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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
3章〜最弱のスライムは、最強を目指す〜
39/43

38話 『演算キャラって強いですよねって話』

 1週間後――


「じゃあ投げるから、目を閉じろ」


「ぴゃい!」


 俺は手に持った石ころに自分の魔力の籠った血液を付着させると、5kmほど遠くへ投げた。

 綺麗な放物線を描き飛んでいくと、地面へと落下した。

 その小さな着地音を俺は聞きとり、スラミへと声をかけた。


「準備は整った。いけるな?」


「はい!マスター!」


 スラミはそういつも通り元気に答えた。


「よし、んじゃ始めだ」


 俺はそう言うと、指を鳴らしこの山のトラップを起動させる。

 静かだった辺りには一気に殺意の魔力が立ち込めた。


「頑張るぞ……。絶対に今日こそ見つけるんだ!」


 スラミはそう意気込んだ後、目を閉じたまま意識を自分の体に眠る魔力へと集中させた。


「体内の魔力指数37――波動11。異常無し。高い数値で安定。探知――気候,周囲の魔力状況による波動の上昇数を考慮。6666の魔力を検知。間違い無い――5km北西にマスターの魔力です。向かいます」


 おもむろに斜め後方へと駆け出した。

 俺はスラミの集中を途切れさせ無いよう、黙って後をついていく。

 スラミが言っている魔力指数というのは何を言っているのかは正直全く理解出来ないが、スラミの走り出した方向は間違い無く俺が石を投げた方で合っていた。そして距離感までも正確だ。魔力探知を完璧に会得したのは間違いない事実だ。


「スライム族は弱いっていう常識は、もしかしたら改めないといけないかもな」


 俺は呟きながらスラミの後をピッタリついていく。


 この短期間で魔力探知を完璧に会得したのは正直驚いた。

 だが、問題はここからだ。

 魔力探知で石を見つけられるようになったとしても、それでクリアというわけにはいかない。

 その石を手に入れる為には数々のトラップを掻い潜らなければならない。そしてそのトラップを避ける為には高速の魔力探知を行う事での攻撃予測、そしてそれに対応出来うる身体の俊敏さ――その二つが備わっていなければ必ずクリアは出来ない。


「魔力振幅と周波数の分析――」


 何かを感じ取ったスラミがおもむろに呟いた。


「周波数領域へと変換――魔力指数4444!後方72度、殺気の魔力!」


 トラップから剣が発射される直前、スラミはその殺気を察知すると後方から高速で飛んできた剣をバックステップする事でかわした。


「次、角度60。魔力指数43。波動30――近いッ!」


 スラミの察知した通り、至近距離にある茂みから剣が飛んでくる。

 だがその攻撃を予知したスラミはバク転し、それを軽々と避けた。


「やりました!2回も避けられ――」


 直後、


「ぴぇッ⁉︎」


 地面に大穴が空き、スラミが奈落の底へと落ちていった。

 そして穴の底には赤黒く光る無数の剣――あれに刺されたらひとたまりも無い。


「衝突する前の適切な反作用力を計算――」


 落下しながらスラミは冷静に魔力の探知をする。


「波動から左43度移動……魔力指数4839……奈落からの殺気の魔力によるブレを補正、ベクトル再計算……衝突までおよそ2.1メートル……………………今ッ!」


 スラミは体を溶かし水状になると、剣の山の隙間へと入り込み、華麗に避けた。


「おぉ、すげぇ」


 全く剣に触れずに体を溶かし避けたその姿を見て、思わず俺は感嘆の声をあげた。まさかこの地獄の剣山を傷の一つも無しに避けるなんて、正直称賛の域だ。まぁ無論、俺も出来るが。


「これ、1本もらっていくね!」


 スラミはトラップから一本剣を抜き取ると、スライムの体を粘着させながら落とし穴を駆け上がりトラップを脱出する。


「よし、頑張るぞ!」


 スラミは呼吸を整え、再び石の方へと向かい走る。


「さて、また俺を驚かせてくれよスラミ」


 俺は前を走るスラミを見つめる。

 剣を避けた後に落とし穴――とくればこのまま進めば待っているトラップはこの山で最難関と言われるトラップ――地獄の1000本ノックだ。


 このトラップの無い簡単なルートを通らせてクリアさせてやっても良かったが、それでは最強を目指すスラミに対して何の意味も無さない。

 だから俺は、1週間前に俺がクリアした最難関の試練をスラミにも課したのだ。



 落とし穴を抜けてしばらくすると、凍りつくような殺気の波動を感じた。

 しかもさっきまでとは違い四方八方から同時に感じる。体を逸らしても避ける事は不可能だろう。


「魔力指数4996。それぞれに対し固定の仮想魔力を定義し、演算を開始します」


 瞬間、無数の血の剣がスラミに向かって放たれる。


「“備えあれば憂いなし”――です!」


 叫ぶと、スラミは先程手に入れた剣を華麗に振る事で、その剣を1本1本いなしながら前進していく。


「仮想4996の20……仮想4996の93――」


 一瞬の間に無数に降り注いでくる剣――スラミはその一本一本から放たれる魔力を瞬時に計算し、確実にいなしていく。

 血で出来た剣が衝撃で弾け、空中に血液の花がいくつも咲き誇る。


「仮想4996の8、仮想4996の4そして――これがオリジナルの魔力4996ッッ!」


 ガキンッと激しい音が鳴り響くと、スラミは最後の1本を地面へと弾き飛ばした。

 周りにあった殺気が全て消えたのを感じた。


「ぴぃ……ぴぃ……つ、疲れた…………」


 本当に疲れたのだろう。スラミは肩で呼吸をしながらふらふらと千鳥足で石の方へと向かっていく。

 そして、


「あ…………あった!」


 スラミは意気揚々と地面に転がる小さな石を拾い上げる。


「ま、マスター!どうですか⁉︎合っていますか⁉︎これはマスターの魔力を含めた石ですか?」


 目を閉じたまま、はしゃいだ様子でスラミはそう俺へと話しかける。

 確実に俺の気配も察知している。魔力探知が完璧なのはもはや疑うことは無い。


「フッ、正解だ。スラミ」


 俺はそのあまりの成長に思わず鼻を鳴らすと、そう答えた。


「ほ、ほほほ本当ですか⁉︎」


「本当だよ。目開けて見てみろよ」


「ぴゃ、ぴゃい!」


 スラミはそう言うと、ゆっくり、ゆっくりと恐る恐る目を開け、自分の手のひらにあるその小さな血のついた石を見た。


「や、やりました!マスター!出来ました!」


「やったー!やったー!」とスラミは何度も地面を飛び上がり、柔らかいスライムをぷるぷると震わせ喜んでいた。


「あぁ、ほんとすげぇよスラミ!良くやった…………じゃなくて、ふん。中々要領が良いな。まぁ教えの師がいいからだろうな。自惚れるなよ。マスターである俺のおかげである事を忘れないようにな」


 俺はちょっとわざとらしく厳しい鬼教官のような態度をとってみた。


「はい!マスターのおかげです!そうに決まってます!」


「ちょ、調子狂うな……そこはちゃんと『自分のおかげです。マスターは関係ありません』ってツッコんでくれよ。俺はそんなに教えてないだろ?」


「ぴぇ?何故ですか?だってマスターのおかげです!私一人じゃ絶対に出来ませんでした!」


「そ、そうか……まぁ、そうかもしれない」


「はい!もちろんです!マスターは最強で素晴らしいお方です!」


「わ、分かったって!ありがとな!」


(やっぱり調子狂うな……こうも真っ直ぐ褒められると)


 最近は特に神鬼からの罵倒ばかりだったし、こうも素直に褒められるとというのは何故か心が落ち着かない。

 だが、それでも嬉しい事には間違いない。


「よしじゃあ次の訓練行くぞ!次は実践だ!」


 俺はその上がるモチベーションのまま、次の特訓を宣言した。


「ぴぃ……がんばりまひゅ!」


「ところでスラミ、お前はスライムを固めて剣を作れるか?」


「ぴゃ、ぴゃい!マスターが創っているのを見た事があるので、出来ると思います!」


「そうか。なら今日からは自分で作り出したその剣を使え。学対じゃ装備品は持ち込み禁止だからな」


 昔、まだ学対が始まって間もない頃に“聖剣”と呼ばれるエクスカリバーや“魔槍”と呼ばれているグングニルを親戚から譲り受けた金持ちの人間が、その装備の安寧を受けて学対で無双した事件があったらしい。

 だから学対では装備品の持ち込みは不可能なのだ――と、この前神鬼に力説された。にしても長かったなぁ……あの話。

 話始めの枕詞が『今から980年前に行われた第20回学園対抗戦では――』だった時点で止めるべきだった。


「ぴゃい!わかりましたマスター!頑張って作りますね!」


 スラミは目を閉じ、意識を集中させると自分の体を構成するスライムの一部を変形させ、一本の水色の剣を作り上げた。


「ふむ、上出来だ。だがもっと持ち手を尖らせて、柄にはドクロとコウモリの彫刻を入れて闇っぽい雰囲気を強くしろ」


「わ、分かりましたマスター!そうすれば闇の御加護が得られて戦闘力が高まるんですか?」


「いいや、そんな効果は全く無い。だが凄くカッコ良くなる」


「なるほどですね。勉強になります!」


 何も疑う事なく従うスラミ。

 スラミは魔力を操り、剣にドクロとコウモリのマークを刻印した。

 シルエットが全体的に丸くて可愛らしい感じがするが、まぁご愛嬌だろう。


「よし、じゃあやるか――」


 俺は狼のように爪を尖らせると、左腕の上腕部を一気に切り裂いた。

 傷口に赤い線が走った後、一気に大量の鮮血が噴き出しボトボトと音を立てて地面へと垂れていく。


「ぴ、ぴえぇええ⁉︎ななな、何をしてるんですかマスター⁉︎そんな事をしても生きてる実感は得られませんよ⁉︎い、今応急処置を――」


「安心しろ。急にリスカをしたわけじゃない」


 慌てるスラミをそう言って静止させると、大きめの水溜まりぐらいある自身の血を見る。


「さて、そろそろいいか」


 俺は左腕の傷口を指でなぞり、治癒させる。


「な、ななな何をしてるんですかマスター⁉︎お怪我は大丈夫なんですか⁉︎」


「問題ねえよ。それに理由はこの血液の塊を見てれば分かるさ」


「血の……塊を……?」


 まだ状況の分かっていないスラミは懐疑的に俺の足元にある血を見つめた。そしてしばらくすると、


「ぴ、ぴぇ?血の塊が動いてる……⁉︎」


 ぶよぶよとまるで生き物のように血の塊が発酵されたパンのように膨らみ、(うごめ)き始めた。


「ぴ、ぴえぇええッ⁉︎ち、血が動いてますぅ⁉︎」


「お前もそう変わらんだろ……」


「ぜ、全然違います!私はあんな変な生き物じゃないです!」


 とスラミは頑なに否定した。

 血液もスライムも俺からすれば同じ液体だと思うのだが。


 そうこうしているうちに血の塊が変形し、人の姿となった。


「ま、マスターと同じ姿?」


 目の前に出来上がった血の塊が俺と同じ姿で、思わずスラミがそう言葉を漏らした。(姿は俺でも全身は血で出来ているから真っ赤だが)

 驚くスラミに、俺は説明する。


「これは俺が魔力で作り出した俺の分身。その名も――淫鬼夜(ゼロ)式だ」


「淫鬼夜……零式……カッコいいです」


「コイツを倒すことが出来たら修行は終了。お前は晴れて優勝を手に取ることが出来るだろうさ」


「淫鬼夜マスター零式を倒せたら優勝――」


 スラミはごくりと喉を鳴らした。


「で、でも流石に……マスターを倒すなんてとても可能であるとは…………」


 だがスラミはその事が気がかりとなり弱々しく声を漏らした。


「安心しろ。零式は魔力量を調整して本来の俺の1000分の1の強さに抑えてある」


「1000分の1ですか?それだったら流石に私でも勝てる気が――」


 スラミがそう言いかけた直後、淫鬼夜零式が剣を振るう。


「……⁉︎」


 烈風が吹くと、斬撃でスラミの後方に存在する木々が数十本細切れになった。


「1000分の1だったら、何だって?」


 俺はそう言うと挑発的に笑った。


「ぴ、ぴぃ……」


「正直1000分の1でもこの前のイフリートでも瞬殺だぜ?」


「そ、そんなに……」


「諦めるか?」


「い、いいえ!」


「決めたんです!学園対抗戦で優勝して最強のスライムになるって!だから頑張りまひゅ……す!」


 噛んだ後、スラミはすぐに言い直して覚悟を言葉にした。

 今まで噛んで終わっていたからこそ、スラミの成長をどことなく感じた。


「なら――最終特訓始めんぞ!」


 叫び、俺は零式に魔力を込め起動させる。


 そうして、淫鬼夜零式とスラミとの最後の試練が幕を開いたのだった――


『トレーニング1日目 メモ』


やっぱり淫鬼夜先輩……じゃなくてマスターは凄い方だった。あんなに何本もの攻撃が来て当たらないなんて凄いかっこいい!


魔力探知は、マスターはビビッでヴワって言ってたけど、私はマスターぐらい凄くないから魔力の反応の違いがよく分からないし、一旦体に感じる魔力全てを計測して、それら全てを観測し検証していこう。

その為に公式を考えたので、明日からはこの公式を元に魔力探知を実践していこうと思う!頑張ろう!明日の私!


【公式】


M = α * (P_i)^β * ∫_0^T(E(t) * d(t)) dt + γ * ∑_i=1^n(T_i * S_i^δ / ln(1 + Φ_i)) + θ * exp[Σ_i=1^m(Ψ_i * ω_i) / ζ] + λ * ∫_0^Ξ (Δx * ρ(x)) dx



M は計算される魔力の値。

P_i は個体の魔力の潜在能力を表す。

E(t) は時間 t における環境からの魔力の影響数値。

d(t) は時間 t における魔力の消耗を表す。

T_i は各スキル i に対する存続時間。

S_i はスキル i のスキル。

Φ_i はスキル i の達成度。

Ψ_i はスキル i の質。

ω_i はスキル i の影響範囲。

Δx は特定の領域での魔力の微小変化(☆凄く重要☆)

ρ(x) は特定の領域での魔力密度。

α、β、γ、δ、θ、ζ、λ は調整パラメータで、値は様々な要素の重みを調節して使う事。



私も絶対、マスターみたいになるぞ!(╹◡╹)

えいえいおー!

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