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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
2章〜淫鬼夜、女になる〜
29/43

28話 『続、百合営業って話』

「そういえば――」


 ショッピングモールへと向かう途中、おもむろに春流々が口を開いた。


「ごめんね……ひなたの眼鏡割っちゃって……」


 申し訳なさそうな口調で春流々が謝罪の言葉を述べる。


「まぁ気にすんな。こんなのはチャームを抑制させる為だけに付けてる100均の伊達メガネだし――」


 そう言いかけて、俺はある重要な事実に気付いた。

 そういえば自分が今、メガネを外し素顔を晒してる事に――


「み、見るな春流々ー!今の俺は危険だ!チャームにかかるから早く離れろー!間に合わなくなっても知らんぞー!」


 俺は慌てて顔を腕で覆い、春流々から距離を取る。


 吸血鬼とサキュバスの能力が混ざった俺の瞳は、チャーム能力がそれだけで非常に高い。

 目を合わせた相手を魅了させるのは当たり前。

 もはや俺の瞳を一瞬でも覗き込んだだけでもチャームにかかってしまう。


「うーん、大丈夫だと思うけど。チャームにかかるなら、もうさっきひなたと目合わせた時に掛かってるはずだし」


「い、言われてみれば……」


 春流々とさっきぶつかった時、確かに春流々の血色の瞳を見つめたのをよく覚えている。

 なら今の春流々はどのみちチャームに掛かっているはずであった。


 俺は恐る恐る目を開き、春流々を見る。

 春流々はいつものおっとりとした表情で俺をじっと見つめていた。


「本当に何も無いのか?」


「うん」


「まさか春流々、惚れた相手でも対応変わらないタイプ?」


「そういうんじゃない。普通に照れるよ」


「あぁそう……」


『何故』の二文字が頭に浮かぶ。

 俺と春流々は今は同性ではあるが、チャーム能力はそんな性別間の狭間など簡単に凌駕する。

 だから今の春流々は確実にチャームに掛かっているはずなのだ。

 だからこそ春流々がこうしてチャームにかからず自然と俺と話しているのが疑問だ。


「うーん……」俺がと唸っていると、春流々がおもむろに口を開いた。


「もしかしてだけどさ、ひなたがサキュバスとして覚醒したんじゃない?」


「……!」


 春流々のその言葉にハッとする。


「そうか!性適正による能力の向上だ!」


 俺は思わず叫んだ。

 確かにそうであれば全て納得のいく話だ。


 怪人は全て例外無く、“原種”――つまり初めてその種族として生まれた存在に近い程能力の発現が強くなる。


 例えば吸血鬼――その原種は国を治める王様であったと歴史書に記載されている。

 その王様が圧政を行うような、欲深い我儘で自意識の高い怪人であったという事もあり、吸血鬼は金を持ち、他人を見下す傲慢な性格の方が能力の強い持ち主であると言われている。

 天使であれば原種が4歳ぐらいの赤ん坊だったのもあり、その能力の発現は産まれてからの4年間が一番強いらしい。


 そんな訳でサキュバスという種族の始まりは非常に容姿端麗な()()であった為、女性の方がチャーム能力が強力であり、それでいて上手く能力をコントロールする事が出来るとされている。


 余談ではあるが、怪人についての種族を定義する際に男女間でサキュバス族の能力バランスがあまりにも違う事から『サキュバスは性別によって種族の名称を分けよう』と数千年前に神鬼の先祖は考えていたらしいが、性差別だとかなんとか男サキュバスに言われて面倒くさくなってやめたらしい。


 話は逸れたが、ようするに俺が女になった事でサキュバスとして覚醒し、能力のコントロールを上手くできるようになったという訳だ。


「春流々、一個試しても良いか?」


 俺は一つ浮かんだ思惑があり、春流々に問いかける。


「うん?別に良いよ」


「ありがとな」


 俺は礼を言うと、目を閉じ、自分の体内に意識を集中させる。

 血液が沸騰し、体が燃え上がるように強くなるのを感じた――

 犬歯は獣のように鋭くなり、本来サキュバスとして引き継いだ金色の髪が染色剤を落とし、輝く。


 俺の思惑――それは、本気の吸血鬼×サキュバスモードでの能力のコントロールだ。


「どうだ?春流々?」


 俺は親友の心を壊してしまう恐怖に声を震わせながら、恐る恐る春流々に尋ねた。


「おぉー、久しぶりに見た、ひなたのサキュバスモード」


 感嘆の声をあげる春流々(感情はこもってなさそうだが)

 至極普通の感想――チャームに掛かっていないのは明らかだった。


「よっしゃあああぁぁあああ!」


 自分を悩ませ続けたチャーム能力を克服した事に、俺は思わず声をあげた。

 もし俺が主人公の物語があるのだとしたら、この偉業は最終回の感動に匹敵するものだろう。


「うぉー!すげぇー!こうして顔を何も隠さないで外を歩けるなんて久しぶりの感覚だ!」


 顔を隠す為に伸ばしていた長い前髪を思いっきりかき上げる。

 視界が広い、目の前に何本もの黒い線か無い解放感は素晴らしい。


「あっ、けど太陽光眩しくてウザいし取り敢えず顔は前髪で隠そ」


 が、太陽光がウザかったので速攻で元に戻した。


「〜♪」


 突然春流々が俺の右腕に抱きついた。

 どこか顔も嬉しそうに見える。


「どうした春流々?」


「ふふー。なんだか昔のひなたに戻ったみたいで、嬉しい」


「何だよそれ。ただ金髪になっただけだろ?しかも今、女だし」


「細かいことは気にしません。春流々がそれで良いと思うのなら、それで良いんです」


「あぁそう……」


 上機嫌な春流々を右腕に抱かせたまま、俺は歩く。


(まぁ、それは別に良いのだが――)


 俺は視線を自分の右腕へと向ける。

 いや、正確には――その右腕に押しつけられている二つの巨大な脂肪の塊に、である。


 いくら幼馴染とはいえ、あまりにも距離感が近すぎる。

 “同性”という事が、いつもより春流々を油断させているのだろう。


 だが良かった。実のところ、春流々は昔このぐらいのスキンシップを良くしていた。

 けれど春流々が中学生になってから、急に距離を取られるようになった。

 俺の体臭に何か問題があるのかと少し気にしていたが、今の状況から察するに、年相応に照れていただけらしい。

 流石に春流々もいっぱしの女子だったという訳だ。


(あんま意識して無かったけど、しっかり成長してたんだな――)


 右腕に感じる柔らかな感触を嗜みながら、俺はそんな事を考えていた。


「あ、着いたね」


 と春流々が口を開いた。

 俺の腕から離れ、ショッピングモールを指差す。


「ここの4階、春流々のお気に入りの場所なんだ」


 そう言ってやや早足で春流々は店内へ入ると階段を登って行く。

 その上機嫌な春流々を小走りで追いかけた。

 そして、


「おぉ――ここが女子だけの入れる楽園か――」


 煌びやかなショッピングモールでも、レースや色合いの強い下着が並ぶランジェリーショップは一際輝いていた。


「はい。じゃあ今回は特別に春流々様がお代払ってあげるから、ひなたの好きなブラ選んでいいよ」


「好きなのって言われてもな……」


 流石の俺も、男として堂々とランジェリーコーナーを見ていいものかと疑問に思い、目を明後日の方向に向けながら、視線の端で見る。


「というか、着けたこと無いのに好みも何もないだろ……」


「そっか。それもそうだよね」


 と春流々はそう言って一瞬考えた後「あっ」と何かを思いつき手を叩いた。


「じゃあ、ひなたの好きな子が着けてたら嬉しいのはどんなの?」


「それは水色に決まっているだろ。水色は清潔感があるし、赤や黒とみたいなのより狙ってない感じがいい。異性を感じさせないから安心するんだ。あと素材はコットン系だな。一番無難で素朴というか、想像がしやすいから目の前にいる存在っていうのが感じやすいんだよな!」


 即答だった。


「…………話を振っておいてなんだけど、春流々でもドン引き……素材まで選定出来るなんて……」


「まぁ、いいか……」と春流々は非常に残念そうに顔をしかめながら、これ以上この話をしたく無いのか打ち切った。


「次はバストのサイズを測ろうか」


「店員さーん」と春流々が黒いしっかりとしたスーツに身を包んだ女性店員を呼ぶ。


「え……そんな面倒な事しないといけないのかよ」


 てっきりそれらしいサイズの物を適当に選んで、それを買えばいいと思ってただけに面食らう。


「嫌だぜ俺は。やっぱ買わないわ」


 ブラジャーを買いに行くという労働で既に疲れたというのに、見ず知らずの奴に体を触れられるストレス。話を振られたら答えないといけないという苦行。

 そんなものに付き合えるほど俺は暇じゃ無いんだ。


「ひーーーなーーーたーーー」


 春流々が尖った吸血牙(きゅうけつが)を輝かせながら低い声で俺に詰め寄る。


「わーかった。分かった。やるよ……やりますよ!」


 割と思ったよりも怖かったので俺は引き下がった。


「なれば良し」


 と春流々は再びほんわかした雰囲気に戻ると、微笑んだ。


「お待たせ致しました」


 直後、こちらへと来た店員が春流々へと話しかけた。


「この子のバストサイズ測ってもらっていいですか?」


「勿論です。お決まりでしたら試着する物もお持ちしましょうか?」


「あ、お願いします。水色のコットン系で」


「承知しました。ではお客様、あちらのフィッティングルームの方へどうぞ」


「あ、あぁ……はい」


 店員に促されるがまま、俺は試着室の方へと向かう。


「頑張ってねー」


 と雑な春流々の応援を受けながら――

サキュバスの男性版はインキュバスじゃないの?

という質問へのアンサーです。

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