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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
3章〜最弱のスライムは、最強を目指す〜
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39話 『特訓の終わりって話』

 淫鬼夜(ゼロ)式の修行から2日後――


「ぴぃ⁉︎」


 零式に背負い投げをされ、スラミが勢いよく地面へと叩きつけられた。衝撃で地面が割れる。


「これで89回目。100回負けたらもう少し零式を弱くしてやるぞ」


「い、いえ大丈夫です……」


 スラミはよろよろと立ち上がると、そう口を開いた。


「私、最強になるって本気で決めたんです。100回だって1000回だって負けても立ち上がります。絶対淫鬼夜マスター零式に勝ちます!勝ってみせます!」


「よし。いい心意気だ」


 俺はスラミのその言葉に首を縦に振ると、


「その心意気に免じて、魔力量を強めてやろう」


 親指を齧り流血させ、その血を零式へと投げる。


 新たな血を吸収した零式は赤黒く輝くと、背中から朱色の翼が生え、すごく強靭でカッコいい感じのオーラを醸し出した。


「な、なんか強そうになりました。つ、翼ってどういうセンス――ッッ⁉︎」


 驚き喋るスラミに、零式が血で出来た刃を一気に振り上げた。


「ぴぇぇぇえええええーーーーーーー!」


「はい、90回目」


 スラミは遥か彼方へと飛んで行った。


 魔力探知は上手かったようだが、やはり俺に勝つというのは難しいか――



 xxx



 更に10日後――

 学園対抗戦まであと4日。


「ぴぃ……か、体が重いです…………」


 零式の闇魔法により呪縛の呪いをかけられたスラミがか弱い声でふらふらと揺れている。


「スラミ。一つだけいいか?」


 おもむろにスラミへ俺は話しかけた。


「ぴぇ?は、はい」


「今日で訓練から26日。つまり本番の決勝は4日後だ」


「は、はい。そうですね。80時間と39分後だと記憶しています」


「そうか、分かっているならよかった」


 頷き、話を続ける。


「スラミ、今のお前は毎日過酷な特訓を行なっているせいで正直体はボロボロだ。回復アイテムで表面上の傷は癒せるが体内の疲労は治せない。魔力の波が極限まで乱れているのも俺の目から見ればバレバレだ。だから明日から最後の3日日間は回復に努めて、万全の状態で勝負に挑んでもらいたい」


「ぴえ……や、休むんですか?で、でもまだ淫鬼夜マスター零式を倒せていません」


「あぁ、そうだな」


 スラミのその言葉に俺はゆっくりと首を縦に振る。


「つまり、だ――」


 俺は長い髪を風で揺らし、ビシッとスラミへと言い放つ。



「もし今日の特訓――あと2時間以内にお前が淫鬼夜零式に勝てなかったなら、学園対抗戦に出場するのは無しだ」



「ぴ、ぴぇ!そんな!こんなに頑張ったのに!」


 スラミが驚き声を上げる。


「ど、どどどうしてですか⁉︎どうして急にそんな事を!」


 スラミはスライムを揺らしながら酷く狼狽した様子で俺へと抗議をする。

 まぁ無理もない。この1ヶ月近く特訓をしてきて、確実な成果も出してきた。それで急に打ち切りを宣言されたら意味が分からないだろう。

 だがこれは、もう俺が固く決めた事だ。


「俺も興味本位で学園対抗戦について色々調べてみた。過去の優勝者はベリアルにフェニックス、リヴィアサンやバハムート――怪人の中でも強い所にカテゴライズされてる猛者の奴等ばかりだ。正直そいつらなら淫鬼夜零式を辛うじてではあるが倒すことが出来る」


 何かスラミの勝つ良い情報が得られればと思い、俺は過去の優勝者を調べた。

 優勝者に名を連ねる奴等はさっきの種族の他にベリアルやオーガ、フェンリルやエルフといった誰もが知る強種族ばかりだ。正直血統が物を言うと言っても良い程に強者しか結果を残していない。


「だからこの淫鬼夜零式に勝てないで、しかも体調が万全でも無いお前が優勝なんて夢のまた夢だ」


「ぴぃ…………」とスラミは何も言い返せず、ただ一言そう呟くだけだった。


「それに俺の弟子となったお前を恥に晒すわけにはいかない。俺のメンツに傷がつくし、天使先輩にもこの学園全体にも――それに何よりスラミ自身に傷がつく」


「……で、ですがマスター!もしかしたら本番に力が覚醒して勝てると言うことも!」


「確かにその可能性は捨てきれない。だが計算好きのお前がそんな甘い予測で本当にいいと思うか?最後は神頼みほど愚かな方程式ってのは無いだろ?」


 反論するスラミに、俺は冷酷にそう突き返した。


「で、ですが…………」


 だがスラミはどうやらまだ諦めがつかないらしい。


(なら仕方ないか……)


 俺は心を決め、もう一度スラミへと口を開いた。


「それに今後お前のように最強を目指すスライム族の奴が現れるかもしれない。だがその時、お前の不甲斐無い結果のせいでソイツが学対への出場を許されなかったら、お前だって嫌だろ?」


「……!」


 その言葉にスラミは驚いた後、


「はい……その通りです。マスター…………」


 スラミは悔しそうに口の中を噛むと、ただそう肯定した。

 スライム一族の事を考え、この大会に出場するスラミにはこの言葉は重いだろう。

 あまり他人を盾にとって説き伏せるのは脅しているようでやりたくはなかったが、こうなればしょうがない。


「だ、だったら――」


 スラミが重い口を開き、蒼い瞳で俺をまっすぐに見据えた。


「あと1時間と54分以内に淫鬼夜マスター零式を倒せればいいんですよね?」


「あぁ、そういう事だ」


 俺は頷き、クイッとメガネをあげポジションを直す。


「分かりました……。では」



「必ず、淫鬼夜マスター零式を倒してみせます!」



 xxx



 1時間50分後――

 深夜11時55分。


「あと5分……タイムリミットだな」


 スマホのタイマーの表示から目を逸らし、スラミと零式を見る。


「ぴぃ……ぴぃ…………」


 スラミは満身創痍。疲労で剣を振る速度も1時間前より鈍化している。

 これまでの10日間で未だ零式に剣先の一つも触れる事すら出来ていない状態でこの状況――結果は一目瞭然だ。


「まだ……!私はあなたに勝たなきゃいけないのッ!マスターみたいに強くならなくちゃいけないからッ!」


 スラミは必死に剣を振り回し、零式へ攻撃する。

 だがそれは容易く零式の剣術により弾かれていく。


 あと2分………………


 1分………………。


 いくらスラミが頑張ろうと時間は止まってはくれない。刻一刻とタイムリミットは差し迫っていく。

 そして――



「ぴぃッ!」



 渾身の力を込めた零式の剣戟(けんげき)が急所にあたり、スラミは大きく空へと吹き飛ばされた。

 木々にぶつかり地面へと落下した衝撃音が遠くで響く。


「ざっと200メートルは飛んだか」


 俺は手元のタイマーを見る。

 既に残り時間は3秒を差していた。

 この距離ではスラミは零式に攻撃を当てる事は愚か、視認することすら出来ないだろう。


「スラミ、残念だが時間切れだ」


 俺はスマホのタイマーを止めようと指を動かす。



 正直に言えば、俺には“残念”という2文字が心にある。

 スラミと一緒にいたこの1ヶ月間――スラミの成長は凄いものだし、目を見張るものがあった。その成長というモノは俺には新鮮で、見ていて楽しいものだった。だからこそスラミには零式を倒して欲しいと心の底から思っていた。

 けれど現実は、そうはならなかった。


 スラミのポテンシャルは未知数だ。さっきスラミが言ったように戦いの中で成長し、学対での相手にも勝てる可能性は確かにある。

 だがそれは可能性の一つに過ぎない。現にスラミはこの危機せまる状況で零式を倒すことができなかった。

 現時点で0%の奴が、もしかしたら1%の確率で勝てるかもしれないなんていう薄い確率で出場させては、いたずらにスラミの事を傷つけるだけだ。


 それにスラミはまだ1年生だ。出場の機会なら来年も再来年もある。

 たった1ヶ月でこれほどの成長だ。それだけの期間があれば、きっとスラミはいつか学対で優勝することが出来るだろう。

 だから今回は駄目でも、次また頑張ればいい。


「可哀想だが、今回は終わりだ」


 タイマーを見る。そこに表示された時間は『00:01.00』――ラスト1秒だ。

 俺は真ん中に表示された停止のボタンに手を伸ばす。

 その瞬間だった――


「……ッッ⁉︎」


 突然、漂っていた空気が張り詰め、強烈な殺気を感じた。

 だがおかしい。この山のトラップは確実に発動させていないはずだった。


 けれど俺は確かに感じるその殺気に無意識に体が震え、呼吸が浅くなる。


 (何なんだよ……だこの(おぞ)ましいほどに流れてくる“殺気”は!)


 今までとは決定的に違う殺気。

 この感覚――それは圧倒的強者を前に俺が感じていた“恐怖”だった。


(これは……恐怖?怯えてるのか俺が……?)


 と、横で奇妙な音が鳴っているのに気づき俺はそっちに目をやる。


「…………」


 見ると零式がブルブルと血で出来た体を震わせ、怯えていた。

 この恐怖心は分身である零式から俺へと魔力を通して伝染したものだった。


(零式が恐怖してるだとッ⁉︎)


 俺は驚き、目を丸くした。


 それはあり得ない事情だった。

 零式は俺の分身だ。だから恐怖する対象も同じ――だがこの俺が恐怖するなんて事、生きていた中で片手で数えられるほどだ。



(だが零式は何に怯えているっていうんだ……それにこの殺気は一体――)


 ふと、俺はそこで零式の見つめる遥か遠くの景色が視界に入った。


 倒れた木々の奥底――衝撃で抉れた地面の上には、スラミ・パピプラフィンが蒼色の剣をこちらに構えていた。


「スラミ……なのか……?」


 この悍ましい程の強大な殺気の魔力――それは確かにスラミから発せられていた。

 だが今までとは完全に違うその魔力の波動に俺は思わずそう口にしていた。


「距離265メートル――攻撃有効範囲」「魔力分散化による一時的張力を按分」「左手の負傷を考慮、パターンを233から再計算」


 スラミはぶつぶつと高速で言葉を発していた。

 耳のいい俺には、嫌でも遠くにいるスラミの声が聞こえてきた。


(あり得ない。200mだぞ⁉︎例え至近距離で零式にダメージを与えられる剣戟を持っていたとしてもこの距離だと確実に威力は落ちる。それにただの直線攻撃なんて簡単に見切られるし、当たるはずがない!零式が負けるなんてあり得ない!なのに――)


 俺は自分の足元を見る。俺の足は恐怖でガタガタと震え、もはやその恐怖心を自分で制御出来なくなっていた。


「どうしてこんなにも、俺は恐怖してるんだよ……ッ!」



「魔力領域を拡大。68529番式を定義――」



 再びスラミの方を見る。

 スラミはぶつぶつと高速で何かを呟き続けていた。


「いや、ダメ……それじゃ間に合わない」「演算修正、パターン39代入、再計算……」「重心の位置、周囲魔力考慮。踏み込み60%深く」「風は南西方向、対象に対し追い風」



 そしてその後、一言確かに俺の耳に届いた。



「確立――――」



 瞬間、スラミの姿が消えた。


「なっ―/

   /――⁉︎」


 ヒュと、風が俺の横を切った。


「……………………」


 そして次にスラミの存在に気づいた時には、スラミはもう俺の遥か後方の方にいた。


「な……どうして、そんな所に…………」


 俺がそう言って振り向いた直後、


 ボトッ


 と音を立てて零式の上半身が地面へと落ちた。


「はぁ……はぁ……」


 零式が倒された事で伝染していた恐怖が消えた瞬間、俺の体中から一気に汗が吹き出した。


「…………」


 スラミを見る。

 彼女は剣を構え、呆然と立ち尽くしていた。


「スラミ」


 呼びかけるが返事は無い。


「おい、スラミ!」


 駆け寄り、俺はまだ体に残る恐怖を押し殺し、恐る恐るスラミの柔らかい肩を揺すった。


「しっかりしろスラミ!」


「ぴ、ぴぇ⁉︎」


 とスラミが突然声を上げて驚いた。


「ど、どどどどうしてマスターが私の前に⁉︎わ、わわ私、確か淫鬼夜マスター零式に飛ばされてそれで……」


「あれぇ〜……えぇーっと〜……ぴぃぃ……」とスラミは頭を悩ませていた。そしてしばらくして「はっ!」と何かに気付き俺へと詰め寄った。


「と、というかどうでしたかマスター!……わ、私は言いつけを守れましたか?淫鬼夜マスター零式を倒すことは出来たんでしょうか?」


 状況がわからず混乱するスラミに、


「スラミ、今日はもう帰って寝ろ」


 静かにそう言うと俺はスラミにポーションを手渡した。


「そ、そんな……じゃあやっぱり……」


 スラミが目を伏せ、ぷるぷると体を震わせた。


「だ、ダメ……だったんですね…………私、約束守れなかったんですね…………」


 弱々しくそう言うスラミは今にも泣き出す寸前だった。

 全く……どうやらスラミは大きな勘違いをしているらしい。


「ばーか。何言ってんだよ」


 俺はそう言うとフッと鼻を鳴らした。


「3日後は本番だろ。さっさと帰って早く休めよ」


「……!」


 スラミはその言葉から察して、目を丸くした。


「ぴゃ、ぴゃい!」


 そしていつものように噛みながら返事をした。


「やれやれ……」


 俺は地面に落ちたスマートフォンを拾い上げる。

 スラミの剣戟による衝撃波で半分に割れた俺のスマホの画面には、『00:00.01』と表示されたままフリーズしていた。




 xxx



 数時間後。

 淫鬼夜家――


「ギエエェェエエエ⁉︎⁉︎⁉︎ヒナちゃんスマホ壊したの⁉︎この前買ってあげたばかりなのに⁉︎」


 帰ってきて早々、二つに割れた俺はスマホを見て母さんが絶叫した。


「これ高かったのよ!それに本体返却プランだから新品で返さないといけないのに!しかもヒナちゃんが『バカだな母さん。最近のスマホは頑丈だから保険なんていらないんだよ。そんなの入るのは搾取されるだけの脳の無い情弱だ』って言うから保険も何もつけてないのに!」


「お金が……あぁ……今月の食費が飛んでいく…………」と母さんが泣きそうになりながら天を見上げた。


「しょうがないじゃん。学校の奴にやられたんだから」


「誰にやられたの⁉︎ヒナちゃんいじめられてるの⁉︎ママ学校に言うわ!」


 母さんが無駄にでかい胸を俺に当てて詰め寄ってくる。


「別にいじめられてるわけじゃないよ。ただスライムの後輩にやられたんだよ」


「スライムに……?吸血鬼のヒナちゃんが……?」


 母さんは俺から離れると、きょとんとした様子で首を傾げた。

 まぁそれはそうだ。最強である吸血鬼の俺が弱小のスライムにスマホを壊されるなんて事はあり得ないし、理解出来ない事象だろう。


 そして母さんの場合、理解出来ない事象は基本的にエロい路線に行く。


「え……もしかして性的にヤられた話?ヤられて流れでスマホもやられた話?」


「んなわけあるか!普通にやられたんだよ!」


 母さんの意味の分からない言動に思わずツッコミをいれる。


「正常位?」


「そういう普通じゃない!体位的には普通なんだろうけど!」


「騎乗位?」


「違うって!性的な路線から離れて!」


「ごめんなさい……そうよね……」


 と母さんは申し訳なさそうに長い相貌を閉じた。


「スライムとヤるならぬるぬる触手プレイが普通よね……」


「そうでなくッ!」


 どんだけ脳みその中エロい事で溢れてるんだよこの母親……。まぁけど、ぬるぬる触手プレイに関しては確かにスライム族なら一般的な気がする。


「我が血族達よ。五月蝿(うるさ)いぞ」


 リビングの方でテレビを見ていた妹のリリィがそう俺と母を叱咤した。


無機物たるモノのレコ(テレビの音)ードが聞こえん。今より此度の学園対抗戦での決勝選手にインタビューがあるのだ。しばし沈黙せい」


「決勝の――」


 リリィのその言葉を聞いて俺はテレビを見る。

 決勝戦の片方は勿論シード権があるウチの学園――つまりスラミだ。

 スラミに付きっきりでそういえば肝心の試合を何も見ていなかった。決勝の相手か……。なるべく弱い種族だといいんだが。


『ではこれより、見事学園対抗戦の決勝へと駒を進めた【ギャラクシー・モンスター・スクール】の選手にインタビューを行います!』


 テレビを見ると、ちょうどニュースキャスターがそう言って決勝で戦う選手の学園へとリポートをするところだった。


『では失礼します!』


 キャスターは快活な声でそう言うと、選手のいる部室の部屋を開けた。


『ではこれより、見事決勝へと駒を運んだ“ヴォルガ・ラスターヒート”選手にインタビューを行おうと思います!』


「こいつは……⁉︎」


 俺はテレビに映ったその炎を纏う巨大な怪人を見て、思わずテレビの方へと駆け寄った。


『ヴォルガ選手!決勝進出おめでとうございます!今の心境をお聞かせください!』


 キャスターがそのイフリート――ヴォルガへとマイクを向ける。


『ゲハハ!別に何もねぇよ。ただ目の前にいた雑魚をぶっ潰したら終わってた。そんだけだ』


 ヴォルガが体の炎を眩く光らせ下劣に笑った。


『流石ラスターヒート選手!では優勝の自信はあり、とういう事でよろしいでしょうか?』


『当たりめぇだろ!このオレを誰だと思ってんだ!地獄の番人――獄炎のイフリートだぞ!』


『ちなみに決勝の相手校である怪妖学園の代表選手は、スライム族の少女とい噂がありますがどうお考えですか?』


『スライムだと……?』


 キャスターのその言葉にヴォルガは怪訝に背中の炎を揺らした。


『スライム……スライム…………スライム………………』


 ヴォルガが俯き、沸々と次第に体の炎が燃え盛っていく。


『ラスターヒート選手……?』


 そして、


『虫唾が走んなァ!嫌な事思い出しちまったじゃねぇかッッ!』


 突然ヴォルガが吠えると、その怒りに呼応してヴォルガの身体中から爆炎の炎が舞い上がった。


『熱ッッ⁉︎熱いッッ!』


 その高熱は金やクリスタルで出来たトロフィーを意図も容易く溶かしていく。


『スライムが決勝の相手だァッッ⁉︎ふざけてんじゃねぇぞゴラァッッ‼︎』


 更に燃え上がるヴォルガの炎。


『スライムなんて雑魚は俺が燃やし尽くして消し炭にしてやらァッッ!』


『きゃあああ⁉︎』


 そしてキャスター達の悲鳴が一際大きくなった所で、熱に耐えられなかったカメラがショートし中継が途絶えた。


「なるほど…………」


 と、中継を見終えたリリィが腕を組んだ。


「決勝はイフリート族とスライム族……。最強と名高いイフリートに対し、最弱と揶揄されるスライム族の少女が最強を求め争うか……」


 そこまで言うと「ククッ」と不敵にリリィは口角をあげた。


()い。実に悦い!下剋上、成り上がり、反逆――何とも面白いものか!やはり怪人は我を楽しませてくれる!カハハハ!」


「背徳、ショタ逆転、NTR――確かに攻守交代って面白いわよね!そこに気付くなんて流石リリィちゃん!ママの子♡」


 完全に理解を間違えている母さんを尻目に、俺はさっきのヴォルガの事について考える。


「ヴォルガ・ラスターヒート…………」


 その名前は記憶に薄いが覚えている。アイツは間違いなく1ヶ月前に俺がコテンパンにぶちのめしたイフリートだ。


 一度戦ったからこそ分かる。今のスラミの実力なら確実にあのイフリートに負けることはないだろう。

 けれどスラミはあのイフリートに脅され、非常に怯えていた過去がある。

 スラミにとってあのイフリートは間違いなく恐怖の象徴だ。

 怯えて萎縮してしまえば、確実にそれは不利に動いてしまう。


「大丈夫かよ……スラミ……」


 俺は3日後の決勝の事を思い、唾を飲んだ。

 それはスライムのように重く、沈むような液体だった。

淫鬼夜ママを書いてる時が一番楽しいです。

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