜を馬鹿にしています。
短い技名を叫ぶのは自身にこれから行う技を強くイメージさせ、攻撃の強さに影響するので必要です。
Q.短期間でスラミ強くなりすぎじゃない?なんで今まで最弱だったのか理解不能です。滅茶苦茶強いですよね?ご都合主義ですか?
A.いいえ、仕様です。
スライム族はスラミが述べている通り、弱いと思い込みあまり戦いの訓練をしてきませんでした。
そして魔力の探知方法という概念すら知らなかった為弱いままでした。淫鬼夜がそれを教えた事で理解の早いスラミは急速に強くなりました。
Q.ロザリアの事おばさんってネットで馬鹿にしてたのって淫鬼夜?
A.はい。淫鬼夜です。
大会後、ロザリアに学校に通報され入間先生から大量の反省文を書かされています。
Q.零式は淫鬼夜と同じ強さってことは、それに勝ったスラミって淫鬼夜より強いの?
A.いいえ。淫鬼夜の方が強いです。
零式はあくまでカタログスペックが淫鬼夜と同じというだけで、本気の戦闘なら淫鬼夜も覚醒の可能性が高いので負けません。ただ計算上はスラミにもワンチャンスはあるという事です。
Q.スラミのパパママは娘の一大事だっていうのに会場に来ないで何してるんですか?ネグレクトですか?
A.海外出張中です。学術対抗戦は世界同時中継されているので他の国で食い入るようにテレビを見つめ、心配しています。スラミが両親を慕っていることから分かるように、とてもスラミの事を大切に思っています。
Q.スラミの原初の姿がいまいち想像出来ないのですが、何か良い見本はありますか?
A.ドラ◯エorリ◯ルを見てください。
Q.淫鬼夜は高校2年生なので16歳。スラミは1年生なので15歳だと思うのですが、ヴォルガは何歳なんですか?
A.14歳です。頭と能力が高いので飛び級しています。
スラミより歳下という事を頭に入れた上で読み返して頂くと燃えると思います。
Q.負けちゃったヴォルガの今後が気になります。ヴォルガのファンです。
A.学校を追い出されキャンプしてます(嘘)
Q.もう戦闘物は飽きました。タイトル詐欺はやめてください
A.はい。次からはちゃんと真っ当に恋愛物に戻ります。次にスラミ回が回ってきてもちゃんと恋愛回にするので許してください。
Q.春流々途中からどこいったの?存在忘れた?
A.はい




