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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
2章〜淫鬼夜、女になる〜
25/43

24話 『娘のスカートの中、チラ見しますって話』

「淫鬼夜くん。貴方今日、部活動の日よね?」


 雪女の体温よりも冷たい声で神鬼はそう言い放った。


「か、神鬼……。そ、そうだったな……長年帰宅部生活が長かったもんで、部活なんて忘れてたよ」


 校門の手前。

 校舎の階段の上から俺を見下ろす神鬼に、俺は恐る恐るそう答えた。


「そう――まぁ忘れることなら誰にでもあるわ。いえ、ゴミにでもあるわ。許してあげるから早く戻って来なさい」


「なんでわざわざそう言い直す……」


 神鬼は本当に会話の中で俺を罵倒しないと気が済まないらしい。

 俺はそんなにコイツを怒らせるような事をしただろうか。いや、吸血しようとして服を脱がせはしたけど、そんなのだいぶ前だしもう時効みたいな所あるじゃん?


「まぁ生憎なんだが、今日は大事な用があってな。急いで帰らないといけないんだ。だから――」


 ヒュン……と耳元を何かが掠めた。


 直後、何かが地面に当たると後方が爆発した。


「な、何だよ今の……」


 爆発した後方を見ると、砂で固められた校舎の一部が楕円型に抉られていた。


サラマンダー(炎トカゲ)の胃液を練り込ませたダーツ()よ。最近若者の間で『新感覚ダーツゲーム』として流行ってるらしいから私も取り入れてみたの」


「それはダーツゲームで使う為にだろ⁉︎脅しに使う為じゃねぇよ!『人に向けちゃいけません』って絶対箱に書いてあっただろ‼︎」


「えぇ、()に向けてはいけないと書いてあったわ。私が貴方を人と認めていないだけの話よ」


「息をするように俺を見下してんじゃねぇ!この前の天使先輩の時に結構頑張って部活動には協力しただろ!」


「さぁ、忘れたわね」


「あぁそうかい!案外頭悪いんだな!」


 ヒュッとまた風を切る音。

 神木の投げたダーツの矢が爆発し、破裂音がすぐ後方で響いた。


「すみませんッッ!生意気言いましたッッ!」


 秒で土下座をして謝る俺。

 我ながら情け無い。


「私、ダーツの腕には自信がないの。次は確実に貴方に当てるわ」


「めっちゃ狙えてるじゃねぇか‼︎」


(クソ……ほんと何なんだよコイツ……)


 入りたくないって言ってるのに無理やり俺を怪人研究部に入部させるし、頼み事という名のパシリなんて日常茶飯事だし、気に入らない事があったらすぐ罵倒してくるし……本当にこの神鬼角無という人物は一国の女王のような横暴さだ。


 だが今はそんな横暴女王のワガママに付き合っている場合じゃない。

 俺には式ノ森リナのフィギュアを救出に行くという大事な使命があるのだから!


「くそ……こうなったら……!」


 あまり使いたくは無かったが奥の手だ。

 俺はチャーム効果を阻害する為につけていたメガネを外し、髪の毛を覆う黒霧を無くすと月色の金髪をさらけ出した。


 これで俺のチャーム能力が発現し、神鬼は俺に従う愛玩動物となる。

 そのはずなのだが――


「…………」


 神鬼の表情には何も変化は起きない。いつもの冷徹な表情を浮かべるだけだ。

 ややあって神鬼の方が口を開く。


「あら、綺麗な金色の髪ね。丁度ぬいぐるみに新しいドレスを用意しようと思っていたの。その髪で縫えば良い物が出来上がるわ」


 神鬼はいつもと変わらない様子でそう平然と言う。

 やはりこの神鬼角無という人間には、本当に俺のチャームが通用しないらしい。

 今までそんな奴に出会った事など無い。異性ならず同性でもチャーム効果は効くし、母にも聞いてみたがチャームの効かない人など聞いた事がないらしい。チャームという能力はそれだけ強力なものなのだ。


「で?お遊びは満足したかしら?」


 神鬼が蔑んだ瞳で俺を見る。


 なのにどうして神鬼にだけがチャームが効かないのか。非常に気になるところではあるが、今はそれよりもリナの方が大事だ。


「今日以外ならなんでもする!だからどうか見逃してくれ!」


「嫌よ。貴方のような陰険根暗ハーフ吸血鬼は一つ要求を飲むと『次は〜次は〜』と調子に乗って要求を増やしてくるからね」


「ハー陰険根暗ハーフ吸血鬼とその法則にどんな因果関係があるのかは分からないが、絶対にそんな事はしない!だからどうか今日だけは頼む!本当に何でもするからッッ!」


 俺は滅多に張らない声を張り、全身全霊で神鬼にそう訴えた。

 額は地面にある砂利に強く押しつけられ、非常に痛い。

 だがそれぐらい俺は本気で頼んだ。


「……………………」


 長い沈黙――

 もはや永遠とも感じられるその長い時を過ごした後、神鬼が方を開いた。


「まぁ貴方がそこまで言うのなら、本当に今回だけは見逃してあげましょう」


「本当かッッ⁉︎」


 俺はその言葉に勢いよく顔を上げる。

 さっきまで悪魔のように見えていた神鬼の顔は、今や天使のように見えた。


「この世の最底辺が行うような行為をしてまでも頼み込むんだのも。そのプライドの無さに免じて許してあげるわ」


「あ、ありがとう!」


「早く行きなさい。さっきの『何でもする』って言葉、ちゃんと忘れないようにね」


 そう言うと神鬼は俺に向け、校舎へと戻って行った。


(良かった……。何でもするとか絶対神鬼に約束しちゃいけないだろう言葉を言ってしまったが、これでリナに会える。そんなの安いものだ)


「うぉっしゃあああぁぁああ!行くぞおぉぉぉぉおおおおッッ!」


「うおおぉぉぉおおおーーー‼︎」と掛け声を上げ、俺は全速力で学校から飛び出す。


 ようやくリナに会える。

 その喜びは、これまでの16年間の中でも1番と言っていい喜びだった――



 xxx



 30分後。

 怪妖学園駅前――


「なんだ。全然人いないじゃん」


 駅前の催事場。

【式ノ森リナ特別バースデーフィギュア発売中!】と書かれた掲示板があるスペースには、数名の女性店員とゴーレム族のガタイの良いガードマンしかおらず、客はいないようだ。


「良かった……。やっぱりサービス終了間近の末期ソシャゲのイベントだな……」


 ほっと胸を撫で下ろし、レジへと向かう。


「式ノ森リナ特別塗装限定版バースデーフィギュア一つ。あ、包装は中身が傷つかないように三重にして下さい。支払いはカードで」


 そう言って俺は店員に母親からのクレジットカードを差し出すが、


「……?」


 と何故かその女性店員は首を傾げた。


(こいつにわかか?もしかして自分の売ってる商品の名前を忘れたのか?)


 まぁ売り子なんて社員では無くイベントのバイトがやるなんて普通の話だ。

 分からない事もあるだろう。紳士な俺が教えてあげるか。


 そう思い俺はもう一度同じ言葉を繰り返す。


「あの、式ノ森リナ特別塗装限定版バースデーフィギュアです。その目の前にあるやつです」


 そう言って俺は店員の前にあるフィギュアを指差した。

 だが店員は「……?」とまたしても小首を傾げた。そしてやや何かを考え込んだ後、ようやく口を開いてくれた。


「あの、お客様……大変申し訳ないのですが――」


「はい。なんです?」



「こちらの製品のご購入は、女性限定となっております」



「はぁ――ッッ⁉︎」


 店員が発したその意味不明な発言に、俺の方からは自然と驚嘆の叫びが漏れた。


「お知らせの方にもそう記載しておりましたが……」


 困惑した表情で店員はそう言うと、俺にゲームのお知らせ画面を見せた。


『なななんと!このあと15時より、特別塗装限定版を弊社最寄の怪妖学園前駅で販売いたします!お近くにいらっしゃる方は是非お立ち寄りください!』


「何だよ、一緒じゃないかよ」


 確かに画面に映っている文言は俺が見たものだ。

 俺は間違っていない。だがそれはこの部分までだった。


『※なお、このキャンペーンの対象は女性の方のみとなります』と確かに記載があった。


「そんな――」


 開いた方が塞がらない。


(そうか……あの時入間先生にスマホを取られたから)


 そうだ。俺はお知らせを見ている途中で入間先生にスマホを没収された。だから気付かなかったんだ。

 まさか、こんな制約があるなんて……。


「俺の今日の行動が……無駄だったって言うのか……?」


(神鬼に弱みを握られ、先生にスマホを没収され5,6時限をスマホ無しで過ごすという苦行に耐えたのに……。この仕打ちかよ……)


 そう考えると、悲しみよりも運営に対する怒りの方が勝っていった。


「何でだよ!」と俺は店員に向かって叫ぶ。


「このゲームの名前知ってんのか⁉︎ 『萌え萌えゾンビ幼女に転生した中卒三浪ダメリーマンの俺は異世界で俺にだけ優しい最カワ怪人達を娘にし社畜人生をやり直す!』こんなタイトルのゲームに女性需要あるわけねぇだろ!なに考えてんだ⁉︎」


「すみませんが、他のお客様のご迷惑になりますので」


 ゴツゴツとした岩の皮膚が当たる感触。

 ガードマンの屈強なゴーレムの男二人に両腕を掴まれた。


「いや、客いねえから‼︎俺しかいないじゃんか‼︎だって女ユーザーいねえんだもんこのゲーム‼︎いても全員ネカマだよ‼︎ちゃんとユーザーにアンケート調査しろって‼︎ユーザーの声を聞けよ‼︎」


 体に力を入れ暴れようとするが、屈強なゴーレムの男二人に捉えられては、全くもって俺の筋肉じゃ歯が立たない。


「お取り引きください」


 ガードマンが俺を後方へと引き摺り、リナから離そうとする。


(ここまで来て引き下がれるものかよ!)


「待てよ!俺はこのゲームに月3000円も課金する大口課金者様だぞ!その俺を追い出そうってのか⁉︎」


 そうだ。俺が大口顧客だと分かればコイツらも俺を無碍には出来ないだろう。我ながら最高のアイデアだ。


「ククッ」と俺は鼻を鳴らした。だが、


「…………」


 ゴーレムは俺の言葉など聞く意思は無いようで、黙って俺を会場から引き摺り出していく。


(そんな――大口顧客様ですら見捨てようというのか、この運営は⁉︎)


「こんなゲーム、俺ぐらいしかまともにやってねえよ!誰のおかげでお前ら飯が食えてると思ってるんだ!課金してるユーザー様のおかげだろ⁉︎わかったら早く俺にフィギュアを――」


「またのご利用をお待ちしております」


 そう乱雑にゴーレムの男は言うと、俺を地面へと放り投げた。


 投げられた直後、視界が下になった事でテーブルに展示してある式ノ森リナのスカートの中がチラリと見えた。


 純白の白――あぁ、今日も世界は美しい。

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