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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
2章〜淫鬼夜、女になる〜
32/43

31話 『“新生”怪人研究部始動って話』

「お待たせー。席取っててくれてありがとー」


 春流々がトレーに大量のポテトを乗せてやってきた。

 春流々は“超”が付くほどのポテト好きだ。理由はケチャップが一番合う食べ物だから、らしい。

 ちなみに俺はキメラの肉を使ったハンバーガー。神鬼はウンディーネ(水の精霊)の湖から採れたミネラルウォーターだ。


「ねぇねぇ神鬼ちゃん。写真撮ろうよ。記念にさぁ」


 ワクワクとした様子で春流々が神鬼に問いかける。

 春流々はまだ神鬼という人間をわかっていないらしい。

 神鬼は他の奴等とは一線を引いている。そんな事するわけな――


「もちろんいいわ」


 快諾だった。


「じゃあ撮るよー。二人とも笑ってねー」


「はいはい、ピースピース……」


「ふふっ。はい、ピース」


「え……⁉︎」


 俺は神鬼の奇行に、思わず声に出し驚いた。

 快諾どころか、まさかの神鬼がカメラにピースまでしてポーズをとっていた。


 シャッター音が響いた後、春流々が神鬼に嬉しそうに写真を見せる。


「ねぇ見て見てー、凄い上手に撮れてないー?」


「素晴らしいわ。月鬼城さんは運動だけでなく芸術にも才があるのね」


「はは、嬉しいなー。そんな褒められたの初めてだよー」


 エヘエヘと春流々が笑う。

 騙されるな春流々。神鬼はそんないい奴じゃないぞ。きっとお前を煽て上げ、太らせ、最後にはスープの出汁にして食う気だ。コイツがまがいなりにも鬼だという事を忘れるな!


「ねぇねぇ神鬼ちゃん、そういえばなんだけどさ――」


 おもむろに春流々が口を開いた。


「何かしら月鬼城さん?」


「神鬼ちゃんのやってる“怪人研究部”ってどんな事してるの?」


 薄桃色の長い髪を揺らし、春流々がそう問いかける。


「あら、あのスケルトン以上に脳みそスカスカの根暗者から聞いていないの?口は一旦木綿よりも軽い程だし水を得た河童のように喜々としてクラス中に話していると思ったわ」


(一言でどんだけ罵倒するんだよ!)


 俺は喉元まで出かかったそのツッコミを直前の所で耐えた。

 流石にそんなツッコミをして神鬼に正体をバラしてしまうほど俺も愚かでは無い。


「ハ、ハハ〜確かに〜淫鬼夜くんなら言いそうだよね〜ほんまそんな感じだわ〜」


 俺は取り敢えず作り笑い浮かべ話に合わせた。

 そして再び春流々が口を開く。


「ひなたから聞いてはいるんだけど、『なんか怪人を研究する部活的な何か』って言うだけで、あんまりよく分からなくて……」


「まぁそうよね。あの変態空腹怠慢吸血鬼に、私の崇高な野望のもと設立されたこの部活を説明出来る訳はないわよね……」


(だからどんだけ罵倒するんだよ⁉︎もしかして俺の正体に気づいてて、嫌がらせでわざとやってらっしゃる⁉︎)


 と、口に出すわけにはいかないので、


「ハ、ハハ〜神鬼ちゃんおもしろ〜言葉のセンス神じゃん〜流石神〜」


 俺はただそう相槌を打って笑い続けた。

 “笑う門には福来る”、が俺のモットーだ。


「ごめんなさい。話が逸れたわね。怪人研究部がどんな部活かってお話よね?」


 と神鬼はミネラルウォーターサーを一口飲むと改まった。


「転校した日に話した通り、私は鬼族の両親から産まれたにも関わらず、角を持っていなくてね……」


 そう話す神鬼の顔からは、さっきまでの明るげな表情は消え、いつも見せる大人のような冷たい顔をした。


「子供ぽくて恥ずかしいのだけれど、私はまだその『自分に角が無い』という事実を認める事が出来なくてね……だから『自分の角を取り戻す』という事を目標に、色々な怪人の生徒達の特性を調べているの」


 神鬼は視線を下に向け、静かな声で話す。


「もちろん私は怪人の研究者でも無いし、こんな事をしても無駄だって分かってる……だから怪人研究部は、ただの私の悪あがきを体現した部活。言ってしまえば子供のお遊びみたいな物よ……」


 自分にそう言い聞かせるかのように神鬼はそう言った。


「へえ。そうなんだ――」


 春流々はそう一言言うと、考え込むように顎に手を当てた。

 そしてややあって、


「神鬼ちゃんって、凄い人なんだね」


 と目をキラキラさせながら神鬼にそう伝えた。


「それに優しいね。神鬼さん。ひなたから聞いてる感じだとすんごい気難しくて厳しい人――みたいな感じだったから、正直ちょっと尻込みしてたよ」


「あら、あの変態ハーフヴァンパイアは裏で私をそういう風に評価しているのね。今度会ったら言語の粛清が必要だわ」


 神鬼が怒りに満ちた表情で遠くの空を並んだ。


(なんかめっちゃ物騒な言葉を仰られてる⁉︎なんだよ粛清って……日常生活で絶対出てこない言葉を息をするように使うなよ!)


「ははは、神鬼ちゃんってひなたに凄く厳しいよね。そんなにひなたの事嫌いなの?たしかに変な事よく言ってるけどさ、悪い人じゃないんだよ?」


「ね?日奈々ちゃん?」


 と春流々が何か言いたげな表情で俺に微笑みかけた。


「そ、そうですね!とーっても明るくて元気で気が利いて背が高くてかっこよくて素晴らしい方だと思います!」


 俺は事実を述べ、自分を擁護した。だが、


「いやー、そこまでじゃないよ?」


 と春流々に簡単に否定された。


「嫌い……というわけでもないのだけど。そうね……」


 神鬼はそう言った後、ちらりと俺と春流々を見る。

 流石に親戚設定の俺と幼馴染である春流々の前で、俺の悪口など言いづらいか。


「だ、大丈夫だよ神鬼ちゃん!私達に気にせず教えてよ!」


「うんうん。春流々も大丈夫!」


 俺と春流々がそう言って微笑むと「そう……なら……」と神鬼は重い口を開いた。


「まぁ至極単純な事なのだけれど……」


「「だけど……?」」


 俺と春流々は身を乗り出して神鬼の次の言葉を待った。



「気持ち悪いのよね。淫鬼夜くんって」



(わぁ!ド直球!)


 確かに気にしないでとは言ったけれど、あまりにも気にしなさすぎるのもどうかと思うよ、神鬼さん。


「あー、そうだよねー。それは納得だ」


 隣で春流々が『この理由はもうしょうがないやー』とでも言ってるような諦め加減で呟いた。


「ゲーム機に名前つけてるし、人形の声真似して一人でなんか喋ってるし……普通にそこはドン引きしちゃうよねー」


「いや、それもそうなのだけれど。それだけならまだ脳みそが幼児のまま止まっている可哀想な人というだけで、そこまで気持ち悪くはないわ」


「え、そうなの?」と春流々が驚いたように口を開く。


「私が彼を気持ち悪いと感じるのは、行動に来る嫌悪感からでは無いわ。もっと本能的に――生物として私は彼を憎悪しているわ」


「そ、そこまで……」


「彼、種族の能力のせいでダークマターの様な格好をしないと人に好意を持たせてしまうらしいのだけれど、どうやら私には彼のその能力が効かないの」


 神鬼が難しい顔をしてそう語る。


「そしたら淫鬼夜くんは能力が効かない事で『神鬼は俺の運命の人なんじゃないか』みたいな目で私を見て観察してくるし、私がただ人手が足りないから入間先生に部員を頼んだら運悪く淫鬼夜くんが来ただけだというのに『コイツ、わざわざ俺の事を指名するなんて俺の事を実は好きなんじゃないか』みたいな雰囲気を醸し出してくるし……」


(え……入間先生の指名って本当に神鬼から言われてたわけじゃないの⁉︎)


 てっきりそう思ってただけに俺は思わず内心驚いた。

 というか、チャームが効かない事で神鬼に若干ストーカーじみた事をしたのも事実だし、ぐうの音も出ない。


「なんだかよく分からない思い上がりで私を『仕方ないから付き合ってやるか』みたいな態度で上から目線で接してくるのがとても……そう、癪に触るのよね」


「それに理由はまだあるわ」と神鬼は付け加える。

 この数十秒の間にもだいぶ心を抉られた気がしたが、まだあるのか……。


「まだあるの?」


 春流々が薄桃色の髪を揺らし、顔を傾ける。


「えぇ。私は過去に、不覚にも淫鬼夜くんに歩み寄った事があったの」


「え、そうなの?」


 と春流々は言うと俺を『本当?』と俺に視線で訴えてくる。

 俺は首を横に振ってそれを否定した。


 神鬼が歩み寄るだと……?そんな夢物語があるわけないだろう。そんな記憶は一切ない。

 何だよ神鬼って結構過去を美化して自分をよく見せるタイプなんだな。なんだ神鬼も結局そこらのリアル女子共と変わらないんだな。はーガッカリガッカリ。良いぜ良いぜ?もういくらでも悪役になってやるよ。


「怪人研究部を始めてすぐ、一応恩もあった事だし淫鬼夜くんの好きそうなゲームの話を振ったの。そしたらね――」


 ゲーム。神鬼。話を振った――その3つのワードが重なり合い、俺は瞬間的に先月のある出来事を思い出した。



 ――あれはまだ部活を始めて2日ぐらいの頃、天使先輩を手伝い始めてすぐの時だ。


『そういえばこの前、『魔法少女プリンセス』というゲームを少しやってみたわ』


 西陽が刺した部室でギャルゲーに勤しむ俺に、珍しく神鬼がゲームの話を振ってきた。


『正直何処にでもある恋愛物のゲームかと思ったけれど、話を盛り上げる手法や登場キャラクターが魅力的で、フィクションと分かってはいたけれど最後の展開には思わず心を熱くして少し泣いてしまったわ。あの作品が人気作と呼ばれる所以(ゆえん)よね。淫鬼夜くんもプレイはしていたの?』


『魔法少女プリンセス』――昨年、オワコンと囁かれるギャルゲー業界で異例の大ヒットをした名作中の名作だ。

 現代の若者の感情に寄せたキャラクター。そして何よりその物語のシナリオが話題となり、ネットでは“伝説のギャルゲー”として話題にされていた。


『魔法少女プリンセス……ねぇ……』


 俺はプレイしていたギャルゲーから目を逸らし、そう呟いた。

 そして言い放った。



「あー、はいはい。あの大衆に堕ちたクソゲーね』



 元来俺は、世間の流れに合わせるのが嫌いだ。

 世間が好きだと言うの物であれば、俺はそれを嫌いだと言う。

 世間が嫌いだと言う物であれば、俺はそれは大好きだと言う。

 俺は(かぶ)いているのだ。


『有名になってんなとは思ってたけど、ついに神鬼レベルの一般人にまで波及しちゃったか。怖いねぇ』


 別に本心からその言葉を言ったわけじゃない。

 本当は魔法少女プリンセスは発売日に買ってクリアしているし、全イベントも100周は網羅したし、ゲームの舞台となった聖地に足を運んで記念撮影をしたりしている。

 けれど俺は(かぶ)いているのだ。そういう怪人なのだ。


『…………………』


 その後、神鬼が露骨に口を聞いてくれなかったのはよく覚えている。


「え、何それ……酷いね」


 話は戻り現代。

 春流々がドン引きした様子で俺を見た。


「そうでしょう?私が血反吐を吐きそうになる程の屈辱を必死で堪えて話を振ったというのに、それを汲み取る事も無く無碍(むげ)にするなんて下劣の極みよ」


「あちゃぁ……ほんと最低だね……」


 チラリと春流々が俺に視線を向けた。

 そんな視線を向けられても困る。俺も若干反省してるよ!今初めてだけど!


「実は、他にもあるわ」


(まだあるのかよ!)


 と俺は心の中でツッコむ。

 確かにさっきのゲームの事は忘れていた。

 だがそんなもう一個ここまで神鬼の地雷を踏んだ出来事なんて絶対にないぞ。今度こそ神鬼の脳内で勝手に作り出した創作だ。俺はその事に命を賭けたって良いほどだ!


「私が気を遣って、天使(あまつか)先輩の手伝いに尽力していた彼にハーブティーを淹れてあげた時の事よ……」


「あぁ、あれか――」


 ハーブティー。神鬼。淹れてくれた――その3つのワードが重なり合い、俺は一瞬で先月の出来事を思い出した。


 ――あれは神鬼の機嫌が悪くなって1週間ほど経ったぐらいの頃、天使(てんし)先輩からもらった生徒資料をまとめてる時の事だ。


『淫鬼夜くん。どうぞ』


 西陽が刺した部室で作業をしていると、そう言って神鬼は俺に一杯の茶を差し出してくれた。


『ハーブティーよ。貴方も天使先輩の事で頑張っているし、私からの労いの気持ち』


『ハーブティー……?』


『えぇ、私がさっき淹れたばかりよ。熱いうちにどうぞ』


 そう言って神鬼は微笑んだ。

 だが俺は『はは……』とその神鬼の好意を鼻で笑った。


 元来俺は、人の好意を素直に受け取る事が嫌いだ。

 人に優しくされるほど、その人の好意を無碍にする。

 人に厳しくされるほど、その人に好意を持ってもらえるよう必死にしがみつく。 

 俺は(かぶ)いているのだ。


「神鬼、悪いんだが――』


 だからこの時も神鬼の気持ちなんて一つも考えずに、いつもの癖で(かぶ)いてしまったのだ。



『俺、カフェインはエナドリからしか摂取しないんだわ』



 ただの冗談のつもりだった。

 いつも斜に構えている俺だから、素直にお礼など言えなかっただけなのだ。

 本当はハーブティーは好きだし、しっかり飲み割った後『美味い』って伝えようと思っていた。

 だが神鬼は俺からハーブティーを取り上げると、そのまま部室から出て行き、その日は戻ってくることはなかった……。

 あぁ、間違いなくそれからだ。神鬼が俺に対して厳しくなったのは――


「正直メチャクチャムカついたわ。カフェイン中毒で死ねばいい」


 時は戻り現代。

 神鬼は怪訝そうにそう言って顔を顰めた。


「………………」


 俺はただ無言で俯いていた。


 ずっと神鬼は、最初にセクハラ紛いの事をしたから俺に怒ってるんだとばかり思っていた。だから俺に冷たく当たるのだと……。

 だが真実は違った。神鬼は俺を許して、神鬼なりに近づこうとしてくれていたのに俺が自分でそれを拒絶していたんだ。


「く…………」


「日奈々ちゃん、どしたの?震えてるけど?寒い?」


 隣にいる春流々が俺を心配そうに見つめる。

 違う、寒いから震えてるんじゃない……そんなんじゃない……俺は、


「うぐっ……………………」


 俺は――――――――



「うわああぁぁぁぁああああああああんッッ‼︎」



 感情に任せ、俺は大声で泣いた。


「ひ、日奈々さんッ⁉︎」


 突然の事に神鬼が大声を出して取り乱す。


「だ、大丈夫だよ神鬼ちゃん!発作なんだこれ!」


 いつもぼーっとしている春流々が、声を張って必死に弁明する。


「ごめん…………」


 後悔。懺悔――俺は今になってようやく、今まで自分がしてきた過ちに気づいた。

 そしてその強大な後悔の念が更に膨れ上がり、俺は泣いてしまった。


「悪かった神鬼……!悪かった……!」


「どうして日奈々さんが謝るの……?というか何故急に呼び捨て……」


「えーっと、えーっと……」と春流々は数秒考えた後「あっ!」と何かを閃き口を開く。


「サキュバスって感受性というか……感度高いんだよ!たしか3000倍くらい人間より高いらしくって、だから日奈々ちゃんは“神鬼さんに怒られてるひなたの気持ち”をすごいくらい感じとっちゃって、それで感極まって泣いちゃったんだ。うん!絶対そう!」


 春流々がそう神鬼に弁明する。

 もちろんサキュバスにそんな特性は無い。なんだよ感度3000倍って……意味わかんねえよ……。

 だがそんなのどうでもいい。俺は謝罪の念を抑えられず、ただひたすらに泣き続けた。


「そ、そうなの……大変ね、感度3000倍…………」


「神鬼ィ……許してくれェ……うぇぇん…………」


「ゆ、許すわ。だから泣かないで日奈々さん…………」



 xxx



 1時間後――


「はー……すっきりした。もういいわ」


 俺は神鬼から借りたハンカチで涙を拭うと、そう言って笑った。

 めっちゃ泣いたおかげで心は晴れた夏の空のように晴れ晴れとした感じだ。


「おー良かった良かった。よく泣いたねー日奈々ちゃん」


「本当に良かったわ。ごめんなさいね、感度3000倍なんて本当に知らなかったの」


 二人がそう言って俺を慰めてくれる。

 あぁ、人ってこんなにも温かい生き物だったんだね――


「ねぇねぇ神鬼ちゃん、そういえば怪人研究部って部員とか募集してないの?」


 ようやく俺が泣き止んだ頃合いで、春流々が場を明るくしようとおもむろにそう質問した。


「え、そうね……特に募集はしていないけれど拒むということは無いわ。今は雑用係しかいない状態で部員は私一人だから物寂しいのもあるし……」


(俺は部員にカウントされてなかったのかよ⁉︎)


 と俺はいつもの調子を取り戻し、心の中で神鬼にツッコミをいれる。


「ふーん。そうなんだ――」


 そう言って春流々は数秒考えた後、


「私、決めたよ」


 と拳を握り席を立った。


「何を?」と神鬼が首を傾ける。


「私、怪人研究部に入って、神鬼ちゃんをひなたの魔の手から守ってみせるよ!」


(えぇッッ⁉︎俺の敵が増えた⁉︎しかも春流々⁉︎)


 突然の事に俺は思わず驚く。


「そ、そう?ありがとう。歓迎するわ」


 だが神鬼はそんな様子は無く、少し戸惑った様子だがすぐにそれを承諾した。


「やったー!ありがとう!頑張ろうね、()()ちゃん!」


「う、うん。頑張りましょうね、は、()()()……さん」


 春流々に両手を握られ、照れた様子で神鬼はそう答えた。


「よーし!じゃあ入部記念に写真撮ろうよ」


 と春流々が提案する。


(また撮んのかよ⁉︎さっき撮ったばっかじゃん、女子怖ッ‼︎)


 と俺は心の中でツッコんだ。SNSとかもそうだけど本当女子って生き物は自分大好きだよな。女になってもそこは理解出来ない。


「じゃあ改めて3人で“新生”怪人研究部の始まりだー!」


 春流々がそう意気込んだ。


「え……?3人……?日奈々さんは――」


 神鬼のその言葉に、春流々が『しまった!』という様子で頭を抱えた。

 春流々……最後の最後でなんて事を…………。


 ここまでか……。

 そう思い諦めた瞬間だった。


「いえ、日奈々さんも学校こそ違うけれど、もちろん怪人研究部の一員よね。一緒に撮りましょう」


 と言って神鬼が優しく俺(日奈々)に微笑んだ。

 まるでそれは、天使のような笑みだった。


「えぇ、ありがとうございます!」


 俺は神鬼の手を取る。


「はーい、じゃあ二人とも笑ってねー」


「はい、チーズ」


 シャッター音が鳴り響く。

 そしてそこに写っているのは、姿は違えど、間違いなく怪人研究部の部員3人の姿であった――



 xxx



 翌日


「へぇーここが部室かー。ピカピカだねー」


 放課後、さっそく春流々が部室へと運んだ。


「まぁな。俺が毎日掃除してるからな」


 ようやく戻った男の姿で、俺はそう春流々に告げた。


「へぇーひなたが。偉いね」


「ククッ、そうだろう?」


 まぁ神鬼に命令されてるからなんだけど……。


「では改めて、今日から怪人研究部の部員としてよろしく頼むわね。春流々さん」


「うん!任せてよ角無ちゃん!」


 春流々がにこやかに笑う。


 まぁ色々な不安要素はあるが、とりあえずこれからもなんとかなりそうだ。というか『神鬼を俺の魔の手から守る為』と春流々は言っていたが、春流々は俺の親友なわけだし、入部してくれたなら好都合なのは間違いない。


「今日からは春流々に掃除やってもらおうか、俺の方が先輩なわけだし。ククッ」


 と笑ったところで、俺の視線の端に長い黒髪か写った。

 その黒髪につられ視線を伸ばす――すると神鬼が席に座り、いつものように本を読んでいるところだった。


「…………」


 昨日の神鬼の言っていた事を思い出す。

 俺は何よりも神鬼にしないといけない事がある……。


 俺は意を決し、神鬼の前へと行くと口を開いた。


「なぁ、神鬼ちゃん」


「はぁ?死にたい?」


「ごめん。間違えた……」


 昨日一日中“ちゃん”付けで読んでいたばっかりにおもわず間違えてしまった。


「神鬼」


「何よ……改まって」


 神鬼が怪訝そうに眉を顰める。


「悪かったよ……」


 (かぶ)きそうになる心を必死に堪え、俺は短く一言そう謝罪した。


「え、何の事?思い当たる節しか無くて困るわ」


「あーえっと……ほら、ハーブティーの事とか……」


 自分で聞いたとも言えない為、俺はうやむやにしながら謝罪する。


「なるほど……」と言って神鬼はパタンと読んでいた本を閉じた。


「日奈々さんか春流々さんから聞いたのね。あの二人は人が良いから淫鬼夜くんに謝るよう促したというわけか…………」


 神鬼は俺の言いたい事を察すると、そう言ってため息をつく。そして「あのね、淫鬼夜くん」と話を切り出した。


「私があの話をしたのは、そういう愚痴めいた事を求められていた場だからというのが理由よ。それに話初めたからたしかに思った以上にストレスが溜まってたのもあって、いつもより強めに言ってしまったところがあった……その言葉が貴方の耳に届いてしまったなら、それは貴方を傷つけてしまう事だし、本当に悪いと思うわ……」


「けれどね淫鬼夜くん」と神鬼は付け加える。


「あれは日奈々さんと春流々さんの二人向けに紡いだ言葉の羅列なの。決して貴方に対してでは無いわ」


「つまりどういうこと……?」


 意味がわからずそう返すと「はぁ…………」と神鬼はため息をついた。

 そしてその後、長い髪をなびかせ再び口を開いた。


「私は貴方の事が嫌だったら嫌だと言うし、貴方の事を死んで欲しい時は死ねと言うし、貴方を国に売る時がくれば国に売るわ」


 黒い神鬼の瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。


「だから私が嫌というまでは私のそばにいていいから、その代わり私が貴方に紡ぐ言葉だけを信じなさい。『誰かから見た私ではなく』て必ず『目の前にいる私』と向き合う事。いいわね?」


「俺を許してくれるのか?」


「許すも何も、あなたが素直じゃ無い根暗で陰キャな怪人だというのは出会った時からわかっていた事だし、別になんとも思ってないわ。淫鬼夜くんなんて私からすればスライム以下よ」


「神鬼――」


 すれ違いだったんだ。

 神鬼はたしかに俺の事を少しは嫌いだと思ってるのかもしれない。けど心の底からじゃ無いんだ。

 神鬼が俺を見捨てず、しかも俺の為に思考を割いてくれる……。こんな優しいことがあるだろうか。いや、無い。


「神鬼!これからも俺を罵倒してくれ!俺はその神鬼の言葉を絶対信じる!」


「しょうがないわね。特別よ」


 そう言うと神鬼は嬉しそうにフフッと微笑んだ。


「とりあえず離れて、近づかないで。陰キャがうつるわ」


「ありがとう!俺の為に罵倒してくれるなんて!嬉しいぜ!流石神鬼だ!」


 俺は神鬼が俺の為だけに言葉を紡いでくれた事に感動し、涙を流し喜んだ。


「え、えぇ…………これ泣くところなの……?」


 だが隣で春流々は、ドン引きした様子で俺を見つめていた。

 今はその視線ですらも、愛おしい――

淫鬼夜。マジで1年も女体化させててごめん。

次の章からちゃんとかっこいいとこ見せるから許して。

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